
※この記事は、日刊自動車新聞の“インテージ生活者インサイト”コーナーにインテージのシニアリサーチャー山田健介が寄稿した連載を再構成したものです。
新型コロナウイルスに起因する低迷を抜け、本格的にポストコロナ期を迎えた2024年、自動車業界には様々なニュースがありました。MaaS拡大による新たなサービスの登場、自動運転やAIによる安全性・効率性向上等、より良いカーライフが期待できる情報が発信されました。その一方、あまり良くないニュースも目立ちました。認証不正問題と一部車種の出荷停止、EVの販売台数鈍化。継続的な物価指数の前年比プラスという状況も相まって、高まる期待感とは裏腹に、消費者の購買意欲が高まり切らない状況にあったかと思います。結果、2024年の新車販売台数は1-10月の累計で2023年に比べて7.6%の減少となっています。
このような情勢・生活環境の中、消費者の車に対する意識はどう変わっているのでしょうか。消費者分析においては、性別や年代、収入、エリアといったデモグラフィック属性を見ることが、分析の第一歩として一般的です。その後、生活意識や価値観といった要素を用いて深掘りをしていくことが多いでしょう。初対面の人と交流する際、まずは年齢や出身地を知り、続いて性格やモノの考え方、ライフスタイルを知っていくことと同じです。今回はさらに、「時系列」という経年変化の視点を加え、消費者意識の変遷を見てみようと思います。
図表1のデータは、市場調査会社のインテージが毎月約70万人から回答を集める自動車に関する調査「Car-kit®」より、2024年10月に1万人を対象に行った自主調査結果です。自動車を購入・検討する際の重視点(60項目)のデータをもとに、消費者を6つの区分に分けています。2023年・2024年と2年連続でデータを取得しているため、6つの区分が前年からどのように変化したかを確認してみましょう。
図表1
前年から劇的な構成の変化は見られませんが、車に関わるあらゆる要素で重視度が高い「高関心層」は、唯一2023年から比率が増加しています。続いて、「運転が好き」「快適・利便性重視」「人気車種で安心」「こだわり」の4層は前年差1ポイント以内と比率の変化は見られません。最後に、あらゆる要素で重視度が低い「日常の足・低関与層(以降、日常の足)」は微減しています。高関心層は増加・日常の足は微減・その他4区分はステイ、という経年変化が確認できました。
比率が高まった高関与層の特徴として、車に関わるあらゆる要素で重視度が高いと述べましたが、彼らは情報感度・リテラシーの高さも特徴です。近年、自動車業界は「モビリティ業界」と広義に捉えられるようになり、大手メーカーのみならず、関連業界も含めて国内外問わずフォーカスされる範囲が広くなっています。2023年末にはコロナ以降初のモビリティショーも開催され、大きな話題となりました。良くも悪くもニュースに取り上げられることが多い自動車(モビリティ)業界、業界への関心が高まりやすい状況が「高関心層」を増やし、関心の低い「日常の足」を減らしたのかもしれません。
次からは、増加した「高関心層」・微減の「日常の足」という、逆の価値観を持ち、増加・減少と逆の変化を見せた2区分の対比構造を中心にデータを見ていきたいと思います。
前章で、車に対する「高関心層」は増加し、「日常の足」が微減という状況が明らかになりました。では、変化の中心はどのような人でしょうか。2023年からの変化の内訳を確認すると、増加・減少ともに「20代以下」の若者における変化が顕著です。「若者の車離れ」が叫ばれて久しいですが、意識上では若者の車に対する意識がこの1年で変わっており、車離れどころか関心が高まっているという状況がわかりました。
では、車以外の一般的な消費価値観、という視点ではどうでしょうか。図表2は消費・情報に関する考え方、いわゆる「イノベーター」と定義されるいくつかの要素について、「高関心層」「日常の足」それぞれの層の合致度を示したものです。「日常の足」に比べて「高関心層」は多くの項目で高スコアであることが見て取れます。車だけにとどまらない、消費・情報収集の意識においても高い関心をもって生活していることが伺えます。
