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なぜいま、「新しいマーケティング」なのか?  セミナー直前対談 前編

知るギャラリーにて有識者コラムを執筆する本間 充氏と辻中 俊樹氏。インテージでは、この二人を招き、6/13(月)に『新しいマーケティングを考える~事象を連続して見えてくる新しい生活文脈とは~』と銘打ったリアル(オフライン)/オンラインセミナーを実施する。

本記事ではセミナーの主旨でもある、“なぜ「新しいマーケティング」が必要なのか?”について、花王株式会社のデジタル・マーケティングでWebエンジニアとして、そしてデータ分析者、Ad Technologyの牽引者として活躍し、現在は多くの企業のマーケティングコンサルを務める本間氏、そして、n=1という定性アプローチを得意とする、マーケティングプロデューサーの辻中氏の二人に話を伺った。

前編となるこの記事では、「新しいマーケティング」について語るに至った背景を中心にお届けする。
聞き手:インテージ 生活者研究センター 田中 宏昌 

左から辻中氏、本間氏。

なぜ今、「新しいマーケティング」なのか?

インテージ田中:まずは本間さんに、知るギャラリーで連載いただいている「新しいマーケティングのすすめ」ですが、タイトルをそう名付けた背景を教えていただけますか。

本間:僕が花王に入った1992年のとき、花王の調査部の佐川さん(※佐川 幸三郎氏)という方が、「新しいマーケティングの実際」という本を出されていて、花王の全社員が必ず読む本でした。

当時は「売れるものを作ればいい」という考えが浸透していたんですよね。花王の社員って人が好きではないんです(笑)。もっと丁寧に言うと、「人ってなかなか理解しにくい生き物」だと思っている。花王の社員の1/5は研究職なので毎日実験して再現性のあることを繰り返せますが、人を対象にすると再現性がなくなってしまうんですよね。

佐川さんの本には、データに基づいてマーケティングをすると分かりやすくなる、ということが書かれていました。マーケティングにも科学的な側面があるということを教えてくれた。

マーケターって前任者の経験を、自分がやったら成功すると思い込みすぎていた時代がありました。しかし、本来は時代とともにマーケティングって変えていかなきゃいけないはず。だから今回、25年経って、「マーケターが新しいマーケティングを考える必要がある」ということを伝えようと。

田中:佐川さんと直接お仕事をご一緒する機会はあったんですか?

本間:僕が入社したとき(1992年)はもう引退されていましたね。佐川さんは数字に強い方だったそうで、当時花王になかった調査部を作った方でもあったんです。今でこそ花王は成功した会社ですが、実は20年赤字だった歴史もあります。そこでやっぱり「いいものを作れば売れる」ってわけじゃない、お客さんのニーズを理解しないといけない、なおかつお客様のニーズが「満たされた」ところまで製品が表現しないと、「満たされた」という認知もしない、ということを気づいた時代だったんだと思います。

本間 充 株式会社マーケティングサイエンスラボ
1992年花王株式会社に入社。社内でWeb黎明期のエンジニアとして活躍。以後、Webエンジニア、デジタル・マーケティング、マーケティングを経験。2015年アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの企業のマーケティングのデジタル化を支援している。マーケティングサイエンスラボ 代表取締役、ビジネスブレークスルー大学でのマーケティングの講師、東京大学大学院数理科学研究科 客員教授(数学)、文部科学省数学イノベーション委員など数学者としての顔も併せ持つ。

田中:確かにマス=大衆向けて同一の広告を大量に出稿・投下する、という考えから、多様化・多層化する個人に向けてのマーケティングにシフトした時代だったと思います。「一人10色」という言葉もこの頃のバズワードでした。辻中先生は成功体験を積み上げていくマーケティングから、より生活者に寄り添ったマーケティングに変わっていく流れを、どのようにご覧になっていたんですか。

辻中:今の本間さんの話の通り、経験情報を共有・伝達することは科学的な面において出来るようになってますよね。でも経験情報ではないものはどうしたらいいのかわからない人が多い。本人すらわかっていない【個人】に宿っているものなんですよね。

辻中 俊樹 マーケティングプロデューサー
日本能率協会などで雑誌編集者を経て、マーケティングプロデューサーとして現在に至る。暮らし探索のための生活日記調査を開発<n=1>という定性アプローチを得意とする。代表的な著作としては、「団塊ジュニア――15世代白書」「母系消費」「団塊が電車を降りる日」「マーケティングの嘘」など。

辻中:個人に宿ってるものって再現性がない。昨日やったことを今日やってみろって言われてもできないですよ。でも1年、2年というタームで見ると、ゆるやかに再現性のあることをやってたりするし、あるいは全く新しいことをやってたりもする。だから生活者自身も未体験の状況に左右されていて、観察する側・される側、お互いわからなくなってきてるんです。

花王さんは、再現情報を科学的に構築するアプローチを、非常にうまくやられていると思うんです。本間さんのおっしゃる通り、過去のマーケティングは確かに経験情報の共有化でよかったんですよね。一人の人間にフォーカスが当たれば当たるほど、その本人自身も再現性も求められると辛くなるでしょう?だかこそ今は、明らかに「新しいマーケティング」にイノベーションしなきゃいけない。これが答えなんですよね。

セブンイレブンは買っていない人も「お客様」?

