インバウンド消費から越境ECへ クロスボーダー視点で捉えた中国市場
2015年に新語・流行語大賞を獲得した『爆買い』。最近は言葉としてはあまり耳にしませんが、今でもドラッグストアやデパートなどで外国人旅行者が大量買いしている姿を目にするという方も多いのではないでしょうか?外国人旅行者の数は図1の様に順調に増え、外国人旅行者による消費を指す『インバウンド消費』という言葉はすっかり定着してきています。
一方、同じく外国人の消費を狙う手段として、『越境EC』が盛り上がりを見せてきています。この記事では今のインバウンド市場と越境EC市場を、データを交えて解説します。
図1
目次
インバウンド消費は今? 免税販売データに見るトレンド
リピーターの訪日客が増え、「モノ消費からコト消費へ」といった変化が起きていると言われていますが、電気製品やカメラ類、服・鞄といった高額品の購入率は爆買いが盛り上がった2015年当時から落ちているものの、食べ物や化粧品、医薬品といったカテゴリーの購入率は2017年に入っても好調であることがわかります(図2)。
図2
日本政府観光局(JNTO)のデータでは約60%の訪日客がドラッグストアを利用していることがわかっています。このドラッグストアでのインバウンド消費が今どうなっているか、免税販売での販売規模を見てみましょう。前年比+20%以上といった一時期ほどの伸びは見られませんが、2016年の後半にいったん落ち着いた後、2017年に入ってからは前年比+10%程度と順調に伸びていることがわかります(図3)。
図3
カテゴリー別の販売個数の変化を見ると、輸出が難しい医薬品は規模も大きく堅調、化粧品や食品が特に好調の様です(図4)。
図4
さらに売れ筋商品ランキングを見てみると、上位20商品中15商品が昨年と変わらずランクイン(うち3商品は増量、キャラクターコラボなどのプロモーション品に入れ替わり)している一方で、上位20商品のシェアを合計すると昨年の21%から15%に減っていました。これは、「『日本に来たらほとんどの人が買う』様な定番アイテムの顔ぶれはあまり変わっていないが、買う商品のすそ野が広がり、他のアイテムも買われるようになっている。」という状況をあらわしています。定番以外の商品も今後伸びる可能性は高そうです。
中国越境ECの市場規模はどのくらい?クロスボーダー視点で見たポテンシャル
図5はある化粧品の販売量を「国内での日本人による購入(≒国内消費分)」と「国内での外国人による購入(≒インバウンド消費分)」、「中国のECで買われた分(≒海外EC消費分)」に分け、その動きを追ったチャートです。※この商品の海外ECでの売り上げは主に中国におけるものとなっています。
中国のECでの販売規模はインバウンド消費に引けを取らないレベルであることがわかります。特に2016年の11月は11月11日の独身の日の影響で、日本人による購入分よりも大きくなっていました。
国内消費やインバウンド消費だけでなく「海外のEC を介した消費」も含む、国境を超えた視点、つまり『クロスボーダー視点』で消費を捉える必要があることがわかります。
図5
現在、日本商品にとって最も大きな海外EC 市場は中国のEC市場です。特に、BtoC取引を中心とした輸入品のインターネット通販にあたる越境ECは、税制面での優遇策や大手企業によるプラットフォームの整備によって日本企業の参入障壁が低くなってから、この数年で大きく発展しました。
2016年に4月に施行された「郵便物として行郵税を徴収するのではなく、貨物として関税、増値税、消費税を徴収する」という制度改定以降は税制面での優遇に歯止めがかかり、参入障壁という点での越境ECのメリットは縮小傾向にありますが、「偽物の流通が少ない」といった信頼度の高さで中国人消費者にとって直輸入と共に重要なチャネルとなっており、引き続き注目すべき市場です。
中国の越境ECの市場規模は図6の様に拡大が予測されています。2015年段階で約8000億円だった市場が2020年には2倍以上の約1.9兆円になるという予測です。
図6
この中国越境ECの売上は現状、アリババグループの「天猫(Tmall)」とテンセントグループの「京東(JD.com)」の2社のサイトでほぼ独占されています。メーカー、小売業共に、この2社両方に出店している日本企業も見られます。
さらに、それぞれのプラットフォームで様々な販売方式があります。例えば「天猫(Tmall)」で販売する場合、
・メーカーあるいはブランドとして『自社海外旗艦店』をプラットフォーム上にオープンする形
・「輸入品専門」直営店である『天猫国際直営店』に卸して販売する形
・「国内商品も輸入品も合わせて取り扱う」『天猫内官房旗艦店』を通じて販売する形
などがあります。
