日本の共働きパパの実態は?子育て世帯の家事育児の最新状況
この記事では、2022年9月13日に開催されたオンラインセミナー「バーチャルツアーで解説!~広がる男性の家事育児と新たな市場機会」の第1部の内容を抜粋してお届けします。
第1部では、日本の子育て世帯の家事育児の最新状況を、定量・定性の両面から幅広くご紹介しました。特に、これから拡大が予想される「家事育児に積極的なパパ」に着目し、「妻との役割分担」や「消費特性」を深掘りしました。更に、インテージの生活者データベース「Consumer Life Panorama」を活用したバーチャルツアーによる子育て世帯のリアルな暮らしの観察を通して、新たな視点を考察しました。
共働き世帯の家事・育児の実態と課題
まず、デスクリサーチの結果から「日本のパパを取り巻く環境が大きく変化している」ということをご紹介しました。図1は、「専業主婦世帯」と「共働き世帯」の世帯数の推移です。
図1
共働き世帯は、拡大し続けていますが、2010年代に入って急激に増加しました。2021年では1,247万世帯と、専業主婦世帯の2.2倍存在しています。
この背景には、女性の自立意識・キャリア志向の高まりや、パパ1人の給料で家族を養うことが難しいという経済的要因があります。そのため働くママが増え、パパが家事育児を担うことが当たり前という環境になってきています。
では、共働き世帯のパパはどんな家事をやっているのでしょうか。弊社が2022年に実施した「家事育児実態WEB調査」から、パパ・ママが担当している家事を比較してみました。
図2
パパが担当している上位の家事は、「ゴミ出し」「風呂掃除」「食器洗い」となりました。特に「風呂掃除」は、パパとママが同水準でした。一方で、「食事の準備」はママの担当が多く、男女間のギャップが大きいということが分かりました。「食事の準備」には、一定の調理スキルが必要ですし、何を作るか、冷蔵庫の食材を見ながらレシピを考えるなど、負担の大きい家事と言えます。そこをママが担ってくれているということが言えます。
続いて、「家事分担の割合」に関する意識を見てみます。すると、パパとママに大きな認識ギャップが存在していることが分かりました。
図3
左の円グラフが、パパ自身による家事分担の割合の自己評価です。「自分は3割やっている」という回答が最も多くなっています。一方、右の円グラフが、ママから見たパパの家事分担の割合です。「パパは1割以下しかやっていない」という回答が最も多い状況です。
夫婦間には、家事分担の割合に関して大きな「認識のギャップ」が存在しています。その理由として、ママからは「たまに洗濯物も畳むのを手伝ってくれるが、まれな事なのに、自分はやっていると言う」「お膳立てをしてもらった上で行う送迎や食事を、自分がすべてやっていると思わないでほしい」など、厳しい意見が挙がりました。
「頻度の問題」や「名もなき家事」と言われますが、パパとママの家事育児分担に関する認識のギャップは、共働き世帯における家事育児の根っこの課題であり、インサイトに繋がる重要なポイントでした。
共働き世帯パパのインサイトとマーケティングへのヒント
ここから、Consumer Life Panorama(バーチャルホームビジット)」という生活者理解ツールを用いて暮らし全体を観察し、合わせて定性調査を実施することで、生活者の実態・課題の解像度を上げていきます。
図4
まず、一部の共働き世帯で特徴的に発生している課題として、「家事育児分担に対する夫婦の認識ギャップ」があります。具体的には、ママには「どうして私ばっかり。パパはズルい」という不満があります。一方、パパは「家事は手伝うよ。今の時代、男もやらなきゃいけないんだろうから」というスタンスです。ママはそれにモヤモヤを感じています。
ある日、パパは家事が終わった後に「やったよ」とドヤ顔で言いました。それを聞き、ママはついイラっとして、「たまにやっただけで、偉そうな顔しないでよ。私も働いているんだから、当たり前でしょ」「いいところだけ持って行かないでよ」ときつく当たってしまいます。パパは、「ママがますます不機嫌になった・・・。どうすればいいの?」と悩みます。
もちろん全ての家庭に当てはまるわけではありませんが、共働き世帯の家族にはこういったすれ違いから、家族関係が悪化してしまう事象が一定ありそうです。ですので、この文脈・感情を理解した上での商品開発・コミュニケーション開発が重要と考えられます。
この共働き世帯の課題に対して、インサイトを考えます。なお、ここで言うインサイトとは、「ユーザー・ノンユーザーそれぞれの意識・無意識の全体的な理解とビジネスの課題を繋ぐもの」と定義しています。
図5
