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アメリカNRFに学ぶ、2023年のリテールトレンド

世界最大級の小売産業向け展示会「NRF*1 Retail Big Show」が今年もニューヨークで開催されました。昨年はオミクロン株急拡大と重なり、参加者が1.5万人※であったのに対し、今年は世界75か国から3.5万人以上が来場し、熱気に満ち溢れていました。コロナ蔓延から3年が経ち、人々が新たな日常を受け入れるなかで、小売各社が見据える次なるステージと戦略が示されました。

この記事では、リテール向けの事業開発を担当している小野寺が、実際に参加して収集した情報とそこでの気づきを、昨年のNRF2022に引き続きレポート致します。

*1 National Retail Federationの略。全米小売協会。

NRF Retail Big Show
NRF Retail Big Show

2022年は、外部環境の変化で小売各社が困難に直面した一年

NRF会長であり、Walmart CEOのJohn Furner氏の基調講演で展示会が幕明け。今年のタイトルでもある「BREAK THROUGH(=突破)」をテーマに、2022年のアメリカ小売業を振り返り、「コロナによる影響からはやや改善が見られたものの、ウクライナ侵攻に伴う食糧等の需要急増と数十年稀に見るインフレが重なり、歴史的に困難な年だった」と語りました。その上で、環境変化の激しい今日を“小売にとってユニークな時期”と表現し、絶えず挑戦し続けることで強い産業になれると主張しました。

米国の消費者物価指数(下図)を見ても、2022年はかなり高い水準であったことが分かります。現地の店を訪れてもそのことを実感しました。鳥インフルエンザの影響もありますが、卵12個パックの価格が5~7ドル程度、店によってはそれ以上です。いかに物価が上昇しているかが分かります。それに対して、賃金の伸びは追いつかず、人々は困窮しています。このような危機的な状況を踏まえて、その他のセッションを見ていきたいと思います。

日米の消費者物価指数(前年比)
NRF Retail Big Show

困難を突破する上で経営者、従業員が同じ志をもつことが重要

今回印象的だったのは、スポーツの第一線で活躍された方々の講演がアジェンダに組み込まれていたことです。困難な状況下で高い目標に向かって絶えず挑戦し続けることの難しさと重要性を訴え、小売産業全体のマインドを整えることが狙いだったのではないかと推測します。

大学バスケットボールリーグで黒人初のプレーヤーとなり、その後ハーバード・ビジネス・スクールでも黒人初の教授となったJames Cash氏の講演では、栄光の裏で体験した人種差別などの苦しい体験に触れながら、いかに困難に立ち向かっていくべきかを論じました。そのなかで、小売が顧客に示すべき忠誠心は“今の状態に満足しないこと”であると主張しました。そして、聴衆に対して、「熱意のあることを見つけて取り組むこと」、さらに「より良い方向に向かっていると楽観視すること」で、突破口が見出せると訴えかけました。 また、体操のオリンピック金メダリストで、現在は実業家のSimone Biles氏の講演では、好きなことに情熱を持つこと、そして忍耐力を備えることの重要性を体操で学び、ビジネスにも活かしていることを語りました。

2つの講演で共通していた“熱意”、“情熱”という要素が、今の小売業の状況にとっても大切であることを示唆していると感じました。経営者やリーダーが企業理念に忠実に向き合い、そして社員やパートナーからの共感を得て、ともに熱意をもって取り組むことが不可欠であると言えます。そのことが企業の想いを支持するファンを生むことに繋がるのでしょう。

それでは実際に、米国小売のトップがどのような想いをもっているのか、そしてこれからをどう見ているのかについて触れたいと思います。

企業の想いを従業員、そして顧客に届ける

大手スーパーマーケットTarget CEOのBrian Cornell氏は、「企業文化を一日たりとも脇に置くことは無い」と主張し、文化はどのようにビジネスを展開していくかということそのものである、と説明しました。同社の企業パーパスは「To help all families discover the joy of everyday life.(全ての家族にとって、日々の喜びを見つけられるように)」であり、近年のPB開発や外部ブランドとのコラボレーションなども、まさにこのパーパスに則っていると言えます。Cornell氏は昨年の講演で、コロナ禍でも成長し続けられた要素として、“従業員”を挙げていました。今年は自社の女性リーダー4名とともに登壇し、パーパスに基づく企業文化が組織全体でどのように作用しているかについて討論しました。エグゼクティブVP*2は、「文化は『私たちが誰なのか』、『私たちがどのように働くのか』ということであり、意思決定する際の指針となっている」と述べ、ダイバーシティ推進のVPは、「従業員に文化について話を聞くと、各々がどのように団結し、様々なことを達成していくか、を示すものとして捉えているようだ」と述べました。 上意下達でパーパスやミッションを押し付けるのではなく、現場がその意味を考え、行動に移行することで企業文化が醸成されていると言えるでしょう。