一方で、経年変化という視点で見ると違うものが見えてきます。「高関心層」は、「商品・サービスを自分で選びたい」「自分の考えや感覚を大事にしたい」といった、イノベーター要素の中でも特に合致度が高い項目において、23年からスコアが低下していました。
図表2
続いて、近年ではすっかり定着した考え方の1つ、「サステナブル」について見ていきましょう。図3は、サステナブル行動として代表的なモノについて「どの程度行っているか」を聴取したデータです。図に記載のスコアは、いつも/だいたい/ときどきのいずれか頻度で行っていると回答した者、つまり各行動の「実行率」を表しています。
例えば、「高関心層」の約6割が「使い捨ての割りばしなど、不要なものは断る」「食品は地元産のものを消費する」を実行しており、その他すべての行動において「日常の足」より高い実行率となっています。先述した消費・情報収集要素において高い意識レベルを持つイノベーター志向の強さに加え、「流行りの考え方」についても意識・行動レベルが高いことを表しています。
そしてこちらも時系列でみると、イノベーター志向と同様、「高関心層」においてサステナブル行動の実行率が前年に比べて低下していることが確認できます。
図表3
ここまで、「イノベーター」や「サステナブル」といった消費者の生活意識・行動に着目すると、それぞれ高い水準であることが確認できた「高関心層」ですが、車に対する「高関心層」の増加とは裏腹に、これらの意識や行動率は昨年に比べて低下している。つまり、車に関する高関心層の増加のみ特異な変化であることがわかりました。
では、車に対する関心が際立って高い彼らは、どのようなカーライフを送っているのでしょうか。次章からは、彼らの車の保有状況や車に対する意識、装備・機能のニーズ等、車関連の情報を詳しく見てみたいと思います。
情報収集や特徴的な消費意識を持つ「イノベーター志向」、サステナブル行動の実行率、これらの意識・行動レベルがこの1年で低下していることを述べました。車に対する関心が高い彼らは、20代以下の若者が中心で、車関連の意識が際立って増加しています。では、そんな彼らはどのような車に乗っていて、どのような車を好むのでしょうか。
図表4は現有車情報のシェア上位を抜粋したものです。メーカー・車種を見ると、多少のスコア差はあれど上位ラインナップに大きな違いはありません。注目したいのは車型です。高関心層は「SUV」が特に高いシェアとなっています。トヨタ・セルシオや日産・シーマを代表とする80年代のラグジュアリーセダン、スバル・レガシィやボルボエステート等90年代を席巻したステーションワゴン、時代によって流行りの車型がありましたが、近年特に大きな存在感を放っているのがSUV。2021年に登録乗用車に占める割合が初めて30%を超え、2023年では33%まで伸びている、今後も更なる拡大が見込まれる日本の自動車市場を牽引している車型です。車に高い関心を持つ彼らは、流行りの車型をしっかり抑えているようです。
図表4
続いて、彼らが車に求めることはどのようなことなのでしょうか。結論から述べると、「高関心層」は「運転そのものがより良いものになること」、結果として「ワクワクや自己表現につながること」、これらのことを特に求めているようです。
詳しくデータを見ていきます。「次回車を買うとしたらどのような車が欲しいか」、というデータでは、現有車情報と傾向は大きく変わらず、「高関心層」がSUVを特に求める様子が見られること以外、「高関心層」「日常の足」で特別な差は見られません。そこで、そもそも彼らが車に何を求めるか、という視点でデータを見ていきます。図表5は、消費者を6つに分類する際に使用した「車に求めること・重視点」データの詳細です。「高関心層」はあらゆる項目で重視度が高く、「日常の足」はあらゆる項目で重視度が低いと第一章で述べましたが、ここでは、特にどのような要素で差が大きいか、という視点で見てみたいと思います。「楽しく運転できる」「ワクワクした気持ちになれる」「リラックスして運転できる」「自分のこだわりや遊び心が表現できる」といった要素でスコア差が大きいことがわかります。
図表5
