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新しいマーケティングのすすめ(51)

ファンダムを活用したマーケティングの解説

近年、マーケティングの世界では「ファンダム」を活用したアプローチが大きな注目を集めています。これは単なる顧客ロイヤルティを超え、熱狂的なファンコミュニティの力を借りてブランドや製品の価値を高める戦略です。今回は、このファンダム・マーケティングについて考えてみます。

マーケティングでのファンダムの定義・説明

マーケティングにおける「ファンダム」とは、特定の製品、ブランド、サービス、有名人、キャラクター、コンテンツなどに対して、強い情熱と深い知識、そして所属意識を持つ熱狂的なファンによって形成されるコミュニティを指します。単なる顧客や消費者の集まりではなく、共通の「好き」という感情で結びつき、能動的に情報収集や共有、創造活動を行う点が特徴です。

ファンダムのメンバーは、単に製品を購入するだけでなく、以下のような行動をとる傾向があります。

● 情報収集と共有
  ○ 関連情報を積極的に探し、ファン同士で共有する。
● コンテンツ創造
  ○ ファンアート、ファンフィクション、二次創作、レビュー動画など、
    自らコンテンツを生み出す。
● コミュニケーションと交流
  ○ オンラインフォーラム、SNSグループ、オフラインイベントなどで
    他のファンと活発に交流する。
● ブランド擁護と伝道
  ○ ブランドや製品の強力な擁護者となり、新規顧客の獲得に貢献する。
● 影響力
  ○ ファンダム内のインフルエンサーが存在し、他のファンの購買行動や意見形成に
    大きな影響を与える。

マーケティングにおいてファンダムが重要視されるのは、その熱狂的な支持と、コミュニティが生み出す圧倒的な熱量が、ブランドの認知度向上、購買促進、長期的なエンゲージメント構築に極めて有効だからです。ファンダムは、企業が広告費を投じるだけでは得られないような、オーセンティックでパワフルな口コミと共感を生み出す源泉となります。

具体的なファンダムマーケティングの事例

ファンダムマーケティングは多岐にわたる分野で成功事例が見られます。

● エンターテイメント業界(K-POP、アニメ、映画など)

○ BTS(防弾少年団)とARMY:
K-POPグループBTSのファンコミュニティ「ARMY」は、ファンダムマーケティングの最も象徴的な事例です。ARMYは、CDやグッズの購入はもちろんのこと、MVの再生回数向上、SNSでのプロモーション活動、慈善活動など、多岐にわたる支援を自発的に行います。企業はARMYの活動を尊重し、彼らが活動しやすいような環境を提供することで、より強い結びつきを生み出しています。例えば、メンバーの誕生日にはファンが自費で広告を出すなど、その熱狂ぶりは突出しています。
○ スター・ウォーズ:
長年の歴史を持つ「スター・ウォーズ」のファンコミュニティは、映画公開ごとに大きな盛り上がりを見せます。ファンは関連グッズの収集、コスプレ、ファンイベントへの参加などを通じて、作品への愛を表現します。ルーカスフィルムやディズニーは、こうしたファンの熱狂を尊重し、ファンイベントの開催やファンコンテンツの紹介を通じて、コミュニティとの関係を強化しています。
○ Fate/Grand Order(FGO):
人気モバイルゲームFGOは、キャラクターへの深い愛情を持つファンによって支えられています。ファンはゲーム内のキャラクターを巡る議論を活発に行い、関連グッズの購入、同人誌の制作、コスプレなど、多角的に作品を盛り上げます。運営側もファンの熱意に応える形で、魅力的なキャラクターやストーリーを提供し続けています。

● テック業界

○ Apple:
Apple製品のユーザーは、単なる顧客を超えて「Appleファン」と呼ばれることがあります。彼らは新製品の発表に熱狂し、発売日には長蛇の列を作り、製品のレビューを熱心に行います。Appleは、ユーザーエクスペリエンスの追求と、製品デザインへのこだわりを通じて、こうした強いブランドロイヤルティとファンダムを形成してきました。
○ Tesla:
TeslaのEVは、単なる移動手段ではなく、環境意識の高いライフスタイルを象徴する存在として、熱狂的なファンコミュニティを形成しています。Teslaのファンは、新モデルの発表に興奮し、オンラインフォーラムで情報交換を行い、CEOのイーロン・マスクの動向にも大きな関心を示します。Teslaは、こうしたファンのコミュニティを尊重し、彼らの声を製品開発や改善に活かすことで、さらなるエンゲージメントを生み出しています。

● 食品・飲料業界

○ スターバックス:
スターバックスのファンは、単にコーヒーを飲むだけでなく、店舗の雰囲気やバリスタとのコミュニケーション、限定ドリンクへの期待など、ブランド全体を体験することを重視します。マイカップの利用やSNSでの情報発信など、自発的な行動を通じてブランドを支持します。スターバックスは、パーソナライズされたサービスや居心地の良い空間を提供することで、強いファンダムを育成しています。
○ 特定のクラフトビールブランド:
地域に根差したクラフトビールブランドの中には、熱心なファンを持つものがあります。彼らはブルワリーのストーリーや哲学に共感し、限定醸造のビールを求めてイベントに参加したり、SNSで感想を共有したりします。ブルワリー側も、ファンとの交流イベントや限定品の提供を通じて、コミュニティとの絆を深めています。

