アメリカNRFから学ぶ、今後のリテール動向~コロナ禍でも成長し続ける成功要因とは~
今年1月に開催された世界最大級の流通産業向け展示会「NRF Retail’s Big Show」。リアルでの開催は2年ぶりとなり、コロナ禍でも成長し続けるアメリカのリテール各社が、これまでの取り組みや今後の戦略を提示していました。
この記事では、リテール領域の事業開発を担当している小野寺が、実際に参加して収集した情報と、そこでの気づきをレポートして参ります。
目次
2年ぶりのリアル開催、安心して参加できる配慮
来場者数は例年の半数以下の約1.5万人でありながら、会場のJavits Centerには活気が溢れており、出展者、来場者双方が今回の開催を待ちわびていたことを感じました。この会場は、20年4月頃にはコロナ感染者用の臨時病院として使われていたそうですが、わずか2年弱で本展示会のリアル開催に至っています。アメリカの勇ましさを感じます。
感染対策は徹底されており、安心して参加することが出来ました。入場にはワクチン接種証明書の提示が必須で、確認証明としてリストバンドが配布されます。キーノートに登壇される方々の手元にもリストバンドが見え、来場者のみならず、主催者側も徹底していることが伺えました。その他、マスク着用義務や無料PCR検査の提供など、安心して参加出来る配慮がされていました。
2021年は、リテール各社が回復と成長を遂げた年
NRF CEOであるMatt Shay氏の講演でRetail’s Big Showはスタートしました。Matt氏は、「2021年は、リテール各社が回復と成長を遂げた年。コロナによって、消費者の変化が前倒しされ、変化に適応することで成長することが出来た。ここ2年の経験を活かしながら、消費者に満足してもらうために、努力し続け、対応力を上げていくことで、更に成長していける。」と語りました。今回のテーマである「ACCELERATE(=加速)」が、まさにそのことを示しています。
また、消費者の変化に関するキーワードとして、「Buy Online Pickup In Store(BOPIS)」、「Curbside Pickup」、「非接触決済・Scan and Go」※などを挙げ、「消費者は安心安全かつ便利に買い物をすることを求めており、リテールはそれに対応していく必要がある。」と述べていました。
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Buy Online Pickup In Store:オンラインで注文して、店頭で受け取る
Curbside Pickup:オンラインで注文して、車に乗ったまま駐車場で受け取る
Scan and Go:消費者がスマートフォンやカートで商品を読み取り、決済を済ませる
“安心安全かつ便利に買い物をしたい”ニーズは日本でも共通しているかと思います。アメリカでは、ニーズを満たすために様々な仕組みを素早く開発・導入したリテールが消費者から支持され、更に成長を遂げています。
リアル店舗で楽しく買い物をしたいニーズは未だ顕在
キーノートに登壇した大手スーパーマーケットTargetの CEO Brian Cornel氏は、コロナとインフレによる消費者の変化について、「パンデミックで外出が抑制されていたが、昨年のホリデーシーズンには多くの消費者が店を訪れたことから、リアル店舗で楽しく買い物をしたいニーズは未だに顕在だと確信した。」と述べました。消費者が店舗にインスピレーションを求めることは変わらない一方、コロナによる安全性意識の高まりやインフレを受けた移動コスト抑制ニーズから、買い物場所を集約する傾向にも触れました。
変わらないニーズと近年の変化を受けて、Targetでは、ワンストップで、便利にそして楽しく買い物が出来るように、外部と積極的に連携しています。Ulta BeautyやApple Storeを店内にオープンさせたり、ディズニーグッズを扱ったりしています。また、オンライン注文や各種受け取り(自宅配送、BOPISなど)も準備されています。消費者の価値観や購買行動を捉え、機敏に対応している好事例と言えるでしょう。
従業員を“ロングライフパートナー”として捉える
Brian氏は、これらの対応をしていく上で重要な要素として、従業員を挙げました。組織としての文化や理念を維持しながら、従業員の働く目的やキャリアと照らして、教育をしていくことが非常に重要であると強調しました。Fortune社調べ「100 Best Companies to Work For 2021」で、Targetはリテール企業2番目の14位にランクインしており、従業員も実感していることが伺えます。(リテール企業1番目はWegmans)
