

これまで「実務で解説 生活者起点で考えるマーケティングフレームの使い方」と題して、 生活者の意識や行動に基づくマーケティングフレームの使い方を解説してきました。多くのポジティブなご意見をいただいた一方、「具体的なリサーチ設計について知りたい」という声もありました。本連載では、その要望に応え、生活者中心のマーケティングリサーチについて考えていきます。
第9回では、新商品のコンセプトを製品設計に反映させる方法を紹介しました。生活者が商品を購入する際は、その商品に対する期待値を持って購入していると考えられますので、製品設計の際は、その期待値を満たすようにすることが重要になります。期待値は生活者によって異なりますが、コンセプト作成段階でそれを理解し、コンセプト受容性調査で定量的に検証することで、製品設計に活用することができます。
第7回でご紹介したように、新商品のコンセプト作成の主な目的は、コミュニケーション開発、パッケージデザイン、製品設計の起点とすることです。今回は、新商品のコンセプトを基に開発されるパッケージデザインの評価方法についてご紹介します。
日用消費財の場合、生活者が新商品の実物を初めて目にする場所は、店頭であることが多いと思います。図1のように、店頭には沢山の棚があって、一つの棚にも多くの商品が陳列されています。その中から、実物を見たことのない商品1つを見つけ出すのは、簡単ではありません。この記事を読んでいるみなさんの中にも、商品の場所が分からず、店員さんに聞いた経験のある人はいらっしゃると思います。
図1

一方、商品開発担当者にとっては、発売前の新商品が目の前にあるのが日常で、発売直後に店頭に行くと、すぐにその商品を見つけることができます。ここが、生活者と開発者の間の大きなギャップになります。生活者に新商品を購入してもらうためには、まず、店頭でその商品に気づいてもらわなければならないのですが、開発者自身が「気づく」ことについて評価しようとしても、新商品をよく知っていることがバイアスになって、評価が難しくなってしまいます。
図2は、生活者が棚の前に来てから、購入に至るまでの必要なステップを示したものです。ポイントは、生活者の意識やデザインの意匠的な観点ではなく、生活者の行動に着目していることにあります。
購入までの行動は、次の3ステップで成り立っています。
1. 気づく(棚で商品に視線を向ける)
2. 手に取る(実際に商品を持つ)
3. カゴに入れる(購入意思を確定)
つまり、
・カゴに入れるには、まず手に取る必要があります。
・手に取るには、まず気づく必要があります。
パッケージデザインには、生活者にこれらの行動をするよう促す役割があると捉えます。
図2

パッケージデザインによって行動が促されていると考えると、現状から次の段階へ移るコンバージョン率がその効果となるので、以下のように定義することで、パッケージデザインを評価することが可能になります。
気づいてもらう機能: 棚前に来た人の数当たりの、当該商品に目線がいった人の数
手に取ってもらう機能:当該商品に目線がいった人の数当たりの、手に取った人の数
カゴに入れてもらう機能:当該商品を手に取った人の数当たりの、カゴに入れた人の数
本記事では、この考え方を基にしたパッケージデザインの評価方法について話を進めていきます。パッケージ評価結果を基にした、パッケージデザイン改良の考え方については、“実務で解説 生活者中心で考えるマーケティングフレーム”の第6回、第7回をご参照ください。
先述の定義に基づくと、棚の前に来た人の内、「目線がいった人の数」「手に取った人の数」「カゴに入れた人の数」を数えるような調査を設計し、コンバージョン率(CVR%)を算出すれば機会を見つけ出すことができます。 図3は、そのアウトプットイメージです。
図3

商品A、B、Cは、いずれも「カゴに入れた」人の数は10人で同じですが、商品Aは、気づいた人の21%しか手に取ってもらえていません。商品に「気づいた」段階では、生活者は、図4のように棚が見えていると考えられます。棚に近づくと、ブランド名や、大き目の文字で書かれた訴求が目に入ることが想定されますが、商品Aは、「気づいた」から「手に取った」に移るCVRが低い傾向にあるので、パッケージの全体的なイメージや比較的大きな文字での訴求などに課題がありそうです。
図4

商品Bは、「手に取った」人が母集団の半数に上りますが、カゴに入れて貰うまでのCVRは20%に留まります。商品を「手に取る」と、パッケージ上の比較的小さな文字での訴求まで読めるようになりますが、そこになんらかの懸念点があって、カゴに入れてもらえなかった可能性が考えられます。
商品Cは、「気づいた」人が30%に留まっています。その要因として、図5のように、棚を俯瞰した時に競合の中に埋もれてしまっている、視界に入っていない、といったことが考えられます。
図5

「気づいた」人、「手に取った」人、「カゴに入れた」人の数をカウントする方法は、色々考えられます。「手に取った」人と「カゴに入れた」人の数は、シンプルに、調査員が対象者を観察し、カウントで得ることもできます。「気づいた」人の数は、アイトラッキングなどの手法で機械的に計測することも可能ですし、棚を見た直後に、棚にあった商品の名前を純粋想起で回答してもらっても良いと思います。
このように、生活者が商品購入にいたるまでの行動変容を数値化することで、ボトルネックを見つけ出し、具体的なパッケージの改善機会を見つけ出すことができるようになります。
生活者が商品購入に至るまでに必要な行動変容を基にした、パッケージデザイン評価手法をご紹介しました。ポイントは、パッケージデザインを、生活者の行動変容を促す機能として捉えることにあります。それによって、主観的な好き嫌いの議論になりがちなパッケージデザインを、量的で客観的に評価することが可能になります。
※)調査結果は、調査設計や分析手法によって大きく左右されます。本記事でご紹介したパッケージデザイン評価調査にご興味のある方がいらっしゃいましたら、こちらよりお問い合わせ頂くか、営業担当までご連絡ください。
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