

これまで「実務で解説 生活者起点で考えるマーケティングフレームの使い方」と題して、 生活者の意識や行動に基づくマーケティングフレームの使い方を解説してきました。多くのポジティブなご意見をいただいた一方、「具体的なリサーチ設計について知りたい」という声もありました。本連載では、その要望に応え、生活者中心のマーケティングリサーチについて考えていきます。
第10回では、店頭で生活者が商品購入に至るまでに必要な行動変容を基準にした、パッケージデザイン評価手法をご紹介しました。パッケージデザインを、生活者の行動変容を促す機能として捉えることによって、主観的で好き嫌いの議論になりがちなパッケージデザインを、量的で客観的に評価することが可能になります。
本連載の第1回 、第2回では、ブランド浸透度調査を活用したビジネスマネジメントについてご紹介しました。また、第8回では、コンセプト受容性調査から需要を予測し、投資判断に活用する方法をご紹介しています。それぞれの調査を実施されている会社は、たくさんあると思いますが、この2つの調査を結びつけてビジネスマネジメントを行っている会社は多くはないように思います。今回は、需要予測の中に、目標設定という要素を導入することで、より具体的なビジネスレビューを実現する考え方についてお伝えします。
図1は、本連載の第2回でご紹介した、生活者中心のビジネスレビューのモデルです。 ビジネスは、「購入者数」「一人当たり購入回数」「購入1回当たり購入金額」で決まります。
| 売上額 = 購入者数 x 購入者一人当たりの購入回数 x 購入1回当たりの購入金額 |
生活者が商品を購入するためには、その商品の「存在を知る(認知)」ことと、購入を判断するために「商品を理解する」ことが必要で、生活者が「購入したい(購入意向)」と判断し、「購入する」という行動に移ることが必要です。
図1

第8回でご紹介した、コンセプト受容性調査から新商品の需要を簡易的に予測するための考え方も、同じモデルを用いてご説明しています。新商品を投入後、達成を目指すA~Dの値を設定すると、需要予測になります。C%は生活者の判断によって決まるので、コンセプト受容性調査結果を基に設定します。E回は、主に製品体験によって変化するパラメータです。E回は、コンセプトを読んで相対的選好度が変化することによっても変化します。コンセプト受容性調査で相対的選好度を聴取すれば、その結果をE回に反映することは可能です。C%以外は目標として設定された値なので、1年間のマーケティング活動の結果、その値を達成できたのかを振り返ることが、ビジネスレビューの起点になります。
需要予測というと、一つの商品に対して、一つの予測値が提供されるイメージをお持ちの方も多いようです。仮に、コンセプトの内容と物理的な商品だけで需要が決まるのであれば、メディアプランや、クリエイティブ、販促活動がどのようなものであっても結果は同じということになりますが、現実はそうではありません。需要予測は、それら各プランを含む上市計画と対で考えるのが重要だと思います。上市計画が未定の場合は、いくつかのシナリオを準備して、シナリオごとの需要を予測することになります。本連載の第8回でご紹介した簡易的な需要予測は、シナリオプランニングの要素も持ち合わせています。
図2は、需要予測のアウトプットイメージです。C%とE回は、コンセプト受容性調査結果を反映させますので、施策による違いはない想定です。コミュニケーションや販促活動などの施策の効果は、図1のA、B、D%で表される歩留まりの変化として目標設定します。施策案Pは、ブランド認知者に対して、ブランドに対する理解を深めてもらうコミュニケーション施策を実施し、B%を5ポイント上昇させることを目標にしています。施策案Qは、パッケージデザインの改善や販促施策によって、購入意向者の購入率(D%)を5ポイント上昇させることを目標にしています。P+Q案は、その両方を実施するシナリオです。施策による効果の違いが売上予測金額の差として現れるので、投資対効果を基に施策を選定することも可能になります。
図2

ブランド浸透度調査で、購入意向者“数”の変化を計測し、その“数”の変化によって施策の効果を評価する場合もあるようです。ここでの注意点としては、購入意向者“数”は、認知者数(≒ブランド名を知っている人)が増えることによって増加する場合もありますし、認知者数は変わらないが、ブランドに対する理解が深まることによって、それまで買いたいと思わなかった人が、買いたいと思うようになることによって増えることもあります。ブランド名を知ってもらうための施策と、ブランドの理解を深めてもらう施策は、異なる場合が多いと思います。ブランドを知ってもらうためには一定の量的効果が必要と考えられますが、ブランドの理解を深めてもらうためには、コミュニケーションの質が問われることになります。ビジネスマネジメントの観点では、絶対数が売上規模を左右するので、購入意向者“数”の変化を計測すること自体は理に適っていると思いますが、施策の振り返りという観点では、歩留まりに注目することで、より具体的な議論ができるのではないかと思います。
図3は、需要予測結果を基にした振り返りを行う際のアウトプットイメージです。実際の需要予測結果が、図3のような精度でピタリと合うことは稀だと思いますが、論点をシンプルにするために、このような例を示しています。
先述の通り、A、B、D%の目標値を設定することによって得られた需要予測結果が図3の「需要予測時の想定」です。「発売後の調査結果」では、売上額は予測通りですが、B%とD%は目標値と大きく異なります。
総論として、需要予測通りの結果が発売後に得られたので、この新商品発売時の施策は上手く行ったと評価することができると思います。同時に、B%の向上を狙った、新商品の理解を深めてもらう施策には想定ほどの効果が上がっておらず(図3の赤字部分)、D%の向上を狙った、購入意向者に購入を促進する施策は、想定以上の効果のあったこと(図3の青字部分)も読み取れます。
ここでのポイントは、需要予測の際に目標値を設定することで、施策の振り返りを、より具体的に行えることにあります。新商品の理解を深めてもらう施策の内容は担当者自身で把握されていることですので、この結果を起点に、施策の改善点を検討することができます。同様に、購入意向者に購入を促進する施策が機能した点についても検討し、今後の施策に活かすことができます。振り返りが具体になると、次回の施策への反映も容易になると考えられますし、効果の上がった施策を継続できる可能性も高くなるのではないかと思います。
図3

生活者を中心にビジネスを捉えることで、需要予測のような上市前の活動と、ビジネスレビューのような上市後の活動を、一気通貫で考えることができるようになります。今回ご紹介した考え方では、さらに、施策の効果をより具体的に評価できるようになるので、次回への検討もより具体的になり、振り返りを通じて施策に対する知見の蓄積も容易になると考えられます。
※)調査結果は、調査設計や分析手法によって大きく左右されます。本記事でご紹介した新商品の需要予測やビジネスレビューにご興味のある方がいらっしゃいましたら、こちらよりお問い合わせ頂くか、営業担当までご連絡ください。
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