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自由回答設問の役割と、聞き方のキホン(後編)

「自由回答形式」は、その名の通り調査対象者が文章で自由に回答を記入する設問形式です 。
知るギャラリーでは前後編にわたって、「自由回答形式」の設問(自由回答設問)をより効果的に調査に組み込むためのヒントと、よりよい回答を得るための主なポイントをご紹介します。

前編では、自由回答設問の主な活用用途や特長・留意点を踏まえつつ、自由回答設問でより良い回答(調査作成者の意図に合った有効回答)を得るには、調査作成者が設問作成時に工夫を凝らす必要があることをお伝えしました。
この後編では、実際に自由回答設問の設問文を作成する際、どのような工夫ができるか、それらの工夫は主にどのような場合に有効かについて、実証実験結果を踏まえてご紹介します。

「自由回答の適切な聞き方」を実験調査で探る

自由回答の設問文では、
・設問文に回答例を提示し、回答内容をイメージしやすくする「回答例提示」
・設問文に短いガイド文を提示し、回答してほしいポイントを伝える「ポイント提示法(*)」
(*この工夫を表す一般的な用語が見当たらなかったため、当記事では便宜的にこの名前を付けてご紹介します。)
・回答欄を穴埋め形式にする「文章完成法」
など、質問の意図に沿った回答を引き出すための様々な工夫が考えられます。一方で、工夫により回答形式に制約を設けることは、対象者にとっての負荷にもなりえます。

これらの工夫はそれぞれどのような場面での活用に適しているのでしょうか。適切な使い分けを明らかにすべく、インテージではいくつかの工夫の効果を検証する実験調査を行いました。

はじめに、調査の概要をご紹介します。

調査概要

実験調査では、図表1のように、回答者に架空の歯磨き粉のコンセプト文を見せて購入意向を聞いた後、「購入したい」または「購入したくない」理由を自由回答設問で聞きました。
この時、回答者を4つのグループに分け、それぞれ聞き方や回答方法に工夫を加えた自由回答設問に答えてもらいました。調査後に、各パターンでの回答時の反応や回答内容の違いを「回答者への負担」「回答内容の充実度」の2つの視点で分析しました。

図表1

この実験で聞いた4種類の自由回答設問文の内容は以下の通りです。「ポイント提示法」については、回答例の提示有無でさらに聞き方のパターンを分けました。

① 標準的な聞き方(聞き方の工夫なし) 

② ポイント提示法 回答例の提示なし

③ ポイント提示法 回答例の提示あり

④ 文章完成法 回答例の提示あり

調査結果

分析の結果、それぞれの聞き方の回答者への負担と回答内容の充実度は図表2のようになりました。

図表2

「標準の聞き方」「ポイント提示法」「文章完成法」の3つの聞き方と、「回答例の提示有無」それぞれの特徴を上の図から読み解くと、それぞれ以下のようにまとめられます。

● 標準の聞き方(工夫なし)
回答の文章量や具体的な回答の数は他の手法より少なめだが、対象者が慣れ親しんだ聞き方という点もあってか、「回答者負担」は最も低いという長所もある。

● ポイント提示法
標準の聞き方と、後述の文章完成法の中間的な位置づけ。
標準より回答負荷は高いものの、文章完成法ほどの負荷はなく、回答例の有無にかかわらず、標準よりも充実した内容の回答を得やすい。

● 文章完成法
具体的な回答の割合が高く、回答例併記の効果もあってか、回答の文字数が多い。 一方、回答にかかる時間が他の手法より圧倒的に長いなど、回答負担は3つの聞き方の中で最も高い。

● 「回答例」の提示
回答例の提示により、具体的な内容の回答が若干増加。
※例を提示したパターン③と、提示しない②の比較結果より。

このように、実験調査で様々な自由回答の聞き方を比較した結果、どの方法も一長一短があり、用途や特性に応じた使い分けが必要であることがわかりました。

自由回答設問の聴取ポイント

ここでは、前節でご紹介した実験調査の結果を踏まえ、自由回答設問の工夫の活用場面や、その他の聴取ポイントについて考えていきます。

「自由回答設問の工夫」の活用場面

今回の実験調査結果や弊社の実際の自由回答設問の活用事例から、「標準の聞き方(工夫なし)」「ポイント提示法」「文章完成法」の3つの聞き方の特徴と、主な活用場面を整理すると図表3のようになります。

