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生成AIは人間リサーチャーのレポートにどこまで迫れるか~生成AIで挑む これからの定性調査④~

はじめに

連載の第4回目となる今回は、いよいよ生成AIを使った定性調査の分析とレポーティングについてです。定性調査は、対象者の発言内容を解釈し、まとめる作業が多くの時間と労力を必要とするため、効率化が長年の課題です。生成AIは、大規模言語モデル(LLM: Large Language Model)を基盤としています。テキストデータの解析や生成を得意とするモデルです。そんな生成AIなら、定性調査で扱うデータである「人間の言葉」という非構造データを分析してくれるのでは?という期待から、生成AIに定性調査の分析をさせてみました。さて生成AIは定性調査の効率化に貢献できるのでしょうか。

本記事では、弊社が自主企画として実施した、Z世代とミレニアル世代合計100人を対象とした定性分析 のデータ分析を事例としてご紹介します。この自主企画について少し説明をすると、「Z世代(15歳~25歳)」60名、「ミレニアル世代(26歳~39歳)」 40名にインタビューをし、「SNSをどのようなものと捉えているか」「理想とする将来像の有無・その内容」「自分たちの世代の多様性に関する考え方」等について、世代間比較をし、Z世代向けのマーケティングの新たな方向性について示唆を得る調査です。※1

1. 定性調査の分析・レポーティングにおける課題とは?

「生成AIに定性調査の分析をさせてみた」。まず、この検証を始めた経緯についてご説明します。定性調査の分析、レポーティングについて、避けられない課題があります。それは、「分析やレポーティングにまとまった時間を要する」点です。定性調査の分析では、対象者の発言を丁寧に読み取り、その意味を理解・整理しながらお題に沿ってわかりやすい形にまとめる必要があります。

まずは、我々が作成している定性調査のレポートの一例を示します。下図のように、調査課題に合わせ、明らかにしたいお題ごとにそれぞれのページを作成し、まとめの文章(サマリーセンテンス)とそれをサポートする具体的な発言内容を下に記載しています。また、調査のファインディングスから導き出したマーケティング施策の方向性をまとめる場合もあります。

図表1

定性調査の報告書の一例_調査のファインディングスのページ

図表2

定性調査の報告書の一例_マーケティング施策のご提案のページ

レポートの上部に記載があるサマリーセンテンスは、そのページで最も伝えたいことをまとめた文章で、作成にとても時間がかかっています。

さて、この文章の作成にはなぜ時間がかかるのでしょうか。今回の自主企画で行った分析の過程を例として、インタビューを行った後、レポートを作成するまでに、定性リサーチャーが行うことをご紹介します。

まず、インタビューが終わった後、実査を視聴していた関係者(モデレーター、分析者、クライアント様等)でインタビューの内容について振り返りを行います。この振り返りを通じて、重要なポイントについて関係者の見解の認識合わせをします。その後、分析者が、改めて対象者の発言を読み込み、解釈して構造化し、調査のファインディングスとしてレポートにまとめます。

発言の解釈や構造化とは例えば、このようなことです。
インタビューにて、「目指している人物、理想としている人物はいますか?それはどんな人ですか」という問いかけについて、図3の通り発言が得られたとします。これらの発言から、次のようなファインディングスを導き出せます。
「目指している、理想としている人物として、ミレニアル世代は芸能人やスポーツ選手など「憧れ」的な人を想定、Z世代は身近で手が届きそうな「目標」的な人を想定している。」

