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プラントベース食品の新潮流~海外の先進事例や日本での受容性を読み解く~

近年、プラントベース食品の注目度が世界的に高まっています。健康志向および環境意識の高まり、また動物愛護の観点から、新規スタートアップ企業だけでなく大手メーカーが参入するなど、プラントベース食品のマーケットは拡大し続けています。新商品開発やマーケティング戦略視点では、海外の食・健康のトレンドを意識し、最新のプラントベース食品事情について把握するべきでしょう。

インテージでは今回、5か国の消費者を対象に、プラントベース食品の浸透実態や潜在顧客層を分析するための独自の調査を行い、その結果を世界70ヵ国100地域600人のライフスタイル・リサーチャーを抱えている株式会社TNCのフードアナリストにも見解をいただきながらセミナーでご紹介しました。
※本記事は2023年4月13日に実施されたセミナーを再構成してお届けします。

プラントベース食品とは?

プラントベース食品(Plant based food)とは、動物性の原料を用いず、植物由来の原料をベースとして製造された食品のことです。主要製品は、肉・乳製品・卵・魚介類の4カテゴリーに分類され、日本でも耳にする機会が多くなったヴィーガン対応食品とほぼ同様の意味を持ちます。
最近では、一切の動物性食品を摂取しない厳格な主義・信条としてのヴィーガンだけでなく、週1回の「ミートレスマンデー」、年始の1か月だけヴィーガンになる「ヴィーガニュアリー」などのライトでフレキシブルなベジタリアン=「フレキシタリアン」も増えており、プラントベース食品を取り入れた食生活は、食に柔軟な日本人とは親和性が高いと言われています。

プラントベースの浸透

プラントベース食品は現在、世界的にはどの程度浸透し認知されているのでしょうか。インテージでは日本・アメリカ(カリフォルニア州)・スウェーデン・中国(上海)・タイ(バンコク)の計5か国でプラントベース食品に関する独自調査を実施し、各国約600人のサンプルを取得しました。そこから見えてくるプラントベース食品市場の規模感を見ていきましょう。

最初に、各国のベジタリアン・ヴィーガンの割合です。

図表1

ベジタリアンとヴィーガンの取り組み実態 各国比較

食生活としてベジタリアン・ヴィーガンの割合がもっとも高いのはタイでした。これは、全国的に根付いている「キンジェー(菜食祭り、ベジタリアンウィーク)」による菜食文化の影響が強いと考えられます。
一方で、日本および中国ではベジタリアン・ヴィーガンともに食文化として浸透していないことがわかります。特に中国においては仏教徒などの一部市民を除き、ベジタリアンやヴィーガンが認知されていないというのが実状です。

図表2

オーガニック・ロカボ(低糖質)の取り組み実態 各国比較

一方で、オーガニック・ロカボ(低糖質)への関心は中国の割合がもっとも高い結果になりました。農薬問題を受け、価格よりも食の安全を重視してオーガニックの野菜や果物を選ぶ市民が多いようです。

また中国では健康や美容の観点からロカボ(低糖質)製品も浸透してきています。甘味料を用いて糖質ゼロ・糖質オフを謳ったペットボトル入りアイスティーや月餅がその例です。
参考:https://www.36kr.com/p/2046203600981248

次に、「プラントベース食品」という言葉の認知、およびその魅力は以下の結果となりました。

図表3

「プラントベース食品」という言葉への態度 各国比較

日本は認知・魅力ともに4割強で他国より低いものの、認知よりも魅力の方が高い割合でした。今後プラントベース食品の認知の機会を得ることにより、購入に繋がる潜在層がいるのではないでしょうか。

対照的に、認知・魅力ともに9割前後という高い数値となったのがタイです。

タイでは英語の「プラントベースフード」という言葉がそのまま使われるほど浸透しており、フォロワー96万人を抱えるインフルエンサーが製品のPRをするなど、SNSでも注目されています。