辻中:例えばセブンイレブンはそこが強く見えます。各社、購買者の持つ体験情報はPOSデータなどで圧倒的に科学的にやっていると思います。ところが彼らは恐らく欠品でたまたま購買されなかった状況や、そもそも購買しないことも含めて【体験されていない情報を探す】ことを大切にしている。それを仮説という言葉で積み上げていっている。

田中:なるほど。いまセブンイレブンって流通も持っていて、PB(プライベートブランド)も強くて、PBそのものの売上単価も高くなっていって、長い目で見たときに自社に利益が溜まる仕組みをうまく作っていますよね。データドリブンという考え方でも、個人のデータがセブンイレブンにどんどん集まってきて、中々この牙城をメーカーさんが壊せなくなってきている。セブンイレブンを超えることが難しくなってる気がしています。 もちろんデジタルも強いと思いますが、私はベースの部分ではだれよりも生活者を理解するための「観察」といった泥臭いアプローチやそこから生活者の暮らし全体を、あるいは体験そのものを理解するという部分に花王、セブンイレブンの共通項があるように感じるんですが、本間さんはどう思いますか?

本間:数学的に言うと、マーケティングって集合の真ん中しか見ないんです。でもセブンイレブンの鈴木さん(前会長)って、焦点のあたっている集合の外の人、買っていないお客さんはなぜ買ってないのか?っていうことを突き詰める方だったんだと思うのです。金のシリーズにしても、買った人にはすでに伝わっているので、むしろ買っていない人の方に市場規模を大きくするヒントがある、といった感じで。

通常のマーケターって買った人に伝わったからいいよねっていう安心確認の調査しかしていないケースが多いんですよね。データを見た瞬間の視点の変更や対極的に見るってことを、セブンイレブンは出来ていたから成功しているのであって、確かにデータのバラエティーやリアルデータ性っていうのはセブンイレブンに敵わないかもしれないけど、本質はそこじゃないと思うんですよ。

インテージの調査でも、買った理由を買ったお客様に聞いてくださいっていう依頼がメインだと思うんです。買ってないときの理由を聞くことに、マーケターが想像・実践できていないケースが多いからですね。

なぜかと言うとマーケターは「買った理由」の反対側の理由は思いつくけど、それ以外にも買っていない理由はたくさんあるからです。そもそもその商品のカテゴリ―自体に低関与だから、商品を選んだことがない、というのも買っていない理由に入るはずですよね。そういったことの想像力が正直足りない。

例えば洗剤で、漂白機能が強いから買ったって人がいると、漂白機能に興味がないから買わなかった、っていうのが反対語になるけど、そもそも洗剤なんて選ばないっていう選択肢もあるわけです。もう洗剤なんて適当にランダムに買ってます、っていう人もいる。だから、ビックデータでとにかくたくさんデータを取ることよりも、そもそも今あるデータの見方を変えることの方が重要だと思うんですよね。

セブンイレブンの鈴木さんの言う「お客様」ってセブンイレブンの商品を買った人を指してるのではなく、まだ買っていない可能性のあるお客様含めて、全員に対して言っているってことです。

鈴木さんの本にも書いてあるけど、好きでも飽きがきますよね。例えば金のシリーズの食パンも、好きになってくれても飽きてしまう可能性があることも知っているから、お客様が飽きるより味を変えることを先行しなければいけない。それって今買って満足してる人を観察しても出てこないことですよね。

そう考えるとお客様の捉え方が、担当するマーケターである個人に依存しているのは事実だけど、そこでどれだけ多角的に見られるか、っていうのがキーだと思います。

模範的な消費は古い?【内挿】と【外挿】のアプローチ

田中:セブンイレブンの話は辻中先生の「空間軸・時間軸」のお話につながりますね。「今・現在」を見るだけでなく、今・現在の経験に至った背景やこれからの風景ですらも織り込んでお客様の暮らしを想像する。ややもすると金のシリーズが売れたことでお客さまを守りに行きそうですが、「やがて飽きる」というこれから=時間軸を考え、手を打つ。さらには食べられているシーン=空間軸すらも考える。

辻中:そうですね。本間さんの連載の第7回で【内挿】と【外挿】というキーワードが出ていましたが、そのバランスがマーケティングとして今、非常に悪いと思います。先程のセブンイレブンの例でいうと、POSデータなどの分析による購買者の体験情報の深堀りは、基本的に【内挿】的なアプローチです。ところが、そこをいくら追跡しても非購買の状況からの課題は発見できない。それが【外挿】的アプローチ、仮説づくりということで、むしろそちらの方に大半の課題が移っていっていると思います。

その両方のバランスがあってこそ科学的アプローチになるということです。

たとえばセブンイレブンの金のビーフシチューという商品も、その価値やおいしさを【内挿】的に解析しても微差にしかならなくなっている。ところがこの金のビーフシチューがどんな食シーンに寄与しているかは別問題です。

