
ここ数年で、生活者が使うSNSはどのように変わったのでしょうか。生活へ浸透しているSNSですが、ここ数年においても様々な動きがみられます。2023年7月、Twitterは「X」に名称変更されました。慣れ親しんだ名前からの変更に、驚きの声が多く上がりました。同じく 2023年7月、Instagramを運営するMeta社から新たなテキスト型SNS「Threads」がリリースされました。そして約半年後の2024年2月には、Twitterの共同創業者が立ち上げたテキスト型SNS「Bluesky」が一般リリースされました。
同じテキスト型SNSでも、利用者やアプリの特徴にはどのような違いがあるのでしょうか。
また、このように様々動きを見せているテキスト型SNSですが、新たに登場した2つのテキスト型SNSアプリの影響で、Xの利用状況は変わったのでしょうか。メディア利用ログデータであるインテージシングルソースパネルi-SSP®のデータを活用し、これら3つのテキスト型SNSアプリの利用実態に迫ります。
同じテキスト型SNSであるX、Threads、Bluesky。それぞれにはどのような違いがあるのでしょうか。各SNSの利用実態や特徴を見ていきましょう。図表1はX、Threads、Blueskyそれぞれの利用率(性年代別)を示しています。
図表1
Xはどの年代でも利用率が高く、年齢層が低いほど利用率が高くなっています。Instagramと同じMeta社が提供するThreadsを見ていくと、男性は低年齢層ほど利用率が高い一方で、女性の利用率は30代~40代で高いことがわかります。特に女性40代の利用率は同年代の男性と比較して利用率が5.6ポイント高く、Threadsの特徴が表れています。
次に、Blueskyは他のテキスト型SNSと比較し、利用率は低いものの、若年層を中心に利用されていることがわかります。また、性年代構成比がXと近似していることから、Xをあまり好まなくなった層が併用し始めている可能性があるかもしれません。BlueskyではXでのインプレッション稼ぎの投稿、誹謗中傷などの投稿と比較して、「平和で落ち着いている」といった投稿も見受けられます。中には「昔のTwitterみたいで好き」「初期のTwitterのような温かさ」といった声も見られ、安心感のある場が親しまれている様子がうかがえます。
さらに、各テキスト型SNSの機能の違いを見ていきましょう。まずは1投稿当たりの文字数制限が異なります。X(無料アカウント)は140字まで、Threadsは500字まで、Blueskyは300字まで投稿が可能です。新たに登場した2つのテキスト型SNS、特にThreadsは、話したいことをより自由につぶやくのに適しているのかもしれません。また、タイムラインの設定機能にも違いが見られます。Xの「リスト」機能やThreadsの「カスタムフィード」機能では、ユーザーを特定のテーマでカテゴライズし、特定のトピックに関する投稿に絞って表示することができます。さらに、Blueskyの「カスタムフィード」では、投稿内のキーワード、投稿期間、いいね数、画像等の詳細な条件を設定することができ、より自由に自分の関心に合わせてカスタマイズすることが可能です。また、カスタマイズしたフィードは他のユーザーが取り入れることもできます。中には、特定のブランド名をキーワード条件として商品を探すためのものも存在しており、そのようなフィードの注目度が上がれば、企業と生活者との繋がりの1つになる可能性があるかもしれません。
このように、同じ「テキスト型SNS」でありながら、それぞれ異なる特徴とユーザー層を持っていることがわかります。
続いて、X、Threads、Blueskyの3つのテキスト型SNSのトレンドを見ていきましょう。図表2はこれら3つのテキスト型SNSアプリの利用率の推移を示しています。
図表2
最も利用率が高いのはXです。新たなテキスト型SNSの誕生後もXの利用率は依然として高いままであることがわかります。次に利用率の高いThreadsは2023年7月にリリース後、利用率が右肩上がりとなっています。Blueskyはリリース当初こそ利用率は低かったものの2024年2月の招待制廃止後はわずかに上昇しています 。しかし、その後は利用率の大きな上昇は見られず、2024年10月にはXのブロック機能の仕様変更があり、やや上昇するも大きな追い風にはならず、横ばいの状態が続いていることがわかります。背景には、フィード機能などを活用し自身で使いやすくアレンジできる一方で、設定の難しさがあることが考えられるかもしれません。
次に図表3は利用者あたりの利用時間の推移を示しています。Xは新たなSNSが登場しても大きく影響を受けていないことがわかります 。またBlueskyもほぼ一定の利用時間で推移しており、Threadsの直近の(2024年12月)利用率はリリース当初と比較し3倍以上に上昇しています。特にThreadsは利用率と利用時間の両方が右肩上がりとなっており、生活への浸透が進んでいることがわかります。
図表3
さらに、ThreadsやBlueskyを利用している人はXから離脱しているのかを見てみましょう。図表4、5はそれぞれ、Threads利用者(アプリリリースされた2023年7月にThreadsに接触したユーザー)とBluesky利用者(アプリ一般リリースされた2024年2月にBlueskyに接触したユーザー)のX利用率と利用時間のトレンドを示したものです。ThreadsやBluesky利用者に限定すると、Xの利用時間はやや減少傾向にある一方で利用率は85%以上と高い水準を維持していることがわかります。
また、Threads利用者(リリース時)のX利用率は平均88%、Xの利用時間は平均42分であり、Bluesky利用者(一般リリース時)のX利用率は平均96%、Xの利用時間は平均67分となっています。前章の図表2、3より全体のX利用率は平均54%、X利用者の利用者あたり1日あたり利用時間は平均30分であることを踏まえると、Threads利用者やBluesky利用者は全体の平均を大きく上回っていることがわかります。Xの代替としてThreadsやBlueskyを利用しているというよりも、それぞれのSNSが独自の特徴を持ち、それぞれのポジションを築いているのかもしれません。