アメリカでも認知している人が9割程度と高く、プラントベース食品はすでに食文化の一つとして受け入れられているようです。

では、プラントベース食品の実際の購入意向はどのようになっているのでしょうか。乳・肉・魚介の各製品について調査しました。

図表4

プラントベース乳製品の購入実態・意向

プラントベースのミルク3種類は中国・タイでの購入が多く見られました。日本含むアジアでは豆乳を飲む文化があり、一方でアメリカではアーモンドミルク、フィンランドではオーツミルクの人気が高いなど、地域ごとの特色があります。
日本でも最近少しずつ認知されているオーツミルクも、中国で比較的高い購入意向にありました。この背景として、カフェでオーツミルクにカスタマイズしたコーヒーを買う、オーツミルクを飲む、といった行動がおしゃれな生活スタイルとして若い人の間で流行している点が挙げられます。

図表5

ブラントベースヨーグルトとチーズの購入実態・意向

プラントベースのヨーグルトとチーズは、ともにタイで高い購入意向が見られます。オーガニックスーパー「レモンファーム」などで手軽に購入できることから、身近な製品として市民に浸透してきているようです。

例えばレモンファームというオンラインストアでは、「チーズ」で商品検索すると多くのプラントベースチーズを見つけることができます。
参考URL(黒いパッケージのものがプラントベース): https://www.lemonfarm.com/th/catalogsearch/result/?q=%E0%B8%8A%E0%B8%B5%E0%B8%AA

アメリカにおいては、1年以内にチーズとヨーグルトを購入した人が同じくらい多いという結果でした。プラントベースチーズはスーパーで購入するほか、ハンバーガーチェーンでプラントベースのハンバーガーやピザに用いられています。

図表6

プラントベース肉製品の購入実態・意向

プラントベースの肉製品は、タイの3割の人に購入経験がありました。日本は1割未満でもっとも少なく、アメリカ・フィンランド・中国の3か国は2割強が1年以内に購入しています。
タイでは毎年3月上旬に行われるキンジェーで大豆原料の代替肉が用いられる以外に、普段からコンビニやスーパーで手軽にプラントベース食品を購入することができます。

参考1:素鶏、大豆を原料とした鶏肉に似せた食品。元々は精進料理
参考2:テンペ、インドネシアで生まれた大豆発酵食品。肉のような食べ応えがある

中国やタイ、またインドネシアといった国では宗教上の規則で肉を口にできない人のための伝統的な代替肉製品が食されてきたため、近年のプラントベース食品の潮流が起きる以前から、欧米とは違った趣旨でこれらの食品を口にする習慣がありました。

図表7

プラントベース魚介製品の購入実態・意向

魚介製品においては、タイが1年以内の購入経験が約2割でもっとも多く、その他の国は1割未満という結果でした。日本ではプラントベースの中でも魚介製品はあまり認知されておらず、身近でないことから購入意向が低いと考えられます。
タイはキンジェーやインフルエンサーの影響のほか、よく食される魚のすり身のプラントベース食品も販売されていることから、家庭の食卓に取り入れやすい背景があるようです。

海外のプラントベース事例

ここからは、海外におけるプラントベース食品の事例として、乳・肉・魚介の3つのカテゴリーごとに実際の商品を取り上げてご紹介します。

〇乳製品

日本でもなじみが深い豆乳や、イスラエルで伝統的に飲まれている「タヒニ」にインスパイアされたゴマをベースとしたプラントベースミルクのほか、イギリスおよびアメリカで販売されている「NOT MILK」は、AIが作り出すまったく新しいミルクとして注目されています。南米チリ発の製品で、AIによってキャベツやパイナップルなど複数の野菜・フルーツから味が組み立てられています。その独創的なコンセプトだけでなく味・栄養面にも優れていることから、Amazon創設者ジェフ・ベゾス氏も支援しているプラントベース食品です。
参考:https://notco.com/us/products/notmilk

〇肉製品

オランダで販売されている「FiftyFifty」シリーズは、完全なプラントベースではなく、肉と野菜のハイブリット食品です。ヴィーガンの食生活に関心があるもののハードルが高い、我慢を強いられると感じる人に向けた商品で、肉の消費を抑えながら無理なくベジタリアンのステップを踏める製品として注目されています。このように肉のおいしさと野菜の栄養価の両方の良さを組み合わせた商品も増えてきています。
参考:https://fiftyfifty.nl/en/product/dutch-burger/

