

はじめに
2025年の夏、清涼飲料市場では異変が見られました。例年であれば、7〜9月は水分補給の需要が高まるシーズンのため、年間でも販売が伸びる時期ですが、2025年は猛暑であったにもかかわらず、その時期、販売が伸び悩み、前年を下回っていました。「暑い夏ほど飲料が売れる」というこれまでの常識とは異なる結果を示しています。
本稿では、データをもとにその要因をひも解き、2025年夏の清涼飲料市場に何があったのかを探ります。
まずは清涼飲料全体の販売結果をみてみましょう。図表1は、インテージのSRI+ ®(全国小売店パネル調査)を用い、月別の販売を過去2年と比較したものです。6月までは過去2年と大きな違いはありませんが、7~9月にかけての山が小さくなっていることが分かります。
図表1

2025年の夏はなぜ販売が伸びなかったのか。
次章では、まず気象要因からその背景を紐解いていきます。
図表2は、期間粒度を週次にして前年と比較したものです。例年より1か月も早い6月16日週 に、前年の1.2倍まで急激に販売が増加しています。この急伸は、急激な気温の上昇が要因と考えられます。
図表3は東京都の最高気温の推移です。他のエリアでも、6月中旬には30度を超える真夏日が連続し、35度を超える猛暑日も観測されていました。こうした早期の気温の上昇が、飲料需要の立ち上がりを早めた要因と考えられます。
図表2

図表3

一方で、夏本番に入ってからは、6月の勢いが持続しませんでした。7〜8月も気温は高い水準で推移していたものの、販売容量は前年を下回っており、なぜか気温の高さが販売に連動しなかった様子がうかがえます。
そこで次章では、品目ごとの市場を俯瞰し、どの飲料がなぜ、伸び悩んだのかを詳しく見ていきます。
図表4は、2025年6~9月の前年比の推移を品目別に示したものです。
品目別に見ると、市場規模の大きい「ミネラルウォーター」、「液体茶」や夏の定番「スポーツドリンク」といった品目で販売の伸び悩みが見られました。
いずれの品目も“夏の前倒し”の影響で6月は前年を上回ったものの、7月以降は徐々に低下し、8~9月には3品目すべてで前年割れとなりました。「液体茶」や「スポーツドリンク」は夏本番を迎えたタイミングで前年と比べて勢いを欠いており、なにか要因がありそうです。(「ミネラルウォーター」は、昨年の南海トラフ地震の臨時情報の影響で、防災用の備蓄需要が一時的に高まっていた反動により低くなっています。)
図表4

図表5は「スポーツドリンク」の主要購買層である30~50代について、100人あたり購入容量の前年比推移を示したものです。子どもがいる世帯といない世帯を比較すると、いずれも前年比割れで推移しているものの、子どもがいる世帯では、前年比の水準がより低くなっています。
図表5

2025年の夏は「熱中症警戒アラート」の発信が過去最多を記録しており、不必要な外出や学校の部活動を控えるよう呼びかけられました。「スポーツドリンク」の伸び悩みには、子どもがいる世帯を中心とした「外出・運動機会の減少」が影響していると考えられます。
このように、購買ログに加え生活者の属性データ をみてみると、生活者の行動変化が購買活動に影響している様子をより具体的に推察することができます。
また、伸び悩みの遠因として、継続的な「値上げの影響」も考えられます。
図表6は2022年以降の容量単価を年別に示したものです。清涼飲料市場全体でみても容量単価の上昇は顕著に表れており、毎年3~5%の上昇が続き2024年比は104%でした。
図表6

品目別にみても液体茶は103%、スポーツドリンクは105%、ミネラルウォーター類は104%でした。インフレが継続的に続く中での飲料品目の値上がり感が「買う量を減らす」行動につながった可能性があります。
生活者価値観データベース『SCI-Profiler』の2025年度アンケート調査によると、「水筒を持ち歩いている」という行動をどの程度行っているかの設問に対し、回答者のうち40.8%が「水筒を持ち歩いている」と回答しています(選択肢「いつも行っている」「だいたい行っている」の合算値)。
このようなインフレへの自衛策としての「水筒を持ち歩く」というような行動変化も、ペットボトル飲料を買う機会の減少の要因の一つでしょう。
図表7

