働くシニアの実態と価値観を知る~非就労シニアとの比較で見える「暮らしぶり」~
国内の総人口が減少する中で、65歳以上の人口は3625万人と過去最多となり、総人口に占める割合は 29.3%となっている。また、65歳以上の就業者数は、20年連続で増加し914万人と過去最多となった。※
就業者総数に占める65歳以上の割合は13.5%※となっており、さらに2025年4月からは、65歳までの継続雇用制度が義務化されることが高年齢者雇用安定法で決定している。
人手不足の中、「働くシニア」への期待はますます高まっている。
※総務省 統計トピックスNo.142 「統計からみた我が国の高齢者」(2024年9月)
働き手として注目や期待が高まる「働くシニア」はどのような働き方をしているのか。その実態を紐解き、購買行動やお金事情などを明らかにすることで、 「働くシニア」に向けた商品やサービス開発に関するヒントを得たい。
今回の調査では、「働くシニア」をフルタイム勤務、パートタイム、アルバイト、独立(起業)/自営等、何らかの仕事に携わっている60歳以上の男女 と定義し、それ以外の60歳以上の男女を「非就労シニア」 として比較した。
1. 働くシニアの割合
図表1は60歳以上のシニアの勤務形態の構成比を示したグラフである。
図表1
60歳~80歳の「働くシニア」は男女計で35.9% 、男性は45.4%、女性は26.8%となった。
また、勤務形態の構成比を5歳刻みの男女年代別に確認したのが図表2である。
図表2
男性60~64歳では80.6%が、女性60~64歳では52.7%が「働くシニア」である。一つ上の65歳~69歳に関しても男性は約半数の48.9%、女性は30.9%が、「働くシニア」であり働き手として社会を支えていることが分かる。この割合は年齢が高くなるほど減少し、75~80歳では男性の20.7%、女性の9.0%が「働くシニア」となっている。
またフルタイムで働いているシニアに注目すると、60~64歳男性では、フルタイムで働くシニアが54.6%と約半数を占めている。さらにフルタイムの内訳(雇用形態)を確認すると、正社員が58.5%、雇用延長が14.4%、再雇用が27.1%であった。働き方に関しても「働くシニア」それぞれにあった様々な選択肢があることが分かる。
2. シニアのお金事情
シニアの生活に必要なお金に関する実態を調べてみた。
「働くシニア」「非就労シニア 」の収入源を(図表 3)にまとめた。「働くシニア」は、給与以外に、年金(厚生年金、国民年金、その他年金)など複数の収入源があることが分かる。
また「非就労シニア」の収入源は、株式・資産運用22.5%、預貯金の取り崩しが17.7%であり、いずれも「働くシニア」と比較するとその割合が高くなっている。
図表3
次に、シニア世帯の1か月当たりの生活費(住居費、食費、日用品、衣服、耐久財などの購入、娯楽費を含む)を「働くシニア」と「非就労シニア」で比較したのが(図表4)である。
図表4
「働くシニア」の1か月の平均生活費(世帯) は、19.35万円/月、「非就労シニア」は、17.27万円/月であり、「働くシニア」が約2万円/月多くなっている。
さらに、1か月に自由に使えるお金(個人) を確認したのが(図表5)である。
図表5
「働くシニア」の自由に使えるお金の平均は、5.69万円/月、「非就労シニア」は、4.16万円/月であり、「働くシニア」が約1.5万円/月多くなっている。
3. 働くシニアの行動特性
では、「働くシニア」と「非就労シニア」の間に、どのような消費行動の違いがあるのか、コト消費・モノ消費それぞれに関して調べてみた。
「働くシニア」のコト消費
直近1年間(2023年11月~2024年10月)に体験したコトを60~80歳のシニア全体に対して調べた結果、1位:国内旅行44.2%、2位:温浴施設・温泉20.4%、3位:コンサート・ライブ14.4%、4位:美術鑑賞11.0%、5位:スポーツクラブ(ジム、体操教室)9.8%となった。
図表6はこの結果を「働くシニア」と「非就労シニア」で比較し、その差を見たものであ
図表6
