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パッケージデザイン 完全自動生成の可能性

世の中には多種多様な消費財が溢れているが、そんな消費財のパッケージデザインを自動的に生成することはできないのだろうか? これまでのパッケージデザインはデザイナーの経験やリサーチを通じて検討されてきたが、消費者のニーズは多様化する一方であり、いかにタイムリーにデザインを制作できるかも重要となってきている。この記事では、そんな環境に置かれているパッケージデザイン制作に対して、自動的に効率良くデザインを生成できるAIの、インテージの研究事例を紹介する。

人の感性を推測するAIをパッケージデザインに応用する

パッケージデザインの構成は、流行りの色味やキャッチコピー、シズル感など様々な要素によって構成されている。さらに、デザインから文脈を理解してもらい、商品特徴を訴求できることも両立しないといけないため、自動的に生成するハードルは高い。

一方で、デザインに対する人の評価に関しては、過去に行ったパッケージ評価の調査結果を用いてAIで推測できることが過去の研究からわかっており、AIが人の感性の一部を理解できる可能性が示されている。(詳細は「マーケ人材不足を救うか 深層学習の最前線~データサイエンスを知るコラム⑥」 をご覧ください。) デザインの作り手は、受け取り手の感性・評価を意識してデザインを考えるはずであり、AIで人の感性を推測してパッケージ評価ができるなら、デザインの自動生成を行える余地もあると考えられる。

いずれかの手法でデザインを生成できさえすれば、そのデザインを評価する仕組みをもって生成モデルを洗練できるため、まずは生成手段の探索が必要となる。
一般的にGAN※ 1による生成では、人物の顔などのデータ量が豊富な場合は確度の高い生成ができるものの、こと消費財パッケージに関しては同じジャンルの商品群では数千種類しかなく、学習データの観点から高品質な画像生成は困難である。

そこでパッケージデザインをより細かく分解して情報量を削減することで、より精度の高いデザインを生成できないか、検討を進めることとした。

パッケージデザイン生成をするために有効な特徴量の探索

パッケージには様々な情報が内在しており、たとえば形状や背景、ブランド名、説明文などがあるが、これらは数値化することができる。数値化できるならばAIでもデザインパーツの特徴を学習することは可能であり、パッケージデザインを生成する際の一助となるであろう。
図表1では商品画像からデザインパーツを機械的に分離し、それぞれの色や位置の情報を抽出したイメージを示している。

パッケージ全体で特徴を捉えるのに対して、分割して特徴を抽出するほうがより情報の純度が高くなるため、違和感のないデザイン生成につなげられる可能性があると考えている。 そこで、この手法を用いてデータ収集を行い、AIによるパッケージデザイン生成を試みた。

パッケージリニューアルのトレンドを踏まえた、AIによる次期デザイン予測

今回はデザインの統一性があり、リニューアル回数の多いアルコール飲料を対象とすることとした。具体的には国内メーカーの350ml缶の画像データからデザイン抽出と、パッケージ画像生成モデルの検討を進めた。

ただ、同じアルコール飲料でもデザインは多様であるため、一絡げにして取り扱うことは避けたい。そこでよりシンプルに学習ができるよう、リニューアルを繰り返した同一ブランドの商品群を対象として、デザイン生成を試みた。具体的には過去から現在までの商品群に含まれるデザインパーツを分離し、さらにデザインの時系列的な変遷傾向から将来的にどのようなパッケージデザインが生み出されそうかを推測することとした。

図表2はあるアルコール飲料のデザイン変化を目検チェックしたもので、デザインパーツは共通点とトレンドによる変化に分かれていることがわかった。この傾向は他の商品でも同様であり、共通点はブランドらしさを体現し、トレンドで目新しさを強調するよう構成されていた。

