生活者の防災意識と災害対策
2024年1月1日に起こった能登半島地震。津波や大規模火災、多数の家屋倒壊によって深刻な被害が引き起こされました。現地では今も多くの人の生活が影響を受け、復旧活動が行われています。亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された皆さまへ心よりお見舞い申し上げます。
今年はその後も日本各地で群発地震が続いたり、震度5以上の地震が複数回起きたりと、地震大国であることを改めて実感しています。
生活者の防災意識と行動はどのような状態にあるのでしょうか。この記事では、今の防災意識と生活者が行っている対策に加え、被災エリア周辺での買い物行動に注目し、災害時に実際に必要とされるものについて考えていきます。
今の生活者の防災意識
図表1は地震に対する不安の度合いを、2023年8月に実施した調査と2024年2月に実施した調査で比較した結果です。もともと一定以上の不安を感じている人が約85%とほとんどでしたが、1月の能登半島地震を経て不安を感じる人はさらに増えました。また「とても不安」と感じる人は34%と約1/3を占めるに至りました。
図表1
エリア別に見ると、能登半島地震があった北陸は、2023年8月の段階では比較的「とても不安」という人が少なかったところ、2月には41%と18ポイント増加していました。他にも関東、東海、京阪神と周辺地域で大幅な増加が見られています。
不安が高まる中で、防災対策は進んでいるのでしょうか。図表2は家庭での防災対策の有無を調査した結果です。(地震以外の防災対策も含みます。)
2024年2月現在、約半数の家庭が防災対策を行っています。この割合は能登半島地震前後で大きくは変わっていませんでした。防災対策をする人はすでにしていて、これまで対策をしていなかった人は、今回の様な大きな地震があっても行動を見直すには至っていないというのが現状の様です。
図表2
このデータを家族人数別に見たのが図表3です。特に単身世帯で防災対策をしているのは33.1%と低い割合になっていました。自分一人ならなんとかなる、と考えている人が多いのだと思われますが、今後ますます単身世帯のボリュームが増えることを考えると、この層の防災意識を高めることが重要となりそうです。
図表3
では、実際の防災対策としてはどのような対策を実施しているのでしょうか?
図表4は防災対策をしていると答えた人が具体的に行っている対策です。
図表4
能登半島地震をきっかけに、発災後7日間の水・食糧・トイレは確保しておきましょう、といった報道が多くなされた印象がありますが、やはり上位には「水」、「レトルト食品・インスタント食品」、「ティッシュペーパー/トイレットペーパー」、「缶詰」といった備蓄品が入っています。これらの対策は一定浸透しているのか、2023年8月の調査結果からその実施率は大きくは変わっていませんでしたが、比較的差分が見られたのが「簡易トイレ」です。33.7%から37.8%と4.1ポイントの増加が見られました。改めて必要性が認識された対策と言えそうです。
購買データに見る災害時の商品需要
ここからは、今回の震災後、被災エリア周辺にあたる北陸地方の消費行動がどのような影響を受けたのかを、インテージの消費者パネルSCIのデータで見てみます。
図表5は震災のあった1月に北陸地方で購入金額の増加/減少が目立ったカテゴリーをピックアップしたものです。食品、飲料、日用雑貨それぞれについて見ていきましょう。
図表5
食品
パックご飯やおかゆなどの「米飯類」、「シリアル類」、「パウチ入り食材」の購入が増加しました。断水の影響もあってか、水を使わなくても簡便に食事を準備でき、備蓄しやすいことから人気となったと見られます。パウチ入り食材とは、ツナのパウチやトマトの紙パックなど常温で保存できる調理用素材です。備蓄と言ったら缶詰を思い浮かべる人も多いでしょう。実際、図表4の防災対策では対策をしている人の半数以上が缶詰のストックを防災対策として挙げました。ただ、実際には缶詰の購入はほぼ横ばいでした。かさばらず、備蓄も後片付けも容易であることから、パウチ入り食材が支持されたのでしょう。
一方、調理の際に火を使うことの多い「食用油」の購入は落ち込みました。また、「蜂蜜」は嗜好性が高い食品であり、生活必需品ではないため、購入が伸び悩んだと考えられます。育児用ミルクは粉末タイプが中心で、粉末をお湯で溶かすといった手間がかかることから減少したようですが、逆にそのまま飲用できる液体タイプは、災害時でも使用しやすいため購入が前年のおよそ13倍にまで伸長しました。
飲料
飲料では、水分補給だけでなく調理にも使えるミネラルウォーターの購入が伸長した一方、嗜好性の高いコーラやサイダーは減少しました。食品・飲料の分野では、手軽に栄養や水分を摂取できることが重視されたようです。
日用雑貨
日用雑貨品の購入には、断水の影響などいっそう深刻な状況がうかがえました。
制汗剤はスプレーやシートなどの商品で、入浴できない時でも体を清潔に保つために使用できます。ビニールやゴムなどの家庭用手袋は、身の回りを片付ける際にけがの予防に使えます。ラッピングフィルムは、食品の保存や皿の代わりに使えるほか、ゴミを包むことでにおい漏れの防止にも活用できます。
一方、入浴剤は生活必需品ではなく、災害時には入浴の機会自体が限られることもあり、購入が減少したと推察されます。シャンプーは、全体では購入が落ち込んだものの、水で流す必要のないドライシャンプーについては、購入が前年のおよそ10倍に増加していました。
さいごに
能登半島地震の消費行動への影響は、食品・飲料に限らず、日用雑貨にまで幅広く及んでいました。実際の購入データを見てみると、パウチ入り食材や制汗剤など、一般的に備蓄品として浸透しているもの以外の需要も見えてきます。いつ、どのような災害が起きるかわからない時代、常に対策をアップデートしていく必要がありそうです。
【自主企画調査設計】
調査地域:日本全国
対象者条件:15~79 歳の男女
標本抽出方法:弊社「マイティモニター」より抽出しアンケート配信
標本サイズ:n=5,000 ※国勢調査にもとづき性別・年代・地域を母集団構成に合わせて回収
調査実施時期:(1)2023年8月4日(金)~8月9日(水)
(2)2024年2月9日(金)~2月14日(水)
【SCI®(全国消費者パネル調査)】
全国15歳~79歳の男女52,500人のパネルモニターによる食品(生鮮・惣菜・弁当などを除く)・飲料・日用雑貨品・医薬品に関する消費者市場動向のトラッキングサービスです。 パネルモニターが携帯端末で購入した商品のバーコードをスキャンし、インターネット調査画面から、その商品を購入したチャネルや個数・金額などを入力することで、消費者購買行動が分析できます。継続的に収集している日々の買い物データです。消費者の顔を詳細に捉え、消費者を起点としたブランドマーケティングや店頭マーケティングにご活用いただけます。
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