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反応時間計測で生活者の本音に迫る

近年、生活者の本音に近い「直感的反応」の効果的な計測を目的に、様々なアンケート手法が活用され始めています。「アンケート回答の反応時間」(回答者が設問を見てから、その設問に回答完了するまでの時間)の計測も、その手法のひとつです。
本記事では、この「反応時間」をテーマに、関連する理論や、マーケティングリサーチへの活用の可能性についてご紹介します。

直感的反応、反応時間計測が注目される理論的背景

まず、調査において直感的反応を測る重要性や、その計測手法として反応時間計測が注目される背景について、主に人の思考に関わる理論を中心にご紹介します。

・「二重プロセスモデル」の2つの思考モード

マーケティング研究の分野では、「人は商品の購入前に、常に合理的判断をするわけではなく、潜在意識や直感的反応に基づき、深く考えず購入する」という考えがあります。その考えを裏付ける理論のひとつが「二重プロセスモデル (Dual-process model) 」です。これは人間の思考モードをSystem1とSystem2の2つに分けて捉える、心理学・行動経済学などで研究が進んでいる理論です。
2つの思考モードの大まかな特徴は、System1が「速く、自動的・直感的な思考モード」、System2が「遅く、熟慮を要する、意識的な思考モード」とされています。
この理論によると、人が情報を受け取った時、2つの思考モードは均等には働かず、以下の図のように、まずSystem1で「直感的・自動的」に判断し、その判断をsystem2で熟慮・修正することで最終判断を下します。

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しかし、多くの場合、System1の直感的な判断内容はSystem2の「熟慮」思考モードで修正されることはなく、最初の直感的判断がそのまま最終判断になるといわれています。
それは、System2が、思考のきっかけがあったり、十分に考えないと結論が出ない問題に直面するなど、意識的な思考が必要な状況でない限り作用しないことによるものです。「日常的な商品購入」などの場面では、人は情報を受け取っても深く考えず、System1の直感的反応に基づき判断することが多いようです。
System1の直感的判断こそが人の「本音」であるケースが多い、とも言い換えられるでしょう。

・二重プロセスモデルと「考えさせる」アンケート調査の課題

このように、人は多くの場面で、この二重プロセスモデルのSystem1優位の思考や判断を行っているため、アンケート調査の場面においても、質問に回答してもらうだけでは、必ずしも回答者の本音が分かるとは限らない、という問題が発生してきます。
例えば、以下の図のように、生活者がアンケート設問を見て、最初にSystem1で直感的に回答を思い浮かべても、多くのアンケート設問の問いかけは、System2を働かせる「考えさせる」形式のため、回答者によっては、その後「この選択肢の方が望ましいのでは」、「最初に思いついた回答では恥ずかしい」などとSystem2で熟慮し、結果として、当初直感的に思い浮かんだ「本音の回答」を訂正して最終回答をするかもしれません。

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また、冒頭で述べたように、「生活者は商品購入前に、直感的反応を優先し、深く考えずに購入している」のだとすれば、System1の直感的反応の理解は、より正確な生活者の購買意識に迫るためにも必要といえるでしょう。

・直感的反応の計測手段としての、反応時間の有効性

このように、「生活者はSystem1の直感的反応で多くの物事を判断しているかもしれないが、System2で「考えさせる」要素の多い調査形式を取ると、その直感的反応を計測できない可能性がある」という問題意識から、アンケート調査においても直感的反応を計測する方法が検討されています。
その有力な選択肢の1つとされているのが、冒頭で述べた「アンケート回答の反応時間」です。理由としては、System1の直感的反応がそもそも素早い思考モードであるという点に加え、心理学やマーケティング分野で、人が記憶を保存・想起するメカニズムと反応時間の関連についても研究が進んでいるためです。

例えば、Mulligan&Mockabee (2003) らは、アンケートと回答反応時間の関係について、「反応時間の測定で明らかになるのは、質問(刺激)と記憶の中の回答の結びつきの強さ」と述べています。
すなわち、アンケート設問に対する回答反応時間が短いほど(速く回答するほど)、選んだ回答に対して、時間をかけず容易に思い出せるような強い印象を持っているといえます。
もちろん、一番上の選択肢だけを機械的に選び続けるなど、いい加減に高速で回答している場合は別なので、そういったデータは除外する必要がありますが、まじめな回答の場合、速い反応速度の回答は、回答者の直感的反応・本音を表す可能性は高いといえるでしょう。

また、直感的反応の計測に反応時間を用いるメリットとして、実査時の手軽さがあります。反応時間以外の直感的反応の計測方法には、アイトラッキング(視線計測)や、脳波計による生体反応の計測といった手段も存在しますが、優れた点もある一方で、専用機材による計測が必要なため、調査場所の制約や調査の運用負荷の高さなどの課題もあります。この点、反応時間は、調査配信システムの機能により取得可能であり、回答者から見れば通常のインターネット調査と変わりないため、調査実施者、調査回答者ともに大きな負担なく取得が可能、というメリットがあります。

