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ワカモノの「多様性の尊重」と新しいお酒のある風景

1.はじめに ~変化する20代のお酒のある風景

今年も気象庁の予報通りに暑い夏となりました。
夏と言えば、とりわけ「ビール」をおいしく感じるシーズンでもあり、テレビなどでも実においしそうにビールを飲み干すTVCMを見かけることが多い時季です。

そのビールの飲まれ方が、若者の中で大きく変化しているようです。いや、正確にはビールだけでなく、その他のタイプも含めたお酒の飲み方、あるいはお酒のある風景が変化しているようです。居酒屋に行けば、「とりあえず生ビールを人数分」といったやや乱暴なオーダーは過去のものとなり、今ではサワーやハイボール、はたまたノンアルなど、思い思いの飲みものを手にスマートに乾杯!が当たり前の風景となりました。今回はそうした変わりゆくお酒のある風景を、20代の若者に注目しつつ眺めていきましょう。

はじめに自宅内および自宅外(お店)でお酒を飲まない人の割合の推移です。
インテージの自主調査によれば、2013年から2023年の10年間で自宅内、自宅外(お店)ともにお酒を飲まない人は増加傾向にあります(図表1)。

図表1

自宅内・自宅外でお酒を飲まない人の割合推移(2013年⇒2023年)

自宅内の非飲酒率に目を向けると、全体(20~60代)でも31.6%の人が自宅では飲まないと回答しており、こちらは7.7ポイント増加しています。また、20代ではこの10年で7.1ポイントほど増加し、2023年には35.2%の人が自宅ではお酒を飲んでいないようです。

自宅外(お店)もコロナインパクトにより2020~2022年は大きく非飲酒率が増加して、お酒のある場から距離を置いていたことが浮き彫りになっています。2023年になってもお酒のある場への戻りは鈍く、コロナ前の水準には回復していません。年代で比較すると20代の方が若干回復傾向は強いように映ります。
コロナ禍の生活者の変化を想像すると、感染予防による外食の抑制もありました。また、原材料や運送費の高騰により、さまざまな商品・サービスの「値上がり」があり、外食費の抑制傾向も見られました。さらには、以前よりもイエナカ時間を大切にするようになった潮流などもその要因にあるのかもしれません。

2.20代の家飲みトレンド ~サワーとハイボールの躍進~

「お酒離れ」が進む中、20代のお酒の飲み方はどう変化したのでしょうか?「家飲み(自宅)」と「外飲み(お店)」の2つのシーンに分け、飲むお酒の種類から見ていきたいと思います。

まずは、家飲みから見ていきましょう。20代が普段自宅で飲んでいるお酒について、2023年の調査結果を見てみると、67.4%の人が「サワー・チューハイ」と答え、1位となっています。実は2013年の時点で既にサワー・チューハイは1位でしたが、2位の「ビール・発泡酒・第三のビール」との差はわずか0.3ポイントと接戦でした。2023年には、2位のビールとは25.6ポイントと大きく差を付けており、この10年で20代の家飲みの主役はサワー・チューハイにシフトした印象です。
また、ハイボールもこの10年で人気を伸ばし、2023年では5位にランクインしています。ワインや日本酒を上回り、一躍、家飲みの定番となりました。(図表2)

図表2

「普段自宅でどんなお酒を飲むか」の推移(2013年・2023年)

このランキングを俯瞰して見ると、2023年においては上位3~7位が僅差となっており、3位の梅酒と7位の日本酒の差はわずか2.7ポイントです。こうした変化を目の当たりにすると「お酒離れ」や「ビール離れ」といったよく取り上げられる変化だけでなく、飲むお酒の種類が若者の間では多様化している可能性が考えられます。

3.20代の外飲みトレンド ~「とりあえずサワー」へ~

続いて、今度は「外飲み(お店)」について見ていきます。
20代が普段お店で飲んでいるお酒について、2023年の調査結果を見てみると、69.8%が「サワー・チューハイ」と回答し、家飲みと同じく1位という結果になりました。10年前の2013年と比較して見ると、当時はビールが1位となっており、この10年で逆転された結果となっています。家飲みと同じく、ビールからサワーにシフトする動きが見られ、「とりあえずビール」から「とりあえずサワー」へと変化しているようです。(図表3)

図表3

「普段お店でどんなお酒を飲むか」の推移(2013年・2023年)

2章での家飲みのデータと総合して考えてみます。
2013年の20代は、家飲みの1位がサワー・チューハイ、外飲みの1位がビールという結果でした。家飲みと外飲みとで1位が逆転していることから推察するに、当時の20代は自宅・お店といったシーンごとに飲むお酒を変えていたことが伺えます。