図表3

発言の解釈と構造化の例

調査の目的は、対象者の個別の意見を理解することではなく、それらを統合して、「どのような傾向があるのか?」を明らかにすることです。ただ発言を並べるだけでは、どのような示唆が得られるのかが見えにくくなります。そこで、リサーチャーは発言を整理し、論理的な規則を導き出すことで、「この調査から何が言えるのか?」を明確にします。
この、「発言を解釈して構造化する」、「調査のファインディングスを見つける」ことは、対象者の発言から、今まで言語化されてこなかったルールを導き出し、それを言葉で表現するというクリエイティブな作業です。その言語化のひらめきを得るために、リサーチャーが様々な方法で時間をかけています。例えば、対象者全員分の意見をExcelに一覧にしてまとめたり、ホワイトボード一面を使って考えを整理したりなどです。(図4_リサーチャーの分析の仕方例参照)。また、ファインディングスが見つかったら、今度はレポートを読む人全員に誤解なく伝えるための表現・言葉探しが始まります。適切な表現・言葉を探して、文章を書いては消して、書いては消して…。とても楽しい作業ですが、それと同時に骨が折れる大変な作業です。

図表4

リサーチャーの分析の仕方例

レポートの作成は、このような、膨大な時間がかかるクリエイティブな専門性の高い作業のため、一人のリサーチャーが対応できる案件数が限られていたり、レポートを書けるリサーチャーが不足したりということがあります。そこで、生成AIの力を借りて、この分析とレポーティングの工程にかかる時間を短縮(効率化)できないかと考えて今回の検証に至りました。

2. Z世代・ミレニアル世代100人調査データで「生成AIの実力」を検証

具体的な検証方法を説明します。100 人分の発言録データ(発言録については第2回の連載をご覧ください)を読み込み、お題の分析をさせ、サマリーを出力します。そして、その分析結果をこの自主企画調査のインタビューを実際に見ていた定性リサーチャーが見て、人間が書いたレポートのサマリーセンテンスと比べてどうかということを評価します。今回のインタビューについては、インタビュー参加者から事前に「生成AIにデータを読み込ませる」ことについて同意を取得した上で実施しています。

検証したお題は2つで、①「それぞれの世代が目指している、理想とする人物」についての調査結果のまとめ、②Z世代に有効なマーケティング施策の方向性の考察についてです。なお、プロンプトは複数回試行錯誤を行いました。その結果、生成AIにプロンプト文で「お題だけ」を与えた場合は、調査課題に合ったアウトプットが得られなかったため、下図5、6の青色の線の箇所のように、「分析時の視点」を与えています。

図表5

プロンプト抜粋_お題①「それぞれの世代が目指している、理想とする人物について」

図表6

プロンプト抜粋_お題②「Z世代に有効なマーケティング施策の方向性の考察」

3. 生成AI vs 人間リサーチャー、アウトプット比較

お題①「それぞれの世代が目標とする人物について」について、人間リサーチャーと生成AIが出したサマリーは下記の通りです。

図表7

アウトプット_お題①「それぞれの世代が目指している、理想とする人物について」

結果として、人間リサーチャーのまとめに記載ある内容は網羅されており、さらに生成AI独自のプラスアルファの分析が出力されました。この出力結果で特に素晴らしい点は、「現実的かつ手の届く範囲の人物」、「創造性」や「積極性」を評価している」、「自分自身の可能性を広げる手本」等の言葉を、生成AIが発言を分析し、出力しているということです。これらの表現は対象者が直接発言しているわけではないので、生成AIがその発言内容の意味を解釈し、表現をしたものになります。我々定性リサーチャーは、対象者の発言を解釈して、それをまとめる適切なワードを探すのに時間をかけているため、それが生成AIで出せてしまうことに驚きを隠せませんでした。

お題②「Z世代の多様性に関する考え方から導き出せる、マーケティング施策の方向性の考察」について、人間と生成AIが出力したまとめは下記の通りです。

図表8

アウトプット_お題②「Z世代に有効なマーケティング施策の方向性の考察」

結果として、生成AIから、調査結果を踏まえた施策の考察が出力されました。上記の例では、「Z世代は同世代の中に多様性が高いことを認識している、自分たちを一くくりに考えることが難しい」という調査結果を踏まえて、「Z世代の多様性を考慮し、細分化されたターゲティングが重要である」、「一律の商品・サービスではなく、違いを捉えたうえでより細かいセグメントに合わせた提案が求められる」という施策の考察が出力されています。やや具体性に欠ける内容ではあるもの、調査結果を踏まえた施策の方向を、短時間で出力してくれるというところに着目すると、人間が施策立案に困った時に、その方向性のアイデアを複数与えてくれる存在として活用することができるかもしれません。

4. 生成AIは定性調査の分析でどのように活用できる?

