
前回に引き続き、AIの登場による消費行動の変化を以下の3つに分類して、整理をしています。
(1)情報収集・商品探索の変化:消費者の「出会い」を再定義
(2)購買プロセス・チャネルの変化:消費行動の多様化
(3)消費者の意識・行動の変化:消費の価値観の変容
今回は、この(3)消費者の意識・行動の変化:消費の価値観の変容について、実際の事例と、その考察を行います。
AIは、消費者が商品やサービスを購入する際の意思決定プロセスを効率化し、より迅速かつ的確な選択を支援しています。この効率化は、「情報収集」、「比較」、「提案」という購買の各段階で顕著に現れています。
AIは、消費者が求める情報を効率的に収集する上で重要な役割を果たしています。例えば、Google Shopping (https://shopping.google.co.jp/) のようなAIを活用した検索エンジンは、多数の小売業者から製品情報や価格を瞬時に集約し、消費者は容易に比較検討できます。これにより、消費者は時間や労力を大幅に節約し、より迅速に意思決定を行うことが可能です。
さらに、AmazonのRufus(ルーファス) (https://www.aboutamazon.jp/news/retail/amazon-ai-shopping-assistant-rufus)のようなインテリジェントなショッピングアシスタントは、自然言語処理を用いて消費者の複雑な質問を理解し、関連性の高い製品情報や推奨を提供します。これは、まるで個人のコンシェルジュのように、消費者が求める情報に的確にアクセスできる環境を提供します。
実店舗においても、AIの活用が見られます。例えば、米国のホームセンターチェーンであるTractor Supplyでは、「Gura」(https://www.ttec.com/articles/wearable-ai-tech-gives-tractor-supply-employees-instant-answers)というAI搭載の技術アシスタントを導入しています。これにより、店舗スタッフは顧客のニーズに最適な商品をリアルタイムで特定し、在庫状況や価格などの情報を提供できるようになり、顧客サービスの効率と質を向上させています。
これらの事例から、AIは消費者が手軽に製品情報へアクセスできる環境を整備し、従来の煩雑な情報収集プロセスを劇的に効率化していることがわかります。消費者は、AIによって情報へのアクセスが容易になったことで、より少ない時間と労力で、より多くの情報を比較検討し、納得のいく購買決定を下せるようになっています。この変化は、消費者が購買において利便性とスピードを重視する価値観を強化する要因となっています。
AIは、製品やサービスの比較プロセスを簡素化し、消費者が代替案を容易に評価できるようにします。AI駆動型の比較ツールは、ユーザーが製品の特徴や名前を入力するだけで、瞬時に視覚的な比較チャートや詳細な分析レポートを生成します。これにより、消費者は製品間の違いを明確に把握し、評価プロセスを効率的に進めることができます。 また、Eコマースプラットフォーム自体にもAIによる比較機能が組み込まれる事例が増えています。例えば、Walmartは、スマートテレビなどの製品を比較する際に、主要な属性に基づいて異なるモデルを直接比較できるAI駆動の比較機能を導入しています。これにより、消費者は複数の製品ページを行き来することなく、必要な情報を一目で確認し、比較検討することができます。
これらのAIを活用した比較ツールは、単に製品のスペックを並べるだけでなく、それぞれの製品のメリット・デメリット、そして個々のニーズへの適合性までを評価するのに役立ちます。消費者は、これらのツールを通じて、より深い理解に基づいた製品選択が可能になり、自分にとって最適な製品を見つけやすくなります。AIによる高度な比較機能は、消費者が製品選択において、単なる価格だけでなく、機能や性能、そして自身のニーズとの適合性をより重視する価値観を育むと考えられます。
AIは、個々の消費者の好みや過去の行動に基づいて、パーソナライズされた提案を行うことで、意思決定を迅速化します。Amazon、Netflix、Spotifyなどのプラットフォームで利用されているレコメンデーションエンジンは、ユーザーのデータを分析し、個々の興味や嗜好に合わせた製品、映画、音楽などを提案します。これにより、消費者は膨大な選択肢の中から自分に合ったものを見つける手間を省き、効率的に購買へと進むことができます。
特に、ファッション、ホーム、美容製品に特化したLily AIは、製品の属性と消費者の好みを照合することで、非常にパーソナライズされた推奨を提供します。また、Amazonの「よく一緒に購入されている商品」機能は、AIを活用して相性の良い商品を提案することで、消費者の購入意欲を高め、関連商品の購入を促します。これらの事例からわかるように、AIによる提案は、単に売れ筋の商品を提示するだけでなく、個々の消費者の潜在的なニーズや興味を捉え、よりパーソナライズされた購買体験を提供します。消費者は、AIによって自分に合った提案を受けることで、より満足度の高い購買体験を得ることができ、結果として、効率的かつ自分に最適化された選択を重視する価値観を強める傾向にあります。