メーカーあるいはブランドとして初めて『自社海外旗艦店』をオープンする際には、保税区モデルという輸送形式が主体でした。中国政府が指定した保税区にある保税倉庫にあらかじめ商品を運び込み、受注があったら中国の消費者に宅配するという方法です。売れ残りを抱えるリスクがありますが、まとめて配送することで輸送単価が抑えられ、発注時に短期間で商品を届けられるというメリットがあります。ただし、前述したように税制面の優遇措置が変わるなど法制度の変化は激しく、より在庫リスクを減らして中国人消費者に商品を届ける直送形式が復活してくるなど、いわゆる代講業者の仕組みも随時変化しているため、どの出店形式が有利かは一概に言えません。環境変化の中でバリエーション化する各社の越境EC戦略を俯瞰で追っていくことが重要となります。
少し現状をデータで見てみましょう。
例えば、海外企業が現地法人を通さずに直接出店できる天猫(Tmall)国際市場。ここでの販売データには、前述の販売形式のうち『天猫内官房旗艦店』で販売する形は含まれず、『自社海外旗艦店』での販売と『天猫国際直営店』での販売が含まれます。
ECdataway(Adways Technology Ltd.)(※1)のEC売上データを用い、ある1週間の日本商品の売上ランキングを見てみると、図7のように上位20アイテムのうち8アイテムが『天猫国際直営店』で、11アイテムがメーカーの『自社海外旗艦店』で販売されていました。
※残りの1アイテムは海外の小売が天猫国際上に出店した『小売店海外旗艦店』での販売でした。日本のメーカーが越境EC販売分としてコントロールするわけではありませんが、このような販売形態でも売られるケースもあります。
図7
環境変化の中で、各社がどのような戦略を取り、この構造がどう動いていくのか、今後も注目です。
中国EC市場で外せない重要イベント「独身の日」 データから見えた最新動向は?
先日行われた11月11日「独身の日」セールのニュースをテレビやネットニュースで見た、という人は多いのではないでしょうか?パートナーのいない人が集まって祝う「独身の日」に、中国の電子商取引最大手のアリババが「買い物を楽しみましょう」と提案して2009年に始めたセールは年々拡大し、今では中国のEC取引が全国的に爆発する日となりました。
今年の盛り上がりについて、アリババのHPでは以下の様に報告されています。
・2017年の独身の日の総取引額は1682億元。日本円に換算すると約2.8兆円となり、対前年で39%の伸び。取引件数は14億8千万件。
・海外のブランドや小売では225の国と地域との取引が完了するなど、国際化が進む。日本はその中で取引額1位。
越境ECに注目してもう少し詳しい状況をECdatawayのデータで見てみましょう。
海外企業が直接出店できる天猫国際の売上は2016年から約1.9倍と伸びています。天猫全体の中でのシェアはまだまだ小さいですが、全体の伸びが約1.4倍だったのに対し、伸び幅が大きいという結果が見られました(図8)。
図8
カテゴリー別にみると、国内企業が中心の天猫ではファッション関連やデジタル製品・家電が売れていました(図9)。ここから独身の日に特に売れるものがわかります。一方、天猫国際で売れたものは化粧品、食品健康、マタニティ・ベビー用品でした。中国で人気の日本商品に重なります。
図9
この日、天猫国際で売れた日本商品のランキングを見ると、高額の美顔ローラーや90000円近くするようなLED美顔器の他、日本のドラッグストアの免税販売で売れ筋に挙がっているような化粧品が多数ランクインしていました。インバウンド販売と越境ECの連動が見える結果です。
独身の日セールはアリババが始めましたが、他社も相乗りを行った結果、京東も天猫の4割近い売上を上げてEC全体が盛り上がるイベントとなりました。今後は店頭へのつながりも期待されます。
独身の日以外にも、ECサイト二強の京東(JD.com)が会社設立記念日の6月18日にセールを始めて天猫も含めた他社も相乗りした結果、今では独身の日と並ぶ二大イベントにまで成長した「618」があります。クロスボーダー視点で存在感を増している中国ECサイト対策は、主要サイトの動向や日本企業の越境EC戦略を注視しつつ、これらのイベントに照準を合わせて年間計画を立てマーケティングアクションを行っていくことが重要です。
※1 ECdataway(Adways Technolody Ltd.)とは?
株式会社アドウェイズが保有する中国のECデータです。アリババをはじめとするマーケットプレイス別の販売規模や売上上位店(個別名称)、商品売れ筋ランキングなどがわかります。インテージは株式会社アドウェイズと業務提携し、ECDatawayなどのデータを活用してクロスボーダーマーケティングを支援しています。
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訪日外国人の需要動向と、海外消費者がECサイトで日本の商品を購入する越境EC市場動向の両面を捉えた「事例レポート」の詳細データはこちらからダウンロードいただけます。
変化する越境事情・多様化する中国EC市場(2017年7月レポート)
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