インドのモーターショー 主要メーカーのパビリオン展示の特徴は? ~Auto Expo 2020 視察レビュー(前編)
2020年2月5日~12日の間、Auto Expo 2020が首都ニューデリー近郊のノイダのIndia Expo Martにて開催されました。本Expoは2年に1度開催されるモーターショーで、今回で15回目の開催となります。のべ約60万人が来場し、108社が約350点の展示を行いました。
インテージ・インディアでは本Expoに際し、視察に加えて来場者へのヒアリングも実施しました。事前の報道などから注目したポイントは2点、
① 中国メーカーの存在感
② EVをはじめとした先進技術
です。 上記を中心に、日本人リサーチャーの目線からAuto Expo 2020の様子をお伝えします。
【会場の様子】
Auto expoに2020見た中国メーカーの存在感
今回のAuto Expoはトヨタ・ホンダ・ヤマハなどの日系メーカーだけでなく、BMW・Audiなど高級車ブランドも軒並み出展を見送りました。その中で、韓国・中国メーカーのHyundai・KIA・MG・GWM(Great Wall Motor)の4社は、1社で1ホールを抑えた展示を行い、自社の世界観をアピールしていました。
【会場レイアウト】
(出典:Auto Expoホームページより)
今回インテージ・インディアでは、Auto Expoの来場者30名に対して、最も印象に残ったパビリオンについてヒアリングを行いました。その結果を、以下に図で示しています。
【最も魅力的だったパビリオン】
国別にみると30名中12名がMG・GWMの中国系メーカーのパビリオンが最も印象に残ったと話していました。理由としては、インドで人気の高いSUVを多く展示したこと、EVを数多く展示したことで先進的な印象を与えたことなど、展示されたクルマ自体の魅力度の高さがあげられます。それに加えて、ステージ・装飾・演出などへの投資を惜しまず、パビリオンを作りこんだことも関心を集めた要因でしょう。
Expoに出展していた他社メーカーの担当者が「MGとGWMは弊社と比べて2倍くらいの投資をしていると思う」と話しており、出展した競合企業としても中国メーカーの勢いを脅威に感じたのではないでしょうか。その一方で、韓国系メーカーは4名、日系メーカーはMaruti Suzukiの2名にとどまりました。本Expoにおいては中国系が大きなインパクトを残したといえるでしょう。
中国車に対するイメージは?
日本人からすると、中国車は技術力や安全性能などの面で日本車に劣っており、品質面に対する懸念があるのではないかと感じるのではないでしょうか。しかし、来場者にヒアリングをしてみると想定とは異なり、品質に対する不安はなく、むしろ価格に対する価値の高いクルマを提供してくれるという声が聞かれたのです。下記、いくつかコメントを紹介しましょう。
“私にとってはクルマ自体が気に入るかどうかが重要なのであって、どの国のブランドでも関係ない。もし、中国メーカーが価格対価値のあるクルマをインドで販売するのであれば、買わない理由がありますか?日本メーカーのクルマはとても品質が高いのは分かるが、値段が高いと思う”
“高級なドイツ車についているような機能やアクセサリが手ごろな価格のクルマについているのは魅力的だ”
“OppoやXiaomiなど中国ブランドのスマートフォンを使って問題を感じたことはない。中国製品だからというだけで、品質に不安を感じることはない”
もちろん、新規参入ブランドがゆえに、ディーラーやサービスセンターの数が既存メーカーよりも少なく、故障時のサポートに対する不安や、数年経ったときに購入時と同じ品質が保たれるのか、リセールバリューがあるのか、といった懸念の声があがりました。しかし、それを上回る魅力をインドの消費者は韓国・中国車に感じています。
過去1年での販売台数の変化を見ると、トヨタ・ホンダが大きく落ち込む一方で、新規参入のKIAはトヨタ・ホンダの2社合計を上回る販売台数を獲得し、MGも両日系メーカーに肉薄する台数まで成長してきています。こういった販売状況も、韓国・中国車への不安感を払しょくする一因となっているのではないでしょうか。
【販売台数実績(2019年1月対2020年1月)】
(出典:SIAMデータより弊社作成)
主要メーカーのパビリオン紹介
ここからは、中国韓国メーカー4社に加えて、インド地場のTata、日系のMaruti Suzuki 計6社のパビリオンを写真と共に紹介していきましょう。
[MG]
KIAと同様に2019年に参入したMGは、SUVのHECTORとZS EVを販売していますが、本Expoでは、SUV2モデルに加えて、セダンやハッチバック・MPVなど多様なボディタイプのクルマを展示し、多様な顧客層を取り込もうとしている様子が伺えました。EVにおいては、SUV・セダンの多様な車種を展示するだけでなく、電動のメカニズムを表した模型を展示したり、充電スポットを自宅に設置する際の様子がイメージできるようにしたりと、工夫を凝らした展示を行っていました。
また、全体的なテイストとして、イギリスのスポーツカーブランドとしての資産を活用し、クラシックカーを展示したり、イギリスの街並みを再現したりと、中国資本のブランドであることを感じさせない世界観を作り上げていました。
(来場者のコメント)
“ビンテージカーや古き良きイギリスの街並みを再現した展示はすごくいいと思った”
“EVの展示数が非常に多い印象を受けた。EVメカニズムの展示は目立っていてよかったと思う”
[GWM(Great Wall Motor)]
