テコ入れすべきマーケティング要素を可視化する『構造方程式モデリング』~課題解決!データサイエンス
統計学や機械学習を駆使してビジネスに役立つ知見を獲得したり、ビジネスを効率化する仕組みを構築したりするデータサイエンス。第1回の「マーケティングミックスモデルによる施策最適化」に続き、マーケティング領域での課題解決にフォーカスした連載の第2回は「データサイエンスによる要因構造の可視化」です。
目次
商品・サービスのテコ入れに効果的な要素は?
商品やサービスのマーケティング担当者は、生活者の支持を獲得するために、日々、商品企画やブランディング、プロモーション活動を行っています。その努力の一方で商品やサービスの販売が少しずつ落ち込むこともあり、担当者はテコ入れのための計画立案を迫られます。
テコ入れ計画の立案にあたっては、「商品・サービスに対する支持を得る上で、影響が大きな要素はなにか?」といった購買支持の源泉を把握することが重要です(当然ながら、販売が落ち込んだときだけでなく、販売を持続していく上でも重要です)。
ここで、「この商品を買いたい」という『商品の購入意向」に対して商品・サービスを構成する各要素(製品特性、ブランド評価、マーケティング活動への印象など)がそれぞれどの程度影響するかをデータに基づき分析・把握することで、テコ入れのためにはどの要素に注力すべきかの示唆が得られます。
とはいえ、商品・サービスを構成する要素は多岐にわたるため、分析は大変です。化粧水を例にあげると、『ブランド自体の好意度』や「 肌なじみ」「伸び」などの『商品自体の物性』、「肌にハリツヤが出る」「肌がしっとりする」などの『利用者が感じる効果感』、『広告の印象』など検討する要素は多々あります。
こうした商品・サービスの構成要素は、「肌がしっとりする」実感があるから『ブランドへの好意度』が高まる、といった形で要素間で影響を与えることも多いため、最終的に上げたい『商品の購入意向』とそれぞれの要素の関係性を単純に分析するだけでは、注力すべき要素はわかりません。このとき、「要素間の関係も含め、各要素から商品購入にいたる要因構造をうまく可視化したい」という分析ニーズが強く生まれるのです(図1参照)。
図1:商品・サービス購入に影響する要因
構造方程式モデリングによる要因構造の可視化
データに基づいて要因構造を可視化するニーズにはデータサイエンス手法の「構造方程式モデリング(共分散構造分析とよばれることもあります)」が有効です。
構造方程式モデリングでは、「どの要素がどの要素に影響を与える」という分析者が持つ仮説を図2のようなパス図とよばれる関係図に落として分析用のデータを入力し、パス図がデータにどの程度当てはまっているかを評価した上で、矢印部分の影響の強さを「パス係数」と呼ばれる数値で推定します。
データへの当てはまりがよければ分析者の仮説が支持されたことになり、妥当なパス図であるという判断ができます。
ここで妥当なパス図が得られれば、パス係数に基づいて、要素間の影響の強さを解釈・考察することができるのです。
商品・サービスの購入意向への要因構造を明らかにしたい場合、分析データとしては、U&A調査(商品・サービスの購入・利用実態を捉えるための調査)で取得したアンケートデータを利用することが多いです。
図2は化粧水ブランドのパス図のイメージです。たとえば「ハリツヤの効果感」という要素から出ている矢印は「商品の購入意向」だけでなく「ブランドの好意度」に影響を与え、「ブランドの好意度」がさらに「商品の購入意向」に影響を与えていることを表しています。一方で、「ハリツヤの効果感」は「肌なじみがよい」という要素の影響を受けています。パス図ではこうした複数の要素の関係をグラフィカルに表現することができます。
また、矢印に 記載されているパス係数は標準化解とよばれる数値で、最少-1~最大1の間を動く指標です。絶対値が大きい係数がより影響度が強い、と解釈できます。いくつかの要素の中で何を重視すべきか迷ったとき、このパス係数を比べることが、より重要な要素を選ぶ判断を助けます。
図2:構造方程式モデリングのアウトプットイメージ
(数値は推定されたパス係数<標準化解>)
間接的な影響が大きい要素も評価する
構造方程式モデリングでは、変数間の直接的な影響の他に、「他の要素を経由した間接的な影響」も推定することができます。図2の一部の関係を抜き出したものが図3ですが、前述のとおり、「ハリツヤの効果感」は「商品の購入意向」に直接影響するだけでなく「ブランド好意度」にも影響を与えています。したがって、「商品の購入意向」への直接的な影響と、「ブランド好意度を経由した」間接的な影響を与えていることになります。
