市場をけん引する新たな「高購買力層」“パワーファミリー”の実態に迫る
「パワーファミリー」という言葉を聞いたことはないだろうか。物価高や円安の状況下でも購買力が高く市場を牽引する層として注目されている、世帯年収1,500万以上の子供のいる世帯を指す言葉である※ 。パワーファミリーが増加している背景には、結婚後に退職せず、それまで正社員として働いていた企業で継続して勤務する女性が増加するなど、女性の社会進出が進んでいることが挙げられる。国立社会保障・人口問題研究所の資料(※1)によると、結婚後もそれまでの仕事を継続した女性は、1990~1994年には56.9%だったが、2010~2014年には72.7%に増加している。また、内閣府の資料(※2) によると、有職者のフルタイムの割合も、20代女性では66.5%、30代女性では49.3%を占めている。
この記事では、パワーファミリーへの調査結果を通してその実態を捉え、かれらに向けた商品・サービス開発のヒントを探っていきたい。
今回は、パワーファミリーの定義を「夫婦共働き(フルタイム)かつ、子供がおり、世帯年収が1,500万円(税込み)以上の家庭」 として調査を行った。また、比較対象として、平均的な子育て層(以下、一般層)(※3)を「既婚、子あり、世帯年収600万円~900万円(税込み)、夫婦の働き方はフルタイム/パート/無職を問わない家庭 」と定義した。調査対象は共に20歳~59歳男女を対象とした。
❶パワーファミリーの姿
まずは、パワーファミリー(パワー層)と一般層は、年齢や、住居/エリア、子供人数といった属性情報がどのように異なっているのかを確認してみたい。
パワー層の平均年齢は47.8歳、一般層は46.5歳であり、ほぼ変わらない。
子供の平均人数に関しても、パワー層は1.87人、一般層は1.90人であり、こちらもほぼ変わらなかった。
住居形態では、持ち家率がパワー層で87.2%、一般層で77.1%であり、パワー層の持ち家率が10.1ポイント高い。また、パワー層は持ち家でも新築 集合住宅(マンション等)に居住する人が24.1%おり、一般層と比較して15.5ポイント高い結果となった。
パワー層と一般層で特に大きな差が出たのは居住エリアである。(図表1)
パワー層の57.5%が一都三県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)に集中して居住していることが分かる。一都三県では、夫婦がフルタイムで働ける企業の環境や高収入の仕事が集まっていることが背景にあるのではないか、また前出のパワー層が持ち家集合住宅(マンション等)に多く住んでいることも、説明がつく。
図表1
❷パワーファミリーの働き方と家事分担
次に働き方を比べてみた。場所や時間といった、働く環境に大きく影響を与えるリモートワークに注目にしてみると、パワー層は、夫婦いずれかがリモートワークをしている人が51.2%、夫婦共にリモートワークをしている人 は30.3%であった。(いずれも月1回以上)
一方、一般層では、夫婦いずれかがリモートワークしている人(月1回以上)は、15.5%であり、夫婦共にリモートワークしている人は、2.8%であった。パワー層と、一般層間で、働き方に大きな差が見られた。(図表2)
パワー層は在宅時間が長くなるため、住まいで快適に過ごせる(仕事ができる)ように、住まいの使い勝手を高めるための工夫をしていると考えられる。
図表2
働き方の異なるパワー層、一般層では、夫婦間の家事分担はどのようになっているのだろうか。平日の家事分担実態を比較した(図表3)。年代別に見ると若年寄りの20歳~39歳のパワー層では、平日、妻が70%以上家事をしているケースは54.7%であるが、一般層では83.3%であり、28.6ポイントの差が見られた。40~59歳においても18.3ポイントの差が見られており、パワー層が夫婦で協力しながら家事を行っている姿が確認できた。
図表3
休日で同様に見てみると、20歳~39歳のパワー層では、妻が70%以上家事をしているケースは34.0%に下がり、一般層との差は31.4ポイントと広がっていた。休日は、よりパワー層夫婦の協力が進んでいることが分かる。
特に若年層で、パワー層の夫の家事参加率が高いことから、夫婦で使いやすい高さのキッチンなど、夫(男性)にも使い勝手の良い 、男性目線の家電やサービスの商品化が考えられそうだ。
❸パワーファミリーのお金と時間の使い方
前章にてパワー層は、夫婦が協力して家事を行っている実態が見えた。では具体的に、どのような商品を所有し、どのようなサービスを利用して生活しているのか、お金のかけどころを見て行きたい。
パワー層と一般層の間で保有率の差が顕著なのは、「ロボット掃除機(23.9ポイント差)」、「ドラム式洗濯乾燥機(21.2ポイント差)」、「食器洗い乾燥機(21.1ポイント差)」であった。(図表4)
夫婦がフルタイムで働き子育てを行うパワー層では家事を効率化できる(タイパにつながる)商品を所有していることが多いことが分かる。
図表4
さらに、パワー層が今後欲しい商品/サービスを聞くと、「ロボット掃除機」8.8%、「自動掃除機能付きトイレ」7.9%、「自動掃除機能付き浴槽」6.7%、「電気調理鍋」6.4%といった省力化/自動化ができる商品や、「掃除代行」7.6%、「家事代行」5.8%といった代行サービスが選ばれていた。家事の負担や時間をさらに短縮できる商品やサービスが望まれていることがわかる。 また、「マッサージ機」7.5%、「美容家電」6.1%など、疲れを取ったりリラックスできるような商品も見られた。(図表5)
