arrow-leftarrow-rightarrow-smallarrow-topblankclosedownloadeventfbfilehamberger-lineicon_crownicon_lighticon_noteindex-title-newindex-title-rankingmailmessagepickupreport-bannerreportsearchtimetw

令和の朝食メニューから読み解く、生活者の「食」意識の変化

私たちの生活基盤の一つである「食」。食にまつわる環境や意識、そして行動は変化を続けています。例えば令和の「食」はそれ以前からどのように変わってきているのでしょうか。

この記事では、2人以上世帯の食卓実態を捕捉するパネル調査「インテージ・キッチンダイアリー」を使用して「平成最後の4年間」と「令和最初の4年間」の食の変化を捉えることを通して、その変化の背景やこの先私たちがどのように食と向き合っていくことになりそうかを、少し考えてみたいと思います。

令和になって「おうちランチ」、「おうち夕食」は増加するも、「おうち朝食」は横ばい

まずは平成と令和で、家での朝食、昼食、夕食の「場」の増減を見てみたいと思います。図表1に、各食シーンの内食率(家で食事をとった世帯の割合)を示しました。平成と比べて、令和では昼食と夕食の内食率が大きくアップしていることがわかります。これは、2020年から始まったコロナ禍による外出自粛や在宅ワークの増加、子供たちの休校、外食店の営業自粛などの影響が大きいものと考えられます。

図表1

「平成最後の4年間」と「令和最初の4年間」の食シーン別内食率

食に限った話ではありませんが、「家ナカ消費」といったワードが注目されたことも記憶に新しいのではないでしょうか。こちらの『生活者の時間の使い方』の記事に掲載しているダッシュボード「内食率」のタブでもご覧いただける通り、コロナ禍が一段落ついた現在でも、依然として昼食、夕食の内食率はコロナ禍以前よりも若干高めの傾向が続いています。昼食、夕食の「内食化」は、一定の定着が見られたと言えそうです。

このように、令和がスタートしてから1年経たないうちにコロナ禍が始まっていることから、「令和最初の4年間」はどうしてもコロナ禍の影響を無視できません。ただし朝食は、昼食、夕食とは異なり、平成から令和にかけて内食率に大きな増減はなく、不思議なほど一定の割合をキープしています。

もちろん、朝食の内食率は元々高いレベルであるため、これ以上増える余地が少ないということも一因ではあります。とはいえ、ここまで動きが少ないのは少し意外な印象です。朝食をとらない理由の一つとして、朝が忙しくて食事の時間が取れない、ということが考えられますが、「元々朝食をとる習慣がない人(世帯)は、コロナ禍で家にいることが増えて移動時間が減ったからといって、急に朝食を家で食べるようになるわけではない」ということになるのでしょうか。

では、朝食の中身にいたるまで平成から令和にかけて何も変わらなかったのかというと、そういうわけでもないようです。次の章で、朝食のメニューの変化を見てみたいと思います。

令和になって減っている朝食メニューは?

朝食の「中身」の変化を把握するために、「令和最初の4年間」の朝食メニューの出現率(家での朝食全体における各メニューが出現した回数)を図表2に示しました。平成との比較のため、「平成最後の4年間」を100として表示したのが右側の“対平成”のチャートです。100より大きいものが、平成と比べて出現が増えたメニューということになります。

図表2

朝食メニューの変化

まず目に付くのがご飯系メニューの出現率の低下です。ご飯系メニューは全般的にほぼ毎年のように右肩下がりの推移を見せており、コロナ禍を機に急減したというわけではありません。「日本人のご飯離れ・米離れ」が、朝食においても顕著に表れているという見方が妥当ではないでしょうか。

ご飯が減ると、ご飯の出現率と相関の強いメニューの出現も当然低調になります。「漬物・ご飯のとも」が減っているのはまさに「ご飯離れ」が背景にあると考えて間違いないでしょう。「主菜類 」の減少についても実は同じ原因と見ています。朝食における「主菜類」のうち、3割ほどを占めるのが焼き魚、干物焼きといった魚系メニューであり、こうしたメニューも多くが「ご飯があってこそ」と捉えられるからです。

このように、「ご飯離れ・米離れ」は単純に米の消費が減るというだけではありません。ご飯の周囲にある「ご飯と相性の良いメニューや食材」とも一蓮托生の関係にあり、ともに連動しているという意味で、とても大きな課題が潜んでいるように感じられます。

「ご飯離れ」の一方で、必ずしも「パンシフト」ではない朝食市場

そもそも、なぜ朝食でご飯が減っているのでしょうか。原因は一つではないと思いますが、おそらく準備に手間や時間がかかることに対して負担を感じていることが大きいのではないでしょうか。
外で働く女性が少なく(専業主婦が多く)、かつ3世代世帯もめずらしくなかった時代と比べると、女性の社会進出、核家族化が進み専業の家事従事者が少なくなっている現代においては、「朝からご飯を炊く」「ご飯に合うおかずを準備する」というのはなかなかハードルが高いものであることが推察されます。

このように朝食でご飯離れが進んだ現状を目の当たりにすると、その減った分はやはりパンに流れているのだろうということを思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。ところが実態はそう単純でもなさそうです。
図2を見ると、確かに菓子パンは増えていますが、朝食の代表的なメニューである食パン・トーストは、実はほぼ横ばいで推移しているのです。このように菓子パンとトーストに差が出る要因もおそらくご飯と同じで、「準備の手間」によるものではないかと見ています。

トーストは焼く「だけ」ではあるものの、そのひと手間がかかることには変わりなく、さらにバターやジャムなどを塗って食べる場合が多いです。封を開けてそのまま食べられる菓子パンに比べると相対的には「面倒くさい」ということになるのだろうと考えられます。