差が大きい順に「国内旅行」7.1 ポイント差、「スポーツ観戦」6.1ポイント差、「有料動画サービス」5.6ポイント差となった。差が現れた要因としては、働くことによる金銭的な余裕や、アクティブに動ける身体も影響していると思われる。「有料動画サービス」「有料音楽サービス」などのサービス利用も多く、「働くシニア」がスマートフォン等の操作に長けていることも想像される。
「働くシニア」のモノ消費
次に、直近3年間(2022年~2024年)で、新たに購入した(買い換えた )モノを調査したところ、1位:スマートフォン23.8%、2位:エアコン14.2%、3位:掃除機10.9%、4位:洗濯機10.3%、5位:冷蔵庫10.2%となった。買い換えサイクルが短いスマートフォンが1位であり、次いで生活必需品である家電製品の買い換えが主であったと受け取れる。
同様に「働くシニア」と「非就労シニア」の購入品の差を見たのが図表7である。
図表7
車が、上位10項目中に3つランクインした。軽自動車3.3ポイント差であり、登録車※(ハイブリッド車と、登録車※(ガソリン等)もそれぞれ働くシニアの方が高かった。「働くシニア」が通勤やレジャーで車を活用している姿が受け取れる。
スマートフォンは3.2ポイント差、スマートウォッチ(心拍測定可能)は2.5ポイント差であり、「働くシニア」のデジタルツールへの関心の高さが結果から受け取れる。
※登録車、軽自動車、小型特殊自動車及び二輪の小型自動車を除く自動車のこと、普通自動車とも呼ばれる 。
「働くシニア」のデジタル活用
「働くシニア」は“有料動画サービス”の利用、“スマートフォン”の買い換えが多いことが分かった。
次に、今どきシニアのデジタル活用に関して見て行きたい。シニアの身近なデジタルツールであるスマートフォンのアプリインストール状況を「働くシニア」、「非就労シニア」別に確認したのが(図表8)である。
図表8
シニア全体 で、インストールが多いアプリは1位「LINE」73.7%、2位「地図アプリ」47.1%、3位「Yahoo!」44.6%の順となった。
「働くシニア」と「非就労シニア」でのインストールアプリの差を見て行くと、「働くシニア」が多いのは「Amazon」10.8ポイント差、「銀行アプリ」8.2ポイント差となった。逆に「非就労シニア」が多いのは「料理アプリ」▲3.5ポイント差となった。
このデータからは、いずれのシニアもスマートフォンを活用し、コミュケーションを行う、天気やニュースなどの情報を得ていることが分かる。また、仕事により時間を拘束される「働くシニア」が、オンラインショッピングや、オンラインバンキングを利用している姿も想像できる。
4. 働くシニアの5つのタイプ
ここまで「働くシニア」と「非就労シニア」の消費行動、情報行動を見てきた。
「働くシニア」をさらによく知り、彼らに向けた商品やサービスを検討するために、価値観や購買の特性などの質問を使って、「働くシニア」をクラスター分析により5つのタイプに区分した。(図表9)
図表9
①“まだまだ現役、仕事しっかり「働くシニア」”は、今までの働き方を継承しており、購買行動に関しても、50代と変わらない特性を持っている。
②“仕事に趣味にバランスよく楽しむ「働くシニア」”は、フルタイムで働く人の割合が44.0%であり、人との交流も活発であり、仕事と、趣味をバランスよく楽しんでいる様子が伺える。
③“今もチャレンジし続ける「働くシニア」”と、④“社会的な信用が大事、しっかり堅実「働くシニア」”は、社会から認められたい(承認欲求)や、好奇心が旺盛であり、自身の健康に関心を持ち、新しい知識の習得に関しても積極的である面で共通している。
しかし、購買特性に関しては、③“チャレンジ「働くシニア」”は、ブランド品や、人の持っていない物などを好み、こだわりの商品選択をするタイプである。一方④“しっかり堅実「働くシニア」”は、お金の使い方に関して、コスパや、品質などをしっかり吟味するタイプである。
最後に⑤“背伸びをせず、堅実でコスパ重視「働くシニア」” は、金銭面で自由に使えるお金が少なく、家にて1人で過ごすことを好むタイプである。購買面では安さやコスパを重視する傾向がある。
