arrow-leftarrow-rightarrow-smallarrow-topblankclosedownloadeventfbfilehamberger-lineicon_crownicon_lighticon_noteindex-title-newindex-title-rankingmailmessagepickupreport-bannerreportsearchtimetw

インドのモーターショー 先進技術の展示の特徴は? ~Auto Expo 2020 視察レビュー(後編)

2020年2月5日~12日にインドの首都ニューデリーで開催されたAuto Expo 2020。
この記事では、インテージ・インディアの日本人リサーチャーが、電動化やコネクテッドなど先進技術の側面から、来場者のヒアリング結果を交えて本Expoを振り返ります。
各メーカーの展示のレポートは インドのモーターショー 主要メーカーのパビリオン展示の特徴は? ~Auto Expo 2020 視察レビュー(前編)をご覧ください。

本Expoでは、「AUTO EXPO – SHOWCASING MOBILITY OF THE FUTURE」ということで、先進技術に関連する展示が多くされていました。この中でも特に目立ったのは電動車・EVの展示でした。2030年までに段階的に電動化の推進を目指す政府の方針もあり、本Expoでは乗用車だけでなく、2輪・商用車など多様なEVが展示されていました。その一方で、自動運転・シェアリングについては展示数が少ない印象を受けました。

近い将来の普及を期待させるEVの多様なラインナップ

乗用車ではメーカー各社ともEVモデルを展示していました。その中で特に目立っていたのは、EV化が進む中国ブランド2社とインド地場のTata・Mahindra & Mahindraでした。

大都市圏での電動化が進む中国ブランドのMG・GMWは、多様なモデルのEVを展示していました。筆者のカウントでは、MGが5モデル・GWMは6モデルのEVを展示しており、2モデルの展示だったHyundaiやKIAなど他社と比べても電動車に重きを置いた展示をしていました。MGは、セダン・SUV・ハッチバックなど多様な車種のEVを展示し、多様な選択肢を提示していました。

Tataは、すでに発売されているSUVタイプのEV Nexon に加えて、AltozのEVモデルの展示も行っていました。加えて、ブース2階部分に試乗コースを設け、モーター走行の静粛性や振動の少なさなどEVの特徴を来場者に体感してもらう展示を行っていました。今回来場者に話を聞いた際にも、EVの静粛性に非常に驚いたという声が多く上がっており、実際に見て・体験してもらうことで新しい商品の特性の理解を深めることに成功したと言えそうです。

同じくインド地場のMahindra&Mahindraは、補助金などを活用することで80万ルピー強(約120万円強)で購入可能なSUVタイプのEV eKUV 100 を発表し、注目を集めました。現在市場で販売されているSUVタイプのEV、MG Hector EVが約200万ルピー(約320万円)、Tata Nexon EVが約140万ルピー(約220万円)と比べると手ごろな価格であり、一般のカーオーナーが手を出せる価格帯にEVの選択肢を提供してきました。

【EVの展示】

autoexpo2020-2_01.png

このようにメーカー各社は、電動自動車を積極的に展示しましたが、消費者はEVの購入に対してまだ二の足を踏んでいるようです。充電スポット数の不足はもちろんのこと、そもそも電気の供給が不安定なインフラに対する懸念が主な理由としてあがりました。 インタビューをした来場者の一人は、「ニューデリーなどの都市内での移動であれば問題ないかもしれないが、私はよく実家まで400kmくらいの距離を車で帰っている。途中に充電できる場所があるのか分からないし、田舎の電気事情を考えると選択肢に上がらない」と語っていました。インド政府は充電スポットの設置に対しても積極的に補助金給付などの政策を実行していますが、消費者としてはまだ脆弱なインフラに不安を感じるというのが実情でしょう。

