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産学連携生活者研究プロジェクトで生活者理解を深める③ ~大学生とのPBL(Project Based Learning) で仮説を探索

インテージ 生活者研究センターが中心になって部署およびグループ横断で取り組んでいる「産学連携生活者研究プロジェクト」について、4回に分けてお届けしているこのシリーズ。第3回は、生活者研究センターの小林 春佳が、今回テーマとした「Z世代」ご本人たちを交えた取り組み「ゼミディスカッション」を振り返ります。

1.Z世代を知るために私たちが取り組んだこと

「若者(10代~20代)をリサーチ対象として、次世代のマーケティングを考える」というテーマを掲げた今回の取り組み。このプロジェクトを始動するにあたって、「真に」Z世代を知るために私たちはどのような取り組みができるのかを考えました。

Z世代を対象としたアンケート調査やZ世代をリクルーティングしたインタビュー調査は、マーケティングリサーチとして正しい方法ではあるものの、Z世代の傾向として「失敗回避傾向」や「多様性を尊重する傾向」があることから、グループインタビューなどでは、個人の真の意見や感想を得ることが難しく感じることがあります。

学校の行き帰りやカフェでお茶をしているとき、あるいはテーマパークのアトラクションの待ち列で友達と話しているあのトーンの会話から出てくる情報を引き出すにはどうしたら良いのでしょうか。通常の調査のように “個”で回答することで見えてくるものもある一方で、“集団”だから見えてくるものもあるのではないでしょうか。
そこで私たちは、私たち自らがZ世代のフィールドでコミュニケーションすることを試みることにしました。

2.PBL(Project Based Learning)を活用したゼミディスカッション

文部科学省が進める「アクティブ・ラーニング」の教育方法のひとつとして問題解決型学習(PBL)が注目されています。学生自らが主体的・協働的に問題を発見し、解決する能力を養うことを目的として、教育機関で取り入れられています。

私たちは、このPBLを活用しました。まず、プロジェクトに参加いただいている大学のゼミと企業を結びつけ、実際に企業で抱えている課題を学生へ提示してもらいます。それを受けて学生自らが課題を深堀して注力すべき要因を発見し、解決策を検討するディスカッションを行います。企業側の課題が大きすぎて、フォーカスを絞ったり、企業の課題を問い直すディスカッションもあれば、企業の製品を実際に使用しての自らの態度変容をベースとして課題解決案を検討するなど、型にはまらず、柔軟なディスカッションが行われました。

この取り組みは、参加する企業が情報を得られるだけでなく、学生にとっての学びの提供を大切にしているため、ゼミにとっても、学生がタイムリーなビジネス課題に触れる機会や学生の就職活動に繋がる経験にでき、産学相互にメリットを醸成できていると感じています。

本プロジェクトでは、今まで約30回の企業様と大学機関でディスカッションを実施しました。ディスカッションのテーマや参加する学生さんの立場から、ディスカッションのタイプは下図の4象限に分類することができます。個社の課題をタイプに当てはめることによって、適切かつ柔軟なディスカッションを組むことができます。

3.若者のテレビ離れを具体的な日常の行動から把握

取り組みの一例を紹介します。NHK文化放送研究所と明治学院大学経済学部 中野暁ゼミにて「若者のテレビ離れ」をテーマにゼミディスカッションを行いました。

ここで提示された課題は、20代のテレビ視聴率の低迷や有料動画コンテンツサービスの拡大、そしてスマホ利用時間の増加です。
Z世代のテレビとの距離感を知り、未来のテレビに求めることを議論する2日間のディスカッションを実施しました。

1日目は「Z世代がテレビやテレビコンテンツにどのように触れているか」というテーマで、個人の普段のメディア接触の状況、その中でもテレビとの触れ方を付箋に記入して張り出し、類型化や理由・意図を加えながら、グループごとに深堀していきました。中学・高校入学に際し、塾や部活で生活が変わり、テレビとの距離が遠くなった学生もいた一方で、家族とテレビを観る習慣があったり、テレビ番組配信サービスでお気に入りのテレビ番組をスマホで観るなど、テレビコンテンツに興味のある学生も存在し、いわゆる「テレビ離れ」のリアルな姿が見えました。

