堅調に売り上げを伸ばすバター市場 その好調要因は?
※この記事は、商業界ONLINEにインテージのパネルリサーチアナリストチームが寄稿しているシリーズ「好調カテゴリーの3ヶ月後を予測する」の内容を一部加筆・再構成したものです。今回はチーフアナリスト 石戸綾による「バター市場」レポートをお届けします。
目次
マーガリン市場は縮小が続くが、バター市場は堅調な動き
バター市場が伸びています。2018年のバターの市場規模は304億円、前年比106%、容量ベースでも同105%で、ここ数年の中でも良好な年であったと言えます。成長の背景として、1つには、アメリカでのトランス脂肪酸規制強化の報道の影響もあり、バターとの代替性が高いマーガリンの市場が縮小していることがあります。また、需給がタイトになりやすいバターは特売がほとんど見られないため、デフレが長く続いたにも関わらず、値崩れしなかったという事情もありそうです。
商品タイプ別では、スタンダードな長方形のバターの売り上げも堅調でしたが、バターの風味やコクはそのままに、使用時の固さや塗りにくさを解消したホイップ・スプレッドタイプや、チューブなど容器に工夫を施した商品の売れ行きが特に好調でした。
尚、マーガリンに関しては、各社はトランス脂肪酸低減の取り組みを商品パッケージに明記し、さらにバター風味やカロリーカット、コレステロールゼロといったトランス脂肪酸低減以外の付加価値を訴求した商品を展開するなどして、マーガリン需要減への対策を継続しています。
マーガリンからのスイッチユーザー、新規ユーザーも取り込む
次に、バター市場の伸びが、どういった層に支えられているのかを見てみましょう。今までバターを買っていなかった人が買うようになったのでしょうか。それとも購入自体は変わらず、購入者あたりの購入金額が増えたのでしょうか。購入率の推移に加え、バター購入者をリピート層(繰り返しバターを購入している人)、マーガリンからバターに切り換えたスイッチ層、前年はバターもマーガリンも使っていなかった人が新しく使い始めたという新規層に分けて見てみました。
バターの購入率は35%前後で、2016年~2018年は緩やかな上昇傾向にあります。2018年は購入率36.2%となり、マーガリンの購入率(2018年に35.5%)を超えました。さらに、リピート層/スイッチ層/新規層の割合を見てみると、リピート層が圧倒的に多く、購入率の上昇トレンドに連動してわずかですが増えつつあります。また、マーガリンからのスイッチは、マーガリン市場の落ち込みが激しかった2015年を直近のピークに減少傾向にある一方で、新規層は年々増加しています。バター市場に新しく取り込んだスイッチ層や新規層が徐々に定着した様子がうかがわれます。
また、SCIデータからは、新規層の獲得に、前述のホイップ・スプレッドタイプや、チューブ型といった新商品だけでなく、スタンダードなバターも貢献していることが分かりました。新商品の利便性だけでなく、バター自体が受容され、市場の伸びになっていると考えられます。
バターを使ったメニューが広がる
バター市場が成長する中、家庭での使い方にも変化が見られるのでしょうか。まず、バターを使ったメニューの食卓登場頻度を見てみると、急激な上昇ではないものの、堅調に頻度が上がっていることが分かります。マーガリンの頻度減少がこのところ進んでいるのとは対照的で、近いうちに逆転する可能性もあります。
次に、バターがどんなメニューに使われているのか見てみましょう。バターを使ったメニューの構成比としては、7割以上を占める主食のパンが圧倒的に多いですが、米(オムライスやドリア等)、麺・パスタ、おかず系のメニューに使われる割合もマーガリンに比べて多くなっています。例えば、カレーライスではバターチキンカレー、麺類ではパスタだけでなく、焼きそばのバター醤油味なども見られます。おかずでは肉のソテーやムニエルがオーソドックスですが、汁物ではポタージュだけでなく、豚汁、味噌汁にも使われていたりしています。最近ではバターコーヒーなどがマスコミで紹介されたこともあり「飲み物」にも登場しました。このように、マーガリンに比べてバターのメニューは幅が広いことが分かります。
今後の市場展開への期待:ユーザーの特徴をつかんだ店頭販促などが今後の消費増につながる
上記で見てきたように、バターは幅広い料理に使われていることから、ユーザーは料理や食、美味しいものへのこだわりが比較的強い可能性が考えられます。こういった層にアピールするには、例えば、店頭でのメニュー提案などが購買の刺激になるのではないでしょうか。昨今、店頭でタブレットなどを設置して1分レシピ動画を流している店も増えてきています。バターの容器にはせいぜい1つしかレシピを記載できませんが、1分動画ならば複数のレシピを流すことが可能でしょう。また、料理をするときはバターを“さっと”取りだせる状態が理想的。容器や固さ・塗りやすさを工夫した商品開発にも期待をしたいところです。
バターは、生乳不足時には生産が制限されるなど、需給が常にタイトになりやすい稀なカテゴリーです。それゆえ、これまでは商品開発や販売促進にそれほど注力する必要がなかったかもしれません。バランスの良い食事が健康には一番であることは言うまでもありませんが、料理の仕上げにバターを入れると美味しさが格段に上がることは、多くの人が認めるところでしょう。洋食から和食まで幅広く使える特性を考えると、まだまだ潜在需要を喚起でき、今後さらに市場拡大していくものと考えられます。
今回の分析は、インテージの保有するSRI(全国小売店パネル調査)、SCI(全国個人消費者パネル調査)、キッチンダイアリーのデータをもとに行いました。
【SRI®(全国小売店パネル調査)】
スーパーマーケット、コンビニエンスストア、ホームセンター・ディスカウントストア、ドラッグストア、専門店など全国約4,000店舗より収集している小売店販売データです。このデータからは、「いつ」「どこで」「何が」「いくらで販売された」のかが分かります。店頭での販売実態を捉え、ブランドマーケティングや店頭マーケティングにご活用いただけます。
【SCI®(全国個人消費者パネル調査)】
全国15歳~79歳の男女52,500人のパネルモニターによる食品(生鮮・惣菜・弁当などを除く)・飲料・日用雑貨品・医薬品に関する消費者市場動向のトラッキングサービスです。 このデータからは、「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「いくらで買った」のかがわかります。消費者の顔を詳細に捉え、消費者を起点としたブランドマーケティングや店頭マーケティングにご活用いただけます。
【キッチンダイアリー®】
京浜・京阪神・東海の1,260世帯の食卓・調理の状況を食場面(朝食・昼食・夕食)ごとに継続的に捉えたデータです。食のトレンド分析や食品の新商品開発のヒントとして、また、流通向けの販促提案情報としてご活用いただけます。
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