

2020年代に入って以降、世界情勢やそれを取り巻く社会環境、テクノロジー、そして市場の変化は高速化しています。私たち生活者への影響は生活基盤から価値観にまでおよび、なお変化の渦中にあります。変化する状況自体が常態化している現在において、新たな価値やイノベーションにつながるアイデアや事業、サービスを生み出していくことは、ますます難しくなってきています。
インテージでは、このような「難しすぎる時代」において、新しい眼差しで物事を捉え直す取り組みが求められていると考え、その捉え直しのための探究に焦点を当てた「秋葉原動詞探究倶楽部」という活動を行っています。先日第2期の活動を終え、探究活動が難しすぎる時代を乗り越えるアプローチになり得ることを実感しました。
この記事では、新商品開発や事業開発、研究部門等に取り組まれる方やその人材育成に関わる方に向けて、インテージの探究活動をご紹介します。秋葉原動詞探究倶楽部での活動を振り返りながら、探究活動の進め方と可能性についてお話したいと思います。
秋葉原動詞探究倶楽部(以下、動詞探究)の大きな特徴は、一つの動詞をテーマに異業種の企業が集まって探究を行うところにあります(詳しくは過去記事:価値観の変容を促す「探究」の意義を参照ください)。第1期の活動では5社、第2期の活動では4社+1大学から参加いただき、インテージからも探究員を加えて各期約30名程度で活動しました。
探究会は第1探究会から第5探究会の5回に分けて進めていきます。第1探究会では、一つの動詞に対して探究員全員で用途やイメージ、想起することを挙げていくことから始めます。第1期のテーマは「続ける」、第2期は「遊ぶ」という動詞でした。
たとえば第1期では、「続ける」にまつわる自己の個人的な体験をシェアし、周りの探究員との間で対話をしながら自分にとっての「続ける」を書き出していきました。人生における「続ける」や人を超えて長く「続く」歴史、あるいは個人の習慣の「続く・続かない」に焦点を当てるなど、一つの動詞から様々な方向性が生まれました。第2期でも、同じように自分にとっての「遊ぶ」を自身の体験から振り返ってもらい、子供と大人の「遊ぶ」の違い、「遊ぶ」に対比される「仕事」、没頭することは「遊ぶ」なのか、などの意見が出て、気になる捉え方や共感できる考え方についての対話が広がりました。
図1

所属する業界やバックグラウンドの異なる探究員が集まることで、多様かつ違いのある意見が生まれる環境が作り出されます。そこで生まれた意見の広がりや、自分の意見との違いをズレとして認知し、「それってどういうこと?」と疑問をもって各自が対話を行っていくことで、ふとした疑問のままでは解像度が低い違和感を具体的にしていきます。この違和感を明らかにしていく入口として、各探究員は初回の探究会の最後に、テーマとなる動詞から自己の「問い」を形にします。動詞探究の活動では、この問いを深めていくことで、ズレや違和感の解像度を上げていきます。
第2探究会では、マグネットテーブルという手法を用いて、探究員それぞれが書き出した問いを出し合い、自分と近いテーマを持つ人とチームを作って、チーム内で探究したい問いを決めていきます。その後第2〜第4探究会で、問いを広げ、深めるために複数のプログラムを並行して実施します。
一つ目は有識者による話題提供です。インプットとして、複数の有識者からテーマの動詞にまつわる話題を共有していただきます。
※第2期にご参加いただいた有識者の話題提供回の記事はこちら(三宅香帆さんと考えるなぜ、今、「問うべき“問い”」を立てるのが難しいのか?)。
有識者は文化人類学者やコピーライター、小説家など、様々な分野からご参加いただきます。有識者による専門的な知見やエピソードは、現在の問いを新たな角度から照らしだす探究を手助けします。
二つ目は生活者の声の読み解きです。インテージ独自の調査手法であるデ・サインリサーチを用いて、生活者の心を読み解くマップを作成します。第3探究会ではこのマップを見ながら生活者が動詞をどのように捉えているか、自分たちの問いに繋がりそうな要素はないかを読み解きながら問いを掘り下げる情報として活用します。
三つ目はチーム活動です。第3探究会から第4探究会までの間にチームごとに用意された活動資金を使って、今の問いを深めるためのフィールドワークを各チームが自ら企画、実践します。問いを深めるアクティビティであれば、何をやるかは自由。第1期では、「続ける」をひたすら語る飲み会や伝統工芸を受け継ぐ職人へのインタビューや茶道の体験など、第2期では実際に「遊ぶ」ためのゲーム購入や他のメンバーが立てた休日プランなど、チームごとの問いを実践する活動に活動資金が使われました。
四つ目は合宿です。第4探究会では、日常から離れた場所で各チームの問いを共有し合い、改めて問いやテーマ自身に向き合う時間をつくっていきます 。
図2