2輪を見てみると、ホンダ・Heroなど大手メーカーが出展を見送る中、EVのスタートアップ企業が多数出展していました。インドではEV2輪は運転免許がいらない半面、スピードが遅くパワーがないと一般的に言われているのですが、彼らは既存のEV2輪のイメージを変えるべく、多様な展示を行っていました。例えば、Hero ElectricやEeVeはスポーツタイプのEVの展示を行い、OKINAWA Scootersでは最高速度50kmを超えて制裁重量150kgまでのモデルを出展していました。(ちなみにOKINAWA Scooterはインド企業で、親日家のオーナーが命名しました。今後日本への逆輸入を狙い、沖縄に事業所を設置しています。)

また、バッテリー残量・走行可能距離を確認できるようにしたり、ジオフェンス機能を用いて1回の充電で走行可能なエリア外へ出ないようにアラートを行う機能をつけたりするなど、各社ともEVとスマートフォンとを連動させた機能の充実を図っていました。その一方で、今回出展していた大手メーカー(SuzukiとPiaggio)は、EV2輪の展示は行わずに、スクーターやスポーツバイクなど既存の2輪の展示に注力していました。年間2000万台程度と言われるインドの2輪市場においては、エンジン車が依然として主戦場であり、EV2輪に関しては様子見という大手メーカーのスタンスが見て取れました。

【EV2輪スタートアップ】

autoexpo2020-2_02.png

【Suzuki/ Piaggio】

autoexpo2020-2_03.png

また、TataやMahindra & Mahindra、Forceなどの商用車メーカーは、バス・トラック・乗用バンなどのEVを展示していました。乗用車の所有が広まってきているとはいえ、まだ多くの国民の移動手段は公共交通機関であり、大気汚染の深刻化を防ぐためにも、商用車から電動化を進めようとする政策に呼応した動きと言えそうです。

【商用車のEV】
autoexpo2020-2_04.png

 

コネクテッド機能は、基本性能になりつつある

今回、ブースの大小はあれ、多くのメーカーが展示していたのがスマートフォンなどとのコネクテッド機能です。特に、広いパビリオンを確保していた中韓の4社やTataはコネクテッドに関する展示を設けて来場者に対して訴求をしていました。例えば、KIAはコネクテッドサービス UVOの主要な機能をタッチスクリーンのビデオでプレゼンするブースを設置、またMGは、車載器のデモを触ってコネクテッドサービスを体感するブースを展示していました。来場者のうち年配者からは、「便利なのだろうが、若者向けのサービスだと思う」という声があがっていましたが、「アプリを通じて自分のクルマがどこにあるのかわかるのは、防犯の観点からいいと思う」「車外からエアコンをかけることができるのは、特に暑い季節にいい」など総じてポジティブな意見が多く聞かれていました。

続いて、乗用車以外のコネクテッドサービスを見てみると、商用車向けのコネクテッドサービスを紹介したTataは、オーナー側・ドライバー側双方のメリットを訴求していました。ビジネスオーナー側では、アプリによって車の走行位置や勤務時間の管理、燃費などコストの見える化など、そしてドライバー側では過去の勤務実績管理に加えて、最寄りのディーラーやサービスセンターの場所が分かる、駐車中に燃料の盗難にあった場合にアラートが来るなどのサービスを提案していました。また、タイヤメーカーでは、JK Tyreが空気圧やタイヤの温度をスマホで確認できるコネクテッドタイヤを展示していました。

Expoで取材したある出展メーカーの担当者は、「数年前までConnected機能は付加価値であり、高級車などに限定されたものだった。しかし、今回のExpoでは主要メーカーが主力車種に標準搭載してきた」と話していました。スマートフォンユーザー数が4億人を超え、デジタライゼーションが進むインド市場において、コネクテッドは乗用車に限らず基本性能となっていくのかもしれません。

【コネクテッドサービス】

autoexpo2020-2_05.png

自動運転・先進安全技術はインドの道路事情が障壁となる

EVやコネクテッド技術と比べると、自動運転や先進安全技術に関する展示は多くはありませんでした。ただ、その中で目立ったのは中国メーカーの2社でした。MGは2021年に発売予定のレベル3自動運転対応EV車のMarvel Xを解禁し、多くの注目を集めていました。GWMは自動運転を体験できるデモカー(R1)を展示。自動運転を体験しようと多くの来場者が列を作っており、新技術に対する消費者の興味の高さがうかがえました。

