
アンケート調査を設計する際には、何をどのような回答形式で聞くかを決める必要があります。この時、目的に応じて適切な回答形式を設定することが重要です。
「自由回答形式」は、いわゆる「フリーアンサー」「オープンアンサー」と呼ばれるもので、その名の通り、調査対象者が自由に回答を記入する設問形式です。回答内容と表現を対象者にゆだねることが特徴です。
自由回答設問は、対象者が自由に回答を記入できるため、適切な質問方法を用いることで、選択肢から選ぶ設問よりも「より正確なニュアンス、本音に近い意見」「記憶や感情に深く刻まれた内容」「調査作成者が予期せぬ意見・アイデア」を得やすくなります。(自由回答設問の役割と、聞き方のキホン(前編)から引用)また、「選択肢化が難しい内容」を自由回答形式で聴取してみることもあります。
では、自由回答設問は具体的にどのように分析するのでしょうか。自動車に関する自主企画調査を例に紹介します。
半年後~5年後以内に自動車を購入しようとしている人に「購入する車を決める際、インターネット/SNS/動画サイトの検索窓にどのような言葉を入力するか」を実際の検索画面を模した画面で聴取しました。この調査結果をもとに、3つの方法で分析していきましょう。
まず1番に思い浮かぶのが、自由回答を簡単に数として集計する方法ではないでしょうか。回答の件数を簡易にピボット集計する方法です。例えば、「軽」という言葉を含む回答の件数を集計してみると図表1のような結果が見られました。
図表1
この方法であれば、複雑な処理を必要としないため時間とコストを抑えて集計を実施することができます。また、元の回答をそのまま集計するため、自由回答で得られた回答の情報を落とすことなく確認することができます。
ただし、まったく同一の回答のみをまとめるため、以下のような場合の集計が難しくなります。
・表記揺れがある場合
:「軽自動車 おすすめ」「おすすめの軽自動車」「軽自動車 オススメ」
・同じ意味でも違った言葉で表現される場合
:「車 軽 燃費がいい」「軽 低燃費」
そのため、この形式はどのような回答が出るかを確認するための定性的な調査の場合には有用ですが、高い精度で定量的な調査を行いたい場合には不十分でしょう。
テキストマイニングツールでテキストを単語や文節で分類し、使用頻度や関連性を分析するという方法もあります。例えばワードクラウドを利用すれば、直感的に出現の多い語句が何であったかを確認できます。近年はAIも発達しているため、インターネットサイトで簡単にワードクラウドを作ることができるようになりました。
回答が多い語句が大きく表示されるように図式化したものがワードクラウドです。ニュース番組などでXの投稿などのワードクラウドを目にすることも多いのではないでしょうか。
図表2は調査回答で作成したワードクラウドです。
※今回は、UserLocalのテキストマイニングツール(AIテキストマイニング by ユーザーローカル)を使用しました。「新車」「車種」「軽自動車」などのワードが多く出現していることが直感的にわかります。
図表2
単語だけでなく、『どの言葉とどの言葉が一緒に使われているか』も確認できるように図式化したものが図表3の「共起キーワード」のマップです。「軽自動車」とは「人気」「おすすめ」「燃費」などのワードが一緒に検索されていることが確認できます。
図表3
この方法では、多くの回答を効率的に分析できるため、大規模なアンケートにも対応可能です。現在ではツールを通して自動的に集計を実施できるため、時間やコストも抑えられるようになっています。直感的なアウトプットはレポートや報告資料に掲載する場合にも重宝されるでしょう。
ただし、このような集計でも、ピボット集計同様「同じ意味でも違う言葉で回答されている」場合には別のものとして集計されてしまいます。また、AI内部では定量的な分析がなされているにしても、出力された図では「量的な検証」に関してはブラックボックス化してしまいます。
これまでご紹介した集計方法は、手早くかつ・視覚的に集計をして、回答の概要をつかむことに優れています。しかし、「量的な検証」が必要である場合にはそれぞれ欠点がありました。
