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【VR技術のリサーチ活用】自動車の内装・外装デザインをVR技術で評価する

様々な分野での活用が期待されているVR(バーチャルリアリティ)。VR技術のリサーチ活用については、知るギャラリーでも「リサーチにおけるVRやバーチャル技術の活用」といった記事でお伝えしてきました。
2023年にはゲーム業界から新たなVR端末(PlayStation VR2、Meta Quest 3など)が発売されています。また、不動産会社がVRの住宅展示場を開いたり、小売りがVR空間上に百貨店を再現したりと、ビジネス分野での応用も開始されており、身近に感じることも増えてきました。

この記事では、VR技術のリサーチ活用の最新取り組みとして、様々な応用技術を組み合わせた自動車の内装・外装デザイン評価の実証実験の結果を中心にお届けします。VR技術を様々な分野のリサーチに「早く」「美しく」「安全」に活用できるようにするための取り組みをご覧ください。

車のデザイン評価における課題

一般的に、自動車のデザイン評価においては、評価したいデザインを反映して作った車体デザインモデル(クレイ)と、比較対象の実車を大きな会場に持ち込んで実施する方法が取られています。このため、評価する車種や種類を増やす場合は、複数の車体デザインモデル(クレイ)を作成する必要があり、スケジュールや費用が増加する課題がありました。

インテージでは、この課題の解決にVR技術の活用が有効だと考え、2022年に「バーチャルカークリニック」という手法を開発しました。
通常の会議室程度の部屋で、調査対象者が椅子に座ってVRゴーグルを装着すると、眼前に会場の風景が広がります。その空間(VR空間)で、自動車のデザインやカラーを確認します。自動車の前、後、横など様々な方向から見たり、自動車に近づいたり離れたりして、実際の会場と同じようにVR空間で確認することができます。この手法により、車体のデザインモデル(クレイ)の作成が無くなり、より多くの生活者の「声」を自動車デザインに反映できる、より多くの「アイデア(可能性)」を手軽に試せてスピーディな開発につなげられる、「安全」かつ「スピーディ」に自動車デザイン調査ができる、といったメリットが実現できました。

しかしながら、この手法には大きな課題がありました。自動車メーカーがデザイン開発時に使用するVRのデータ形式と、この手法で使用するデータ形式が異なるため、調査のためには新たにデータを作成する必要があったのですが、自動車の開発工程がタイトであるのに対し、データ形式の変換に3週間ほどの時間を要していたため、デザインをタイムリーに評価したいという「スピード」面のニーズを満たしていなかったのです。また、調査会場のPC上で動作させるためには、データ作成時にポリゴン数(3Dデータを構成する最小単位)を減らす作業を行う必要があり、画質の劣化が避けられず、自動車の微細な曲面の表現ができないといった「画質」面にも課題がありました。

「VRでのデザイン評価」をより高精度で手軽なリサーチへ

前述の「スピード」、「画質」の2つの課題を解決するために、株式会社NTTドコモの協力を得てXRリモートレンダリング環境(クラウドレンダリングを活用したVRコンテンツの視聴基盤サービス※)を用いることにしました。クラウド上にある高性能のGPU(画像処理装置)サーバーを用いて、3Dデータを描画し、高速回線FTTHや、5Gを用いて直接VRゴーグルにストリーミング配信による3D画像表示を可能とする技術です。

従来手法では、会場に設置した高性能PCで3Dデータを描画し、VRゴーグルに表示していましたが、XRリモートレンダリング環境を用いることにより、自動車メーカーが開発時に使用している3Dデータを変換すること無く直接クラウド側で描画し、高精細のまま、離れた場所にあるVRゴーグルにストリーミング配信することが可能となります。

図1

従来と今回のシステム比較図

この結果、前述の2つの技術的な課題は解消され、VRでのデザイン評価がより高精度でスピーディに行えるようになりました。

また、従来の手法ではVRゴーグルの数だけ高性能PCを準備する必要があり、1回の調査で評価してもらう人数に制約があったのですが、今回の手法では、VRゴーグルだけを準備すれば、調査会場の5G回線やWi-fiを経由して、XRリモートレンダリング環境に接続することが可能となり、同時に多くの調査対象者にデザイン評価をしてもらうことが可能になりました。

高精細画像でのデザイン評価結果

2023年10月にXRリモートレンダリング環境を利用した「バーチャルカークリニック」の実証実験を、40人の調査対象者にて実施しました。評価対象となるデザインのVRデータは、2022年の「バーチャルカークリニック」の実証実験でもご協力を頂いたダイハツ工業株式会社様よりご提供頂きました。 ここからは、この調査対象者に今回の手法について評価してもらった結果を紹介します。

【内装デザイン評価】

まず、自動車の内装(インテリアの質や色)に関するデザインを評価しました。調査対象者には、質感やカラーが異なる6種類の内装をVRゴーグルで見て比較・評価してもらいました。

図2

自動車内装デザイン
自動車内装デザイン

調査対象者には、「どの程度内装デザインの評価ができたか」を聴取し、調査手法の評価を行いました(図3)。
その結果、55.0%の調査対象者から「内装デザイン・カラー評価が「かなりできる」」、と回答を得られ、TOP2(かなりできる+できる)では、95.0%となりました。VRを用いた内装デザイン評価は十分に可能であると言えそうです。
また、既にゲームやエンターメント施設等でVR体験がある経験者においては、72.7%から「内装デザイン・カラー評価が「かなりできる」」という評価を得ました。サンプル数が少ないので参考値ではありますが、VRへの慣れが評価の精度を上げている可能性があります。今後VR体験をする人が増えていくことで、VRを活用したリサーチの精度がさらに上がることも期待できるのではないでしょうか。