このように同じ「働くシニア」でも、価値観の違い、購買特性の違いがあることが分かる。
50代と同じようなアプローチをすることによる顧客獲得ができる①“まだまだ現役「働くシニア」”と、自分の時間を大事する趣味や、こだわりの価値観に対してアプローチが必要な③“チャレンジ「働くシニア」”のように、「働くシニア」の特性を見極め、商品やサービスの提供方法を変化させることが大事である。
5. あと何年働きたいか
最後に、これら「働くシニア」があと何年働きたいかを、年代別に確認したのが(図表10)である。
図表10
60~64歳では、「あと1~5年」が33.1%、「あと6~10年」が32.1%であり、あと10年程度働きたいと考えている「働くシニア」が約6割を占める。
75~80歳では、「働けるところまで働きたい」と回答した人が53.1%を占めた。
「働くシニア」は年齢が高くなるほど、生涯現役で続けたいとの意向を持っている人が多い。
少子高齢化、労働力不足の中、「働くシニア」の意向にそった働き方(勤務形態や、時間、役割り)を提供することが、「働くシニア」が長く活き活きと働いてもらえる秘訣になるのではないだろうか。
6. まとめ
最近では労働力不足に関するニュースや、税制の改正のニュースをよく目にするようになった。全世代にて「働き方」に関して考える機会が増えているのではないだろうか。特に各企業でも60歳を超えたシニアの活躍が見られ、シニアの働き方が注目されている。
今回の調査にて60-64歳男性の約8割、65-69歳男性の約5割が「働くシニア」であることが明らかになり、従来の定年やシニアのイメージも大きく変化したのではないだろうか?
この層は70歳(80歳)まで現役で、“どのように働くのか?”、“どのように楽しむのか?”、“資金の計画はどのようにするのか?”、“どのように生きたいのか?“、各々がWell-beingな生き方※(佳い生き方)を探っていくと想像される。
「働くシニア」が中心となるマーケットに対して、従来のシニア向け商品ではなく、例えば、学びたいシニアに応じる、海外旅行のためのシニア向け英会話教材。社会に役立ちたいシニアに応じる、環境や社会への寄付を含んだ商品・サービスなど、これら「働くシニア」個々の価値観に沿ったWell-beingな生き方を提案する商品や、サービスの開発が望まれるのではないだろうか。
※Well-being:“病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態(well-being)にあること”(日本WHO協会訳 )
調査概要
調査地域:日本全国
対象者条件:60~80歳男女個人
標本抽出方法:マイティモニターより適格者を抽出
標本サイズ:合計n=1722 「働くシニア」n=627 「非就労シニア」n=1095
ウエイトバック集計:あり※
※性年代構成比を、2020年度実施国勢調査データをベースに、人口動態などを加味した2024年度の構成比にあわせてウエイトバック
調査実施時期: 2024年11月8日(金)~2024年11月11日(月)
転載・引用について
◆本レポートの著作権は、株式会社インテージが保有します。
下記の禁止事項・注意点を確認の上、転載・引用の際は出典を明記ください 。
「出典:インテージ「知るギャラリー」●年●月●日公開記事」
◆禁止事項:
・内容の一部または全部の改変
・内容の一部または全部の販売・出版
・公序良俗に反する利用や違法行為につながる利用
・企業・商品・サービスの宣伝・販促を目的としたパネルデータ(*)の転載・引用
(*パネルデータ:「SRI+」「SCI」「SLI」「キッチンダイアリー」「Car-kit」「MAT-kit」「Media Gauge」「i-SSP」など)
◆その他注意点:
・本レポートを利用することにより生じたいかなるトラブル、損失、損害等について、当社は一切の責任を負いません
・この利用ルールは、著作権法上認められている引用などの利用について、制限するものではありません
◆転載・引用についてのお問い合わせはこちら