Z世代が読み解くスマホアプリの利用実態 ~マンガ・書籍アプリ編
インテージ次世代消費者パネル事業開発部の植木です。スマホ・テレビなどのメディア接触行動と購買行動のシングルソースパネルi-SSP®の運用やデータ分析担当をしています。
スマホの利用実態には世代間の差がみられ、特にスマホネイティブかどうかは、スマホ利用実態に大きく影響します。この記事では、実際にスマホネイティブな20代である私の視点で、若年層に注目しながらスマホの利用実態データを読み解いていきたいと思います。
2020年に新型コロナウイルスの流行がはじまり、現在も猛威を振るっている中、私たちの生活環境は大きく変化しました。
学校の授業や仕事でリモートの活用が増え、通勤通学の時間が無くなったり、仕事終わりに同僚や友人と飲み会に行くことが減ったことで可処分時間が増加した方も多いのではないでしょうか。
以前、「スマホの利用率はどこまで伸びた?年代別の浸透実態」という記事では、2016年にスマホの利用率がパソコンの利用率を上回って以降伸び続けているというデータを紹介しました。スマホの利用が進んだ上に、可処分時間が増加したと考えられるコロナ下において、生活者のスマホの使い方はどのように変化したのでしょうか。
アプリの使い方という切り口からみてみました。
アプリ利用行動の変化
図表1は代表的なスマホアプリジャンルについて、2016年から2021年にかけての、月次平均利用率の推移を表しています。
図表1
▼わかること ・【ニュース・天気】は、2016年以降安定して利用率が伸びている ・【グルメ・レシピ】【宅配(デリバリー)】は2016年から2019年にかけて横ばいだが、2020年以降の利用率が伸びている ・【マンガ・雑誌・書籍】【動画配信】も2020年以降の利用率が伸びている |
この数年、特にコロナ禍に入った2020年以降で、アプリ利用行動に変化が起きていることがわかります。
コロナ禍に入る前と後でアプリ利用時間がどれだけ変わったのか、性別・年代別に変化を見てみましょう。
図表2は、2019年1月と2021年1月の、1人あたりの一日あたりアプリ利用時間を表しています。
図表2
▼わかること ・10代が一番利用時間が長く、2021年は一日約6時間利用している ・年代が上がるにつれて利用時間は短くなる ・全年代でアプリ利用時間は増加している(男性平均で約50分、女性平均で約80分増加) |
もともと10代、20代はスマホ利用率が9割以上と高く、生活におけるスマホ利用が浸透していた中、さらにこの数年でアプリの利用時間も増えているようですね。
私自身も20代なのですが、こんなに長い時間画面を見つめているのかと驚きました。
ですが、振り返ってみると、今まではTV利用の際、リアルタイム視聴や録画をしていましたが、ここ最近、スマホで好きな時間に好きな番組を観られる動画配信アプリを利用しています。また高校生の妹に話を聞くと、コロナ禍で塾の授業が対面からスマホを利用した映像授業に切り替わったそうです。SNS、ゲーム、動画視聴、メール、電話など様々な事が、スマホ1つに集約されていることを考えるとあながち妥当な時間なのかもしれませんね。
ここからは多くの可処分時間が費やされていると考えられるエンタメ系カテゴリ(マンガ系・動画系)のアプリ利用について、深堀していきたいと思います。
【マンガ・雑誌・書籍】アプリ利用行動の変化
まずは性別・年代別の利用実態を見てみましょう。図表3は平均利用率と平均利用時間の推移です。
図表3
▼わかること 【平均利用率】 ・男女の水準はあまり変わらず ・特に10代の利用率が高く、年代が上がるにつれて下がる ・男女とも2020年頃から利用率が増加 【平均利用時間(分)】 ・女性の方が利用時間は長め ・利用時間の長さは40代、30代、50代、60代、20代、10代の順 ・女性は19年、男性は20年をピークに減少傾向 |
トレンドで見ると、平均利用時間は減少しているものの、利用率は上昇しており、コロナ禍でユーザー層を広げて浸透してきていることがわかります。
10代に注目すると、利用率は圧倒的に高いのに反して、利用時間が低いのは興味深いですよね。
この要因としては
①見たい作品をサクッと見るため時間をかけない
②課金するほどの熱量が無く、無料コンテンツを消費することで暇つぶしをしている
ということが考えられます。
私が学生の時も、無料コンテンツを見て時間をつぶす使い方をしていた記憶があります。
一方で30代以上は課金をして1つのコンテンツをじっくりと見るため、利用時間が長くなっていると考えられます。以前から「30代以上で電子書籍を利用している人は紙媒体を利用しないヘビーユーザーである」という仮説を抱いていましたが、納得の結果です。
