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新しいマーケティングを考える
~事象を連続して見えてくる新しい生活文脈とは~アフターレポート

2022年6月13日に、「新しいマーケティングを考える~事象を連続して見えてくる新しい生活文脈とは~」をテーマにリアル(オフライン)/オンラインセミナーが開催。
元花王 本間氏、マーケティングプロデューサー 辻中氏が登壇し、インテージ 田中がモデレーターを務めた。

モデレーター:インテージ 生活者研究センター 田中 宏昌

なぜ今、「新しいマーケティング」なのか?

インテージ田中:本日は、生活者をより深く理解するためには?というところをメインに「新しいマーケティング」について議論していきたいと思います。本間さんは知るギャラリーでも「新しいマーケティングのすすめ」という連載をされていますが、そのタイトルを選んだ理由を教えていただけますか。

本間:僕が花王に入った1992年のとき、花王の調査部の佐川さん(※花王 元会長 佐川 幸三郎氏)という方が、「新しいマーケティングの実際」という本を出されていて、花王の社員に配られていました。
400ページ以上ある分厚い本ですが、簡単に言うとアタックのマーケティングの流れについて一通り書かれています。
佐川さんは花王が20年間赤字だった時代のマーケティングの責任者でした。どうして赤字だったのか。それはお客様に売れるものが作れなかったからです。つまり、お客様を理解していないということです。
そこで、お客様を理解するべく、花王の調査部がのちに大きくなっていくことになります。
そこから学べるのが、マーケティングってその時々の潮流があって、お客様の変化に合わせなればいけないから、絶えず新しいことをやらなければいけないということ。その戒めを込めて、このタイトルを名付けました。

本間 充 株式会社マーケティングサイエンスラボ
1992年花王株式会社に入社。社内でWeb黎明期のエンジニアとして活躍。以後、Webエンジニア、デジタル・マーケティング、マーケティングを経験。2015年アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの企業のマーケティングのデジタル化を支援している。マーケティングサイエンスラボ 代表取締役、ビジネスブレークスルー大学でのマーケティングの講師、東京大学大学院数理科学研究科 客員教授(数学)、文部科学省数学イノベーション委員など数学者としての顔も併せ持つ。

田中:絶えずアップデートしていかなければいけないということですね。辻中さんも、長い間マーケティングの潮流をご覧になっているかと思いますが、その変化についてどう思いますか。

辻中:皆さんのご存じの通り、フィリップ・コトラーの4Pの考え方が、長い間新しいマーケティングの基本として占めていましたよね。そして、コトラーの本も2.0、3.0と、どんどんアップデートされています。
でも、生活者を起点として考えたときのフレーム、考え方が、そもそも違っているのではないか、ということを私は啓蒙しています。
データというもので生活者を見ているときに、中心点、つまり集合体で言うと一番分布の高い、最頻値のところを見て、マーケティングをやってきました。でも、答えは中央値の中にはないのです。データを「エビデンス」として理解しようとするのか、「次の仮説の視点」と考えるのかだと思います。「生活者理解」あるいは「生活者起点」という言葉をいたるところで目にしますが、どうやって理解するのか。
新しいマーケティングとして、イノベーションされていかないといけないタイミングだと思います。

辻中 俊樹 マーケティングプロデューサー
日本能率協会などで雑誌編集者を経て、マーケティングプロデューサーとして現在に至る。暮らし探索のための生活日記調査を開発<n=1>という定性アプローチを得意とする。代表的な著作としては、「団塊ジュニア――15世代白書」「母系消費」「団塊が電車を降りる日」「マーケティングの嘘」最新刊は「米を洗う」(2022年3月 幻冬舎)など編著書は多数。

生活者を理解するとは、どういうことなのか?

田中:新商品・サービスの開発における最近のクライアントのニーズ・潮流として、グループインタビューや観察調査の対象者にエクストリームユーザー(尖った・特徴的なユーザー)を深掘りして、新しい発見につなげたいというものがあると思うのですが、なにか面白い事例ってありますでしょうか?

辻中:セブンイレブンの金のビーフシチューって、1人前だから一人で食べていると思っている方が結構いますよね。でも実際は薄めて、野菜やソースを足して2~3人で食べている人もいるんです。こういうことってPOSデータで読み解くのは難しいと思います。そうやって企業の狙いと他の事をやっているのを、チャンスとして捉えられるかどうか大切です。

田中:マーケターの目線で、ユーザーは誰なの?本当の姿はどうなの?ってところを突き詰めていくのが大切ということですね。そういう目線を持つマーケターって増えてきているのでしょうか?

本間:マーケティングって仕事は複雑化していますからね。本当はお客様にもっと踏み込むことができれば、ヒントはたくさんあるから、午前中はオフィス、午後はフィールドワーク、くらいにできたらいいんでしょうけどね。とにかく現場に立つことが本当に大事だと思います。例えば僕は花王時代、電車でメイクする子がいたらラッキーだと思ってしっかり観察していました。メイクそのものだけでなく、どうしてそういうメイクをするのかという背景まで想像します。それくらい常にアンテナを張れるかだと思います。

田中:それこそ辻中さんは生々しく今の世の中、さらには生活者を捉えようとしていらっしゃると思いますが、どのようなことを意識されていますか?

