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TVCMの効果はどれくらい持続するのか?
―ログデータを用いた人ベースの検証

日本人のTV離れが起き、広告媒体としてのTVの価値が低下しているといった話を耳にされる方も多いかと思います。日本におけるTVの保有率は依然9割[ⅰ]を超えており、TVCMに多額の予算を投資する広告主様も少なくない一方で、TVCM効果の可視化が、より強く求められるようになっています。その影響もあってか、近頃では複数のTVCMの効果計測サービスがリリースされ、これまで不透明だと言われていたTVCMの効果をデータで検証する動きが加速しています。

この効果検証において重要なのが、前提条件としての「TVCM効果の持続期間」の設定です。これを誤ると、効果を過小あるいは過大に評価してしまうことになります。TVCMに触れてからどのくらいの期間、生活者のアクションに影響しうるのでしょうか。生活者の行動ログデータを用いて見てみました。

TVCMの効果測定にある“隠れた”前提

TVCM効果の計測手法はいくつも存在しますが、主な手法を分析粒度の観点で分類すると、図表1のようになります。

図表1

分析手法によってメリット・デメリットが存在するため、“完璧”な手法は存在しません。しかし、いずれの分析であっても「TVCMの効果がどれくらい持続するか」という前提をしっかり把握して結果を解釈することは共通して重要です。

例えば、ID単位の分析で、TVCM接触者と非接触者の、翌月の商品購入率を比較したとします。この場合は、TVCM効果が1ヶ月程度は持続することを仮定して、成果指標とおいた商品購入率への影響をみていることになります。また、セグメント単位の分析で、TVCM放映直後(数分~数時間)の成果指標を見てTVCMの効果を検証する場合は、「TVCMの効果は放映直後にのみに現れる」と仮定していることになります。
問題は、「TVCM効果の持続期間」を適切に把握、設定しないと、TVCMの効果を過大・もしくは過少に評価してしまい、誤った意思決定を導いてしまう可能性があることです。このとき、データを解釈するメンバー間で、こういった前提条件の認識を合わせておくことが、データの利活用には欠かせません。

そこで、この記事では、スマートフォンアプリ利用(インストール/アクティベーション)を成果指標として、複数のアプリカテゴリで「TVCM効果の持続期間」を分析してみました。その結果や検証方法を通じて、TVCMの効果検証における、より適切なリサーチスキームを考える一助としていただければ幸いです。

ID単位のTVCM接触効果 検証スキーム

活用データ

図表2が今回検証に用いたデータの詳細です。NTTドコモの携帯ユーザーのうち、別途同意をいただいた方のTVCMの接触とスマートフォンアプリ利用を横断して分析することができる、di-PiNK®[ⅱ]を活用しています。これにより、「どの人が、いつCMに接触し、いつアプリを利用したのか」を把握し、精緻な分析を行うことが可能です。

図表2

検証方法

広告接触からアプリ利用までの流れを時系列、かつ人ベースで精緻に追うことができるというデータソースの強みをもとに、デジタル広告の効果検証で用いられる「ラストタッチアトリビューション」の考え方をTVCMに応用しました。図表3の様に、最後にTVCMに接触してからインストールなどのアクションを起こすまでの「インターバル日数」をTVCMの残存期間とみなし、その分布を分析しています。

図表3

ID単位のTVCM接触効果 検証結果

TVCMの残存期間について

前節での考え方をもとに、各カテゴリでどれくらいのインターバル日数でアプリ利用に至るケースが多いのかを検証します。その前に、アプリの利用やインストールを成果指標に置いた際に、生活者の行動パターンとして実際にありえそうなものを想像してみます。(図表4)

図表4

こちらの概念図は筆者自身の経験をもとに作成しました。TVCMの効果は、間接的な効果も含めて考えると、即時~数週間以上に渡って現れる可能性があります。重要なポイントは、TVCMの効果を長期的なもの(例えば数か月以上)と仮定することは可能ですが、期間を延ばせば延ばすほど、他の広告施策や自然流入などの外生的なイベントが影響し、TVCMの効果と言い切ることが難しくなることです

では、実際のデータではどのような傾向になっているのでしょうか。図表5は、先述の定義のインターバル日数に伴うインストール者の変化をアプリカテゴリ間で比較しています(比較を容易にするために、カテゴリ間で水準を揃えています)。

