スマホブラウザとアプリ、どう使い分ける?ログデータで追ったスマホの利用実態
進むスマホの普及。2021年に公開した「スマホの利用率はどこまで伸びた?年代別の浸透実態」の記事では、40代以上の世代で引き続きスマホのユーザー拡大が続いている様子をお伝えしました。その後、スマホの利用実態はどのように変化しているのでしょうか。この記事ではその後の動きと、スマホ利用に見られた“使い方の変化”についてご紹介します。
目次
スマホの利用率はどこまで伸びた?
図表1は、2016年以降のインターネットの利用率とパソコン、スマホの利用率の推移です。調査はインテージが毎年年末に行っているものです。
図表1
2021年もスマホの利用率は引き続き増加しており、2020年から約2ポイント増の82.4%となりました。その影響でインターネット利用率も微増となっていました。
また 、近年下がり続けていたパソコンの利用率は下げ止まり、2021年は微増に転じました。
この変化を年代別に追っていきましょう。図表2は年代別のインターネット利用率の変化です。
図表2
10代から40代までは、高い利用率のまま、この数年であまり変化は見られませんが、年齢が高い層、特に60代では2021年も利用率が伸びていることが分かります。
では、それぞれの年代のデバイス利用はどのように変化したのでしょうか。(図表3)
図表3
インターネットの利用率と同様に、スマホの利用率も60代で特に伸び続けています。
パソコンの利用率は、全年代で減少傾向が続いていましたが、2021年はその傾向が落ち着き、60代では微増傾向も見られました。
高年齢層におけるスマホ利用の普及やパソコン利用率の下げ止まりは、コロナ禍においてメールよりも手軽なSNSでやり取りができるように子どもがシニア世代の親のスマホデビューを積極的にサポートしたという動きもあったようです。また、帰省もままならないことから、スマホやパソコンからのビデオ通話による「バーチャル帰省」などもシニア世代のモニベーションに火をつけたようです。そして、同タイミングで各社ともに「3G端末」の終了に伴う端末の切り替え(その多くはスマホへ!)を進めていたこともスマホ普及に弾みをつけました。また感染不安を伴うリアル店舗での購入を避け、ネットショッピングのような日常生活におけるインターネット利用が普及するなど、コミュニケーション以外の面でも生活のデジタルシフトがあったことも大きな要因として考えられます。
また10代では、それまで他の年代よりも減少傾向が大きくなっていたパソコンの利用率が2020年に微増し、そのまま2021年も推移しています。 学校教育でのパソコン利用の普及や、PCのオンラインゲーム人気などが影響したのかもしれません。
ECサービスの利用実態
前回記事では、スマホの利用が進む中でのECサービスの利用実態に注目しました。1年経った今、利用手段にさらなる変化は見られたのでしょうか。
今回も、インテージのメディア視聴ログデータi-SSPのデータを用いてみていきましょう。
図表4は特に利用率の高い楽天市場、Amazon、メルカリの各サービスの利用率の推移を、スマホアプリとスマホブラウザそれぞれについて並べた結果です。
図表4
2021年には、Amazonのアプリ利用率がスマホのブラウザ経由での利用率と同程度にまで伸びました。いずれのサービスも、スマホアプリの利用率は順調に増加しており、購買行動におけるスマホアプリ利用の浸透が見られます。ECアプリにはプッシュ通知でお得な情報が得られるといった機能も出てきています。コロナ禍におけるEC需要の増加が、ECアプリのトライアルにつながり、その手軽さとお得さが定着を後押ししたのかもしれません。
また、楽天市場では、他の2サービスと異なり、スマホブラウザからの利用も順調に伸びています。スマホブラウザでのEC利用は、最初から購入目的の場合もあれば、サイトを限定せずに気になる商品を検索する目的で利用する場合もあります。
その意味で、今後アプリの利用率がさらに伸びていっても、ブラウザでのEC利用は残り続けそうです。
“シェアするサービス”ではブラウザ利用が圧倒的?