辻中:昔は中心的価値が世の中を支配していましたが、今は価値観や生活スタイルが多様化してきています。例えば納豆に卵とネギを入れて毎朝食べる人。もちろんいますが、今は絶滅危惧種と言っても過言ではありません。今のリアルな消費としての例ですが、タンパク質不足を補うために、カルボナーラに【追い納豆】する親子もいたりします。
このように、商品は変わっていなくても、消費の仕方や生活が変わっているので、もちろん企業としてのコミュニケーションを変えていかなければいけません。
私はLINEなどのデジタルツールで、そういった生活者の情報を収集しています。
もちろん直接生活者を捉えるのが一番良いですが、そのようなツールもうまく利用するといいですね。

田中:なるほど好奇心を持って、“それってどうなの?”とモヤモヤ考え続けることが出発点にあり、LINEなどのツールも使いながら実態に迫る、ということですね。

全体最適と部分最適

辻中:この写真たちは私が観察している方々に提出いただいた、夕食のシーンです。

辻中:これを見ると「一汁三菜」が死語なのがお分かりいただけると思います。麻婆豆腐にトンカツを合わせていたり。ナンに惣菜パックを合わせていたり。
ちなみに、これを見て、麻婆豆腐を作ると決めた、主婦の心理的行動スイッチは何かわかりますか?
・・・答えは豆腐の賞味期限が迫っていたから、です。主婦の多くの方は、ひき肉を冷凍庫に常備していて、麻婆豆腐の素は買いだめしているので、いつでも作れるメニューの一つだそうです。

辻中:次にこの写真をご覧ください。左からある男性の朝食、ランチ、夕食です。


左手のヨーグルトとサラダチキンの食事はタンパク質を摂る、という部分最適を見ると、とてもバランスが良いですが、美味しい食事か、という観点から見ると違うかもしれません。また、こういった部分最適の食事を摂った男性も、夜は奥さんが作った鰹のたたき定食を食べています。まさに部分最適と全体最適ですね。
この食事のサラダチキンの中心的価値は何か。タンパク質をしっかり摂るということで、ライバルはヨーグルトなのです。ヨーグルトの開発の方は、サラダチキンやゆで卵と戦っている自覚を持つべきだと思います。
一品一品がどうやってお客様の口に運ばれていくか。どうやって購入行動に繋がっていくのかを考えることが、メーカーや流通のマーケティングにとても大事なポイントです。

田中:なるほど。ここで昨年10月のインテージフォーラムで使用した資料を使いながらお話をさせてください。

これはレトルトカレーを例にしていますが、カテゴリ起点ではなくシーン起点で自分たちの商品を見ていくことが、自社商品やカテゴリのリアルなポジショニングやライバルを理解することにつながる例を取り上げました。まさに、辻中さんの話と重なる、と思いながら聴いていました。

商品は買われていないのに、商品価値は広がっていく

辻中:次の左手の写真は、自転車に乗っている子供です。自転車は自転車の専門店で購入しましたが、被っているピンクのヘルメットは、実はメルカリで購入したものです。当然、関連商品として自転車と一緒に買われると思っていた自転車ショップの店員さんは驚いたでしょうね。

そして右手のベビーバギーもメルカリで購入したものです。定価は9万円くらいのものを5万円でゲットしています。そして、このベビーバギーは子供の適齢期が過ぎたら、きっとまたメルカリにリセールするでしょう。恐らく三代目でも3万円くらいで売れるのではないでしょうか。

つまりこのベビーバギーのライフタイムバリューが三世代繋がっていくことになります。
これはお金だけの問題ではなく、そのブランドの価値をよく理解しているからこその、価値の共有なのです。

本間:今の辻中さんの話は、エアバギーの生産台数を増やす話ではないですよね。だけど、消費者の中ではエアバギーの価値が増幅されている。今までマーケターは売った個数でしかマーケットを見ていないから、これは売った個数は増えていないけど、利用者は増えている、面白い例で、今までなかった捉え方ですよね。

今まではメーカーとお客さんが1対1だと思っていたけれど、1対複数になることもある。そして、マーケターが考えているL T Vは1商品・サービスを1人のお客様に長く使って欲しいと思っているけれど、そうではないってこともあるってことですね。

田中:こうした実態をみると「ブランドマネジメント」というものの定義も変わってくるように思います。リセールバリューの評価がファーストユーザーの購買意欲に大きな影響を与えるということですね。

お二人のお話をお伺いして、生活者の体験やシーンを真ん中に置きながら、生活者起点のマーケティングというものを考えた時に、マーケターがその理解(生活者の真の姿)を届けていくセクションも横に繋がっていて、さらに実行されるフェーズでも繋がっていくことがより重要になると感じました。

また、マーケティングプロセスの連携にあたっても、本間さんや辻中さんがおっしゃっていたような、仮説に囚われることなく柔らかな視点や発想をそれぞれが持っているか、ということが「新しいマーケティング」を実行する上で、大事になっていくのでは。そうした想いを強く感じた時間でした。本日はありがとうございました。


7月12日(火)に第二弾「新しいマーケティングを考える~生活文脈をジャーニーに落とし込むと何が見えてくるのか?~」のリアルセミナーを実施。 詳細・申込はこちら

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