このそれぞれのデザインパーツに対して前項で記述した方法を用いて数値化を行い、過去から現在までの商品群のデータを時系列表現することで、将来どのようなパッケージデザインへと推移していくかを、時系列予測モデルで推測することとした。
これはデザインのトレンドが消費者ニーズの変遷を経てチューニングされてきたという前提のもと、時系列的に一貫性があるのであれば、その傾向は未来にも適用する価値があるという仮説のもと行っている。結果については市販されてきたパッケージデザインを用いているため、イメージ図をもとに結果を紹介することとする。

図表3はデザイン変遷イメージを大まかにイラスト化したものであり、三日月や長方形などで表現したデザインパーツの色や位置の変化を示している。

たとえば、三日月は真ん中から上部へ移動し、長方形は色が暗くなりながら上部へ移動している。実際はデザインパーツの線の太さや面積、テキストの形状も変化するためさらに複雑であるが、一定の規則性をもってデザインが時系列で変化しているのはおもしろい。
これらのデータを学習した結果、図表3の最も右にあるようなデザイン案が生成された。 パッケージ全体を学習するのではなく、デザインパーツに分け、それぞれの色や位置、形状、面積などの特徴と、時系列変化を学習することで、画像精度が高まったのみならず、ブランドらしさを示す「変えてはいけない部分」とトレンドを踏まえて「新しくすべき方向」を区別して予測することができたのではないだろうか。

実は、このようにデザインパーツの位置や色などが一定のベクトルで時系列変化する商品は他にも散見された。たとえば、ロングセラー商品はブランドとしての視認性を確保すべく共通項を残し、目新しさの訴求のために位置や色などが変更されることがある。このようなケースであれば、AIでデザインを生成する対象としては相性が良いように思える。ただし、推測したパーツ位置通りだと、デザインとしてのバランスに違和感が生じてしまうため、現状では推測値をもとに手動で補正をしたイラスト化を行っている。
また、ゼロベースでデザインを生成できておらず、改善の余地はあるものの、AIでも一部のデザインを生成できる可能性があり、興味深い結果になったと考えている。

本稿では、パッケージデザイン生成を自動的に行う手法の検討をしてきたが、生成されたデザインの評価と、その評価を生成モデルへフィードバックするところまでは進められていない。また、同一ブランド内でしかデザイン案を生成できていないため、将来的には何らかの指定した条件に従って、自由にデザイン案を生成できる仕組み作りにもチャレンジしていきたい。
図表4はそんな世界観を表現したものだが、従来手法のさらに上流に本稿のようなAIが登場するイメージだ。従来、属人的な性格の強い業務領域であるが、AIが介入することで新たなデザイン案の量産にもつながる可能性も秘めているのではないだろうか。


※1 【GAN(Generative Adversarial Networks)】
ディープラーニング技術の一種で敵対的生成ネットワークと呼ばれるもの。画像を生成する構造と、それを正しいかどうかを判別する構造が含まれており、両者が競合することでリアルな画像生成を実現できる技術。

※この記事はMarkeZine74号に掲載された寄稿記事(『パッケージデザイン 完全自動生成の可能性』)を再構成したものです。

著者プロフィール

伊藤 友治 (いとう ともはる)プロフィール画像
伊藤 友治 (いとう ともはる)
製造小売業、専門商社を経て、インテージに入社したデータサイエンティストです。
主にマーケティング課題解決に対して、所謂データサイエンスの力でお手伝いしてきました。
昨年からは画像解析系のAI技術をマーケティング領域で利活用すべく、いくつかのプロジェクトを担当しています。
関連するフォーラム等へ足しげく通い、なるべく最新の情報についていくべくリサーチにも力を入れています。

製造小売業、専門商社を経て、インテージに入社したデータサイエンティストです。
主にマーケティング課題解決に対して、所謂データサイエンスの力でお手伝いしてきました。
昨年からは画像解析系のAI技術をマーケティング領域で利活用すべく、いくつかのプロジェクトを担当しています。
関連するフォーラム等へ足しげく通い、なるべく最新の情報についていくべくリサーチにも力を入れています。

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