「ハリツヤの効果感」が「商品の購入意向」に与える影響度は、直接的な影響として0.2、間接的な影響として0.6×0.3=0.18と定量的に算出できます。これをもとに、「ハリツヤの効果感」の総合的な影響度は直接的な影響と間接的な影響を合わせた0.2+0.18=0.38と算出できるのです。これを総合効果と呼びます。
こうした間接効果を算出できることにより、直接的には影響は少ないが、ほかの変数の下支えをすることで重要な要素、いわば『アシスト上手』を特定することができます。
このように、テコ入れの優先度を検討する上で、直接的な効果だけで捉えると見逃してしまう重要な要素を検出できることが、構造方程式モデリングの優れた点と言えます。
図3:直接効果、間接効果、総合効果の算出例
それでは応用として、図2の「ハリツヤの効果感」「肌がしっとりする」の総合効果を計算してみましょう(図4)。この2つの要素は購入意向に対して同じ0.2という直接効果をもっています。ブランド好意度を経由した間接効果を計算すると、それぞれ0.18、0.09となりますので、総合効果はそれぞれ0.38、0.29となり、「ハリツヤの効果感」がより商品購入意向につながりやすいことがわかります。
このように、間接効果を考慮して総合効果を比較することで、2つの構成要素のいずれを重視すべきかの判断も変わってきます。
図4:総合効果の比較例
また、図5のように「肌なじみがよい」は購入意向に対する直接効果は0.05と小さいものですが、「ハリツヤの効果感」「肌がしっとりする」の間接効果を含めた総合効果は0.12となります。他の要素より効果はやはり小さいものの、アシストする効果を考えると決して軽視できない要素といえるでしょう。
図5:間接要素の効果算出例
構造方程式モデリングのステップ
構造方程式モデリングの分析は、図6のようなステップで進めていきます。
図6 構造方程式モデリングのステップ
Step1. データの確認:
それぞれの要素の特徴を、グラフを描画したり、代表値(平均など)を算出したりして確認します。この事前分析によって、現状がどうなっているのか、どのくらい改善によって変わりうる要素なのか、といった基本的な情報を得ます。
Step2. 要素間の関係性探索:
事前に分析者が要因構造についての仮説を持っていないケースや仮説が不確かなケースでは、それぞれの要素間の相関や偏相関(他の変数の影響を取り除いたときの相関)といった関係性を確認し、要因構造の仮説を構築します。
Step3. パス図の表現:
Step2の仮説を、パス図で表現します
Step4. 分析の実行:
分析用のソフトウェアを用いてデータとパス図(仮説モデル)の当てはまりの評価を行い、影響度(パス係数)を推定します。当てはまりの評価はGFI、AGFI、RMSEAといったデータとの適合度を評価するための指標によって行い、データへの当てはまりが悪い場合は、Step3に戻り、パス図(仮説モデル)を修正します。
Step5. パス係数に基づく考察:
Step4で一定の当てはまりが得られたら、推定されたパス係数の大きさに基づいて要因構造について考察し、どの要素をテコ入れすべきかを検討します
こうしたステップに沿って、試行錯誤をしながら、妥当なパス図を得たうえで検討を進めていきます。
Step3において、いきなり多くの変数を投入したパス図を作成すると、データとの当てはまりが悪い場合、どこを改善すればよいかわからなくなることが往々にしてあります。まずは小さいパス図(要素が少ないパス図)を構成し、徐々に要素を増やしていくことが当てはまりがよく、仮説を表現できるパス図を構築する近道です。
構造方程式モデリングにおいて重要なこと
構造方程式モデリングは要因構造を可視化しながら、テコ入れすべき要素を捉える上で非常に強力なツールです。一方で、網羅すべき要素がアンケートから漏れていたり、テコ入れをするにもコントロールできない要素で分析をしても、分析結果をアクションにつなげられなくなってしまいます。
事前にその先の打ち手も考えた仮説を検討し、調査をしておくことが、分析結果のスムーズな活用につながります。
また、商品・サービスや市場の環境に詳しくないと仮説構築自体が難しく、データを探索して無理やりパス図を描いたとしても、納得性が低い結果になることもあります。商品・サービスや市場の環境をよく知っているマーケター、リサーチャーと分析者がチームとなって、仮説を摺合せながら分析を進めることが重要となります。
商品・サービスを構成する要素は多岐にわたります。マーケティング担当者の業務は、日々それらの要素を動かし、効果を上げていくこととも言えます。より当てはまりのよい構造方程式モデリングを行う上でも、常に要素の関係性を意識し、商品・サービスに適した仮説が立てられるようにしておくことが重要だと言えるでしょう。
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