
これまで「実務で解説 生活者起点で考えるマーケティングフレームの使い方」と題して、生活者の意識や行動に基づくマーケティングフレームの使い方を解説してきました。多くのポジティブなご意見をいただいた一方、「具体的なリサーチ設計について知りたい」という声もありました。本連載では、その要望に応え、生活者中心のマーケティングリサーチについて考えていきます。
第1~3回では、ビジネスの振り返り、ネクストステップと次の目標設定、ブランドエクイティのマネジメントを、浸透度調査と紐づけて考えました。マーケティングリサーチ文脈で頻出する、「認知」「理解」「購入意向」「購入」という、生活者がブランドや商品を購入するまでに“必ず”経るステップを軸に、できるだけシンプルなブランド浸透度調査の構造と、ビジネスに幅広く活用いただく方法をご紹介しました。
実務で解説 生活者中心のビジネスマネジメントのためのマーケティングリサーチ第4回は、セグメンテーション調査を、新商品開発の上流工程だけでなく、ビジネスの進捗管理にも活用する考え方についてご紹介します。商品開発を始めるにあたって、ターゲットを設定するために、セグメンテーション調査を実施される方は多いと思います。その後上市が決まり、商品が発売された後は、ブランドや商品全体の売上額やシェアで進捗管理される方も多いのではないでしょうか?もちろん、売上額やシェアが上がればそれで良いという考え方はあるのですが、せっかくセグメンテーション調査を実施したのであれば、振り返りにも活用して、次の商品開発につなげていただきたいという想いで、ご紹介します
生活者を最も満足させるためには、生活者一人ひとりにカスタマイズされた商品やサービスを提供するのが良いと考えられますが、それを実現可能にするビジネスモデルを持つ企業は多くないと考えられます。似通ったニーズを持つ生活者のグループを設定し、各グループのニーズを満たすような商品やサービスを開発することで、よりよく生活者のニーズを満たそうとするのが、セグメンテーションの起点と考えることもできます。セグメンテーション調査のアプトプット例が、図1になります。
図1
セグメントごとにより良くニーズを満たすことを考えると、ブランドや商品のポートフォリオは、図2のように、セグメントと連動するような構成になると考えられます。各セグメントごとにカスタマイズされた商品やブランド/サブブランドが提供されることで、より良くニーズを満たし、その結果、継続的な使用が期待されます。
図2
生活者の購買行動から考える購入金額の要因分解は、以下のように表されます。
購入金額=購入者数x購入者一人当たり購入回数x購入1回当たり購入金額
購入者数をセグメント別に把握し、セグメントごとに購入者一人当たり購入回数と購入1回当たり購入金額を把握することができれば、セグメント別にビジネスをトラッキングすることが可能になります。
図3は、セグメント別ビジネストラッキングシートのイメージです。このようなトラッキングシートは、弊社SCI®(全国消費者パネル調査)などの消費者購買パネルに、セグメント情報をタグ付けすることによって作成することが可能になります。セグメント情報のタグ付けは、購買パネルのモニターにアンケート調査を実施することで可能になります。アンケート調査によって、購買パネルモニターの購買行動が大きく変化してはいけませんので、実施の際には注意が必要です。
図3
消費者購買パネルが活用できない商品やサービスの場合でも、自社の顧客販売データや一般的なアンケート調査結果を用いてこのシートを作成することも可能です。自社の顧客販売データを活用する場合、自社以外の購買行動は把握できないですが、ブランドがターゲットとしていた顧客層によるビジネス貢献などは分析可能になります。一般的なアンケート調査では、購入回数や購入金額なども回答者の記憶ベースになりますが、セグメント間の相対的な比較をすることはできると考えられます。