このように、ご飯系メニュー、パン系メニューの動きから見えてくることとして、令和の朝食では「準備が簡単で、それだけで食べられる」ということが一つの鍵になっているように思われます。

「朝からお菓子」に垣間見える生活者の柔軟な行動変化

ここまでメインとなる主食類を中心に見てきましたが、脇役で目を引くのは菓子・デザート類ではないでしょうか。平成の頃から実に3割近くも出現を伸ばしています。具体的にどういったものが「菓子・デザート類」全体を押し上げたのでしょうか。

図表3にその内訳を寄与度の形で表しましたが、「ナッツ・乾きもの」「チョコレート」「クッキー・ビスケット」が特に押し上げ効果の高かったトップ3となっていることがわかりました。

図表3

菓子・デザートの朝食出現率を押し上げたメニュー

「朝からお菓子」と聞くと、どういったイメージを持つでしょうか。もしかしたら「一部の若い世代だけのことなのでは?」という想像されるかもしれませんが、キッチンダイアリーからはむしろ比較的高い年代の世帯のほうがこの傾向が顕著となっています(図表4)。

図表4

菓子・デザートの朝食出現率の変化(主婦年代別)

また、「ご飯やパンの代わりにお菓子だけで手軽に済ますように変わってきているのでは?」と思われるかもしれませんが、決してそういうわけでもないようです。

図表5は、朝食に出現するメニューの数を表したものです。たとえば「トースト、スープ、ゆで卵、コーヒーが出た場合」は4メニュー登場しているので「4」とカウントします。同様に、「クッキーと牛乳だけで済ませた」という場合であれば「2」となります。
もし「お菓子だけで済ませた」のであれば、お菓子が出た朝食のメニュー数は朝食平均を下回るはずですし、「お菓子を何かの代替にした」であれば、朝食平均と近しい値になってくるはずです。ところが実態は、朝食平均を大きく上回る結果となりました。すなわち、朝食で登場するお菓子は「何かの代替」や「単純な簡便性追求」ではなく、通常の朝食にプラスオンしていることが示唆されています。

図表5

朝食に出現するメニューの数(令和最初の4年間)

どういう理由やきっかけがあって、「プラスオン」することに至ったのでしょうか。ここからは推測にはなりますが、入り口は「健康ニーズ」だった可能性が高いのではないでしょうか。

ナッツには様々な栄養機能成分が含まれているということは、近年すっかり認知されてきました。また、チョコレートも最近では健康訴求の高カカオタイプのものの市場規模が拡大してきています。ナッツやチョコレートを、通常のおかずとは別の位置づけで、一種のサプリメントのような感覚で習慣的に摂取している人が増えてきたということなのではないでしょうか。

食卓データから見えた、思わぬ食シーン

前段でご紹介した「朝食のご飯離れ」といった大きな動きがある中で、健康をキーとした新たな別の流れも着実に生まれつつあるように感じられます。一般的な概念から考えるとナッツやチョコレートは「お菓子」であり、朝食との結びつきを見出しづらいものです。ところが生活者は、その概念を超えた行動を起こしているとも言えるのではないでしょうか。
いわゆる供給側(メーカーや小売りなど)の想定とは無関係に、「モノをシーンに合わせていく」というアクションを独自に進めているように見えます。

今回の朝食の分析を通して、これからは「生活者自身がモノをニーズに柔軟にあてはめていく」という時代が始まりつつあることを実感しました。そしてそれは、おそらく食卓という限られた範囲の話だけではないようにも思われます。供給側のお仕着せのメッセージよりも、生活者の行動を観察しそこに寄り添っていくようなコミュニケーションが、今後ますます求められてくるのではないでしょうか。その先に、「意外なものが意外なシーンで」というチャンスが見えてくるのかもしれません。

著者プロフィール

玉置 亮(たまき りょう)プロフィール画像
玉置 亮(たまき りょう)
インテージ 食卓アナリスト
インテージ・パネル事業開発部・消費者パネルグループにて、キッチンダイアリーの企画・運用を担当。食品メーカーや流通・卸売業といった食を取り巻くプレーヤーに向け、生活者理解を深めるソリューション開発にも取り組んでいる。また、食のトレンドや生活者のマインド変化についての情報発信も積極的に行っている。

インテージ 食卓アナリスト
インテージ・パネル事業開発部・消費者パネルグループにて、キッチンダイアリーの企画・運用を担当。食品メーカーや流通・卸売業といった食を取り巻くプレーヤーに向け、生活者理解を深めるソリューション開発にも取り組んでいる。また、食のトレンドや生活者のマインド変化についての情報発信も積極的に行っている。

転載・引用について

◆本レポートの著作権は、株式会社インテージが保有します。
 下記の禁止事項・注意点を確認の上、転載・引用の際は出典を明記ください 。
「出典:インテージ 「知るギャラリー」●年●月●日公開記事」

◆禁止事項:
・内容の一部または全部の改変
・内容の一部または全部の販売・出版
・公序良俗に反する利用や違法行為につながる利用
・企業・商品・サービスの宣伝・販促を目的としたパネルデータ(*)の転載・引用
(*パネルデータ:「SRI+」「SCI」「SLI」「キッチンダイアリー」「Car-kit」「MAT-kit」「Media Gauge」「i-SSP」など)

◆その他注意点:
・本レポートを利用することにより生じたいかなるトラブル、損失、損害等について、当社は一切の責任を負いません
・この利用ルールは、著作権法上認められている引用などの利用について、制限するものではありません

◆転載・引用についてのお問い合わせはこちら