ここからは、アプリとブラウザで使い分けがあるサービスについて、いくつか取り上げてみたいと思います。
図表5は、主要なグルメ系サービスにおけるスマホアプリとスマホブラウザの利用実態です。
図表5
ご覧の通り、いずれのサービスでもブラウザからの利用が圧倒的に多くなっています。アプリ利用率はもともと少ないこともあり、トレンドとしては大きな変動はないようです。
ブラウザの利用率が2020年以降減少しているのはコロナの影響で外食が減ったためと考えられます。また、グルメサービスではなくSNSを使って口コミや画像から検索したり、地図アプリを使って口コミ評価が高い周辺の飲食店を検索するなど、グルメ情報の検索方法自体が他の方法に置き換わってきていることも想像できます。
ECサービスと同様に、サービスを超えてお店探しや口コミ閲覧などといった検索や比較検討を行う際には、ブラウザは親和性が高いといえそうです。
また、飲食店は複数人で利用することも多く、お店の情報を他者と共有することもあります。 そのような共有の際、アプリをインストールしていなくても共有が可能なブラウザのリンクはより使いやすいと考えられます。ブラウザ利用でリッチな機能が備わっていると、アプリならではのメリットが感じられない限り、わざわざインストールしてまで専用のアプリを利用することにはつながらないようです。
この「ブラウザからの利用率が圧倒的」「ブラウザ利用率は2020年以降減少傾向」という傾向は、主要な旅行サービスでも見られました。(図表6)
図表6
アプリの利用率はブラウザと比べて低いものの、楽天トラベルのアプリ利用率は近年微増傾向にあります。楽天トラベルでは、アプリ利用をするとポイントが付くといったメリットがアプリを使う魅力につながっているようです。
ここで旅行、グルメの2つのWebサービスの利用実態をもう少し掘り下げてみましょう。図表7は男性・女性それぞれのブラウザとアプリの利用率です。
図表7
女性は特にアプリとブラウザの利用率が大きく開いています。
飲食店の利用傾向を考えてみると男性はお気に入りのお店やなじみのお店を選びがちで、一方の女性は行ったことのない話題のお店にも積極的にチャレンジする傾向があるように思えます。そうした背景からブラウザを使って口コミや画像を駆使して検索や比較検討をしたり、一緒に食事をする人と候補のお店についてやりとりをしている様子も目に浮かびます。
年代別のアプリ、ブラウザ利用実態をサービス別に見たものが図表8です。
図表8
年代別に見ると、そもそもアプリ利用率は低いものの、その中でも利用率が最も高いのは両サービスとも50代で、次いで40代の利用が高くなっています。
一方で、ブラウザの利用率は20代の利用が最も多く、年齢が上がるにつれて利用率は減少していきます。
特に若い世代では、あまり様々なサービスのアプリをインストールせずに、ブラウザでの利用をする人が多いといえそうです。
レシピサービスに見るアプリ/ブラウザ利用の動き
次に、近年アプリとブラウザどちらからも利用がみられたサービスとして、レシピサービスに注目してみました。
図表9は各レシピサービスのスマホアプリとスマホブラウザの利用実態です。
図表9
ブラウザ利用がより浸透しているクックパッドや楽天レシピとは異なり、DELISH KITCHENとクラシルはアプリとブラウザ、どちらからの利用もあり、拮抗しています。
後者の2つのサービスはそれぞれ2016年、2017年にレシピ動画を提供するアプリとしてローンチされたため、アプリ利用が先に進みました。とはいえ、当初アプリ利用が多かったDELISH KITCHENとクラシルも19年以降はブラウザ利用が伸び、いまやアプリ利用を上回るようになっています。
グルメや旅行サービス同様、レシピサービスでも検索や比較検討はブラウザとの親和性が高いことが理由にありそうです。この中で唯一アプリ利用が特に好調な楽天レシピは、楽天トラベル同様にポイント付与がアプリ利用の促進につながっているようです。
また、DELISH KITCHEN、クラシルのレシピ動画サービスのブラウザ利用が伸びているのに対し、楽天レシピ、クックパッドのブラウザ利用は減少傾向が見られ、ブラウザでのレシピ検索が文字ベースから動画ベースでの情報収集へとシフトしていることもわかります。
動画掲載やポイント制度など、各社が独自の訴求をすることでサービス内の住み分けが行われてきており、アプリ/ブラウザ利用の選択に影響を及ぼしている様子が伺えます。
アプリ利用が好調!コンビニサービス
最後にアプリ利用が好調なコンビニサービスを取りあげてみましょう。
図表10の通り、大手3社のコンビニのスマホアプリは、いずれもこの数年で順調に普及しているようです。
図表10
各社のアプリは、キャッシュレス機能やクーポン・ポイントの獲得といった、アプリ限定の機能やメリットを持っています。
コンビニの場合、上記で取り上げてきた他のサービスと異なり、ブラウザで見られるサイトは各社の情報発信がメインとなっているため、アプリのような機能はありません。
アプリ特有の利便性が明確にあるからこそ、順調にアプリの利用が伸びているといえそうですね。
特にキャッシュレス機能などは、非接触での決済が可能という意味で、コロナ禍におけるアプリ利用の伸びを一層後押しした要因にもなったと考えられます。
まとめ
今回は、いくつかのサービスにおけるアプリとブラウザの利用実態を取りあげてみました。グルメ情報などはGoogle Mapの店舗評価やSNSのリッチなビジュアル、口コミの活用など、情報検索行動そのものが変わってきている様子が見られました。また、若年層を中心にスマホブラウザでのサービス利用が増えている様子も垣間見られました。筆者も20代ですが、友人に話を聞くと、スマホの容量制限などもあるためか、ブラウザでニーズが満たされるならアプリはインストールしない人も多い印象でした。また自身の使い方としても、不要なアプリはなるべくインストールしたくない/したままにしておきたくないため、期待していたより使いにくいアプリなどはインストールしてもすぐにアンインストールしがちです。若年層のブラウザ利用の増加には、そのような背景もあるのかもしれませんね。
膨大なアプリが乱立する中、アプリをリリースするだけでなく、ブラウザによる利用実態や提供価値を見据えた上で、アプリならではの価値を再考するタイミングにあるように思います。事業社側のアプリのメリットは「重要な顧客接点でありユーザーの情報が自社に蓄積される」という点にあります。顧客獲得から育成、そしてLTVの向上といったことが経営の主要テーマである現在、アプリ戦略は事業成長のカギを握っているとも言えるでしょう。
生活者の変わりゆく情報検索行動、呼応する企業の接点と体験の創造により、これからもアプリやブラウザの利用行動には変化がありそうです。今後も知るギャラリーでは定期的にその実態を明らかにしていきたいと思います。
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