AIは、消費者の個性や嗜好に合わせた商品やサービスを提案することで、個性を重視する傾向を強化しています。画一的な商品提供ではなく、一人ひとりのニーズに合致したパーソナライズされた体験が、消費者の満足度を高め、個性を表現する手段としての消費を促進しています。
パーソナライズされたファッションの推奨を提供するStitch Fix (https://www.stitchfix.com/)は、個人のスタイル、体型、過去の購入履歴に基づいて衣料品を提案します。 美容業界では、SephoraがAIを活用して個々の消費者に合わせた美容製品を推奨し、バーチャル試着ツールを通じて、自分に似合うかどうかをデジタルで試すことができます。
さらに、NikeやAdidasのような企業は、生体データやAI駆動システムを用いて、個々の足の形状やパフォーマンス要件に合わせたカスタムメイドの靴を開発しています。これらの事例は、AIが消費者の個人的なニーズや好みに深く寄り添い、真にパーソナライズされた製品を提供することで、消費者が自身の個性をより重視するようになることを示唆しています。
AmazonのRufusやWalmartのパーソナルショッピングアシスタントのようなAI搭載ショッピングアシスタントは、自然言語を用いて非常に具体的なリクエストに対応することができます。例えば、「ハイネック、ミッドレングス、ノースリーブで100ドル以下の赤いドレスを探しています」といった詳細な要望にも、AIは適切な商品を提案することができます。これは、従来の検索フィルターでは難しかった、個々の消費者の細かなニーズに応えるものであり、消費者が求める「まさにそれ」を見つける手助けとなります。AIアシスタントの進化により、消費者は自分の個性や好みをより明確に表現し、それに合致した商品を見つけることができるようになり、結果として、個性を重視する消費行動が促進されます。
AIによる消費者の意識・行動の変化を踏まえ、マーケターは今後、以下の戦略や考慮すべき点を重視する必要があります。
まず、AIツールを活用して顧客理解を深めることが重要です。AI搭載の分析ツールは、消費者の行動、好み、感情を様々なタッチポイントで把握するのに役立ちます。GWI Sparkや、感情分析を提供するプラットフォームは、情報に基づいた意思決定を行うための貴重なデータを提供します。
次に、データの品質とプライバシーに焦点を当てる必要があります。AIシステムの精度は、使用するデータの品質に大きく左右されるため、正確かつ最新のデータを確保することが不可欠です。また、消費者のプライバシーを尊重し、倫理的にデータを扱うことも、信頼関係を築く上で重要です。データ利用における透明性は、消費者の信頼を得るために不可欠です。
パーソナライズを大規模に展開することも重要な戦略です。AI駆動型のパーソナライズツールを活用し、すべての顧客接点で、個々のニーズに合わせたコンテンツ、推奨、体験を提供する必要があります。Salesforce Commerce Cloudのようなプラットフォームは、パーソナライズのための統合されたAI機能を提供しています。
AIを活用したコンテンツ作成も積極的に試みるべきです。マーケティングコンテンツ、商品説明、さらにはパーソナライズされた広告の作成にAIツールを活用することで、効率を高め、リーチを拡大することができます。
カスタマーサービスへのAI統合も不可欠です。AI搭載チャットボットやバーチャルアシスタントを導入することで、即時のサポートを提供し、ルーチンな問い合わせに対応することで、顧客満足度を高め、人間のエージェントがより複雑な問題に集中できるようになります。
最後に、進化する消費者の期待を常に監視し、適応することが重要です。AIが消費者の価値観や行動をどのように変化させているかを継続的に追跡し、それに応じてマーケティング戦略を調整する必要があります。消費者が採用する新しいAI搭載機能やプラットフォームにも対応できるよう、常に準備しておくことが求められます。
さぁ、ここまでAIの登場による消費行動の変化を整理してきました。私は、インターネットの登場時も、マーケティングに関する仕事をおこなっていました。その時も、消費者の変化の方が、私たちビジネスの変化より速いと感じていました。 今回も、同じように消費者側のAIの活用による変化は速い気がします。私たちマーケターは、まず消費者の変化に気づくことが、とても重要なのでしょう。皆さんも、消費者になって、AIに触れてみましょう。それも、ビジネスです。
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