前パートの結果から、下記のように活用できることが考えられます。
①レポーティングの効率化
分析視点を与えれば、生成AIが必要な分析を適切にして、文章化してくれます。また、その分析に至った具体的な発言やその要約等も出力してくれるため、定性調査のレポーティングを効率化できます。前述の通り、定性調査のレポーティングは、対象者の個々の発言を丁寧に読み取り、解釈し、そしてそれを適切なワードで表現するというとてもクリエイティブで時間のかかる作業です。この工程を生成AIがやってくれるだけで、とても大きな効率化になります。また、調査のまとめをスピーディーにできることにより、マーケティング施策の策定により時間をかけることができる等のメリットがあります。

②マーケティング施策の方向性のアイデアの多産化
生活者の意見から論理的に考えて有効なアイデアが、人間が考えるよりも早く、多く、出すことができます。今までは、分析者、もしくはインタビューを視聴していた関係者が考えて施策のアイデアを出していましたが、やはり人間が考えている以上、その人の経験値や考え方に影響されたアイデアだけになってしまいます。生成AIが出力したアイデアが現実的に実現不可能なものであったとしても、そのアイデアからディスカッションを広げ、より良いマーケティング施策を策定できる可能性があります。

まとめ…
今回の検証を通じて、生成AIが定性調査における分析・レポーティング工程の効率化に大きく寄与する可能性があることがわかりました。特に、膨大な発言録データから意味を構造化し、適切な表現でアウトプットする能力には目を見張るものがありました。また、マーケティング施策のアイデア創出も助けてくれる可能性があります。
一方で、今回の検証でも、分析視点の設定は人間リサーチャーが行いました。このように、生成AIに読み込ませる際の分析視点の発見、表現の最終調整など、人間リサーチャーによる判断が依然不可欠です。現時点では、生成AIは補助的な役割として、効率化と新しいアイデアをもたらす一方で、リサーチャーの専門知識や洞察力を補完する形で活用するのが理想的です。 生成AIの成果を最大限活かすためには、AIと人間の役割分担や、リサーチの目的に応じた最適な活用方法を追求する必要があります。次回の連載では、生成AIが得意なことや苦手なこと、そして人間リサーチャーには今後どのようなことが求められるのかを、考察をしていきたいと思います。

■注釈 ※1 弊社の自主企画、Z世代・ミレニアル世代の100人調査についての内容はMarkeZineに寄稿しています。ご興味がある方はご覧ください。https://markezine.jp/article/detail/47708

著者プロフィール

村田 万由子(ムラタ マユコ)プロフィール画像
村田 万由子(ムラタ マユコ)
株式会社インテージ エクスペリエンス・デザイン本部 リサーチ事業推進部
F2Fアナリシスグループ リサーチャー/モデレーター

2021年にインテージに入社。定性アドホック調査をメインとして調査の企画からレポーティングまで担当。食品・飲料、ビューティー、日用品、車など多岐にわたる業界のクライアント支援実績あり。先進技術と定性調査のコラボレーションに興味があり、現在は日進月歩の生成AIの、定性調査における活用方法について模索している。

株式会社インテージ エクスペリエンス・デザイン本部 リサーチ事業推進部
F2Fアナリシスグループ リサーチャー/モデレーター

2021年にインテージに入社。定性アドホック調査をメインとして調査の企画からレポーティングまで担当。食品・飲料、ビューティー、日用品、車など多岐にわたる業界のクライアント支援実績あり。先進技術と定性調査のコラボレーションに興味があり、現在は日進月歩の生成AIの、定性調査における活用方法について模索している。

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