過去のファンマーケティング、ロイヤルティマーケティングとファンダムマーケティングの違い

ファンダムマーケティングは、従来のファンマーケティングやロイヤルティマーケティングと
混同されがちですが、根本的なアプローチと目的において明確な違いがあります。

特徴ファンマーケティング(従来型)ロイヤルティマーケティングファンダムマーケティング
主な目的ブランドへの愛着を育む、再購入を促す顧客維持、LTV(顧客生涯価値)の向上、優良顧客の囲い込み熱狂的なコミュニティ形成、ブランドの共創、自発的な拡散、ブランド擁護、強固なエンゲージメント
対象ブランドに関心を持つ顧客全般、または特定のファン層全ての顧客、特に購買頻度や金額の高い優良顧客特定のブランドやコンテンツに深い情熱を持つ熱狂的なファン層
アプローチ企業主導、一方的な情報発信、限定グッズ提供、ファンミーティングなどポイントプログラム、割引、限定サービス、会員制度、パーソナライズされたコミュニケーションファン主導の活動を奨励・支援、共創の機会提供、コミュニティの場づくり、体験共有の促進
関係性企業から顧客への働きかけ、購買による関係性企業から顧客への報酬、合理的なインセンティブによる関係性企業とファンの双方向的・対等な関係、感情的な結びつき、共感、仲間意識
行動様式企業が用意した枠内での消費・参加報酬を得るための購買行動自発的な情報発信・拡散、コンテンツ創造、コミュニティ内での交流、ブランド擁護
期待される成果顧客の定着、売上増加LTV向上、チャーンレート(離反率)低下オーガニックな認知拡大、ブランド価値向上、危機管理時の擁護、新しい価値創造、長期的なブランド成長
ファンクラブ運営、限定イベント招待、ファンレター募集ポイントカード、リワードプログラム、VIP会員特典ファンイベントの共催、ファンアートコンテスト、二次創作ガイドラインの整備、開発過程の共有

ファンマーケティング(従来型)は、企業が主体となって「ファン」と認識した顧客に対して、限定コンテンツの提供やイベント開催などを通じて、ブランドへの愛着を育み、再購入を促すことを目的としていました。これはあくまで企業から顧客への一方的な働きかけが中心であり、顧客は受動的な立場であることが多かったと言えます。

ロイヤルティマーケティングは、顧客の購買履歴や行動データに基づき、ポイントプログラムや割引、会員制度などを通じて、顧客の囲い込みや顧客生涯価値(LTV)の向上を目指すものです。
これはよりデータ駆動型で、経済的なインセンティブや合理的なメリットに焦点を当てたアプローチであり、感情的な結びつきよりも「お得」という要素が強い傾向にあります。

これに対し、ファンダムマーケティングは、単なる購買行動や経済的インセンティブを超え、ファン自身の熱狂的な情熱と自発的な活動を最大限に尊重し、促進する点に最大の特長があります。ファンダムのメンバーは、ブランドやコンテンツを「自分たちのもの」と捉え、その発展に貢献したいという強い欲求を持っています。企業は、ファンダムの存在を認識し、彼らが活動しやすい環境を提供し、共創の機会を与えることで、ファンダムが持つ無限のエネルギーをブランド成長の原動力とします。

ファンダムマーケティングでは、企業は「管理者」ではなく「支援者」や「共創者」としての役割を担います。ファンの自発的な情報発信やコンテンツ創造を奨励し、ファン同士の交流の場を提供することで、コミュニティ全体が活性化し、結果としてブランド価値が向上するという好循環を生み出すのです。
これにより、ブランドは単なる製品やサービスを提供する存在から、ファンが所属し、情熱を共有する「文化」や「ライフスタイル」へと昇華していくことが可能になります。これも、新しいマーケティングの考え方の一つなのでしょう。

著者プロフィール

株式会社マーケティングサイエンスラボ 本間 充プロフィール画像
株式会社マーケティングサイエンスラボ 本間 充
1992年花王株式会社に入社。社内でWeb黎明期のエンジニアとして活躍。以後、Webエンジニア、デジタル・マーケティング、マーケティングを経験。u003cbr /u003e2015年アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの企業のマーケティングのデジタル化を支援している。マーケティングサイエンスラボ 代表取締役、ビジネスブレークスルー大学でのマーケティングの講師、東京大学大学院数理科学研究科 客員教授(数学)、文部科学省数学イノベーション委員など数学者としての顔も併せ持つ。

1992年花王株式会社に入社。社内でWeb黎明期のエンジニアとして活躍。以後、Webエンジニア、デジタル・マーケティング、マーケティングを経験。u003cbr /u003e2015年アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの企業のマーケティングのデジタル化を支援している。マーケティングサイエンスラボ 代表取締役、ビジネスブレークスルー大学でのマーケティングの講師、東京大学大学院数理科学研究科 客員教授(数学)、文部科学省数学イノベーション委員など数学者としての顔も併せ持つ。

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