ここまで見てきたように、2025年の飲料市場は、値上げによる購買抑制や「熱中症警戒アラート」による「外出・運動機会」の減少といった要因により、夏場であっても、飲料の販売が伸び悩むという異例の結果となりました。
清涼飲料全体が、外出機会の減少や値上げによって伸び悩む中、それらを背景に好調な動きを示した品目も存在します。その一つが「濃縮・希釈タイプ」の飲料です。
図表8は、濃縮・希釈タイプと清涼飲料全体の販売金額前年比の推移を示したものです。これを見ると6~8月で「濃縮・希釈タイプ」飲料は前年を上回っています。
さらに、図表9の通り、「濃縮・希釈タイプ」の店頭のSKU数(商品の種類)も年々増加しており、メーカーもラインアップを拡充し、市場の拡大を意図していることがうかがえます。
図表8

この動きの要因には、「自分好みに調整できる」=家で水や牛乳、炭酸水などで自由に割って楽しめることや、1杯当たりの単価を安くできコスパがいいことが考えられます。
「液体茶」や「ミネラルウォーター」などと比べると小さな市場ではありますが、今後の動向を注視したい市場のひとつと言えるでしょう。
図表9

2025年の清涼飲料市場は、気象、価格などの要因が絡み合いここ数年とは異なる動きを見せました。
6月に例年より早く梅雨が明けたことで早期の飲料需要が発生しましたが、7〜9月には、高気温の連続や「熱中症警戒アラート」による「外出・運動機会の減少」が影響したとみられる動きも見受けられました。これまで「暑ければ飲料は売れる」と考えられてきましたが、気温の上昇が必ずしも需要拡大に繋がるとは限らないことが分かりました。
また、インフレによって容量単価が毎年3%程度上昇し続けていることも市場全体が伸び悩んだ遠因と考えられます。
一方で、「濃縮・希釈タイプ」のように、潜在的なニーズへの呼び起こしによって、プラスに推移した品目も存在しました。
改めて気象の状況と市場の動向を整理することで、2025年は、これまでの単純に「暑い=飲料が売れる」という常識が覆った年になったといえるかもしれません。
暑い夏をはじめとした季節の変化は今後も続くと見られます。こうした気温要因に加え、生活者の行動や節約意識の変化も市場に影響を与える要因となり得るため、今後も引き続きデータをもとに、複合的な視点から市場動向を注視していきます。
【SRI+®(全国小売店パネル調査)】
国内小売店パネルNo1※1 のサンプル設計数とチェーンカバレッジを誇る、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、ホームセンター・ディスカウントストア、ドラッグストア、専門店など全国約6,000店舗より継続的に、日々の販売情報を収集している小売店販売データです。
※SRI+では、統計的な処理を行っており、調査モニター店舗を特定できる情報は一切公開しておりません
※1 一部業態
【SCI®(全国消費者パネル調査)】 全国15歳~79歳の男女70,000人の消費者から継続的に収集している日々の買い物データです。食品、飲料、日用雑貨品、化粧品、医薬品、タバコなど、バーコードが付与された商品について、「誰が・いつ・どこで・何を・いくつ・いくらで、購入したのか」という消費者の購買状況を知ることができます。 ※SCIでは、統計的な処理を行っており、調査モニター個人を特定できる情報は一切公開しておりません
◆本レポートの著作権は、株式会社インテージが保有します。
下記の禁止事項・注意点を確認の上、転載・引用の際は出典を明記ください 。
「出典:インテージ 「知るギャラリー」●年●月●日公開記事」
◆禁止事項:
・内容の一部または全部の改変
・内容の一部または全部の販売・出版
・公序良俗に反する利用や違法行為につながる利用
・企業・商品・サービスの宣伝・販促を目的としたパネルデータ(*)の転載・引用
(*パネルデータ:「SRI+」「SCI」「SLI」「キッチンダイアリー」「Car-kit」「MAT-kit」「Media Gauge」「i-SSP」など)
◆その他注意点:
・本レポートを利用することにより生じたいかなるトラブル、損失、損害等について、当社は一切の責任を負いません
・この利用ルールは、著作権法上認められている引用などの利用について、制限するものではありません
◆転載・引用についてのお問い合わせはこちら