ミレニアル世代のマーケターが思い描く2025年とは
新型コロナウイルス感染症の拡大は、予測することができない世界規模の危機であり、企業のマーケティング活動にも、大きな影響を与えています。企業として何を提供していくべきか、マーケティング活動で何にフォーカスしていくか、コロナショック以前に描いていた戦略・活動計画の見直しを迫られている企業も少なくないでしょう。苦境を経験している現在だからこそ、それ以前に抱いていた目標や想いを再確認し、変革への手がかりを得ることが大切になってきます。
コロナショック以前、マーケターは自身のキャリアや業界の近未来をどのように思い描いていたのでしょうか。
インテージでは昨夏、マーケター自身が抱く近未来への期待を発掘すべく、商品・サービス開発支援プログラムである「デ・サインリサーチ」を活用し、マーケター2,000人にアンケート調査を実施。
質的データと量的データを組み合わせた分析手法「PAC-i」を用いて得られたデータを解析し、出力されたマインドディスカバリーマップ(以降「マップ」)を「デ・サインワークショップ」で読み解くことにより、マーケターが描く2025年への期待について、インサイトを得ました。
アウトプットの一部は、2019年秋にマドリードで開催されたマーケティングリサーチ国際会議ESOMAR FUSIONでも発表しています。
この記事では、調査結果の中から、これからのマーケティング業界を担う世界のミレニアルマーケター(20-35歳、マーケティング業務経験13年未満マーケター)に焦点を当てた結果を紹介します。
世界のミレニアルマーケターが思い描く2025年とは
図表1は、世界のミレニアルマーケターの、マーケティング業界への期待構造を表すマップです。
図表1
以下の設問を提示して得られたキーワードと、対象者によって回答された距離データを解析し、描かれています。
【設問】2025年、あなたは、グローバル展開をするある新事業のマーケティング業務に携わっていたとします。 そして、その新事業を支え、業界を牽引するマーケッターとして成長し、グローバル市場においても、インパクトを与えられる存在になりました。 ある日、多くの国に発刊されているビジネスレビューA誌から、“あなたにとって、マーケティング活動のキーワードとは何か。どのように捉えて、新事業を進めているのか”について、取材を受けることになりました。さて、あなたは、どのようなことをキーワードに取材に応えると思いますか? 敢えて、上記の情報だけを頼りに、想像力を膨らませてお答えください。 |
マップを読む際には、ワード同士の距離に着目し、その関係性を解釈していきます。ワード同士が近ければ、関係性・意味合いとしても近く、反対に遠ければ、関係性・意味合いが遠いと読みます。また、マップの中心は“ハブ” と呼ばれ、様々な要素と関係のあるワードが集まり、テーマにおける一つの答えが表出する場所となります。
ミレニアルマーケターへの調査では、2025年のマーケティング業界への期待構造のハブに「strategy」「vision」が表出。また、ワード出現ランキング(図表2)では、8 位に「innovation」、12 位に「innovative」があり、この2 つのワードは、日本マーケターのTOP20にはランクインしていない、世界のマーケターならではの傾向でした。
図表2
ここからは、マップに出現したワードに注目しながら、デ・サインワークショップで得られた知見を紹介していきましょう。
(1) 原点は“意志あるストラテジー”
ミレニアルマーケターのハブには、「strategy」が出現し、近隣には、「serious」「hardworking」「hardwork」があります(図表3)。
図表3
一見、「戦略立案への真摯な取り組みへの期待」と読むことができます。また、ハブに存在していることから、マーケティング活動において重要な要素であると捉えられているようです。さらに周辺に目を向けると、「vision」が存在します。マップ上では近隣に存在するワードは同じ意味を持っていると読みます。マーケターとしてビジョンドリブンな戦略を立てる、“意志あるstrategy” を持つことが期待構造の中枢となっていることがうかがえます。
図表4はミレニアルマーケターと世界のシニアマーケター(40-55歳、マーケティング業務経験10年以上)のハブを比較したものです。
図表4
