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新しいマーケティングのすすめ(9)

今、私たちは不連続点にいるのかもしれない

私の大学時代の専攻科目は数学でした。多くの数学初学者が触れる本に、遠山啓先生の「無限と連続」という書籍があります。この本の主題は、無限を数えることができるのかを考えることです。そして、連続に存在する数、その連続とは何かも考えます。

そう、自然界では「連続」が、ある意味常識となっているのです。しかし、ビジネスや人の営みでは、時に「不連続」な流れに出会います。何故かというと、ビジネスや人の営みは自然界のような自然の摂理だけではなく、人がルールを変えるからです。

今、私たちは複数のルール変更に出会っています。マス・マーケティングの崩壊、デジタルツールの登場によるデジタル・ディバイドの存在、Covid-19により生じた不安要素の芽生えなど。これらはビジネスやマーケティングに大きな変化を与えています。

このような「不連続な時」、言い換えれば「見たことのない時代」には、今まで以上に現状の理解が大切です。

現状の理解とはマーケティングに関する観察や調査です。ただし、観察や調査は目的ではありません。観察や調査から“柔軟にマーケティングで行うべきことを考えること”が目的です。今は、重厚なマーケティング戦略を立案する時期ではなく、細やかに、そして正確に何が起きているのかを理解して、それに対応することが大切なのだと思います。

Walmartはプライス・カードをEC対応した

「今」の観察を上手に取り組んでいるマーケティング会社に、アメリカのWalmartがあります。ここでは2つの事例を紹介しましょう。

1つ目はプライス・カードの変更です。お店で商品の価格を提示する小さなカードのことです。マーケティング要素は何もないと思われるかもしれません。しかし、Walmartは考えました。ECやオンラインショッピングの普及は、消費者のお店での買い物にも影響を与えているのではないか?と。

皆さんは、AmazonのようなECサイトの利用経験はあるでしょうか?仮にAmazonで「ヘルシア」と検索してみてください。価格の総額表示の近くに、1本あたりの価格が表示されていることを見て取れると思います。

次に近くのお店を想像してみてください。今日のお昼や夜ご飯のお買い物のために直接行かれても良いです。ビールやトイレットペーパーのコーナーが、このECでの体験とは対照的な「プライス・カード」になっていることに気づくと思います。

Walmartはここから「学び」を得ました。今の消費者は「商品から得られる価値に応じて、商品購入に使うエネルギーを使う」ということです。

安価な飲料や消耗する紙製品において、確かに私たちは価格や使用経験を重要視します。そのため、ECでは価格検討が行いやすい表示になっているのです。しかしながら、お店ではそうなっていません。Walmartが理解したのは、“これでは、EC体験のあるお客さまが、お店は分かりにくいと印象を持ってしまう”という点です。

デジタルの時代になり、私たちはマーケティング現場でデジタルツールの導入を急いでいます。もちろん取り組むべきことです。しかしツール導入と合わせて取り組むべきことは、デジタルによって変化した生活者やお客さまの理解です。このような基本的な生活者やお客さまの観察が、不連続な時だからこそ重要なのです。

Walmartはショッピング・カートのデジタル対応した

さて、Walmartの進化は止まりません。次に目をつけたのはショッピング・カートです。お店で商品を買うときに、スマートフォンを見ながら買い物することが多いですよね?メモに記録してある買い物リストを見ながら店内を物色し、カートに商品を入れ、会計時にはアプリを開いてポイントプログラムを提示する。私もその1人ではありますが、そんなシーンが今や当たり前化しています。

そんな当たり前のシーンに対応したのがWalmartです。なんとWalmartのショッピング・カートにはスマートフォンを置く場所があるのです。YouTubeで公開している、「Skip the Register with Scan & Go」を見てみてください。実に多くの、デジタル生活者に合わせた対応を行なっていることに気づかされます。

場を日本に戻します。日本のお店のカートです。「傘」をしまう場所があっても「スマートフォン」を置く場所はありません。店内のお客さまを見ればわかりますが、多くのお客さまがスマートフォンを見ていて、そのことにより「手」がスマートフォンに占有されています。Walmartが提供する買い物体験と比較してしまうと、「この店は買い物をあまりして欲しくないのだろうな」と思われても仕方がない状態です。今、まさしく世の中で起こっている生活者のデジタル変化を、マーケティングのヒントに変換できていないのだと感じます。

観察のデータを分析する前に眺めて考える

不連続点において重要なことは眺める、ということです。マーケティングに関する生活者の膨大な調査、分析の前に、このような些細な観察をきちんと眺めること。そして、眺めたことから出来ることを考えて、すぐに実践すること。これが「不連続な時」、すなわち「見たことのない時代」に求められていることだと思います。

調査部門は観察日記をたくさん書くこと。そして、その観察日記をもとにマーケティング戦略立案関係者と議論すること。このようなシンプルな方法こそが、デジタル生活者時代のマーケティングにおいて最も大切なことだと考えます。

著者プロフィール

株式会社マーケティングサイエンスラボ 本間 充プロフィール画像
株式会社マーケティングサイエンスラボ 本間 充
1992年花王株式会社に入社。社内でWeb黎明期のエンジニアとして活躍。以後、Webエンジニア、デジタル・マーケティング、マーケティングを経験。
2015年アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの企業のマーケティングのデジタル化を支援している。マーケティングサイエンスラボ 代表取締役、ビジネスブレークスルー大学でのマーケティングの講師、東京大学大学院数理科学研究科 客員教授(数学)、文部科学省数学イノベーション委員など数学者としての顔も併せ持つ。

1992年花王株式会社に入社。社内でWeb黎明期のエンジニアとして活躍。以後、Webエンジニア、デジタル・マーケティング、マーケティングを経験。
2015年アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの企業のマーケティングのデジタル化を支援している。マーケティングサイエンスラボ 代表取締役、ビジネスブレークスルー大学でのマーケティングの講師、東京大学大学院数理科学研究科 客員教授(数学)、文部科学省数学イノベーション委員など数学者としての顔も併せ持つ。

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