Fortune社調べの“100 Best Companies to Work For® 2022*3”では、前年から2つ順位を上げ、米国企業全体で12位にランクインしています。勿論、そこには経営陣の努力があります。同社では従業員の声を熱心に聞き、教育等の必要なことに惜しまず投資を行っています。その結果、店舗で働く現場の社員が会社の想いを受け取り、同じ意志をもって主体的に行動するようになります。そのことについて、店舗担当VPは「文化が店舗に浸透し、そこから顧客にも伝わっていく」と表現し、顧客から理解を得て、支持してもらうためには、文化が全社に伝播することが重要であることを示唆しました。とはいえ、“American Customer Satisfaction Index*4”では、Trader Joe’sやWegmansに後塵を拝し、スーパーマーケット部門で10位。従業員の主体的な取組が、同社の顧客満足向上に寄与していくか注目です。

*2 VP Vice Presidentの略。日本でいう本部長などに該当。
*3 https://fortune.com/ranking/best-companies/2022/search/
*4 https://www.theacsi.org/industries/retail/supermarkets/

2023年に小売企業が取り組むべきテーマ

次に、2023年の小売トレンドについて語られたセッションを紹介したいと思います。McKinsey & CompanyシニアパートナーのSajal Kohli氏とスーパーマーケットチェーンSprouts Farmers Market CEOのJack Sinclair氏による講演では、はじめに生活者の変化に触れ、変化を顕著に示す数字として以下を挙げました。

◆ 65%の人が価格上昇に対して不安を抱いている
◆ 75%の人が健康的でありたく、且つ39%の人は健康的な食事を意識している
◆ 31%の人が持続可能な食材の購買を増やしたいと思っている
◆ 42%の人がSNSから食事に関する影響を受けている

その上で、小売企業が対応すべき5つの重要テーマが提示されました。

 規模、価格、デジタル推進、独自性ある商品の取扱などによる競争力の強化
 健康的なライフスタイルに向けた妥協の無い価値提供
 顧客満足度向上や人手不足に対応するための段階的なデジタル変化
 持続可能なビジネスへの挑戦
 外部パートナーとの取組

Sinclair氏は、小売経営者の目線で、“⑤外部パートナーとの取組”の重要性に言及しました。オンライン購買が進むなかで、物流に対する投資が増えていることに触れ、規模のメリットを享受すべきであると主張しました。小/中規模の小売は、外部パートナーと連携して、物流の規模を追求することが必要とのことでした。展示コーナーにも、物流機能を提供する企業の出展が目立ち、ニーズの高まりを感じました。(下図参照)

アメリカNRFに学ぶ
左:IKEAが出資するレンタル配送用電気自動車“fluid track
右:Walmartが提供する小規模小売向け配送サービス“Go Local”

また、顧客に対する推奨商品や適正価格などのパーソナライズについても、ベンチャー企業の技術が活きるとし、ベンチャー企業が小売を助ける可能性があると述べました。他の講演も含め、外部連携強化に言及する小売トップが多かった印象です。環境変化が激しい状況で、外部の力を借りながら、いかに迅速、柔軟に対応していけるかが鍵となっているのでしょう。

最後に

ここまで、NRF 2023の講演内容を見てきました。2021年まではコロナの影響を受け、DXを加速させて不測の事態を乗り切ることに重きが置かれていました。2022年以降は、新たなステージに向かい始めています。インフレ、不安定なサプライチェーン、労働力不足などの重大な課題と向き合いつつ、生活者が求める低コスト且つ健康・安心で持続可能な商品を提供していくことが成長に向けて大切と言えそうです。その達成に向けて従業員、パートナー、地域コミュニティーとの関わりを重視すべきであると論じる講演が非常に多かったように感じます。経営陣がリーダーシップを発揮し、従業員、パートナー、コミュニティーからの共感を得ることが、成長を支える土台となっていくのではないでしょうか。

著者プロフィール

データコム株式会社 取締役 小野寺 裕貴プロフィール画像
データコム株式会社 取締役 小野寺 裕貴
慶応義塾大学大学院卒。株式会社みずほ銀行、株式会社インテージを経て、家業であるデータコム株式会社へ入社、2023年6月より取締役。
インテージ在籍中は、事業開発やアライアンスの業務に従事し、その一環でグローバルトレンドの探求・発信なども行う 。

慶応義塾大学大学院卒。株式会社みずほ銀行、株式会社インテージを経て、家業であるデータコム株式会社へ入社、2023年6月より取締役。
インテージ在籍中は、事業開発やアライアンスの業務に従事し、その一環でグローバルトレンドの探求・発信なども行う 。

データコム株式会社 企業サイト:https://www.datacom.jp/

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