2日目は「未来のテレビにどんな存在でいてほしいか」というテーマで、2チームに分かれ、学生自身の考えをまとめてもらいました。2チームからは、それぞれ「ストレスフリーな存在になってほしい」「謙虚になってほしい」という率直な提案が挙がりました。
「ストレスフリー」の提案は、「チャンネルによってコンテンツを統一して欲しい」「決まった場所で観なければいけない(のが嫌)」といった、テレビ媒体に対する不満からのメッセージでした。もう一方のグループでは、「かつてのテレビしかない時代のまま進化が見られない」「エンタメが十分充実しているのに、観てもらおうという努力が足りない」などの理由から「謙虚に」というメッセージが生まれました。
いずれも、Z世代が好んで触れている動画配信サービスなどのネットサービスやコンテンツに求めているものがテレビに不足している、ということを浮き彫りにさせたディスカッションでした。

4.ゼミディスカッションを振り返って

今回のアプローチに関する気づきを、企業、大学、そしてディスカッションのコーディネートからファシリテートまで、企業と大学を繋いだインテージの担当者、それぞれの立場から振り返ってもらいました。

NHK放送文化研究所 保高 隆之 様

NHK放送文化研究所(文研)はメディアの歴史から海外の事情、世論、言葉の用法までを総合的に研究し、より豊かな放送文化の創造を目指しています。
特に世論調査の実施・分析では実績がありますが、今回のワークショップは数値を超えた生活者のリアルな姿、中でも「テレビ離れ」が進む若者の本音を知りたいと参加しました。学生の皆さんに最初にお願いしたのは「忖度なく」「解説者にならず自分事を語って欲しい」の2点。事務局の皆様の流麗なリードもあり、学生たちはテレビとの今の関係から、将来のテレビに求めることまでリラックスして語ってくれました。心配は全くの杞憂となり、最後は「テレビはもっと謙虚に」という忖度一切なしの辛口エールが教室に響きました。
成果はNHK文研フォーラムや局内の勉強会で広く共有、多くのメディア関係者に説得力をもった生の声を届けることができ、我々にとっても貴重な学びの場になりました。

明治学院大学 経済学部 中野 暁 先生

一般的な定量調査やモニター参加型の定性調査ではなかなか引き出せない、学生の『リアル』な声が聴けたように思います。ポイントは、学生にとって日常生活の延長線上にあること。友人同士がいる中で、リラックスして本音で話せたようです。Z世代の学生たちは、授業で接していても非常に真面目な子たちが多い印象で、ともすると、社会的に望ましい回答をしがちです。そのため、Z世代の『リアル』を引き出すためには、通常の調査以上に雰囲気作りが重要のように感じています。
今回、彼らに上手く棲み込み、傾聴したインテージさんとNHKさんの技術を拝見して、普段は定量的なデータ解析が中心の私にとっても、大変勉強になる機会となりました。

インテージ 生活者情報グループ 新保 佳奈

20代後半の私としては、共感の多いセッションでした。
未来のテレビに対し投げかけられた「謙虚に、ストレスフリーに」という言葉は印象的でした。「媒体や制作会社はあまり気にしていなくて、良いコンテンツであれば観る」といった学生の発言があったり、「チャンネルを変えるのが面倒」「時間が合わない」といった視聴環境への意見も多かったことから、個人的には、「好きなコンテンツを好きなように観たい(のに寄り添ってくれない/ストレスがある)」というシンプルな思いかもしれないと感じました。
また、「実家からテレビが消えたら?」という質問に悩む(無くなるさみしさを想像する)学生の姿や、「テレビが家族との空気・話題を作る」という意見の多さから、人との関係(社会)を支える「媒体としてのテレビ」の特徴が見えてきて、ここに個人の興味を重視するだけの動画サービスとの差になっていると気づきました。


「テレビはもっと謙虚に」や「寄り添ってくれない」という学生からの言葉は、1on1のインタビューで発言することは勇気がいるかもしれません。普段の慣れ親しんだメンバーと保高さんからの「忖度なく」「解説者にならず自分事を語って欲しい」という心理的な安全が確保された環境だからこその発言だったと感じました。この結果は、テレビ離れを紐解く「仮説」の一つです。今後さらなる調査・考察に進めていくことで「真に」Z世代を知ることができるのではないでしょうか。

5.最後に

私達のマーケティングリサーチは、バイアスを避けるために設計されることが一般的ですが、今回のアプローチは、あえてラポールが形成された集団を選び、その集団とのコミュニケーションから生まれる自然な会話や意見から仮説探索を試みました。この後、ディスカッションの情報を基にした仮説検証が必要となりますが、通常の定性調査とは、少し異なるZ世代の「本当のところ」に一歩近づいた仮説が得られたのではないかと感じました。このようなアプローチは、まだ始めたばかりですので、今後の調査への活用も検討しつつ、引き続き、参加企業・ゼミの皆様と生活者理解を深めていきたいです。


【参考文献】
文部科学省『新しい学習指導要領の考え方-中央教育審議会における議論から改訂そして実施へ-』

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