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サステナブルセグメントから見る環境意識と行動
~自動車の場合~

※この記事は、日刊自動車新聞の“インテージ生活者インサイト”コーナーにインテージのアナリスト三浦太郎と秋谷祐二が寄稿した連載を再構成したものです。

サステナブル行動をとる消費者はすでにマジョリティー

2050年のカーボンニュートラルの実現に向け、世界的な脱炭素ブームメントが起こる中で、自動車メーカー各社は脱炭素の取り組みを進めています。各社とも、環境重視の姿勢から、電気自動車をはじめとしたエコカーの開発・販売の計画を打ち出しています。 しかし、今現在の自動車メーカー各社のTVCMは、企業イメージのCMを除いては個々の自動車の「環境性能」を真正面からアピールしているものはほとんどありません。これは、消費者は自動車購入において自身へのメリットが重要で、環境性能では自動車を選択しない、という従来からの考えが根底にあるからだと考えられます。

実際、消費者の環境意識と行動は、従来のまま変化はないのでしょうか。インテージでは、SDGs(持続可能な開発計画)という観点に着目し、2020年からの3ヵ年で継続調査を行っています。
SDGsの認知率を見てみると、2020年1月には3割であった認知率が、2022年1月の調査では8割まで上昇しました。「内容を知っている」人と「内容をある程度知っている」人も過半数に達し、言葉としての認知だけではなく、理解も深まっていることが分かります(図表1)。

図表1

また、SDGs17のゴールのうち、最も優先的に取り組むべきと思うものは、「気候変動に具体的な対策を」が最も回答割合が高く12.2%でした。(図表2)

図表2

ここで問題となるのは、確かに消費者の「気候変動」への興味・関心が高いとしても、それが実際の消費行動には結びつかないのではないか、という懸念です。「自分にトクがなければ、地球環境のために面倒なことはしたくない」といった実行動への障壁があると考えられます。

そこで、環境意識が高い消費者の、行動の実践状況を把握するべく、インテージで開発したサステナブル行動セグメントを用いて分析してみました。サステナブル行動セグメントとは、サステナブルな行動10項目をどの程度行っているかをアンケートで聴取し、行動しているレベルに応じて消費者を「とても高い」「高い」「どちらでもない」「低い」の4つに分類したものです。

2021年11月に「今度3年以内に自家用車の購入意向がある18歳以上の男女1万人」に対して行った調査では、サステナブル行動を積極的にとる層である「とても高い」と「高い」に分類される消費者が全体の43%を占めました(図表3)。

図表3

マーケティングでの参考指標としてよく使われるロジャースのイノベーター理論では、普及率16%までの市場を導入期とし、そこから普及率50%までの消費者をアーリーマジョリティー層と定義しています。この定義から、サステナブル行動を取る消費者は、もはやニッチ層ではなく、マジョリティー層となったと言えます。

サステナブルな行動をとる消費者は環境性能を重視

サステナブル行動をとる消費者は、自動車に対してどのような意識を持っているのでしょうか。
「あなたにとって、車とは、どのようなものか」と質問したところ、サステナブル行動度が「とても高い」「高い」消費者では、クルマを「センスやステータス」「ライフスタイル」「生活信条・ポリシー」など自身の何らかの表現手段と意識している人が半数程度を占めました。これに対して、サステナブル行動度が「どちらでもない」「低い」消費者は「あくまでも移動手段・道具である」が半数程度を占めます(図表4)。

図表4

ここから、サステナブル行動に積極的な消費者への自動車購入の訴求では、自身をどのように表現できるクルマなのかのメッセージが効果的であると考えられます。

同じ調査で、次に購入したいと思う自動車のエンジンタイプについても質問しました(図表5)。

図表5

サステナブル行動度が「とても高い」「高い」消費者では、「電気自動車」と「プラグインハイブリット車」の購入意向が高くなっています。「とても高い」消費者では、さらに「燃料電池自動車」も他層と比べて高くなります。これに対して、サステナブル行動度が「どちらでもない」「低い」消費者では、「ガソリン車」が半数を超えます。

では、サステナブル行動が「とても高い」消費者は、現在の段階で既に「電気自動車」を使用しているのでしょうか。同じ調査からみてみたところ、現段階では「とても高い」層の62%の人がガソリン車を使用していました。そして、ハイブリッド車が30%で、この2つで90%超を占めています。電気自動車はまだ1%程度しか使用していません。ここから、サステナブル行動の積極性が「とても高い」消費者であっても、電気自動車の本格的な普及はこれから、ということが分かります。

同じ調査で、次に自動車の購入する際に重視すると思うポイントを質問しました(図表6)。

図表6

回答者に提示した14個の選択肢のうち「地球環境への配慮(走行時に排出される二酸化炭素量等)」は、トータルでは14項目中12位の14.1%の回答割合で下位となりました。しかし、サステナブル行動の積極性が「とても高い」消費者では38.0%、「高い」消費者では19.6%が重視すると回答しており、回答割合が高くなっています。ここから、サステナブル行動を積極的にとる層が、電気自動車をはじめとしたエコカー市場を今後けん引していくものと考えられます。

環境訴求のTVCMは消費者に届いているのか

このサステナブル行動を積極的にとる消費者層は、自動車広告において、どのような訴求メッセージに魅力を感じるのでしょうか。
調査回答者に実際のTVCMの広告メッセージを呈示し、評価を回答してもらいました。(CM映像やメーカー名、車種名などは呈示していません) 呈示したのは、2021年9月下旬の時点で国内自動車メーカー各社の公式サイトに掲載されていた、8車種のTVCMメッセージです。これらに加えて過去との比較事例として、1997年の初代「プリウス」のTVCMメッセージを含めました。