図表3

「標準の聞き方」の使い方

「標準の聞き方」は、聞きたいテーマを細かく絞り込まないため、生活者の意見をフラットに聞きたい場合に適しています。また、回答内容の充実度は工夫がない時よりは低下するものの、回答者負担が低いため、気軽に意見を聞けます。
つまり、無理に工夫を凝らすより、「用途によっては、あえて例などを出さない標準の聞き方をすることも有効」といえます。
ただし、工夫をしないといっても、書いてほしいテーマ(対象や状況)がある程度絞られる場合は、設問文で回答してほしい内容を分かりやすく書いたほうが、目的に合った回答が得やすいでしょう。 また、ある程度の文字数を書いてもらうために、回答欄を1行にせず、今回の実験調査のように、大きめにする工夫も考えられます。

「ポイント提示法」の使い方

設問文とともに、書いてほしいポイントを短いガイド文で示す「ポイント提示法」は、対象者に回答してほしいテーマや内容の方向性が明確な場合に適した工夫です。回答負荷は多少高まるものの、回答文字数や意図に合った回答が増えるといった回答内容の充実も期待できます。
ただし、自由にアイデアを書いてほしい場合や、回答負荷を下げて多くの意見を集めたい場合は、標準の聞き方のほうが向いているため、あくまで聞きたい目的に応じて使うことが必要です。
また、ガイド文が長く複雑な場合には、回答負荷が増え、結果的に回答品質も低下してしまう可能性があるため、できるだけシンプルに書くことも必要です。

「文章完成法」の使い方

穴埋め式の回答欄を用意する「文章完成法」は、主に5W1Hなど、「特定の場面や具体的な状況」について、ピンポイントで書いてほしい場合に有効な手法です。ただし、用途によっては複数の回答欄を使うほどの回答内容を対象者が思いつけないケースも多々あるため、活用場面には注意が必要です。例えば、実証実験で聞いた「回答理由」も、商材によってはこの方法で答えづらいケースがあります。
また、実験調査結果の通り、工夫がない場合より回答文字数が多く、穴埋めの各回答欄に書いてほしい要素の回答を得ることができるため、より具体的な内容を得やすいメリットがあります。一方で、穴埋めに合わせる形で文章を考える必要があるため、対象者の負担は他の手法と比べ非常に高くなります。上記のような状況でどうしてもピンポイントで聞きたい場合に用いる工夫であり、乱用は避けるべきでしょう。

なお、この手法を利用する際は、回答負荷をできるだけ下げるために、対象者が答えやすい穴埋め文章(回答欄)を作成する、設問全体の文章量を減らすなどの配慮も必要です。

「回答例」の活用と注意点

実験調査結果の通り、設問文に「回答例」を載せる工夫も、回答内容を充実させられる可能性があり、より具体的な意見を書いてほしい場合に取れる選択肢の1つといえます。
ただし、複雑な例文提示や他の工夫との組み合わせ次第で、対象者の回答負荷が増える、一部の回答内容が例文に影響を受けるといった可能性もあるため、注意しながら使う必要があります。
なお、調査テーマと異なるカテゴリーの回答例を載せると、対象者が混乱してしまう可能性もあるため、回答例を載せる場合は、その設問と同じカテゴリー商品の回答例をそのまま載せるほうが無難です。

その他のポイント

最後に、ここまでに見てきた活用用途以外のポイントをいくつかご紹介します。

おわりに

この記事では、自由回答設問でより良い回答を得るための工夫の例やその使い方について、実証実験の結果も交えてご紹介しました。自由回答設問を本当に必要なものだけに絞り、目的・用途に応じて工夫することで、生活者理解に有用な回答データを集め、調査を成功に導くことができます。
前節でご紹介したポイントも含め、当記事の内容がよりよい自由回答設問作成の一助となれば幸いです。


今回ご紹介した自主企画調査の概要は以下の通りです。 
【自主企画調査】
調査手法:インターネット調査
調査地域:日本全国
対象者条件:20~50代男女 歯磨き粉を自選択・自購入者
標本抽出方法:弊社マイティモニターより抽出し、アンケート配信
標本サイズ:各グループn=400
調査実施時期:2024年3月25日~3月27日


参考文献
鈴木 淳子(2016)「質問紙デザインの技法[第2版]」、ナカニシヤ出版  p207-213

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