arrow-leftarrow-rightarrow-smallarrow-topblankclosedownloadeventfbfilehamberger-lineicon_crownicon_lighticon_noteindex-title-newindex-title-rankingmailmessagepickupreport-bannerreportsearchtimetw

産学連携生活者研究プロジェクトで生活者理解を深める①
~求められる新しいアプロ―チ~

マーケティングに欠かせない生活者理解。変わり続ける生活者に、多くの企業が共通の課題を感じながら、それぞれに対応を迫られています。この課題解決に向けてインテージ 生活者研究センターが中心になって部署およびグループ横断で取り組んでいる「産学連携生活者研究プロジェクト」について、4回に分けてお伝えします。第1回は生活者研究センター所長の田中宏昌が取り組みに至った経緯を振り返ります。

1. はじめに ~Z世代から「これから」を遠望する~

振り返ると「インテージ 生活者研究センター」が産声を上げたのは2020年7月のことでした。その年の1月以降、新型コロナが瞬く間に世界を覆いつくし、「さて、生活者研究を」などとどっしり構えたこともできなくなりました。そのため、生活者研究センターの志でもある「生活者理解・生活者起点」に徹し、コロナインパクトで揺れる生活者の意識や行動を自主調査(Withコロナ定点調査)や自社データを用いながら、調査・分析を行い、本メディア(知るギャラリー)などを中心に世の中に向けて発信を続けてきました。
半年くらいするといくつかの企業から「コロナ下の生活者の意識や暮らしの変化について話を聴かせてほしい」といった声をかけていただくことが目立ってきました。そして、日を追うごとに、その視点は「現在」から「今後」に向かっていきました。また、興味深いことにコロナインパクトが長びくにつれ、関心は「自社カテゴリー」から「カテゴリーを取り巻く生活者の体験」にまで拡がっていきました。

「食べること」を例にとれば、イエナカ時間の増加は家族との食卓機会を増やしました。食卓機会の増加は「冷凍食品」の登場機会の増加につながりました。あるいは男性や子どもの調理機会の増加もその背景にあったでしょう。さらにはコロナ以前から確認されていた「夫婦共働きの当たり前化による家事時間の合理化(簡便・時短)」という潮流も「冷凍食品」の成長を後押ししていたはずです。このようにコロナ下で変化する暮らしそのものをじっくりと俯瞰することによって、そこに芽生えた、あるいは芽生える新しい日常、「これから」における自社の商品・サービスを幅広い視野で捉えたくなったのではないでしょうか。

【事例紹介:知るギャラリー 生活者研究センターコラム】
With コロナ 「新しい日常」は行きつ戻りつ

また、もうひとつ強く記憶に残っているのは、お客様との対話の中で、「Withコロナ/After コロナ」やそれに連なる「健康」や「SDGs(社会貢献)」といった言葉のほかに「Z世代」という言葉が実に多く表出していたことです。みな「Z世代」の中に「これから(未来)」を探しているのではないか、そう感じました。

「Z世代研究」については、インテージグループでZ世代リサーチ研究分科会(1)を立ち上げ、Z世代さらにはアルファ世代といった“テックネイティブ”の情報接触・価値観・消費行動を明らかにするための研究を進めていました。加えて、ブランドマネジメント・マーケティング戦略を専門とし、若者研究の知見を有している産業能率大学の小々馬敦先生(2)との共同研究という力強い立て付けもすでに備わっていました。

そのため、お客様にこれまでの研究成果の中からトピックスをいくつか紹介するとともに、「企業と大学・学生(Z世代)が集まり、企業課題や社会課題を共に研究する産学連携生活者研究プロジェクト」という同じタイミングで検討を重ねていたプロジェクトの構想をお話しながら、期待されている形を探っていきました。と同時にそうした取り組み、プロジェクトが帯びる可能性のようなものも感じていました。

2. 新しいアプローチのために ~オープンフラットという「哲学」

私は、日々お客様から寄せられる「期待」や「可能性」を持ち帰り、研究チームメンバーにシェアするとともに検討を重ね、以下の様にプロジェクトの骨格を準備していきました。

・類似するマーケティング課題を持つ企業を業界・業種を問わず集める。
 異業種であればなお良し。
・マーケティングを学ぶ大学生(Z世代!)を集める。
 エリア特性を考慮し大学も広く全国に集う。
・研究者や有識者の知識や実務者の実務的な知識や経験から得られる「学び」を織り込む。
・参加企業、大学・学生はオープンフラットな関係を構築し、「創発・共創の舞台」として活動する。

特に4番目の「オープンフラットな関係を構築し、創発・共創の舞台」は本活動の「哲学」として大事にしていました。

【資料:産学連携生活者研究プロジェクト 大切にしたいこと 総括資料より】
【資料:産学連携生活者研究プロジェクト 大切にしたいこと 総括資料より】

そして、メンバーとともに、いくつかの企業、そして大学を巡り、「産学連携生活者研究プロジェクト」への参画を請い、9つの企業、6つの大学という当初の想像を超える多くの賛同の声をいただき、2022年の秋、ゆっくりと始動することになりました。

プロジェクトの概要は以下の通りです。

・全体会合は4回(2ヵ月に1回程度)。うち、研究者や有識者、実務家の講演会を1回開催。
・Z世代理解に資する大規模な定量調査を実施。企画はインテージ担当パートが半分。
 各社5問のオリジナル枠を担当。集計・分析結果は参加社で共有(原則)。
・期間中、「企業×大学(1on1)」のワークセッション(1回2~3時間程度)を2回開催。
 テーマは各社オリジナルで設計し、本会で共有の必要はない。