有識者や生活者の声を通して得られる様々な外部知見と、実際に身体を動かし、やってみるという身体性を伴う体験。こうした活動を通じて問いが揺さぶられることで、当初立てていた問いが一段進んだ問いに更新されたり、まったく別の問いに姿が変わることもあります。急いで答えを求めに行かず、あえて問い続ける環境を維持しながら、探究活動を進めていきます。
このような探究活動を意識する上で、私たちが工夫したのは約半年間のプログラム設計です。問いを深める機会を断続的に設計することで、日々の業務や生活と並行する期間も長くなります。この期間に様々な疑問や気づきが探究活動と日常の間で往復し、それぞれの領域で新たなアイデアが生まれやすい環境を作ります。顧客との会話でふと感じた違和感が探究の入口になり、探究で得た観察の結果が翌日の業務のヒアリングに活かされる。こうした往復が醸成されていくことで、業務上の小さな課題、個人の趣味で得た知見、誰かの何気ない一言が、多様な視座の許容を生み出し、様々な方向で結び直されていくことが期待できるのではないかと考えています。
こうした往復は、探究活動ではチームが一体化していく過程になって表れていきます。最初はぎこちなかったチームも、回を重ねるごとに自ら探究のアクセルを踏み始め、探究会の合間に自主的にミーティングの機会を設ける姿も見られるようになります。あるチームメンバーは自社のオフィスにメンバーを集めて自主的なミーティングを行っていました。探究会全体での活動時間はわずか十数時間に過ぎませんが、そこから波及する活動を含めると、チームとして何かを生み出そうとする熱量は回を重ねるたびに確実に高まっていきます。
探究を別枠として捉えず、日常と並走させることで、思考の往復が個々人に内在する情報をつなぎ合わせる機会を作り、新たな視点や気づきを導く場を生み出していきます。
図3

探究活動のプロセスにおいて、私たちが大切にしたいと考えているのは、曖昧さや不確実性を抱えながら走るという姿勢です。「問いを回す」というアプローチは、様々な外部からのインプットと自らの体験を繰り返しながら、新たな問いを作ることを続けていくプロセスです。この過程の中では、問いの答えは出しません。最終回は考えを整理する場ですが、それ自体をゴールとせず、さらに持ち帰って問い続けることを前提としています。 曖昧さや不確かなものを排除するのではなく、それを抱えながら観察する環境を作ることが、視点がずれ、新たな問いのきっかけになります。
VUCAの時代と言われて久しいですが、このような予測がしづらい状況にあってなお、私たちは答えを早急に求めてしまいます。もちろん、事業成長の上では効率や生産性を高める取り組みは必要ですし、生活者にとっても、失敗や間違い、リスクは減らしながら生活をよりよくしたいという思いは強くあります。
解が明確な場合は効率性が有効ですが、複雑で複雑な課題に対しては、異なる視点を用いてはじめて見えてくることもあるのではないでしょうか。私たちは、効率を追求することと探究を実践することを共存させ、両者を相補的に活用することが重要だと考えています。
情報を敏感にキャッチすることを「アンテナを張る」といいます。秋葉原動詞探究倶楽部はそのアンテナを探究のために張り直す取り組みと言えるかもしれません。どの方向に、どのように張り巡らせるか、キャッチする情報の粒度をどう調整するかを自身の中で作り上げていくことが、新しい問いを発見しやすい状況を生み出します。わからないことに触れることで違和感の解像度を上げていく探究活動のアプローチは、アイデアやイノベーションの創出に繋がる可能性を持っていると考えています。
第2期の最終回では、動詞探究を通じた新たな価値の創出や、実現できそうなアイデアを発表しました。あるチームは遊ぶことをトライアルの機会と捉えることで、趣味ややりたいことを始める入口の機能として「遊ぶ」を活かすサービスを構想しました。また別のチームは、大人がもう一度遊び直すことの重要性を取り戻し、大人が本気で遊ぶコンテンツのサービスコンセプトを提案しました。
※第2期の探究活動の最終回に関する記事はこちら(異業種5社と探究する、生活者にとって「遊ぶ」とは何か?)。
イノベーション創出や実現において確実で効率的な方法はありません。一方でこれまで世に出ているイノベーションと呼ばれるサービスやプロダクトの背景には、ある状況とある視点が交差して画期的な仮説や洞察が生まれるというケースが多くあります。私たちは、このような未知のつながりを生み出す機会を増やしていくことが、新たなアイデアやイノベーション創出の元となる仮説や洞察への重要な手がかりになると考えています。
変化が激しい現代において、探究活動を行うことは、先見性を持つという観点でも、また危機予測の観点でも今後ますます重要な役割を担う力になります。秋葉原動詞探究倶楽部は多層的な視点を持って物事を捉える力を育て、耕していくことで、イノベーション創出を支援していくため、引き続き探究を進めていきます。
第1期「続ける」の動詞探究活動をまとめたebookを公開しています。こちらもぜひご覧ください。
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