では、自由回答の質問はどのように「量的な検証」をすればよいのでしょうか。調査時によく使われる手法は「OAコーディング」です。OAコーディングとは、自由回答を定量的に分析できるようにコード(≒選択肢)に変換する作業のことです。今回の調査では図表4のように、検索されているワードをカテゴリーにまとめるコーディングを実施しました。
※コーディングの粒度は、「人気」と「おすすめ」を別にコーディングするなど、自由に設定することが可能です。
図表4
「軽自動車」と一緒に検索されているワードがどんなものかを確認してみましょう。図表5では「軽自動車」を含む検索ワードを回答していた人が、他にどんなワードを一緒に検索していたかをコーディング結果を基に集計ました。最も多く一緒に検索されているのは「人気・おすすめ」、次点で「具体的なメーカー名」でした。
「メーカー名」としてコーディングされる回答には、実際には「トヨタ」「ホンダ」など様々なメーカー名が記載されています。このまま方法①や②のような回答を集計すると、各メーカーに結果が分散してしまいます。しかし、コーディングを実施することで、様々なメーカー名の回答を「メーカー名」というカテゴリーとして集計することができます。
図表5
また、コーディングを行うことで、より詳細な分析を行うことも可能です。例えば、「軽自動車」を含む検索ワードを回答している人の属性を見てみましょう。今回の調査の回答者全体と比較して、女性の方が「軽自動車」に関心が高いことがわかります。
図表6
このように、OAコーディングを実施すれば、選択式の回答と同様に集計して量的なデータ分析を行うことができます。分析軸を設定したり、属性ごとの回答傾向の違いを見ることも可能です。ただし、回答の具体性は損なわれてしまうので、実際の回答データも併せて確認することも重要です。
ただし、OAコーディングの作業は現状、1つ1つの回答と選択肢を紐づける集計を人力で行う必要があります。今回AIでのコーディングも試してみましたが、まだ精度はあまり高くありませんでした。そのため、今回のように7500人の回答を集計するとなると、かなりの時間と労力を要します。
このように、自由回答の集計にはいろいろなアプローチがあります。量的な検証が必要か否か、視覚的なわかりやすさが重視されるのか否かなどをもとに、どのような集計が適切であるかを決める必要があります。
自動車の例に戻りますが、20年ほど前までは自動車のカスタマージャーニー(顧客が特定の製品やサービスを購入するまでの一連のプロセスや体験)は、以下のような流れが一般的でした。
① 複数のディーラーで試乗
② 紙のカタログを持ち帰り車種を比較
③ 見積もりを取る
④ 購入を決める
しかし近年はインターネットやSNSでの検索が主流となり、紙のカタログ製作を終了するメーカーも出てきています。ディーラーに行かずに、インターネット検索や動画視聴で比較検討を終える人も増えているようです。また一部のメーカーでは、ディーラーに行かずともインターネット上で車を購入することも可能になりました。
そのため自動車のカスタマージャーニーは「販売店に行く→カタログを見る→車を買う」といった決まったパターンではなくなりつつあります。 情報収集の方法も購入の方法も増える中で、自動車のカスタマージャーニーはかなり多様化していると言えるでしょう。
調査を実施する場合も、検討が1年間の長期にわたり、かつ検討方法・購入方法が多様化している中で、「顧客がどのような方法で自動車を比較・検討し、どんなことを重視して決定に至ったのか」を正確に知ることは困難です。そのため、選択肢に起こすことが難しく、定量調査の実施が難しいと判断して定性調査(インタビュー調査)を行うケースも多いです。
とは言え、量的なデータも意思決定の上では必要となるでしょう。そこで選択肢化が困難な場合でも具体的な回答を得る方法として、自由回答での聴取も考えられます。今回は、自動車検討初期段階のカスタマージャーニーを把握すべく、例に挙げたような調査を実施してみました。多様化し、複雑化するカスタマージャーニーを捉える手がかりとして、自由回答を活用してみるのはいかがでしょうか。
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