反応時間計測の有効性検証事例

前節では、生活者のSystem1の直感的反応を計測する意義、直感的反応の計測手法としての反応時間の有効性について見てきました。しかし、理論上有効だとして、実際にアンケート回答の反応時間は、回答者の実際の行動と深い関連があるのでしょうか。その検証例として、弊社で今年行った自主企画調査について簡単にご紹介します。

・調査概要と結果

実験調査では、事前調査として国内で発売されたばかりの飲料新商品の購入意向(5段階評価)を回答反応時間とともに取得し、1か月後、実際にその商品が事前調査の回答者に購入されたかを再度調査しました。

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事前調査では、できるだけ回答時の条件を揃えるため、はじめに「画像表示ボタン」を表示し、ボタンを押して新商品画像が表示されてから購入意向の選択肢を選び終わるまでの時間を反応時間として計測しました。
また、年齢や回答端末などの条件により、対象者一人一人の回答反応速度は異なるため、購入意向を聴取する事前調査では、個人ごとの回答速度の差を補正するための設問を別途用意し、この設問の回答反応時間も計測しました。

2つの調査実施後、事前調査の回答反応速度を補正したうえで、反応時間の速い順にサンプルを10グループに分類し、事前調査の購入意向とその後の実際の購入率の関係を分析しました。

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その結果、以下のグラフのように、商品購入意向の設問(5段階評価)でTOP1またはTOP2 回答者(購入したいと答えた)は、「反応時間が速いほど、その後の実際の商品購入率も高い」傾向があることが明らかになりました。

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もちろん、購入意向者がその後100%購入するとは限らず、すべてのカテゴリーの商品購入時に同様の傾向が見られるとも言い切れませんが、購入意向設問の回答の反応速度が、実際の購入意向の強さと深い関連がある可能性が高いことが見てとれる結果といえるでしょう。

反応時間計測のマーケティングリサーチでの活用可能性

直感的反応を測るための反応時間計測の有効性について、理論と実験調査の結果をそれぞれ見てきました。最後に、ここまでの内容を踏まえ、反応時間計測のマーケティングリサーチでの活用場面や、実査時の主な注意点をご紹介して結びとします。

・反応時間のマーケティングリサーチ活用が期待される場面

反応時間計測は、ここまで紹介してきたように、熟考を要する調査ではなく、特にSystem1の直感的判断が優位に働きやすい、回答者がぱっと見で判断できるような状況設定の調査で有効に活用できる可能性が高いと考えられます。前述の実験調査で紹介した、安価な新商品の購入意向調査のほか、以下のようなシーンなどです。

  • パッケージ案同士の比較
  • 精読を必要としない短文のキャッチコピーの評価
  • ブランド認知、ブランドとイメージ選択肢の結びつきの評価などのブランド評価

弊社では、前述の実証実験結果をベースに、購入意向質問(5段階評価)の結果に反応時間を加味して算出するオリジナル指標「購入意向反応スコア(反応スコア)」を開発しました。こちらの指標は、新商品などの購入意向評価の新しい判断指標として活用頂くことが可能です。

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・反応時間のマーケティングリサーチ活用における主な注意点

一方、反応時間の計測も万能ではないため、実施に当たっては、以下のような注意点があります。
まず、調査設計時には、設問文や選択肢をSystem2が優位になる「考えさせる」表現や質問形式にしないことが重要です。例えば、設問文を短めにする、選択肢をマルチアンサーの複雑な選択肢にせず、シングルアンサーの購入意向5段階評価や2択(買いたい、買いたくない)などに設定するといった、回答者が直感的に回答しやすくなる工夫が必要です。
また、個人ごとの回答速度は年代や回答デバイスにより異なるため、前述の自主企画調査の項でご紹介したように、個人ごとの回答速度を補正する工夫も必要となります。

次に、System2で「熟慮」してほしい内容の調査など、そもそも、反応時間計測が適さない目的の調査もあります。例えば、住宅や自動車のような、現実でも購入時に「熟慮」を必要とするであろう、高額商品の購入意向を聞く場合や、過去の経験を思い出してもらう場合などのしっかり考えて答えてほしい設問には、反応時間計測はあまり適していません。

・最後に

ここまで見てきたように、反応速度の計測は、積み重ねられた理論的背景や前述のような実験調査結果により、一定の信頼度が期待できます。更に、生活者の直感的反応が比較的容易に把握できることからも、今後の更なる活用や発展が期待される手法といえるでしょう。


※今回ご紹介した自主企画調査の概要は以下の通りです。
【自主企画調査】

  • 事前調査 調査仕様 調査手法:インターネット調査
    抽出パネル:インテージネットモニター
    調査地域:日本全国
    対象者条件:20~59歳 男女
    実施期間:2021年2月17日~2月19日
    回収数:2,071サンプル
  • 事後調査 調査仕様 調査手法:インターネット調査
    抽出パネル:インテージネットモニター
    対象者条件:事前調査 回答完了者
    実施期間:2021年3月17日~3月19日
    回収数:1,542サンプル

この記事の関連ソリューション

【レスポンス・レイテンシー調査】 ネットリサーチの回答反応時間の計測により、従来の調査では把握が難しかった、生活者の直感的反応を捉える調査です。

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