とはいえ、多くの消費者はインドにおける自動運転の導入に対しては懐疑的で、「インドの道路事情を考えると、街中での自動運転は難しいのではないか。高速道路などであれば可能性があるかもしれないが…」「他の国でさえ安全性に対する不安があるのに、インドですぐに実現するのは難しいのではないか?」といった声が聞かれました。インドに住む筆者の感覚としても、レーンを守らず、クルマ・リキシャ・バイク・自転車・人・牛がひしめき合うインドの一般道では、自動運転の実現は時間がかかるのではと思われます。

【自動運転を訴求したコンセプトカー】

autoexpo2020-2_06.png

先進安全技術をパビリオンで積極的にアピールしていたのはMahindra&Mahindraでした。Mahindra & Mahindraは「India’s Safest Car」という先進安全技術に特化したブースを用意。レーンキープアシスト・緊急時の自動ブレーキ・居眠り運転防止機能などに関する展示を行っていました。

一方、来場者にExpoで注目した安全技術について質問すると、多くはエアバックやボディ自体の頑丈さについてのコメントがあがるものの、緊急時の自動ブレーキや居眠り運転防止機能などについては言及されることが少なく、先進安全技術に対する認知レベルは高くないように感じました。自動運転同様に、レーンキープアシストや緊急時の自動ブレーキなど先進安全技術に関しても、インドの交通事情を考えると遠い将来の技術と認識されているのでしょう。

【Mahindra & Mahindra の安全技術訴求】

autoexpo2020-2_07.png

最後に

Auto Expo 2020は日系をはじめ多くのメーカーが景気・販売の減速を理由に出展を見送る中、MG・GWMの中国メーカーが大きなインパクトを残すモーターショーとなりました。スマホなど身近な商品での使用経験に加え、海外からの情報が容易に得られる時代になり、自動車業界に限らず中国メーカーの躍進は、インドの消費者の知るところとなっています。そういった時代の変化により、インドの消費者は中国メーカーだからと言ってネガティブな印象を持たず、むしろ様々な機能・技術が盛り込まれている、価格に対する価値が高いグローバルなブランドと評している様子が来場者インタビューから見受けられました。

一方で、日本メーカーは高品質でプレミアムなイメージというレガシーがあるものの、価格の高さがネックと感じられているようです。今年はGWMがインド市場へ参入予定であり、昨年参入したMGのようにインド市場で一定のシェアを獲得することは想像に難くありません。昨今の日系メーカーの販売不振や今回のExpoで中国メーカーが残したインパクトを考えると、日本メーカーは中国メーカーに逆転を許し、さらに差を広げられてしまうのではないのでしょうか。そんな危機感を感じたオートショーでした。

【参考資料】

【主な他メーカーの展示車】

autoexpo2020-2_08.png

【タイヤメーカーの出展】

autoexpo2020-2_09.png

【コンセプトカー】

autoexpo2020-2_10.png

 

海外に関するコラムをもっと読みたい方はこちら

gms_banner.png


転載・引用について

◆本レポートの著作権は、株式会社インテージが保有します。
 下記の禁止事項・注意点を確認の上、転載・引用の際は出典を明記ください 。
「出典:インテージ 「知るギャラリー」●年●月●日公開記事」

◆禁止事項:
・内容の一部または全部の改変
・内容の一部または全部の販売・出版
・公序良俗に反する利用や違法行為につながる利用
・企業・商品・サービスの宣伝・販促を目的としたパネルデータ(*)の転載・引用
(*パネルデータ:「SRI+」「SCI」「SLI」「キッチンダイアリー」「Car-kit」「MAT-kit」「Media Gauge」「i-SSP」など)

◆その他注意点:
・本レポートを利用することにより生じたいかなるトラブル、損失、損害等について、当社は一切の責任を負いません
・この利用ルールは、著作権法上認められている引用などの利用について、制限するものではありません

◆転載・引用についてのお問い合わせはこちら