図3では、いずれのセグメントにおいても、特定のサブブランドだけ極端に購入金額が高くなってはいません。ターゲティングの際、ターゲットしたセグメント以外からの売上を想定しないような議論がなされることがありますが、現実にそのようなことが起こるのはほとんどないと思います。開発段階でのターゲティングは、生活者を絞り込むことで、他のセグメントとの違いを明確にしますが、発売後は、ターゲット以外の生活者による購入も、無視できない程度に起こるのが一般的と考えられます。
図3のシートから、ビジネス貢献の比較的高いセグメントや、サブブランドが明らかになります。この例では、ブランド・トータルのセグメント別購入金額(≒売上額)はセグメント2が最も大きく、セグメント1と4が続きます(緑字)。セグメント2では、サブブランドA~Cの中でも、サブブランドCの購入金額が最も大きく、セグメント1と4では、サブブランドAの購入金額が最も大きくなっています(赤字)。
図4は、購入金額のセグメント内構成比(セグメント別シェア)を表しています。サブブランドA~Cの中で、各セグメント別シェアが最も高いものを緑字で記載しています。セグメント2と5以外では、サブブランドAのセグメントシェアが最も高く、全体では、サブブランドCのセグメントシェアが最も高くなっています。サブブランドAは、セグメント1と4に強みがありながらも、幅広い生活者に受容されることによってビジネスを牽引しているのに対し、サブブランドCは、セグメント2と5の生活者に深く受容されることでビジネスをけん引していることが示唆されます。
図4
図5は、購入金額のセグメント間構成比を比較したものです。カテゴリー・トータルより2ポイント以上高いものを緑字で、2ポイント以上低いものを赤字で示しています。サブブランドBは、売上貢献の大きさではサブブランドAやCに劣るものの、相対的にはセグメント5に受容されていることが示唆されます。
図5
セグメント別ビジネストラッキングシートの結果を総合すると、セグメント7はカテゴリー・トータルの購入金額は少ないものの、ブランド・トータルのセグメント内シェアは34.0%で他のセグメントを大きく下回り、サブブランドA~Cのいずれも強みが見られないことから、次の成長機会として捉えることもできると思います。
ここまで、購入金額をメインに、セグメント別トラッキングシートを使ったビジネス分析の方法についてご紹介しました。購入者当たりの購入回数や、購入1回当たりの購入金額など、トラッキングシートには他のデータも記載され、より深い分析も可能です。
今回は、セグメンテーション調査結果をビジネスの振り返りにも活用し、次の商品開発に繋げて頂く方法についてご紹介しました。消費者購買パネルのモニターにアンケート調査でセグメントをタグ付けすることによって、セグメント別のビジネス分析が可能になります。消費者購買パネルの活用が難しい業態や商材でも、自社の顧客データや一般的なアンケート調査で、類似した分析を実施することは可能です。開発から振り返りまで、同じセグメンテーションを活用することで、似通ったニーズを持つ生活者グループ(=セグメント)ごとにPDCAサイクルを回し、生活者ニーズをより良く満たすことも可能になると思います
※)調査結果は、調査設計や分析手法によって大きく左右されます。本記事でご紹介した消費者購買パネルにセグメントをタグ付けする分析にご興味のある方がいらっしゃいましたら、こちらよりお問い合わせ頂くか、営業担当までご連絡ください。
◆本レポートの著作権は、株式会社インテージが保有します。
下記の禁止事項・注意点を確認の上、転載・引用の際は出典を明記ください 。
「出典:インテージ 「知るギャラリー」●年●月●日公開記事」
◆禁止事項:
・内容の一部または全部の改変
・内容の一部または全部の販売・出版
・公序良俗に反する利用や違法行為につながる利用
・企業・商品・サービスの宣伝・販促を目的としたパネルデータ(*)の転載・引用
(*パネルデータ:「SRI+」「SCI」「SLI」「キッチンダイアリー」「Car-kit」「MAT-kit」「Media Gauge」「i-SSP」など)
◆その他注意点:
・本レポートを利用することにより生じたいかなるトラブル、損失、損害等について、当社は一切の責任を負いません
・この利用ルールは、著作権法上認められている引用などの利用について、制限するものではありません
◆転載・引用についてのお問い合わせはこちら