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日本の「幸福度」は本当に低いのか?
~国際比較調査でみる10点法での評価スコアの国別傾向

アンケート調査において、評価を0点から10点の11段階で取得する方法は幅広く行われており、グローバルな調査でもよく用いられている。この聴取方法で取得したアンケート結果について、国ごとの比較を行うと、日本の調査結果が低くなることが度々指摘されている。なぜ、そのようなことが起きるのだろうか。 本記事では、この要因について、インテージグループR&Dセンターで行っている研究の途中結果を紹介する。

各分野における10点法(11段階スケール)の活用

医療分野では痛みの強さの指標であるヌーメリック・レイティング・スケール(NRS:numerical rating scale)というものがある。全く痛みがない状態を「0」、自分が考え想像しうる最悪の痛みを「10」として、今感じている痛みの点数を聞く方法である。

個人的な感想となるのだが、自身が病院での検査後にこれを聞かれると回答に大いに迷う。「少しだけ痛みあるけど」などと思いながら5点~7点あたりで迷うのだ。病院によっては9点と10点に色がついていたりして、9点以上を答えると別室に呼ばれて特別対応になるのだろうな、と想像もする。

Well-being(幸福)分野では毎年3月に発表される世界幸福度調査(The World Happiness Report)注1がある。これはキャントリルラダー(Cantril ladder)という方法で幸福度を測定しているのだが、こちらも最も不幸な状態を0点 最も幸福な状態を10点として10点満点で答えさせている。2022年の発表では日本の順位は54位となっておりウズベキスタンの1つ下でホンジュラスの1つ上である。

マーケティングの領域ではNPS®(ネットプロモータースコア)がある。この手法も「XX(サービス名/商品名/企業名)を友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか」という10点満点でのデータ収集がベースとなっている。分析上は0~6点を「批判者」、7~8点を「中立者」、9~10点を「推奨者」としている。グローバルの比較の中で日本人の調査結果は厳しく出すぎているのではという指摘がある。注3

10点法の「普通」とは何か

“10点(11段階)の「普通」は国や個人で違う”という仮説を設定し、検証を行った。 検証は「10点満点で「普通」は何点ですか」という質問を11か国の10代~50代の男女に聴取し(設計は調査設計の項を参照)、その結果を分析した。

日本の結果は図表1の通り、5点が最も多く半数近くを占める。ただし、6点や7点という回答も多い。平均値は6.0点である。

図表1

なお、男女別、年代別の差は少しあるが、全体傾向として5点が多い傾向は変わらない(図表2)。

図表2

今回、日本を含むアジア9か国とイギリス、アメリカを加えた計11か国についても同様の設問にて聴取しているので見ていきたい。

国別の差は大きいものであった(図表3)。日本以外では中国、韓国が日本と同様に5点の人の比率が高い。ベトナム、シンガポールでも5点を「普通」にしている人が最も多いが7点、8点も多くなっている。インドネシア、イギリス、アメリカでは7点、フィリピン、タイでは8点が最も多い。インドでは10点である。10点を「普通」とする感覚は本検証の中では分からないが、普通と満点を同一として捉えて、10点からの減点で思考しているのではないかというのが一つの仮説である。

図表3

どの国も10点満点に対する「普通」の点数についてはかなり幅広い感覚を持っているのと同時に、国ごとの感覚の違いについては大きな開きがあると考えられる。

「普通」の感覚と幸福度との関係

本検証では自分の幸福度についても10点法で聞いている。11か国の合算であり、あくまでも参考的なやり方になるが、5,500人分のデータで表側に「普通」の点数、表頭に「幸福度」として集計してみた(図表4)。分布の多い組み合わせほど濃い色を付けてみると、総じて普通の点数と幸福度が一致する傾向が見て取れると思う。このことから、どの国の人も、自分の思う「普通」の点数を基準として「幸福度」も回答しているようにみえる。

図表4

蛇足ではあるが国別の幸福度は図表5のとおりである。

図表5

最後に

今回の結果からは、日本では「普通」を低めの点で表現する傾向が強く、国際調査の単純比較で「特別に幸福度が低い」とは言い切れないということがわかる。

10点法は幅広く用いられている手法ではあるが、グローバル調査の結果を国別に比較する際においては「普通」の点数が違うことに注意して解釈することが必要だと考えられる。「普通」の感覚は個人によってもバラツキがあり、10点法自体がやや扱いにくい方法にも思えた。もちろん、段階尺度全般において個人が回答する基準には違いがあるのであるが、中心を定めない10点法(11段階)においては問題が大きいように思えた。

調査目的によるが、国別など大きく異なる層の比較を行う際には、「点数の意味を捉えなおす」、「中心について一定の基準を示した上で測定する」といった方法論などを検討、用いていくべきと考える。


<調査設計>
調査手法:dataSpring社(インテージグループ)のモニターに対するインターネット調査
調査対象:15才~59才男女個人
調査エリア:日本、中国、韓国、インド、インドネシア、フィリピン、タイ、ベトナム、シンガポール、イギリス、アメリカ
各国以下の設計にて回収を行い、設計を超えた場合にはウェイトバック集計を行い設計に合わせている。


<参考>
注1 https://allabout.co.jp/gm/gc/393438/ 
注2 https://worldhappiness.report/
注3 https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/casestudy/00012/00661/

著者プロフィール

長崎 貴裕(ながさきたかひろ) 取締役執行役員 CDO  経営推進本部長プロフィール画像
長崎 貴裕(ながさきたかひろ) 取締役執行役員 CDO  経営推進本部長
社会調査研究所(現インテージ)入社後、訪問・郵送・定性・電話調査、企画分析 、リサーチ・解析システム開発、インターネット調査事業立ち上げ、ネットリサーチ会社代表取締役社長、メディア調査(シングルソースパネル)、データサイエンス、R&D、アライアンス等を経て現職。
定量データの測定とバイアスについての研究は引き続き強くこだわりたい。

社会調査研究所(現インテージ)入社後、訪問・郵送・定性・電話調査、企画分析 、リサーチ・解析システム開発、インターネット調査事業立ち上げ、ネットリサーチ会社代表取締役社長、メディア調査(シングルソースパネル)、データサイエンス、R&D、アライアンス等を経て現職。
定量データの測定とバイアスについての研究は引き続き強くこだわりたい。

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