一方で2023年の20代は、家飲み・外飲みの1位ともにサワー・チューハイと一致していることから、飲用シーンにかかわらず、自分の飲みたいお酒を飲んでいる印象を受けました。近年では「多様性」という考えが進み、冒頭で触れたような「とりあえず生ビールを人数分」といった風景はめっきり影を潜めました。「アルハラ(アルコールハラスメント)」といったお酒のある場面での迷惑行為も学校や職場でも広く喚起されていることもあって、飲みたいお酒を自由に注文しやすい風潮がより広がっていると見ることができそうです。

4.実際の購買量から見る20代のお酒トレンド

20代の飲んでいるお酒について、今度は実際の購買量から変化を見ていきたいと思います。
2013年から2023年の購入容量の年平均成長率(CAGR)を見てみると、「ウイスキー」「チューハイ(中)」「チューハイ(ストロング) 」「ハイボール」で拡大傾向が見られます。中でも、この10年で定番となったハイボールは18.1%と高い成長率となっています。
一方で、「チューハイ(ストロング)」(アルコール度数7%以上)については、2013年から2020年にかけては大きく成長していたものの、2021年以降は縮小傾向に転じています。直近では厚生労働省が適正な飲酒に関するガイドラインを発表したこともあり、今後のチューハイ市場の成長は中アルコールがけん引していくことになりそうです。(図表4)

図表4

5.意識の変化とお酒との繋がり

ここまで、20代の飲酒行動の変化を見てきました。その変化の要因を探るため、最後に意識の観点からデータを読み解いていきたいと思います。

20代の「自分/生活についての考え方」を見ると、「自分をおさえても周りの調和を考えて行動している」は47.6%であり、この10年で減少しています。一方で「周りのことよりも自分のことを優先したい」は半数以上の52.6%となっており、増加傾向が見られました。また、関連した設問として「人は人、自分は自分なので他人のことは気にならない」についても、増加傾向となっています。(図表5)

図表5

20代 自分/生活についての考え方 回答率の推移(2013年・2023年)

飲むお酒の多様化や、家飲みと外飲みとで飲むお酒を区別しないといったトレンドは、こうした「自分」の優先度の上昇がひとつの要因として考えられそうです。個性や多様性の尊重が当たり前のものとして育ってきた今の20代は、必要以上に他人に合わせることはせず、各々が自由にお酒を楽しむ意識を持っているのではないかと推測しています。

6.さいごに ~新しいお酒のある風景のヒント

ここまでデータをひも解きながら20代のお酒のある風景を眺めてきました。「お酒離れ」と一括りに語ることなく、飲んでいるお酒のタイプなどにも目を向けてみると、多様なお酒の楽しみ方を通じて、「多様性を認め合う」や「自己の尊重」といったかれらが大切にしている価値観との繋がりも透けて見えてきました。

自宅近くのコンビニで、偶然にもかれらの買い物風景に出逢うことがありますが、その日の気分に合わせて1本、2本とその日に飲む分を買い物かごに入れたりしています。そんなとき、チューハイやサワーのバリエーション豊かな品揃えはかれらの選択をよりワクワクするものにさせてくれているのかもしれません。また、居酒屋ではテーブルごとに準備されたQRコードから各自が思い思いのオーダーができるシステムの導入が進んでいます。ホールスタッフの人件費高騰、人材不足といった課題への対応でもありますが、こうしたシステムがかれらの「思い思い・多様性」を後押ししているという側面もあるのではないでしょうか。そして、「多様性を認め合う」や「自己の尊重」という風潮は「お酒を飲めない人」や「お酒を飲まない人(体質的には飲めるけど)」がお酒のある場面でも楽しく過ごせる空気を広げてくれてもいます。
これからの変わりゆくお酒のある風景を、生活者のマインドやその潮流に着目しながらデザインすることで、新しいお酒のある風景を描くことができるかもしれません。

著者プロフィール

マーケティングパートナー第1本部 マーケティング企画推進部   玉木 隆士プロフィール画像
マーケティングパートナー第1本部 マーケティング企画推進部   玉木 隆士
2021年に株式会社インテージへ入社。
消費財におけるパネルデータの企画・分析を担当。
趣味は「水族館巡り」「イラスト」「買い物」。

2021年に株式会社インテージへ入社。
消費財におけるパネルデータの企画・分析を担当。
趣味は「水族館巡り」「イラスト」「買い物」。

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