インドで未発売ながら、大きな注目を集めたのがGWMです。インド市場においても人気の高いSUVに特化したブランドらしく、インド人が好むゴツゴツした男性的な外観のモデルから、欧州の高級車を思わせる曲線的なボディラインのモデルまで、多様な選択肢を提示していました。また、世界各地の生産・販売拠点を示した地図や、海外拠点での歴史を展示することで、中国メーカーではなく“グローバルブランド”であることを意識的に訴求していました。
さらに、電動自動車の展示数が最も多く、自動運転の試乗を行うなど先進性をアピール。そして、エアバックなどの機構やEV電池の研究開発の展示を行うなど、安全・安心面での訴求も怠っていない印象を受けました。
パビリオン内では展示するコンセプトカーのデザインに対する来場者評価を行っており、インド人の嗜好性の把握に努める様子がうかがえました。
(来場者のコメント)
“GWMのパビリオンは、カラフルな電飾が施されていて非常に目を引いた”
“GWMは世界市場ではSUVカテゴリーのマーケットリーダーだということが分かり、このブランドに興味を持った。発売されたときにはディーラーで見てみたいと思う”
“安全性能の展示はGWMくらいしかなかったのでは?エアバックの展示が分かりやすかった”
[HYUNDAI]
新発売のエンジン車・コンセプトカー・電動車に加えて、コネクテッドやオンライン販売などサービス面などをバランスよく展示していた印象を受けました。燃料電池車や歩くクルマのコンセプトなど、他社にはなかった独自の展示が目を引きましたが、特に来場者に注目されたのは、ボリウッドスターのShahrukh Khanがブランドアンバサダーとして登場したCRETAの新モデル発表でした。また、クルマのオンラインショッピングも提案し、ディーラーが弱い地域やデジタル情報へのアクセスが多い若年層など、既存のユーザー以外の取り込みを狙っている様子が伺えました。
(来場者のコメント)
“私はCRETAを数か月前に買ったのだが、正直後悔している。今回発表されたCERATAは好きな顔をしている。もしこのモデルが発売されることを知っていたら、購入を延期していたのに…”
“Hyundai CoonectApp(Blue link)は、インタラクティブで私が欲しいと思うような機能がついていると思った”
[KIA]
2019年に参入したKIAは、SONETのコンセプトカーやEVのNIROやSOULなど、これからのクルマも展示していましたが、現在発売されている車の展示に多くのスペースを使っていました。売れ筋のSUV SELTOSと、1月に発売したMPV CARNIVALの多様なグレードを展示し、ショーケースとして活用している様子が伺えました。
その他では、コネクテッドサービスのブースも用意。 KIA車の購入者にGalaxy Watchをもれなくプレゼントし、クルマ・スマホ・スマートウォッチを連携させたサービスを提供していました。韓国メーカー同士のコラボレーションによって顧客を取り込もうとする戦略は両社の資産を活用した事例であり、日系メーカーにおいても活用の可能性があるのではと感じました。
(来場者のコメント)
“SELTOSとCARNIVALの色んなモデル展示がこのパビリオンの注目点だと思った。SONETのコンセプトカーやEVを見ると、KIAは非常にイノベーティブなブランドなのだと感じた”
“新しい技術がいろいろと詰め込まれたパビリオンという印象を受けた。インドで成功している理由が、このExpoに来て分かった気がする”
[Tata]
インド地場のTataは、乗用車だけでなく商用車も展示。パビリオン全体に緑を多用し、エコな印象を与えていました。また、CESS(Connected/ Electric/ Sharing/ Safety)をメインテーマに置き、先進的な印象も受けました。乗用車だけでなくバスやトラックなどの商用車のEVを展示しており、パビリオンの2階部分に設置した電動自動車(ALTOZ EV)の試乗スペースは多くの来場者の興味を引いていました。
また、筆者が確認した中では唯一Sharing(新車リース)の展示を行っていて、運送業者など商用車向けコネクテッド・アプリを紹介していたのがTataでした。
(来場者のコメント)
“Tataのパビリオンには驚かされた。芝生のようなカーペットがパビリオンのあちらこちらに置かれており、エコフレンドリーなメーカーであり、エコな車を販売していくというメッセージを感じた”
“2階部分のテストドライブコースには驚かされた。今まで何回もAuto Expoには来ているが、あんな展示方法を初めて見た”
[Maruti Suzuki]
大手日系メーカーの中で、唯一出展していたのがマルチスズキでした。コンセプトカーのFUTURO-eを出展したものの、売れ筋車種の新モデルの展示が大半を占めていました。
電動化の面では、EVのコンセプトカーを1モデル展示していましたが、Smart Hybridを訴求の中心においていました。全体的に“これから”の自動車像を提示するというよりも、“今”手に入る現実的な選択肢の提案に重きを置いており、他の大手メーカーと比べて目新しさに欠ける印象を受けました。
(来場者のコメント)
“インドで一番売れているメーカーらしく、身近なクルマが多く展示されていたと思う”
“Jimnyは昔のモデルだが非常に有名。その新モデルを見ることができて興奮した”
この記事では、Auto Expo 2020の主要メーカーのパビリオン展示についてお伝えしました。後編では、Auto Expo 2020で見られた先進技術の展示を中心にレポートします。
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