最も魅力を感じると評価されたのは、初代プリウスの「燃費・CO2削減」でした。「リーフ」の「災害時ベネフィット」が2位、「ミライース」の「サステナブル」が3位となります。一方、サステナブル行動度が「とても高い」「高い」高い消費者では、「災害時ベネフィット」と「サステナブル」が1、2位となりました(図表7)。

図表7

では、消費者は「燃費・CO2削減」「災害時ベネフィット」「サステナブル」といった上位のTVCMメッセージのどのような点に魅力を感じたのでしょうか。
図表8はそれぞれのTVCMメッセージにどのようなイメージを持ったかを聞いた結果です。

図表8

魅力評価の上位3メッセージは、いずれも「地球環境への配慮を感じる」を回答者の80%以上が選んでおり、環境イメージが強い魅力となっていることが分かります。

では、TVCMメッセージは、消費者の意識・態度を変えることができるのでしょうか。この疑問を検証するべく、先ほどの9個のTVCMメッセージを回答者に呈示する前と後で、次回自家用車を購入する際に重視すると思うポイントを2回質問し、TVCMメッセージを見た後で、重視するポイントが変化するかを確認しました。

「地球環境への配慮(走行時に排出されるCO2量など)」を重視するという回答は、メッセージ呈示前の回答割合が14.1%であったのに対し、メッセージ呈示後は20.8%と7ポイント増加しました。他の重視項目では、このように大きく変化した項目はありませんでした。
ここから、TVCMでの訴求では、「地球環境への配慮」を感じさせるメッセージが特に消費者への態度変容に効果があることが分かります。

市場の反応はまだ鈍い

最後に、7年超の時系列データから、環境意識・行動の変化を見てみましょう。図表9はインテージが毎月約70万人から回答を集めている、自動車に関する調査「Car-kit®」のデータです。「環境保全のためなら多少余分に車にお金を払っても良い」かどうかを、4段階で聞いています。

図表9

一番左の「あてはまる」の割合に注目してみましょう。6~7%程度であり、大きな変動は見られません。「ややあてはまる」まで広げてみても微増であり、いずれの年も5割を超えません。

自動車に限らない購買行動全般において、「リサイクル素材を使用した商品を積極的に購入している」かも同様に質問したところ、こちらも「あてはまる」「ややあてはまる」の割合に大きな変化はなく、それぞれ6%前後、35~38%程度を推移していました。(15年=「あてはまる」6% /「ややあてはまる」36%、16年=6% /36%、17年=5% /35%、18年=6% /35%、19年=7% /36%、20年=7% /37%、21年=7% /38%、※小数点以下、四捨五入)

この数年間で、SDGsという言葉は社会に大きく浸透するようになりました。多くの企業がSDGsに関する活動や宣言を行うようになり、政府も推進し、マスコミも日々取り上げています。よって、持続可能な社会、環境、地球を未来の世代へ残していこうという意識を持つ人々は増えていると考えるのが一般的でしょう。

ただ、“お金を払ってでも”環境に良い車を買いたいか、と聞かれればイエスと答える人は少ないという結果となりました。支出が絡む意識は急には変わらない、簡単にも変わらないのかもしれません。
とはいえメーカーサイドの企業努力によって、購入者自身は意識していなかったが、購入したものが結果的にこれまでより環境負荷の低い商品だった、というパターンは既に多く存在します。例えば1997年に誕生したハイブリッド車一つとっても、モーターの体積を減らしながら出力はアップしています。PCU(パワーコントロールユニット)の体積とエネルギーロスも減少、バッテリーも小型化しています。より高性能で、より環境負荷が小さい車に日々進化し続けています。

2020年10月、菅前総理は所信表明演説で「2050年カーボンニュートラル」を宣言しました。そこから1年半以上が経過した現在、まだまだ先は不透明。実販データ等からだけでは確認できない生活者の意識を、今後も追い続けていきます。


今回の分析は、インテージの自主企画調査の結果とインテージの提供するCar-kit🄬(自動車パネル)を用いて行いました。

インテージのネットリサーチによる自主調査データ】 
<2022年1月調査:SDGs>
調査地域:全国
対象者条件:15~69 歳の男女
標本抽出方法:弊社「マイティモニター」より抽出しアンケート配信
ウェイトバック:性年代構成比を、2020年度実施国勢調査データをベースに、人口動態などを加味した2021年度の構成比にあわせてウェイトバック
標本サイズ:n=2,556
調査実施時期:2022年1月25日(火)~1月27日(木)

<2021年11月調査:サステナブル行動セグメント>
調査地域:全国
対象者条件:18 歳以上の男女
標本抽出方法:弊社「Car-kit®(自動車パネル)」より今後3年以内自動車購入検討者を抽出しアンケート配信
回収方法: 2020年度実施国勢調査データをベースに、人口動態などを加味した2021年度のエリア別性年代構成比にあわせて割付回収
標本サイズ:n=10,313
調査実施時期:2021年11月19日(金)~11月22日(月)

Car-kit®(自動車パネル)
株式会社インテージが毎月約70万人から前月の自動車情報を取得しているシンジケートデータです。現有車や次期意向などを聴取する市場動向把握調査と、契約者に対して購入理由や購入時の重視点などを聴取する契約者調査の2部構成で実施しています。
※Cat-kitは株式会社インテージの登録商標です。

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