【資料:産学連携生活者研究プロジェクト実施概要 企画書より】
【資料:産学連携生活者研究プロジェクト実施概要 企画書より】

ここで、2022年3月までの「第1クール」を終えて、「産学連携生活者研究プロジェクト」のポイントを振り返ってみると、以下の2点にまとめることができると考えています。

 異業種を含めた複数の企業が集まり、共通するマーケティング課題の探求に取り組むことにより、他社の発言や他社とのディスカッションを通じて、通常、自社内で検討していた以上の仮説や発見を得られる機会がある。(未知の刺激効果)
 実験調査的でない環境における当事者(Z世代)の発言や会話の中に、より「本音らしい言葉」が垣間見える。
※本プロジェクトのワークショップの多くは「ゼミ単位」であり、「友人・知人」という距離感が飾らない発話を導いている。また、参加企業がワークショップの前後に行う「事業紹介および課題の紹介」や「フィードバック」が常に誠実なものであることが、学生のみなさんにとって深い学びへとつながるとともに、誠実な「声」を企業に届けたくなるトリガーになっていると考えられる。
(発言の安全性担保/後付けの合理性の排除/社会的欲求/貢献感)

「生活者の多様化」、「マスマーケティングの消滅」、さらには多くのカテゴリーで囁かれる「ヒット&新しい定番商品の不在」など、企業活動を取り巻く環境には課題が山積し、日々、複雑性を増しています。また、デジタルの進化は、スマートフォンやSNS、昨今では「メタバース」などの新しいサービスの登場とも相まって、次々と新しい「Digital Experience」を生み出しています。そのような「Technology(TEC)」が創出する世界に産湯に漬かるが如くどっぷりと浸って泳ぎを身に着けてきた、Z世代やアルファ世代といった「テックネイティブ」な世代。

かれらの生態をドキュメンタリー風に語るとすれば、
「スマホはもはやかれらの感覚(センサー)として身体化している。スマホを通じて新しく刺激的な情報が途切れることなく飛び込んでくる。そして、感覚器の中で脳への刺激が最も早く届けられる「視覚(目)」を通じて、「いる・いらない」が瞬時に選別されるのだ。「いる=お気に入り♡」に残れなかった情報はかれらの外部記憶装置のスマホから永久にデリートされる。」
そんな感じでしょう。

スマホという新しい感覚器や記憶装置を手に入れ、従来世代とはまったく異なる情報の受発信行動を獲得し、新しい価値観を内在させるかれらに向かって新しい商品・サービスを届ける、あるいは、新しいコミュニケーションを通じて、新しい関係性(体験)を創造するためには、リアリティのある形でかれら自身に肉薄するための「新しいアプローチ」が求められている。そう感じています。

3. まとめ ~産学連携でミライを遠望する

新しいアプローチは我々にとってかれらを理解するための「新しいフィールド」の獲得なのかもしれません。「フィールド」を「舞台」と言い換えてもよいでしょう。また、新しい「舞台」で発話される言葉を聴き洩らさない「センサー」の獲得や、キャッチした言葉を正しく翻訳する翻訳辞書のアップデートも必要になるのだと考えています。

それらの試みはマーケティング・リサーチの、さらには、マーケティングのアップデートに繋がるのだと考えています。そして、もちろん我々自身の。

そうしたアップデートを「ミライを遠望するため」と捉えると夏休みの冒険の始まりのようでワクワクしてきます。知るギャラリーでは、この「産学連携生活者研究プロジェクト(第1クール)」という足跡をこのあと3回にわたってお伝えしていきます。 本コラムを通じて、企業、大学・学生が強い志のもと一体となって取り組んだ冒険の一片でもお届けすることができたら、と思います。そして、ぜひ、いつかこの旅程を一緒に!と願っています。

最後に「産学連携生活者研究プロジェクト(第1クール)」に参画いただきました企業、大学・学生、実務家のみなさまに心からの感謝をお伝えいたします。本当にありがとうございました。
本コラムシリーズがみなさまの振り返りとして、そして、新たな気づきのきっかけとして、少しでもお役に立てましたら幸いです。


(1)【Z世代リサーチ研究分科会】
インテージグループR&Dセンターの分科会の一つ。マーケティング活動に資するZ世代の特性を理解し、グループの事業発展に繋がるZ世代の調査法・調査結果の活用法の確立を目指しています。これまでさまざまな形でZ世代にまつわるプロジェクトに関わったメンバーが集まり、社内外の知見の収集や自主調査の実施など精力的に活動を始めています。
(2)【小々馬敦先生】
産業能率大学経営学部マーケティング学科教授。ゼミの取り組みでは「Z世代の生活価値観」からマーケティングのニューノーマルを探究することを行っています。2015年から若者の価値観変容を追跡調査し、日本マーケティング協会と学生と社会人の対話「ミライ・マーケティング研究会」を開催するなど、精力的に若者のリアルについて研究されています。

転載・引用について

◆本レポートの著作権は、株式会社インテージが保有します。
 下記の禁止事項・注意点を確認の上、転載・引用の際は出典を明記ください 。
「出典:インテージ 「知るギャラリー」●年●月●日公開記事」

◆禁止事項:
・内容の一部または全部の改変
・内容の一部または全部の販売・出版
・公序良俗に反する利用や違法行為につながる利用
・企業・商品・サービスの宣伝・販促を目的としたパネルデータ(*)の転載・引用
(*パネルデータ:「SRI+」「SCI」「SLI」「キッチンダイアリー」「Car-kit」「MAT-kit」「Media Gauge」「i-SSP」など)

◆その他注意点:
・本レポートを利用することにより生じたいかなるトラブル、損失、損害等について、当社は一切の責任を負いません
・この利用ルールは、著作権法上認められている引用などの利用について、制限するものではありません

◆転載・引用についてのお問い合わせはこちら