図表5

こちらのチャートをみると、どのカテゴリにおいても、
① TVCM接触後数日間の、インストール者数が多く、かつ傾きが急な期間(赤枠)
➁ TVCM接触から日数が経ち、インストール者数が少なく、傾きが0に近い期間(グレー枠)
の2つの期間が存在していることがわかります。

TVCM効果はTVCM接触後の時間経過と共に減少していくと考えると、傾きがほぼ0になっている期間はTVCMの効果があまり残っておらず、自然に発生する流入(オーガニックなインストール)が大半を占めていると解釈することができます。そのため、TVCMがアプリ利用に与える効果の持続期間は、曲線の傾きが0に近づく日数までと考えられ、一般的に1週間程度と解釈するのが適切だといえるでしょう。
以上の結果は、休眠復活の指標として採用した「アクティベーション(前回利用から7日以上開けて再度利用した場合)」においても共通するものです。ただし、アクティベーションの場合はインストールに比べて、TVCMの効果で動かしやすい指標であるため、指標の傾きが少し急になっています。

図表6

エンタメ系アプリのTVCM効果検証

ここからは、前節で明らかになった「アプリのインストール/アクティベーションに対するTVCM効果の持続期間は1週間程度である」という結果に基づき、エンタメ系アプリを例に、
1)持続期間を1週間と定義したときのTVCMの効果量はどれくらいか、
2)1週間の中でTVCMの効果はどのように分布しているか、
3)TVCMに接触してからすぐにアクションを起こしてもらうには累積でどれくらいの接触回数が必要か、
という3つの視点で結果を見ていきましょう。

まずは、効果量です。エンタメ系アプリでインストール/アクティベーションそれぞれのアクションを起こした人のTVCM接触率を見てみました。アクションから遡って7日以内にTVCMに接触していた人の割合が図表7です。4割程度はTVCMに接触していることから、TVCMの効果は低くはないといえそうです。ここで効果持続期間の考え方を取り入れずに、アクションを起こした人の出稿期間通してのTVCM接触有無で算出した場合、この接触率はより高くなります。しかし、その差分は「TVCMの効果を過大評価している分」と捉えることができます。

図表7

次に、効果の分布です。図表8は、インターバル日数ごとのアクションを起こした人の割合を累積で示しています。このチャートからは、「TVCMに接触した日(0日後)にアクションを起こした人が30%程度を占めている、すなわちTVCM効果の30%程度は初日に得られる」と解釈することができます。また、この結果からは、例えばTVCM効果を放映直後0~2日で確認した場合、TVCMの効果を1/3~1/2程度に過小評価してしまっている可能性があることが示唆されます。

図表8

次に、必要な接触回数です。図表9はインターバル日数ごとの、アクションに至るまでのTVCM累積接触回数のチャートです。累積の接触回数が多いほど短期間での成果に寄与しやすいという、直観に反しない結果が得られました。エンタメアプリでは、放映後すぐにアクションを起こしてもらうために4~5回程度のCM接触が必要だと解釈できます。

図表9

アプリカテゴリによるTVCM効果の違い

最後に、TVCMの効果の出方をカテゴリ間で比較してみます。インストールとアクティベーションで結果に大きな差が見られなかったため、インストールに絞っています。

図表10はアプリをインストールした人のTVCM接触率をカテゴリ間で比較した結果です。先述のエンタメ系アプリと比較すると、ゲームアプリと小売の接触率が低いことがわかります。接触率は各業界のTVCM出稿量にも依存するため一概には言えませんが、どちらのカテゴリもTVCMの効果だけでアプリをインストールするケースよりも、カテゴリのファンや既存顧客がTVCM以外の方法でアプリを認知し、インストールするケースが多く、それが結果に表れていると考えることができます。

図表10

続いて、インターバル日数ごとのインストール者数の分布です(図表11)。ここでは、各アプリカテゴリのインストールへの心理的・物理的な距離が結果に現れました。特に、ゲームアプリは放映後数日でインストールに至る比率が高い一方で、利用する場所との物理的な距離がある小売店舗のアプリについては、TVCMの効果が表れるまでに日数が必要と考えられます。ゲームと小売の間に位置する、エンタメ・飲食・ライフスタイルについては、小売店舗ほどの物理的な距離はないものの、生活スタイルに直結するアプリであるため、既存の利用サービスとの比較など、検討する時間がゲームと比較すると必要であることが結果に表れていると解釈できます。いずれにしても、放映直後数日の結果だけをTVCMの効果と解釈してしまうと、TVCMの効果を過小に評価しているといえるのではないでしょうか。