図表4
図表5
さらに、Xとの併用率はThreads利用者・Bluesky利用者ともに高いと言えます。X、Threads、Blueskyの併用状況のイメージを示したのが図表6です。
図表6
特にBlueskyは併用率が高く、ほとんどのユーザーがXと併用していることがわかります。Xでの攻撃的な投稿や仕様変更を受けてBlueskyでは、「Xから避難してきました!」といった投稿も見られます。「引っ越し」「移動」ではなく「避難」という言葉が使われることからも、Xから完全に移行するつもりはないユーザーが多いの かもしれません。
また、Xとの併用率が高く維持されている理由として、Xでしか繋がることができない人・見られない投稿があることが考えられます。Xでの人間関係を保つためや、企業アカウント・有名人のアカウントを閲覧するためといった理由でXに留まっている人も多いのではないでしょうか。
この併用率の高さの背景を、i-SSPの調査協力モニターに対して1年に1回実施している「メディア利用に関する定点アンケート調査」の結果から見てみましょう。図表7はXのイメージ・行動に関するアンケート調査の結果をX利用者全体、X・Threads併用利用者、X・Bluesky併用利用者で分類して示したものです。
図表7
「Xでしか得られない情報がある」と回答したのはX・Bluesky併用利用者で42.4%、X・Threads併用利用者で37.9%となっています。約4割の利用者にとって、XにはThreadsやBlueskyでは代替できない情報があると考えられていることがわかります。また、「商品やサービスを購入するときの参考になる」「商品やサービスについての詳しい情報を得るために見る」「発信・投稿(写真のアップを含む)をしている」といった回答は、それぞれ併用ユーザーの方がX利用者全体よりも高く、併用ユーザーはより能動的にXを利用していると考えられます。
続いて、図表8はXのフォローの種類に関するアンケート調査の結果をX利用者全体、X・Threads併用利用者、X・Bluesky併用利用者で分類して示したものです。特徴的だったのは企業・ブランド・店舗の公式アカウントをXにてフォローしている割合です。X・Threads併用利用者は47.3%、X・Bluesky併用利用者は53.1%と、約半数がフォローしていることがわかります。また、X・Theasds併用利用者が「芸能人・有名人」をXにてフォローしている割合は56.7%と高いことも特徴的です。企業・ブランドをはじめとしたXにしかない公式アカウントや著名人のアカウントを閲覧したいユーザーにとって、そのニーズはThreadsやBlueskyでは代替できないのかもしれません。
図表8
このようにThreadsやBlueskyの利用者はXから離脱することなく併用している人が多いことがわかりました。Xでしか見られない企業や著名人のアカウントがあることからXに留まる人も多いと考えられます。今後の企業や著名人の動向が、これらのSNSの利用状況にどのような影響を与えるのか注目です。
テキスト型SNS、3つのサービスの利用実態を分析すると、それぞれの特徴が見られ、新たなSNS誕生後もXからは離脱しないユーザーの姿が見えてきました。一見似ているように見える3つのテキスト型SNSもそれぞれのポジションを持ち、それぞれの特徴を活かしながら、ユーザーに異なる価値を提供していることがわかりました。
まず、圧倒的な利用率を誇るX。新しいSNSが登場しても、利用者を逃がしていません。
ユーザー数が多く、公式アカウントや有名人も多いため、「情報収集・情報発信がしやすいサービス」として評価されているのかもしれません。仕様変更などに対してネガティブな声もありますが、便利さを評価しているユーザーが多いのではないでしょうか。
次に利用を広めているThreads。投稿できる文字数が多く、その日のエピソードや思ったことを詳細まで共有できます。周囲の世間話が聞こえてくるようなイメージで、家族とのエピソードなどをよく見かけます。Threadsは文章だけでなく投稿できる画像数も多く、自分の伝えたいことや載せたい写真を十分に共有できます。英語で「糸」の複数形であるThreadsの名前が示すように、様々な話題や人が絡み合うゆるやかな繋がりが感じられます。
そして、「平和で落ち着いている」と言われているBluesky。投稿へのリプライも肯定的なものが多い印象を受けました。また、2025年現在は広告が表示されないこともXやThreadsとの違いとなっています。情報社会の中で、一息つける場所やほど良い距離感で自由な場所が求められているのかもしれません。XやThreadsほど多くのユーザーがいないこともあり、気軽に安心してつぶやくことができる環境なのかもしれません。
SNSは楽しい面もある一方で、誹謗中傷や闇バイト・詐欺などのニュースも飛び交う現代。心理的な面も含めた「安全性」が求められてくるのかもしれません。SNSではリアクションを求めて、内容を誇張したり良く見せたりすることがあり、そこから誤解が生じたり、攻撃の場となってしまうこともあるでしょう。「SNS疲れ」や「デジタル疲れ」という言葉も生まれています。だからこそ、自然に、そして安心して利用できる場が好まれるのかもしれません。
ときおり、SNSにはそれぞれ「世界観」がある、という表現することもありますが、Threadsが豊かな文章や画像によって人と人をつないでくれる世界だとすれば、Blueskyはだれをもやさしく受け止めて、穏やかな時間に安心して浸ることができる世界なのかもしれません。今後、メーカーなどがアカウントを持ち、それらの世界に飛び込む際に、そうした「世界観」やそこで暮らす人々が創り出す雰囲気を十二分に理解して振る舞うことが大切になるはずです。
また、ThreadsやBlueskyはXと比較すると利用率は高くありませんが、今後ユーザーが増えるにつれてユーザー層の変化や雰囲気の変化も生じる可能性があります。今後もSNSの進化と人々の繋がり方の変化に注目し、どのような世界を創造していくのかを見守っていきたいと思います。
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