図表5
次に、3日以上の休みができた時に、パワー層はどのような休暇を過ごしているのか、時間の使い方について調べてみた。
パワー層は 、1位「家族と出かける」75.6%、2位「国内旅行」72.9%、3位「ショッピング」53.2%の順で行動をしている。一般層も1位、2位の行動は変わらないが、3位に「寝る」(47.1%)が挙がっていたのが特徴的であった。
一般層との行動の差を表したのが、図表6である。差が大きい順に、「国内旅行(23.3ポイント差)」、「海外旅行(21.0ポイント差)」、「温泉/温浴施設(19.8ポイント差)」、「マッサージ(14.7ポイント差)」、「美容・エステ(14.0ポイント差)」と続く。
図表6
一方、今後3日以上の休みができたら行いたいことは、パワー層の女性20歳~39歳では「海外旅行」33.2%、「趣味に没頭する」18.9%、「美容・エステ」14.8%、「コンサートライブに行く」14.6%、「資格取得に向けてのスキルアップ」13.6%が上がり、自分磨きや趣味等、“推し活”などアクティブな行動が上位に挙がった。(図表7)
図表7
パワー層は一般層と比較し休暇時もアクティブな行動が見え、レジャー、サービス分野においても支出額が多いことが読み取れる。
❹パワーファミリーのお金事情
最後にパワー層と、一般層のお金事情に関して比較してみた。
パワー層の1か月の生活費(税込み)平均は44.7万円、一般層は25.6万円であり19.1万円の開きがある。(図表8)
図表8
また、パワー層が1か月に自由に使える個人のお金(税込み)平均は18.4万円、一般層は8.2万円であった。こちらも10.2万円の開きがある。
パワー層は生活費が1.7倍多く、自由に使える個人のお金も2.2倍多い。この差が豊かな購買力に繋がっているようだ。
貯蓄に関しては、パワー層の収入に対する 貯蓄割合は26.0%、一般層は14.4%であり両者に11.6ポイントの差があった。
貯蓄目的を調べると、パワー層と一般層の差が大きかったのは「資産運用や投資のための資金(18.1ポイント差)」、「旅行のための資金(11.6ポイント差)」、「老後の資金(9.6ポイント差)」であり、逆に一般層の回答比率が高かったのは、「生活のための資金(生活費の補填用)(▲8.5ポイント差)」、「子どもの教育資金(▲5.2ポイント差)」であった。(図表9)
パワー層では投資や娯楽を目的とした貯蓄、一般層では生活や教育に掛かる資金のために貯蓄をしている姿が見える。
図表9
❺まとめ
今回のパワーファミリーの調査を振り返ると、パワー層は世帯年収も高いことから購買力が高く、豊かな世帯年収の背景となっているフルタイムの共働きでもあることから家事や育児について、夫婦が力を合わせて懸命に対応している姿が見て取れる。そのために、家事を効率化するロボット掃除機をはじめとした家電やサービスを積極的に取り入れている。そして、普段は忙しいためか休日に関しても家族でアクティブに過ごしている姿が見られた。
かれらの多忙ゆえに時短や効率化を求め、一方で生まれた余暇時間をアクティブに過ごす生活から「お困りごと」や「ニーズ」を発見し、企業が技術力や商品力、サービス力で解決することにより、これからの時代にマッチした先進的な商品やサービスが産み出されて行くと考えられる。
また、パワー層ほどの世帯年収はなくとも、現在では共働きの家庭が増え、夫婦による家事分担も当たり前化しつつある中、家事や育児の時短や効率化は一般的な「お困りごと」や「ニーズ」でもあり、パワー層への着目とその対策はこれからの潮流をも捉えることにつながると考える。
日本だけでなく、これから成熟期を迎えるASEAN(東南アジア諸国連合)等でも共通の「お困りごと」や、「ニーズ」があるはずであり、日本発の商品やサービスが、グローバル各国でも先導できるのはないか。パワーファミリーにスポットを当て、「お困りごと」を解決する商品やサービスを創出して行くことが今後の日本企業の戦略につながるのではないだろうか。
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日経ビジネス 2024年4月29日・5月6日号
※1 国立社会保障・人口問題研究所 「第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)2015年」
※2 内閣府 「男女共同参画白書 令和5年版」
※3 厚生労働省 子育て層の平均世帯年収(785万円)「国民生活基礎調査(2022年)」
調査概要
調査地域:日本全国
対象者条件:20~59歳男女個人
標本抽出方法:マイティモニターより適格者を抽出
標本サイズ:合計n=882 パワー層n=404 一般層n=478
ウエイトバック集計:あり※
※性年代構成比を、2020年度実施国勢調査データをベースに、人口動態などを加味した2024年度の構成比にあわせてウエイトバック
調査実施時期: 2024年9月6日(金)~2024年9月10日(火)
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