図3

内装デザイン評価について

【外装カラー評価】

続いて外装カラーの評価を実施しました。9種類のカラーの車をVRで表示し、評価を行いました。

図4

自動車外装デザイン
自動車外装デザイン

従来の会場調査では複数カラーの車体デザインモデル(クレイ)を通常準備することはできず、2Dイラスト等で評価してもらうことが多かったのですが、VR技術を用いることにより眼前で9種類の色の車を3Dで評価することが可能となります。

内装デザイン同様、手法自体の評価をした結果が図5です。「外装カラー評価が「かなりできる」」が37.5%、TOP2(かなりできる+できる)」が87.5%となりました。外装カラーに関しても、多くの方に対してVRを用いたデザイン評価が可能であると考えます。
ただし、7.5%と一部ですが「できない」との回答があり、その理由を確認すると、「もっと大きく車を表示して欲しかった」「車を回転させて欲しかった」などの回答がありました、今回は3台ずつ見せて評価してもらうという形式をとったのですが、その見せ方に関して一部改善が必要であることがわかりました。 これらへの対応の難易度は高くなく、改善によりさらに精度を上げることができそうです。

図5

外装デザイン評価について

【内装デザイン、外装カラー評価結果まとめ】

実証実験に参加した調査対象者から、実際に評価をしてみた感想を聞いてみました。
  “「実際の車に乗り込んでいる」感覚で評価ができた。
  “自分が車に乗っている感覚。
  “室内の広さが体感できる。
  “実車に試乗している感覚。”
  “部材の質的な印象が評価できる。
  “カタログで見るのと比較し、各段にわかりやすい。
  “座っているだけで複数の車を見比べることができる。
など、VR体験ならではのコメントが多く得られました。3D(立体視)での体感複数の車の比較を通して、かなりリアルなイメージを持って評価してもらえた、とも言えそうです。

自動車購入時、VRで購入する車種を決定できるか?

最後に、今回のVR技術を自動車販売店での購入車種選びにも使えると思うか、を聞いてみたところ、調査対象者の30.0%が「VRの画像のみで購入する車種を決めることができる」と回答しました(図6)。

図6

VRのみで車種決定が可能か

近年の自動車ディーラーの統合により、扱う車種数が増加し、自動車ディーラーを訪問しても実際に購入したい車種を見ることができないケースも増えていると思われます。このVR技術を活用すれば、店頭に訪問した顧客が、椅子に座った状態で、多車種にわたる外装・内装・カラーを確認することが可能となり、自動車ディーラーでの自動車選択が容易になるのではないでしょうか、今後の自動車販売のスタイルの変化が期待されます。

図7

バーチャルカークリニック実査風景

今回ご紹介した、XRリモートレンダリング環境を用いた「バーチャルカークリック」は、従来型会場調査と比較して、以下の3つの特徴があります。
  ・早い        (デザイン開発データがそのまま使える=コスト・時間の削減)
  ・美しい (データ形式の変換や、ポリゴン数の削減が無いので、美しい画像)
  ・安全        (セキュア環境でのストリーミング配信が可能:XRリモートレンダリング環境)
インテージでは、XRリモートレンダリング環境を用いた「バーチャルカークリック」を、今後幅広く活用していきたいと考えています。また、この手法を自動車以外の領域、特に住宅や建築、大型家電などで展開することも検討しております。ご興味のある方は、ぜひお問い合わせください。


※クラウドレンダリングを活用したVRコンテンツの視聴基盤サービス:VRデバイスやタブレットだけでは描画できない高精細な3Dコンテンツを、クラウドでのアプリ実行とエッジコンピューティングで簡単に閲覧可能にする技術。株式会社NTTドコモによる関連リリースはこちら

<実証実験>
実施日 2023年10月14日(土)~10月15日(日)
サンプル数:40s(男性20s、女性20s)
調査対象者条件:現在軽自動車を運転している人
会場:株式会社NTTドコモ docomo R&D OPEN LAB ODAIBA(https://docomo-openlab.jp/127/
協力:ダイハツ工業株式会社、株式会社NTTドコモ

著者プロフィール

濱 賢太郎(はま けんたろう)プロフィール画像
濱 賢太郎(はま けんたろう)
株式会社インテージ カスタマー・ビジネス・ドライブ本部 企画・分析4部 
未来共創センター
・大学卒業後家電メーカーへ就職、ワープロ、FAX、携帯電話、通信映像端末、
太陽光発電の商品企画を担当。
・2013年株式会社インテージに入社し、国内外の生活者リサーチ、
コンサルティングに従事。
・2017年「未来共創センター」を設立。
企業との共創による新価値の創出を軸に、共同研究(POC)、
生活者研究を多数実行中。
・現在はWell-being領域に興味関心を持ち
(社)データビリティコンソーシアムに参画
「Well-being部会」を立ち上げ、異業種との共創活動に取組み中。

株式会社インテージ カスタマー・ビジネス・ドライブ本部 企画・分析4部 
未来共創センター
・大学卒業後家電メーカーへ就職、ワープロ、FAX、携帯電話、通信映像端末、
太陽光発電の商品企画を担当。
・2013年株式会社インテージに入社し、国内外の生活者リサーチ、
コンサルティングに従事。
・2017年「未来共創センター」を設立。
企業との共創による新価値の創出を軸に、共同研究(POC)、
生活者研究を多数実行中。
・現在はWell-being領域に興味関心を持ち
(社)データビリティコンソーシアムに参画
「Well-being部会」を立ち上げ、異業種との共創活動に取組み中。

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