日本語で「スポーツ用多目的車」という意味があり、日常使いからレジャー等様々なシーンで活躍するSUV。コンパクト/ミドル/ラージ、都市型/クロスオーバー/クロスカントリーとSUVの中でも多彩なラインナップを保有します。また、各社が力を入れていることから車種の選択肢も豊富です。トヨタ・クラウンというロングセラーブランドからもクロスオーバーモデルが登場したことは記憶に新しいでしょう。「高関心層」は、自分の求める運転スタイル、運転することで得られる感情、これらがマッチする(しやすい)車としてSUVを選択しているのかもしれません。
最終章では、この1年で増加した高関心層が将来車に求めるモノ、という視点でデータを見ていきたいと思います。
まず、この1年で増加した車の「高関心層」はどのような消費者だったか振り返ります。特に数を伸ばしたのは20代以下の若者でした。そんな若者を中心とした「高関心層」は、一般的な消費価値観という視点で見ると、確立された消費意識・高い情報感度を持つ「イノベーター志向」の強さ、一般化されつつある「サステナブル行動レベル」の高さが特徴です。一方、時系列という視点で見るとこれらの意識・行動レベルは低下しており、車に対する関心が際立って高まっている状況が見えました。
そんな彼らのカーライフに目を向けると、「運転の楽しさや快適さ」「運転することで得られるポジティブな感情」を求めて流行りのSUVに乗っている人が多く、ニーズと市場の流行りがマッチしていることがわかりました。ここからは、車の持つイメージや、車に関連した機能・装備という視点で、高関心層のカーライフをもう1歩紐解いていきたいと思います。
図表6は「好きな車・興味がある車の持つイメージ」、つまり彼らがどのようなイメージを持つ車を好むのか、を表したデータです。「高関心層」が「日常の足」に対して特徴的にスコアが高い項目を見ると、「運転を楽しめる」「高性能・走りのよい」「格好いい」といった、自分の気持ちを高揚させるような要素を持つ車が好まれています。これは車に重視することとほぼ同様のデータ傾向となっており、彼らの特徴と言って間違いなさそうです。加えて、「安全」「安定」「品質のよい」といった、最低限だが確実に担保されなければならない要素が上位に並んでいることにも注目です。運転を通じて得られる楽しさは、こういったカーライフの土台を支える要素があってこそ成り立つものなのでしょう。
図表6
最後に、車の装備や機能に関するデータを見ていきます。図表7は、「将来搭載したい車の装備・機能」に関するデータ(全20項目の一部抜粋)です。高関心層・日常の足いずれも、「自動ブレーキシステム」や「ドラレコ付きマルチビューカメラ」、「360度カメラ」など、カーライフの安全性を向上させてくれるようなモノが上位に並んでいます。一方、「ヘッドアップディスプレイ」や「フラッシュアウターハンドル」といった、デザイン性を向上させるようなモノを欲する人が少ないことも共通しており、現時点ではあまり求められていないようです。「安心」という要素は、重視項目や車に求めるイメージでもスコアが高かったことから、車そのものに求めつつ、機能や装備による底上げが期待されているのでしょう。一方、カッコよさや未来感といったデザイン性は、「高関心層」「日常の足」いずれの層においても機能や装備で求めておらず、車そのもので魅力を発揮しなければならないのかもしれません。
図表7
今回の記事では、昨年から比率が高まった車の「高関心層」のニーズと市場の流行りが合致しており、車に対する関心が高まりやすい状況にあることがわかりました。今後も、技術進化によって車の機能・性能はどんどん高まると考えられ、来年以降も多くの情報が日々発信されることでしょう。「高関心層」の増加傾向はこのまま続くのか、はたまた別の変化が起きるのか、来年の今頃に答えがわかるはずです。その時、変化の表面だけを捉えるのではなく、様々な視点・切り口で市場を分析することで、多くのヒントが得られるかもしれません。
【Car-kit®(自動車パネル)】
株式会社インテージが毎月約70万人から前月の自動車情報を取得しているシンジケートデータです。現有車や次期意向などを聴取する市場動向把握調査と、契約者に対して購入理由や購入時の重視点などを聴取する契約者調査の2部構成で実施しています。
※Cat-kitは株式会社インテージの登録商標です。
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