図表11

平均接触回数のチャートについては、インストールに至るまでのTVCMの接触回数はアプリカテゴリによって差がありますが、どのカテゴリでもエンタメ系アプリと同様の結果が得られたため、掲載を割愛します。

さいごに

データの整備やテクノロジーの発展、広告主様のニーズから、TVCMの効果測定が広まっています。TVCMの効果を正確に評価して、正しい意思決定をするためには、今回分析した“スマートフォンアプリのインストール・アクティベーション”においては、放映直後や数か月後までの成果を見るのではなく、放映後1週間程度の期間で成果を測るのが適切であるといえます。
また、TVCM効果の持続期間は、成果指標や検証したい仮説によって異なります。スマートフォンアプリ利用と類似の行動であるサイト訪問などについては、本検証と類似した結果が得られることが期待されますが、検索やオンラインコンバージョン、実店舗への来訪・購買の場合はまた違う波形になるでしょう。また、短期の行動変容だけで効果を語るのは難しく、態度変容も合わせて評価すべき場合もあるかと思います。

インテージでは、広告の効果検証を精緻に分析するお手伝いをさせていただいております。活用可能な技術やデータは日々変わっていきますが、時代やお客様にニーズに合わせたソリューションを提供できるよう邁進してまいります。広告のリサーチでお困りのことがありましたら、是非お気軽にお声がけください。


ⅰ[出典]2022年 スマートテレビ利用実態調査結果
全国15-79歳男女を対象。「自宅内」「据え置き型」TVを対象。インテージ マイティモニターにおけるインターネット調査。
有効回答者数 6,909s。エリア×性年代構成比で日本人口母集団に準拠するようウェイトバック集計。
ⅱ【di-PiNK®(ディーアイピンク)とは】
許諾を得たNTTドコモの位置情報やサービス利用情報、アンケート回答データ、インテージが保有する生活者購買データ、TV・新聞も含めたメディア接触データ、提携先から提供される3rd Partyデータ等、Webとリアルのデータを統合したDMPです。di-PiNKを活用すると、ユーザーニーズや顧客像を知る手がかりを得て、生活者のインサイト(新たな発見)を可視化することができます。また、これを基に生活者へのコミュニケーションを高度化することにより、既存ユーザーや見込み顧客に対してシームレスにコミュニケーションを図ることができるようになります。
※「di-PiNK」は株式会社ドコモ・インサイトマーケティングの登録商標です。
ⅲ TVCM接触直後のアプリ利用においても、他施策や自然流入などの影響の可能性は排除しきれません。特に、TVCM施策はYouTube等の他メディア出稿と並行して実施されることが多く、要因の切り分けが困難です。媒体ごとの効果を分解する事例として、エリアごとに出稿媒体の組み合わせを分けて出稿する手法が用いられることがあります。
ⅳ 7日以上の間隔を開けずにTVCMの放映が確認できた期間を各放映期間と定義

ⅴ【Media Gauge® Dynamic Panel®とは】
Media Gauge® TVと、株式会社ドコモ・インサイトマーケティング(以下DIM)が所有するdi-PiNK(DMP)を推計して紐づけ、推定在宅情報や性年代などの属性を利用して人ベースに分解し、指定されたターゲットごとに統計処理を行うことで視聴者データを算出するサービスです。Media Gauge® TVとdi-PiNKの推定紐付けは、インテージがDIMに委託し、DIM内で加工・集計を行っています。DIMは個人情報を保有しない事業者であり、Media Gauge® Dynamic Panel®データが個人情報に結び付けられることはありません。また、Media Gauge® Dynamic Panel®の提供物は、匿名化・統計化されたレポートとなります。

ⅵ TVCM接触直後のアプリ利用においても、他施策や自然流入などの影響の可能性は排除しきれません。特に、TVCM施策はYouTube等の他メディア出稿と並行して実施されることが多く、要因の切り分けが困難です。媒体ごとの効果を分解する事例として、エリアごとに出稿媒体の組み合わせを分けて出稿する手法が用いられることがあります。

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