共働き世帯のパパは、日々の生活において「ママの機嫌」を強く意識していました。そして、ママの機嫌が悪いと家の中がしんどくなるため、特に避けたい状況として捉えていました。
ですので、パパの「ママの機嫌を損ねたくない」というインサイトに紐づけて商品・コミュニケーションを設計するのが良さそうです。具体的には、「パパでも簡単に家事育児が出来るという簡便性」を前面に訴求するのでなく、「パパが家事育児をする」ことによって「家族全体の余裕・幸せが生まれる」。そして、その結果として「パパ自身が家庭で心地よく過ごせて、幸せ度が上がる」というポジティブな文脈にした設計が重要と思われます。
このインサイトを踏まえた商品開発の例として、「ローコスト&ハイリターンな“パパの○○”」というアイデアをご紹介します。
図6
多くのパパにとって、食事を準備するハードルは高いと言えます。特に、調理スキルが不足しているパパが、まだ慣れない段階において家族の食事準備をするには、「どこかの調理工程を簡便にする」だけではハードルが高いと感じます。それよりも、「調理工程が1ステップで完結する」商品設計の方がフィットしそうです。
今回のインタビューでも、あるパパが「たまに作るうまいもの」として、「さば缶に切り干し大根を入れて、ゴマ油と醤油を垂らす」というレシピを教えてくれました。「火も包丁も使わず、混ぜるだけなので、ハードルは全くなく、かつ家族みんなが喜んでくれる」と語る様子は、とても楽しそうでした。「スキルがなくても絶対に失敗しない、そしてお金も時間もかからない」ということがポイントと思います。それが、ママの代わりではない「パパの味」となり、パパの食事作りの自信、ひいては家族の幸せに繋がっていきます。
最後に、インサイトを踏まえた設計とそうではない設計を比較してご説明します。
図7
パパが食事を作るシーンというと、一般的には「休日の特別メニュー」が思い浮かびます。「今日は時間に余裕があるからパパが作ろう。いい肉を買ってきて焼肉にしよう」というシーンです。その際、もしかすると、ママには「ありがとう」という気持ちではなく、「気分がのったときだけ作るってどうなの?」とか、「オイシイところだけ持って行かないで欲しい」という、モヤモヤ・イライラが生じてしまう可能性があります。
そこで、共働き世帯のパパの「ママの機嫌を損ねたくない」というインサイトを踏まえた設計としては、スライド右側のようになります。シーンと価値を、パパの「平日の日常定番メニュー」と置きます。「料理は上手くないけど、毎週火曜・木曜は、パパが夕食を準備するから、ゆっくりしてよ」と、ママへの感謝と労わりがベースになります。
商品カテゴリーは、例えば、缶詰・レトルト食品を使った簡単なアレンジ料理で、丼もの・ワンプレートといったメニューかもしれません。特徴は、素材や製法へのこだわりが、パパのワクワク感を刺激し、ストーリーを家族に語れるようなものが良さそうです。調理スキルが低いパパに成功体験を生み出し、いつも美味しいパパならではの味として、定番化を狙います。
共働き世帯のパパのインサイトから、アイデアを膨らませてみましたが、いかがでしょうか。こういった文脈の方が、より成功確率が高まるのではないかと思います。
良質なインサイトを抽出するアプローチ方法
セミナーでご紹介した、デスクリサーチ(PART1)、定性調査を用いてデスクリサーチでフォーカスした課題の解像度を上げる(PART2)という流れは、下記のアプローチ方法に沿ったものです。
まず、Part1の最初のステップとして視野を拡げて大局を捉えます。具体的には、「デスクリサーチ」を行い、共働き世帯を取り巻く環境やトピックを洗い出します。その上で「WEB調査」を行い、意識・行動やトピックの実態を定量的に捉え、課題を浮き彫りにしていきます。
その後、Part2のステップでフォーカスした課題の解像度を上げていきます。具体的には、「Consumer Life Panorama(バーチャルホームビジット)」という生活者理解ツールを用いて暮らし全体を観察します。そして、観察を起点とした「セッション」を通じて広く多様な仮説を構築します。最後に、得られたインサイト仮説を「デプスインタビュー」によって磨き上げるというステップです。この一連の流れを「ビジネス課題」に紐づけて適切に行うことで、ビジネスに活かせる良質なインサイトを捉えることができます。
なお、今回ご紹介したプロジェクトのベースとなっているソリューションが、「成長機会仮説獲得プログラム」になります。ご興味がある方は、ぜひ下記のページもご覧いただき、弊社担当者までご連絡をいただけますと幸いです。
■Consumer Life Panorama(バーチャルホームビジット)
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