例えばこの商品にじゃがいもや人参を追加して、2人前として食卓の全体最適が作られていることもある。その時は、金のビーフシチューを土台にして他のソースやケチャップや調味料によって増量されることになる。そうなると、【内挿】的な視点でのおいしさと【外挿】的なおいしさは明らかに異なっていますよね。

【内挿】的視点で商品開発をしている人には、”水増し”によって別のおいしさになっているというのは失礼かもしれませんが(笑)

田中:現在はそこも見据えて商品を開発していかなきゃいけないってことですよね。

本間:それに昔は、模範的な消費をしなければならないっていう消費者心理もありましたからね。今は消費者の中でも、選択肢がひろがっている。

辻中:そうなんです。固形ルーのカレーだっていろいろなルーを混ぜて食べている方も多いでしょう。1つの固形ルーのおいしさの追求は部分最適をゴールにすることで成り立っていますが、食シーンではもはやカレーというものが「カレーライス」として成り立っていないこともありますから。

暮らしの中での全体性からおいしさをみるとすれば、【外挿】的なアプローチが不可欠ということになりますね。

本間:いろんなルーを混ぜて食べると美味しいって公共放送でも言ってるくらいですからね。つまりマーケターが想像している通りの模範的な消費ではなくなってきているんですよ。だから生活者のフィールドワークの観察って本当に重要で。でもマーケターは、ビーカー試験的な、「こういうユーザーが欲しいな」っていう人を思い描きがちだから、そこの乖離は気を付けてちゃんと見ないといけないですね。

「汚れたから」服を洗う?

田中:本間さんのそういったターゲットを少しズラして見る、広げて見るっていう目線はどこで身に付けられたんですか。

本間:昔、30代だったときに花王のクリエイティブの取締役に、花王のロゴのマークの意味を言えるか?って聞かれて。そこで僕は模範解答的に「月のマークが入っているのがナショナルブランドで、ナショナルブランドの方がお客さんは価値が高いと思っています。」って答えたんです。そしたら「へー、お前花王ってそんなにいい会社だと思っているんだ」って言われて(笑)

そして、「競合の洗剤のブランドも含めてお客様の頭の中にあるような口ぶりだけど、お客様の頭のなかに洗剤カテゴリーが整列していると思ってるのか?」って言われました。さらに、「お客さんからしたら、JISマークJASマークくらいの、標準マークがついてるっていう感覚なんじゃないか?」とも言われたんですよね。

僕たちは、花王の月のマークで最大のブラインドエクイティを保とうと活動しているけど、実際にお客様に伝わっているのはそれくらいの情報で。でもその情報がついているから選ばれている、っていうこともちゃんと理解しなさい、って言われたんですよ。

次に、なんでみんな洗濯すると思う?洗濯する理由は何?って聞かれたんです。そこで服が汚れるから、綺麗にするためですって答えたんですよ。そしたら、服が汚れてるって毎日確認するのか?って言われたんです。

日本人は、ほとんどの人が、家に帰ったら服を着替えますよね。でも外から帰ってきて着替えるって行為は、日本人固有の行為なんです。外に穢れがあって、それを家の中に持ち込まないっていう日本独特のカルチャーなんです。だから、汚れているから洗っているわけではないんです。毎日服を洗うって習慣はないエリアの人もいるのですから。

だけど、花王のメッセージングとして、「毎日服を洗う日本人の皆さん!洗剤を買いましょう!」とは言えないので、肌ざわりが良くなります、とか、汚れが良く落ちますって言うのです。必ずしもお客様にはそれが響いてるってわけでもないこともありますが。

つまり、マーケティングって、理路整然にやっているように見えながら、お客様の受け取っている解釈をマーケターが別の文脈で理解してしまうこともあるし、お客様にとってオーバースペックなことを言ってるかもしれないって言われたとき結構ショックで。その時から、そもそもお客様がその商品を選んで買っているってことに常に疑問を抱こう、と。

例えばストレスが溜まったから適当に爆買いする、っていう買い物もあるわけじゃないですか。僕たちマーケターって、そこじゃなくて、そのカテゴリ―に関して一生懸命調べて考えた結果買ってほしいって思いがちだけど、会社の社長からするとどっちも同じ売上ですからね。

マーケターが支援できるのは、ブランド論だとか、3C、4Pとかを踏まえて買ってもらうことだけど、先ほどの辻中先生の金のビーフシチューのお話にもあった通り、色んな利用シーンがあって買ってくれているって理解するほうが楽な世界もあるから。

こういった経験から、なぜ買ってくれているんだろう?とお客様の立場になって考える考え方は染みついていますね。


前編では、「新しいマーケティング」について語るに至った背景を中心にお届けした。後編では「生活者は変わり続けているのに、マーケティングだけ古いまま?」をテーマに、観察力をあげ、変わり続ける生活者を正しく理解する方法について語られる。


6/13(月)にリアル(オフライン)/オンラインセミナーを実施。
記事の内容からさらに深堀りしてお二人に迫ります。リアルで参加の方限定で講師陣に直接質疑応答、名刺交換なども可能です。申し込みはこちら

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