

これまで「実務で解説 生活者起点で考えるマーケティングフレームの使い方」と題して、生活者の意識や行動に基づくマーケティングフレームの使い方を解説してきました。多くのポジティブなご意見をいただいた一方、「具体的なリサーチ設計について知りたい」という声もありました。本連載では、その要望に応え、生活者中心のマーケティングリサーチについて考えていきます。
最終回となる今回は、本シリーズのまとめとして、生活者の意識と行動の変化に着目することが、生活者中心のビジネスマネジメントに一貫して必要なことを、お伝えしたいと思います。
B2Cビジネスに関わっていると、あるカテゴリーの市場規模は〇〇億円で、カテゴリーCAGRは□□%、自社のシェアは△△%といった情報に、毎日のように接している方も多くいらっしゃると思います。一方で、“市場”というもの全体を、肉眼で見たことのある人は、1人もいらっしゃらないはずです。“市場”シェアの●●%を獲得といっても、“市場”を物理的に切り取ることはできないと思います。なぜなら、“市場”というものは概念であって、肉眼で見ることはできないですし、手で触れて感じることもできません。
“市場”というものを、実態のあるものとして捉えようとすると、図1のようになると思います。図1は、一人の生活者が、一つの商品を持って、お店のレジに行き、お金と引き換えに、商品を受け取ろうとしているシーンです。 この商品が200円であれば、この瞬間に200円の市場が生まれ、これが自社商品であれば、市場シェアを獲得したことになります。昨日まで自社商品を手に持っていた人が、今日は他社商品を手に持っていたとすると、市場シェアを失う事になります。このように考えると、どれだけ多くの人に、どれだけ頻度高く自社商品を手に持ってもらい、その商品と引き換えにお金を支払って貰うことが、ビジネスの根源であるということができます。
図1

では、手に持つ商品を決めているのはだれか?一人ひとりの生活者です。生活者に買いたいという意識を作り出し、生活者の行動を変えなければ、ビジネスは動きません。本連載の主題に照らすと、生活者の意識と行動を変化させるためにアクションし、その結果を振り返り、次のアクションに繋げることが、ビジネスマネジメントであると言うこともできます。
生活者の意識と行動を変化させる手段は、多種多様なものがあります。実際のマーケティング施策では、複数の手段を組み合わせて、生活者の意識や行動を変えようと試みます。マーケティングのディスカッションでは、その手段が有効であったのか、といったことが論点になることがあります。有効性をどのように評価するか、といったことも議論になることがあります。それらの議論も、非常に大切なことですが、手段の有効性は間接的なビジネス貢献の指標になり得ますが、直接的なビジネス進捗の指標にはなりません。それは、有効な手段であっても、すべての生活者の意識や行動を一律に変化させることは出来ないからです。
生活者の意識と行動の変化がビジネスを動かすのであれば、生活者の意識と行動の変化を直接的に計測するのが、ビジネスマネジメントの近道であると考えます。その中で、最もシンプルな考え方の一つが、図2のモデルです。生活者が商品やサービスを買う、買わない、の判断をするためには、その商品やサービスの存在を知ること(認知)と、その商品の特徴などを知ること(理解)が、最低限必要です。 理解した後、買いたいと判断し(購入意向)、購入するという行動に移した人が、購入者になります。その購入者が、何回商品を購入し、1回の購入でいくら支払っているかを計測すれば、ビジネス進捗を説明することができるようになります。 図2のA~Fを計測することが、生活者中心のビジネスマネジメントの第一歩ということもできます。このA~Fの現状を計測する調査が、ブランド浸透度調査になります。(詳細は、第1~5回参照 )
図2

A%~F円のなかで、生活者の意思だけで決まるのはC%です。生活者が知っている情報を基に、生活者が、買いたい、買いたくない、を判断します。事業者の活動によって、認知や理解を促進し、購入意向の変化を促すことはできますが、最終的な判断は、生活者によって行われます。つまり、どんなに大きな費用をかけてマーケティング活動を行っても、C%が小さければ、想定したほどのビジネスが期待できないことになります。
C%を大きくするためにはどうすれば良いか?生活者は、何かを買うために生活しているのではなく、自らの生活を維持し、より良くするために、商品やサービスを買っています。C%を大きくするアイデアのヒントは、生活者の毎日の生活の中にあります。しかしながら、生活者は製品やサービスのアイデアを創出するために生活している訳でもありませんので、生活者自身がそのヒントを認識しているとは限りません。インサイト探索調査などを通じて、商品やサービスの開発者自身が、一人ひとりの生活者を深く理解することによって、そのヒントを見つけ出すことができます。(詳細は、第6 、7回 を参照)
新商品、既存品に関わらず、C%の最大値を計測するリサーチ手法が、コンセプト受容性調査になります。生活者に商品コンセプトを提示し、商品に関して伝えたいことを伝えた上で、生活者に購入意向を問います。コンセプト受容性調査の中で、考慮集合と相対的選好度(プリファレンス)を計測すれば、商品開発前でも需要予測ができることもあります。コンセプト受容性調査を基に、製品やサービス設計における重視点を見つけ出すこともできます。大きなマーケティング投資を行う前に、生活者の購入意向C%を確認することをお薦めします。(詳細は、第8、9回 参照)
図2のD%は、ある商品を買いたいと思っている人のうち、実際に買ったことのある人の割合を示しています。 「買いたい」というのは、生活者の意識ですが、「買う」というのは生活者の行動です。D%は、意識が行動に変化した割合を示していると解釈することもできます。
意識から行動への変化は、事業者の生活者に対する活動だけではなく、流通環境が大きな影響を与えます。例えば、ある商品を買いたいと思ってお店に行っても、そのお店に意中の商品がなければ買うことはできません。たとえ、意中の商品が物理的にそのお店にあっても、生活者が見つけられなければ買うことはできません。
お店で商品を買うという行動を完遂するために、生活者は、図3に示すように、その商品に気づき、手に取り、カゴに入れるという物理的な作業を必ず行わなければなりません。これを事業者の視点で捉えると、商品を見つけやすくする、手に取ってみたくなる、カゴにいれる動機付けをするなどの工夫をすることによって、生活者の買うという行動を促すことができます。日用消費財であれば、商品のパッケージデザインでそれを実現することも可能です。パッケージ評価調査を、生活者が必ず行う行動を再現するように設計することで、商品が買われるまでのボトルネックを見つけ出し、より効率的なパッケージデザインの改善点を見つけ出すことができます。(詳細は、第10回参照)
図3

生活者を中心にビジネスを捉えることは、理にかなっています。生活者の行動によって市場が決まり、市場シェアも決まり、ビジネスの結果が決まるからです。生活者の意識と行動の変化を追うことで、ビジネス進捗の機会を直接的に見出すことができ、より効率的にアクションを取ることができます。生活者の意識と行動の変化を追うためのリサーチを設計し、リサーチからの学びを基にアクションを考え、実践し、その結果を同じリサーチで確かめる。この活動を継続的に実行するのが、生活者中心のビジネスマネジメントの根幹であると考えます。
※)調査結果は、調査設計や分析手法によって大きく左右されます。本記事でご紹介した各調査にご興味のある方がいらっしゃいましたら、こちらよりお問い合わせ頂くか、営業担当までご連絡ください。
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