〇魚介製品

タイの大手エビ生産業者・ユニオン社は、2022年8月にプラントベースのエビ製品を発売しました。エビやシーフード加工品のプロとして、高まりを見せるヴィーガンシーフードの需要に応えるための取り組みの一つです。
参考:https://omg-meat.com/

他の国でもツナやサーモン、またオイスターソースなどがプラントベース食品として製造されており、魚介製品のカテゴリーでも栄養価が高く水産資源に優しいプラントベースに参入する企業が増えてきています。

プラントベース食品にまつわる消費者セグメンテーション

日本は他の国と比べ、プラントベース食品への認知および購入意向が低いですが、興味関心がある消費者は一定数います。ここからは、インテージの独自技術である「Smart Detect」手法で消費者をタイプ分けし、プラントベース食品を普及させるヒントを探っていきます。

Smart Detectは、主に段階評価の意識データのみで似たもの同士を集めて分類する従来のクラスター分析と違い、デモグラフィックデータなど、多様なデータをもとに、AIが学習しながらユーザーの人物像を抽出し、クラスターを決定する技術です。今回使われたデータは以下のようになります。

図表8

「Smart Detect」手法で消費者をタイプ分け

今回の調査を行った5か国計3,124人をタイプ分けした結果、7つのタイプに分かれました。そのうち日本国内638人の回答者を解析し、特徴をまとめた結果が下図です。(タイプ7は日本にはほぼ存在せず。)

図表9

プラントベース食品に関する日本の消費者タイプ

図表10

日本の各消費者タイプの特徴

7タイプの消費者のうち、日本でもっとも多かったのはタイプ1の「現状の食生活に満足しておりプラントベース食品の関心がない層」で約4分の3を占めていました。この結果からは、日本でプラントベース食品に肯定的な潜在顧客層は4分の1程度ということが言えます。

では、関心がある層はどのような人たちなのか、その他のタイプについて見てみましょう。

タイプ2:食意識が高い独身の若年層が中心です。食生活としてベジタリアン、グルテンフリーなどに取り組んでおり、強い働きかけがなくてもプラントベース食品の購入意向が強いと考えられます。

タイプ3:小学生くらいの子どもを育てるミドル層が中心です。健康・美容意識や環境への配慮からプラントベース食品に魅力は感じるものの、子どもが喜んで食べてくれる味かどうかを懸念しています。

タイプ4:タイプ3よりも小さな子どもを持つ若年ファミリー層が中心で、製法・原材料にやや不安を感じています。まだ幼い子供にもプラントベース食品を食べさせて問題はないのか、正しい知識や情報を届けることで購入意識が高まることが予想されます。

タイプ5:食費にかける割合が低いパートタイマーの女性が中心です。健康意識からプラントベース食品に魅力を感じるものの、節約志向があるため価格がネックとなっています。価格を抑えたプラントベース食品であれば、手に取りやすいといえるでしょう。

タイプ6:専業主婦が中心で、プラントベース食品に興味は持っているものの、他の消費者層と比較するとやや消極的といえます。価格を含め、あらゆる点で訴求が必要となります。

潜在顧客層に対しては、このように属性の情報とプラントベース食品に対する態度をかけあわせて分類し、ターゲット層となる消費者を意識したマーケティングを行うことで、浸透が進むことが期待されます。

古くから雑食である日本では、プラントベース食品においてはまだ発展段階といえます。ただ健康志向の高まりや近年指摘されている食糧不足の流れから、これまでの食生活を見直す流れになっているのは確実です。今後ますます注目度が高まるプラントベース食品について、海外の最新事例を把握しながら、各消費者層に合った訴求を行うことが大事なのではないでしょうか。


今回のセミナーでご紹介したSmart Detectおよび日本分析結果の詳細、また5か国との比較結果は、以下のURLよりご確認いただけます。
https://www.global-market-surfer.com/report/detail/185/
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