ターゲット含有率でみる効率的なCM出稿プランニング
広告主がテレビにスポットCMを出稿する際、出稿に必要な費用は、一般的にGRPという指標から算出されます。GRPとは出稿枠の世帯視聴率を積み上げたもので、たとえば19時から22時のゴールデン帯など比較的視聴率の高い枠に多く出稿するほどGRPは増え、結果として出稿費用も高くなります。
一般的にGRPが増えると、それだけCMのリーチ(届く人数)やフリークエンシー(届く頻度)も増え、CMの効果が高まることが見込まれます。
CMを出稿する広告主側からすると、なるべく多くの人に自社CMが届けられることは理想的ですが、効率性という観点から見ると、必ずしも視聴率が高い時間帯ばかりに出稿すればいいというものではありません。たとえ視聴率が低いCM枠でも、自社のターゲット層が多く含まれる枠、つまり「ターゲット含有率」の高い「穴場枠」を見つけることができれば、同じGRP でもより多くのターゲットにCMをリーチさせることができます。
扱う商材によってターゲットは異なるので、この「穴場枠」も当然変わってきます。
この記事では効率的なCM出稿枠選定について、様々なターゲット層におけるテレビ視聴傾向のデータを用いて考察します。
「スマートフォン決済」サービスのCM出稿枠を考える
まずは昨今注目が集まっているスマートフォン決済サービスを例に見てみましょう。「PayPay」や「LINEPay」など、サービスを提供する各社はより多くのユーザーを獲得するべく自社サービスのCM出稿に力を入れていますが、実際にこうしたスマートフォン決済サービスを利用しているユーザーに効率的にリーチできる枠はどこなのでしょうか。
テレビ視聴ログデータとスマートフォンアプリの利用ログデータがシングルソースで紐づいているi-SSP®(インテージ シングルソースパネル®)のデータを用いて、スマホ決済アプリを利用しているユーザーのテレビ視聴状況について見てみました。
図表1は各時間帯のテレビ視聴者全体に対するPayPayアプリユーザーの含有率を、ヒートマップ形式で表現したものです。
図表1
PayPay ユーザーは10 〜16時台の昼間帯と22〜27時の深夜帯における視聴者含有率が高いことがわかります。一般的に平日の昼間や深夜帯は、視聴率は低い傾向にあるのですが、PayPayユーザーへのアプローチという目的においては効率的な枠であると言えます。
次に、同じスマートフォン決済サービスである楽天Edyユーザーについて、同様に集計した各時間帯の視聴者における含有率を並べてみてみましょう。(図表2)
図表2
楽天EdyユーザーがPayPayユーザーと比べ、深夜〜早朝帯にかけて含有率が高くなっていることがわかります。
様々な新規サービスが普及に向けしのぎを削っているスマートフォン決済サービスですが、楽天Edyのような従来サービスのユーザーをポテンシャル層と捉えるのであれば早朝帯への出稿も効果的かもしれません。
「洗濯用洗剤」のターゲットにテレビCMを届けるには
次に特定の商品カテゴリについて、テレビCMの効率のよい届け方を考えてみます。
テレビCMのプランニングをする際、性別や年代といったデモグラフィック属性でターゲティングが行われることがよくあります。たとえば洗濯用洗剤カテゴリの購入者であれば、「既婚子供あり女性」などがメインターゲットとして考えられるでしょう。
しかし実際には、洗濯用洗剤の購入者は既婚子供あり女性だけではなく、それ以外の層も含まれます。ここで「既婚子供あり女性」ではなく、洗濯用洗剤を購入する機会の多い「洗濯用洗剤ヘビーユーザー」という括りでダイレクトにターゲットを設定できれば、より的確なターゲティングと言えるのではないでしょうか。
先ほど分析に使用したi-SSPデータはアプリ利用データ以外にも購買データとテレビ視聴ログデータを紐づけることができます。このデータを用いて「既婚子供あり女性」と「洗濯用洗剤ヘビーユーザー」のターゲット含有率のヒートマップを比較した結果が図表3です。
図表3
図表3からは、「既婚子供あり女性」と「洗濯用洗剤ヘビーユーザー」では全体的なテレビ視聴傾向は似ているものの、部分的に傾向が異なる枠が存在することがわかります。「既婚子供あり女性」では平日の朝と夕方の時間帯に含有率が高くなっていますが、「洗濯用洗剤ヘビーユーザー」では平日の昼間帯も高くなっています。また「洗濯用洗剤ヘビーユーザー」では土日の早朝帯も高くなっており、両者の行動パターンに違いがあることが推測できます。平日の昼間や土日の早朝帯は、「既婚子供あり女性」だけでプランニングしていては見逃してしまうでしょう。
このように、購入実態を元に消費者をセグメントしてその行動を追うことで、「購買力の高い層」や「ブランドにとって課題になる層」にアプローチするための、効率的な出稿枠を見つけることができます。
エリア特性に即したプランニングの必要性