シニアマーケターのハブには「proven」「visibility」「change」「growth」「success」が出現。「変革や成長は見える形で示したい、成功を可視化したい」という期待が表れています。
戦略にビジョンを持つことをハブ連想に持つミレニアルマーケターに対し、変革や成功の可視化を重視するシニアマーケターと、世代によって、その期待構造の中枢に違いが見られました。
図表1のマップの全体像に戻ると、ミレニアルマーケターのハブ「strategy」を起点に、北西方向に「innovative」、北方向に「innovation」が存在しています。このことから、“意志あるストラテジー” で目指すものは、“革新”、“革新性” であることがわかります。ここからは、この2つのワードの意味を読んでいきましょう。
(2) “イノベーティブ品質” という新指標
ハブの北西方向にあたる「innovative」周辺には、「quality」、「different」、「unique」が出現します(図表5)。「quality」は、ワード出現ランキング4 位(9%)と多くの人に挙げられたワードですが、それが「innovative」の近隣に存在することに注目しました。
図表5
革新的な商品の品質の良さが認められるには、企業ブランド資産や効果的なコミュニケーション施策を用いるか、ある程度市場形成を進める必要があります。マップ上で同じポジションにあることを足掛かりに解釈を拡げると、商品のコモディティ化が進む中で、「新規性」や「自分向け」などの指標に加え、商品の品質の良さを測る新たな指標として、「その商品は、innovativeかどうか」が問われるとも考えられます。
2025年のマーケティング業界では、革新性を定義し、指標として用いることの重要度が増すのかもしれません。
(3) ソーシャルグッドな商品市場の形成
次に、「strategy」から北方向にある「innovation」に着目します(図表6)。周辺には、「product」、「marketing」が存在し、世界のミレニアルマーケターは、マーケティングとは「イノベーションプロダクトを開発すること」と捉えていることがわかります。
図表6
では、このイノベーションプロダクトとは、具体的にどのような商品なのでしょうか?さらに同じ方向にワードを読み進めると、「eco friendly」「environmentally friendly」「challenge」「proud」「kind」が並んでいます。企業の成長、顧客の満足のためだけに革新的な商品を生み出すといったニュアンスとは異なり、社会、地球環境への影響を考慮した商品をinnovationと定義しているのです。マーケターとして、社会や地球環境に“kind”であり、ソーシャルグッドな商品を生み出すことに挑戦したいという意思や、ソーシャルグッドな商品市場の形成が進むことへの期待が垣間見えます。
(4) イノベーションに不可欠な “遊び心”
「strategy」の北西方向の「innovative」、北方向の「innovation」の意味合いは異なるものでしたが、いずれの方向にも共通する期待要素が浮かびあがっています。北西方向には、「humorous」「funny」「sense」、北方向には、「humour」「fantastic」「enthusiastic」が存在しています(図表7)。
図表7
ミレニアルマーケターは、革新・革新性を目指す上で、個人のユーモアや、センス、楽しさ、といった“遊び心” が欠かせないと考えているようです。マップのハブは、「strategy」という一見ロジカルで堅実なワードですが、それを起点とした文脈に存在する、人間の楽しむ欲望や高揚感が、マーケターとしてありたい姿、マーケティング業界への期待と言えます。
この記事で焦点を当てた「世界のミレニアルマーケター」以外にも様々な発見が得られた今回の調査。知るGalleryでは、続編として、日本のミレニアル世代とシニア世代のマーケターが描く期待、また、世代による違いに着目し、紹介する予定です。
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この記事は、インテージの「デ・サインリサーチ」というワークショッププログラムの結果をもとにしています。
調査概要
※この記事はMarkeZine55号に掲載された寄稿記事(「2025年マーケターとしてのありたい姿」)を再構成したものです。
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