【マンガ・雑誌・書籍】アプリの利用時間帯
次に、アプリが利用されている時間帯を見てみましょう。
図表4は、2021年1月のマンガ・雑誌・書籍アプリの時間帯別の利用状況を年代別に表しています。
特に利用時間が長い40代と短い10代に着目してみます。
図表4
▼わかること ・利用時間が最も長い40代は、1日の中で特に21時以降の利用が多い ・利用時間が最も短い10代は、平日と比較して休日の午前中の利用時間が多い |
30代~50代ではリモートワークの活用によって通勤時間が減少したことにより21時以降という比較的早い時間帯から利用時間が多くなっているのではないかと考えられます。また、テレビが強いと言われていた、いわゆるゴールデンタイムにもスマホの利用が侵食し、平休日関わらず、21時以降の可処分時間の過ごし方が多様化しつつあると考えられます。
10代の利用時間はどの時間帯においても他の年代よりも少ないことが分かります。
これはあくまで暇つぶしとして無料コンテンツを見るだけの使い方をしているユーザーが多いことが推察できます。
マンガ・雑誌の場合、1巻ないし1話ごとに課金が必要な場合が多く、10代からすると課金はハードルが高くなります。加えて、紙媒体と比べてそこまで価格が安いわけではないので、オトク感がそこまでないのも要因として考えられます。
私が高校生だった6年程前は、電子書籍で課金をしてマンガ等を読んでいる人はごく一部で、大部分はフリマアプリや古本屋などで紙媒体を購入していました。高校生である妹や大学の後輩に聞いてみましたが、今も大きくは変わっていないようです。
次に、マンガ・雑誌・書籍アプリを利用する時間帯は変わったのか、2019年1月と2021年1月とで比較しました。ここでは、特に変化が見られた平日について、年代別のチャートを紹介します(図表5)。
図表5
▼わかること ・10代の利用時間はコロナ禍前の2019年と比較しても、あまり伸びていない ・もともと利用時間の長い30、40代は21時以降の仕事が終わった頃の時間帯から利用が増加 ・50代は8時以降26時まで全時間帯で利用時間が増加 |
10代の利用時間があまり伸びなかった要因としては、コロナ禍前から無料コンテンツを見ていたユーザーが多く、コロナ禍で可処分時間が増加しても、元から使っていた枠分(無料コンテンツ分)しか利用しなかったことが考えられます。
また50代では本来仕事をしているはずの時間帯にも利用時間が増えています。
これはマンガ・雑誌・書籍アプリが一種の息抜きとして使用されているのではないかという仮説が考えられます。
出社している時は同僚とたわいもない話をすることで息抜きをしていたところ、在宅ワークの拡大によりできなくなり、その代わりとしてコロナ禍で浸透し始めていたマンガ・雑誌・書籍アプリが使用されているのかもしれません。
ここまで、コロナにより人々の可処分時間の使い方が変化したのでは?という視点で、対象のひとつとして考えられるマンガ・雑誌・書籍アプリに絞って見てきました。コロナ前よりも全年代でユーザーの広がりが見られた一方で、利用時間は多くの年代で減っていました。可処分時間をマンガ・雑誌・書籍アプリの閲覧に費やす人が増えた一方で、都度課金が必要なアプリが多いためか、若年層を中心に課金してまで利用する人はあまり増えなかったということのようです。では、増えたと考えられる可処分時間はどこに費やされているのか、次回は動画アプリに注目してみていきます。
今回の分析は、インテージの提供する、i-SSP®(インテージシングルソースパネル®)のデータを用いて行いました。
【i-SSP®(インテージシングルソースパネル®)】
インテージSCI(全国個人消費者パネル調査)を基盤に、同一対象者から新たにパソコン・スマートフォン・タブレット端末からのウェブサイト閲覧やテレビ視聴情報に関して収集したデータです。当データにより、テレビ・パソコン・スマートフォン・タブレット端末それぞれの利用傾向や接触率はもちろん、同一対象者から収集している購買データとあわせて分析することで、消費行動と情報接触の関係性や、広告の効果を明らかにすることが可能となります。また、調査対象者に別途アンケート調査を実施することにより、意識・価値観や耐久財・サービス財の購買状況を聴取し、あわせて分析することも可能です。
※ シングルソースパネル®は株式会社インテージの登録商標です。
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