その他、枠選定に大きな影響を与える要素としては「エリア」が挙げられます。
「洗濯用洗剤ヘビーユーザー」について、関東と関西のテレビ視聴傾向を比較した結果が図表4です。
図表4
関東エリアにおいては平日の日中がターゲット含有率の高い時間帯となっていましたが、関西エリアでは早朝帯および深夜帯でターゲット含有率が高くなっていることがわかります。
各エリアの「洗濯用洗剤ヘビーユーザー」の職業構成比を見てみると、関西のほうが会社員の比率が比較的高くなっていました、これが平日昼間帯のターゲット含有率が低くなっていると要因と考えられます。
こうした層にアプローチするためにはデジタル広告や屋外広告を併せて活用することも効果的かもしれません。
ここではエリアについてフォーカスしましたが、それ以外にも出稿する時期や放送局によってもテレビ視聴傾向は変わってきます。最適な広告出稿枠を見誤らないために、広告主にはなるべく出稿する際の状況に合わせてデータを見ていくことが求められます。
CMバイイングの課題と今後
今回ご紹介したとおり、デモグラフィック属性に依存せず、特定サービス利用ないしは特定商品カテゴリ購入実態から購入ポテンシャル層を見出し、ターゲティングすることは、より効率的な広告出稿へと繋がります。また今回はターゲット含有率という指標でCM出稿枠の評価を行いましたが、実際は枠ごとの出稿コストも併せて評価を行うことで、費用対効果を考慮した、より的確な出稿枠を導き出すことができます。
この記事では主に広告主の視点で、効率的な枠選定について述べましたが、広告枠を販売するテレビ局側にとってもこうした考え方は有益となりえます。従来の世帯視聴率という尺度でみればあまり価値の高くなかった枠も、ターゲット含有率という別の尺度で見れば特定の広告主にとって価値の高い枠として積極的に売り出すことができるかもしれません。
現行のスポットCMにおける買い付けの構造上は、効率的なCM枠が判明してもその通りにバイイングができるわけではないというのも事実としてあります。番組単位でピンポイントに出稿できるタイムCMについても、出稿期間の縛りや出稿できる枠の数に限りがあるなど、様々な制約があります。
そんな中でも、テレビCMのバイイングの仕組みは徐々に変わってきています。ネット広告のように自動買い付けを行えるプログラマティックバイイングという仕組みも生まれてきています。
日本におけるテレビCMのプログラマティックバイイングの仕組みはまだまだ発展途上ですが、一部のキー局では提供が始まっています。一定の販売枠の中で広告主が1本単位でCM枠を買い付けることができるような仕組みをうまく活用することで、よりフレキシブルなバイイングを行うことができるようになるでしょう。ターゲットの「穴場枠」を獲得するにはこうした仕組みが広がっていくことが不可欠となります。日本におけるCM枠買い付けの仕組みの今後の動向に注目です。
今回の分析は、インテージの提供する、i-SSP(インテージシングルソースパネル)のデータを用いて行いました。
インテージの主力サービスであるSCI®(全国個人消費者パネル調査)を基盤に、同一対象者から新たにパソコン・スマートフォン・タブレット端末からのウェブサイト閲覧やテレビ視聴情報に関して収集したデータです。当データにより、テレビ・パソコン・スマートフォン・タブレット端末それぞれの利用傾向や接触率はもちろん、同一対象者から収集している購買データとあわせて分析することで、消費行動と情報接触の関係性や、広告の効果を明らかにすることが可能となります。また、調査対象者に別途アンケート調査を実施することにより、意識・価値観や耐久財・サービス財の購買状況を聴取し、あわせて分析することも可能です。
※ シングルソースパネル®は株式会社インテージの登録商標です。
※この記事はMarkeZine46号に掲載された寄稿記事(「ターゲット含有率でみる効率的なCM出稿プランニング」)を再構成したものです。
転載・引用について
◆本レポートの著作権は、株式会社インテージが保有します。
下記の禁止事項・注意点を確認の上、転載・引用の際は出典を明記ください 。
「出典:インテージ 「知るギャラリー」●年●月●日公開記事」
◆禁止事項:
・内容の一部または全部の改変
・内容の一部または全部の販売・出版
・公序良俗に反する利用や違法行為につながる利用
・企業・商品・サービスの宣伝・販促を目的としたパネルデータ(*)の転載・引用
(*パネルデータ:「SRI+」「SCI」「SLI」「キッチンダイアリー」「Car-kit」「MAT-kit」「Media Gauge」「i-SSP」など)
◆その他注意点:
・本レポートを利用することにより生じたいかなるトラブル、損失、損害等について、当社は一切の責任を負いません
・この利用ルールは、著作権法上認められている引用などの利用について、制限するものではありません
◆転載・引用についてのお問い合わせはこちら