データドリブンにマーケティング施策を最適化する『マーケティングミックスモデリング』~課題解決!データサイエンス
最近よく耳にするデータサイエンス。統計学や機械学習を駆使して、主にビジネスに役立つ知見を得たり、ビジネスを効率化する仕組みを構築したりする科学的なアプローチです。このデータサイエンス、マーケティングにおいてどのような課題の解決に役立つのでしょうか?この連載ではマーケティング部門によくある課題を例に挙げ、その解決例を紹介します。第1回のテーマは「データサイエンスによるマーケティング施策の最適化」です。
どの施策にどれだけコストをかけるべきか?
商品やサービスを展開する企業では、売上や客数を獲得していくためにTVやWebへの広告出稿、店頭販促、チラシ、ソーシャルメディアの活用など様々なマーケティング施策を仕掛けています。マーケティング担当者は売上や利益の最大化といった目的を達成するために、限られた予算を配分しながら、これらの施策を遂行する役割を果たしています。彼らマーケティング担当者を悩ませる課題の1つに「どのマーケティング施策にどれだけのコストをかければいいのだろうか」というものがあります。成長が鈍化する成熟した市場が多いなかで、企業の施策の費用対効果に対する目はますます厳しくなっています。
「どの施策が効果的だったのだろうか?」「この施策はやめたほうがいいのか?」「施策をやめるのではなく、費用の配分を見直したほうがよいのか?」より費用対効果を高めるマーケティングプランを立てるうえで、マーケティング担当者はこのような課題に直面するのです。
マーケティングミックスモデリング
こうした課題に対応する上で、データを活用した分析は非常に有効です。施策の費用対効果や最適な費用配分を検討するためには、マーケティング領域におけるデータサイエンス技術の1つである「マーケティングミックスモデリング(MMM:Marketing Mix Modeling)」と呼ばれる手法が活躍します。
マーケティングミックスモデリングでは、過去のデータ(売上、客数、契約数といった『マーケティング目標になるデータ』、広告出稿量や店頭プロモーション実施量など『マーケティング施策実施データ』)をそろえた上で、統計的に売上とマーケティング施策の関係性をモデル化します(図表1)。
図表1:マーケティングミックスモデリングに必要なデータ
モデル化においては、様々な統計モデルの中から適切なものを選び、「広告の効果がどのくらい続くか」といった残存効果や、「競合がプロモーションを打っていないか」といった施策状況など、考慮すべき要因も加味することで、モデルの当てはまり度合いを高めていきます。
このモデル化を行った後、図表2の円グラフのように各マーケティング施策の「売上への貢献」を可視化します。
例えば図表2で、ベース販売量が60%、店頭施策が10%と算出されたとします。これは、「施策を何もしなかった場合、売上は60%にとどまっていた」ということ、そして、「売上の10%は店頭施策を行った効果」ということを意味しています。
図表2:マーケティングミックスモデリングによるマーケティング施策貢献の可視化
つぎに、「費用対効果」を算出します。『各マーケティング施策にいくら使ったかの費用のデータ』を入手し、先ほど算出されたそれぞれのマーケティング施策によって生み出された売上を、施策にかけた費用で割り算することで、「ROI(施策に対する投資額X円あたりの売上効果)」を算出します(図表3)。
これにより、どの施策の投資対効果が高かったのか、横並びで比較することができるようになります。
図表3:マーケティングミックスモデリングによるROIの可視化
図表2の各施策の売上への貢献と図表3のROIを合わせて見ることで、マーケティング担当者は予算配分を検討することが可能になります。
例えば、「Web広告の費用対効果って他の施策より高いのか・・・今は費用をかけていないから売上に対する貢献は少ないけれど来期は、Web広告にもっと予算を配分しよう」といった判断ができるのです。
売上最大化のための費用配分シミュレーション
ここまでの分析で各施策の売上貢献と費用対効果が把握できました。この結果だけでもどの施策にどれだけ費用をかけるか、という予算配分の検討を行うことは可能ですが、「配分を変更した結果、売上がどう変化するのか」までわかると、社内の関係者に対して予算配分の根拠をわかりやすく説明することができます。
費用対効果が高いからといっても来期の予算をすべてWebに、という判断にはならないでしょう。Webと店頭など、複数の施策を連動させて効果を上げることは当たり前のように行われていますし、TVCMで認知を高めつつ、レシピサイト上の記事広告で商品特徴を訴求する、などそれぞれの施策の役割を踏まえて施策のプランを検討する必要があります。
ここで複数の施策のプランが考えられる場合に「どれがもっとも売上を高めるプランなのか」を担当者自身で把握し、判断したいという状況もしばしばあります。
こうした課題には、「もしこんな費用配分にしたら、売上はどう変化するか」をシミュレーションすることで判断材料とすることができます。
ここまでの分析を踏まえて、異なる予算配分のシミュレーションプランを複数作成します(図表4・左)。このそれぞれのプランをすでに構築したマーケティングミックスモデルに通すことで、プラン毎の売上をシミュレーションし、比較することができます(図表4・右)。
図表4の例では新聞・雑誌への出稿を重視する現行プランより、店頭施策を重視したPlan2、店頭とWebを重視したPlan5がより売上を高めることが示唆されました。こうしてシミュレーションした結果は、関係者への予算配分説明の根拠となり、最適なプランの選定に活用することができます。
図表4:費用配分シミュレーション
マーケティングミックスモデリングで重要なこと
ご紹介したマーケティングミックスモデリングは、費用対効果を可視化したり、費用配分を最適化したりする上で強力な武器といえます。
その成否を分ける重要なポイントは「データをどの程度の粒度でそろえるか」にあります。マーケティングミックスモデリングでは、時系列のデータを用いて売上と施策の関連を分析します。図表5は準備するデータのイメージです。図表5左は基本的なデータで、1週毎の売上やマーケティング施策実績のデータをそろえたものです。このデータを使ったマーケティングミックスモデルの構築も可能ですが、図表5右のように1週毎の店別の売上やマーケティング施策実績データといった、粒度が細かいデータを使えば、たとえばある週に値引きを行っていた(通常より安く売っていた)といった個別の店での施策実施状況までわかり、売上に対する施策の貢献度をしっかり分解できるのです。
図表5:マーケティングミックスモデリングに用いるデータ例
一方で、粒度が細かすぎるデータも、売上と施策の関連を分析する上でノイズが多く入り込み、施策貢献が正確でないものになりがちです。マーケティング実務におけるモデリングを実施する上では、適切な粒度のデータを揃え、分析を実行・評価して、納得性のあるモデリングを実行するノウハウがとても重要となります。
SNSの動画広告など年々新しいWeb施策が生まれ、施策の自由度が増している今、データサイエンスによる施策のROIの可視化はますます必要性を増しそうです。
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APRiCOT®(マーケティングミックスモデリング/MMM)
高精度なマーケティングミックスモデルです。インテージの小売店販売データSRIを用いて日々の店頭販売、施策実態を反映したモデルを構築することも可能です。販売投資対効果の把握とその後の施策プランニングにご活用頂けます。
i-SSP®版 APRiCOT®(マルチタッチアトリビューション/MTA)
同一個人の『購買履歴』と『メディア接触』を捉えるシングルソースパネルデータだからこそできる高精度なマーケティングミックスモデルです。投資対効果の把握とその後のメディアプランニングにご活用頂けます。
SRI®(全国小売店パネル)
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