従業員との向き合い方に言及する企業は他にも多くありました。 大手百貨店Macy‘sのVP John Patterson氏は、「旧来の人材戦略が陳腐化していた。今後は従業員を“ロングライフパートナー”として捉える必要がある。従業員のキャリアプランを踏まえて、必要なスキルや能力を伸ばせる環境を用意する。」と語りました。実際にMacy’sでは、Guild社が提供するオンライン教育プログラムを採用し、従業員が学べる仕組みが整っています。大手家電量販店Best BuyのCEO Corie Barry氏も、「ビジネスモデルを考える上では、顧客と従業員の変化は常に踏まえなければならない」と述べました。最近の従業員は、“大きなことと繋がりたい、貢献したい”、という意識が非常に強いと感じており、そのなかでどのようにエンゲージメントをしていくかが重要とのことでした。
成長を遂げる各社に共通していたのは、強いリーダーシップと従業員体験への注力でした。トップが変化をしっかりと捉え、企業が向かうべき方向性を示しつつ、従業員の声に耳を傾け、摺り合わせを行いながら共に成長している印象を受けました。従業員が満足して働くことで、店づくりや接客の質も高まり、消費者に良い商品・体験を届けられているのだと思います。消費者に店を好きになってもらうことが益々重要になってきているなかで、「人」の力は極めて重要であると感じました。
リテールテックが主役の展示会で、「人」についての言及が多いと感じる方もおられるかもしれません。アメリカのリテール企業では、顧客体験を向上するために従業員体験も向上させる、そしてそのためにテクノロジー(DX)も必要、と捉えているというのが私の気づきでした。
では一体どんなテクノロジーがトレンドとなっているのか?ここからは、展示におけるトレンドを見ていきましょう。
展示からみるトレンド
実用的なものから、斬新なアイデアまで様々なものが取り上げられていましたが、以下の3つの要素に集約されます。ここでは、一部を抜粋して取り上げたいと思います。(その他詳細な情報については、是非直接弊社担当にお問い合わせください。)
まずは、ノルウェーのAutoStore社が開発した自動倉庫システムです。 格子状に組まれたグリッドの上を走行するロボットが、積み上げるべきコンテナの上まで行き、自動で引き上げ、作業者の手元まで届けてくれます。作業者は指定の場所に待機しているだけで良く、倉庫内を動いたり、コンテナを探したりする手間が一切無くなります。人が動かないので、通路も不要で倉庫内のデッドスペース削減にも貢献しています。
次に、売場をデータ化する技術についてです。このテーマについては非常に多くの企業が展示を行っており、リテールにおける必要性の高さを感じました。どの企業も働き手不足に悩むなかで、効率的に品出しや補充を行うためのサポートツールとして注目が集まっています。収集方法は、スマートフォンで撮影するものから、ロボットが自動走行するものや什器に取り付けるものなど様々でした。データの用途として、品出しや補充に留まらず、売れる売場の要素を特定したり、POP有無による効果を測ったりするなどマーケティングを含めた多面的な活用が期待されます。
最後に、決済関連のサービスをご紹介します。コロナに関わらず、チェックアウトに係る時間を減らして、買い物体験を向上させることは大きなテーマです。無人レジやスマートカートなどが注目されていました。コロナによる衛生意識の高まりもあり、取り扱う企業が増えた印象を受けました。これまでは自分でスキャンするタイプのScan and Goが主流でしたが、今回の展示ではScan自体の負荷を減らす目的で、商品自動認識技術が搭載されたものをよく見かけました。
実際に体験もしてみましたが、買い物体験が向上することは間違いないと感じます。但し、自動認識にあたっては、機械学習を重ねる必要があり、一定のコストがかかるのも事実です。導入によって、どれだけ従業員の作業を減らせるか、そして買い物体験を高められるかを見極めながら各社導入を検討していくのではないでしょうか。一方で、そもそも従業員が足りていないのであれば、多少コストがかかっても導入せざるを得ないのかもしれません。今後の動向に注目です。
ここまで、NRF Retail’s Big Showの内容をご報告させて頂きました。
講演と展示の内容を通して、アメリカリテール企業が成長を続ける要因をご理解頂けたでしょうか。従業員体験を高めて、「人」の力を最大限発揮することで、消費者に好かれる企業・店になれると各社は考えています。そして、従業員や消費者の体験を高める上で、テクノロジーも必要不可欠なものになっているのだと感じました。
今回の内容と関連するサービスとして、インテージでは店舗の実態把握のための“店頭可視化ソリューション”をご用意しております。最新店舗情報や弊社サービスにご興味・ご関心をお持ちの方は是非お気軽にお問い合わせください。
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