

ネットリサーチ(インターネット調査)を通じて、高品質な回答データ(回答者の声が反映された正確なデータ)を得るには、対象者の回答負荷を踏まえた調査票作成が必要です。
近年はネットリサーチの回答率の低下が進んでいます。そのため、回答負荷が高い調査票は、回答品質の低下、ひいては、回答データをもとにしたマーケティング判断にも影響を及ぼすリスクがあります。
インテージは調査品質研究として、「フィールドサイエンス・プロジェクト」に長年取り組んできました。その中には、回答負荷の少ない調査票の作り方の研究も数多く含まれています。
この記事では、最新の研究の知見も踏まえつつ、ネットリサーチの調査票作成時に押さえておきたいポイントをまとめてご紹介します。
※「フィールドサイエンス・プロジェクト」の概要や意義はこちらの記事もご覧ください。
図1の通り、現在、多くの世代ではスマホからのアンケート回答が多数派です。また、以下の対象者インタビューのコメントからもうかがえるように、多くの回答者は「電車での移動時間」「自宅での休憩時」といった日常の隙間時間にアンケートに答えます。
図1

そのため、「スマホで隙間時間にスムースに答えられない」アンケートは回答負荷が高く、回答途中で脱落(離脱)するリスクを高めます。
さらに、多くのネットリサーチの回答謝礼があまり高くないことも相まって、回答負荷の高いアンケートの継続配信には、以下のようなリスクが伴います。
・回答中の脱落と、それに伴う回収率の低下
・回答時の選択肢の見落としや設問文の誤読などによる回答品質の低下
・回答者のアンケートへの非協力、それに伴うアンケート協力者の減少
事実、近年の回答者の調査協力率の低下は、リサーチ業界全体で非常に大きな課題となっています。JMRA(日本マーケティング・リサーチ協会)の「インターネット調査品質委員会」も、この状況に警鐘を鳴らしています。
以下のグラフは、アンケートモニターの1年間の継続状況を示したものです。1年前にはアンケートに定期的に答えていた人も、1年後にはそのうち64%しか回答しなくなっています。このような協力率の低下は、20代以下の若年層や新規登録者(オレンジのグラフ)でとりわけ顕著です。

このような状況もあり、アンケートに継続的に答えてくれる対象者(アンケートモニター)への配慮の重要性は、以前にも増して高まっているといえます。
※JMRAの提言や上記グラフの詳細については、以下もご参照ください。
インターネット調査が生き残る道 ―モニターのアンケート離れと調査データの信頼性失墜の危機の中で―
この章では、前章で紹介した問題も踏まえ、回答品質向上につながる調査票作成のポイントをご紹介します。結論としては、以下の5つが調査票作成時の重要ポイントです。

*マトリクス設問、iタイル形式については、以下の④の解説をご参照ください。
ここからは、これらのポイントが重要な理由について、研究データも交えて見ていきます。
図2はインテージの半年分の配信アンケートの設問数と、回答中止率の関連を示したグラフです。ここから分かるように、設問数の増加につれて回答中止率も増える傾向があります。特に21問以上、51問以上では中止率が大きく上昇します。
この傾向も踏まえ、アンケート全体の設問数は20問以内を推奨しています。
図2

また、過去研究の回答者インタビューでは、以下のような、設問量と回答時間のバランスについての意見も寄せられました。
・質問数より、回答完了までにかかる時間の方が気になる
・獲得できる謝礼額と回答に使える時間を踏まえて回答している
設問数を減らすだけでなく、調査全体の回答時間を短くする配慮も必要といえます。
選択肢数も回答負荷に大きな影響を与える要素です。過去研究の回答者インタビューでも、特に回答負荷が高い設問形式の1つとして「選択肢数が多い設問」が挙がっています。
図3は、「過去1年に利用した外食チェーン店」について聞く設問で、選択肢が15個、30個、50個の場合の選択肢の選ばれ方の調査結果です。このうち、選択肢15個はスマホをスクロールせず、1画面で設問文と選択肢が見られる条件ですが、残り2つの条件は、全選択肢を見るのにスマホの画面スクロールが必要です。
図3

この研究では、選択肢の総数が増えるほど、対象者が選択肢を選ぶ数が減ることが分かりました。また、選択肢数が増えるほど、マイナーブランドの選択肢(図の赤い矢印の選択肢)が選ばれなくなる傾向も見られました。
この研究結果や、スマホ1画面に収まる選択肢数が20個程度であることから、設問の選択肢数は20個以内を推奨しています。
なお、選択肢の数が20個以内でも、選択肢の文字数次第では情報量がスマホ1画面に収まらず、視認性が低下する場合があります。アンケート配信前には、1設問の全選択肢が画面スクロールせず見られるか、実際にスマホで画面確認することが必要です。
設問文の長さも回答品質に関わる要素です。図4の過去研究のアンケートでは、「設問文は短いほうが答えやすい」という声が過半数を占めています。
図4

また、図5は、選択式設問で一般的な長さの設問文と、短文の設問文を提示した時、各条件で選択肢がどの程度選ばれるかを調べた調査結果です。この結果から、設問文を短くしても、選ばれる選択肢の数にはほぼ変化がないこと、あてはまるものすべてを答えるよう言葉で指示しなくても、回答者が適切に答えてくれることが分かります。
図5

回答者に設問の趣旨を理解してもらうために、長い設問文が必要なこともありますが、長いと内容理解に時間がかかり、選択肢の確認がおろそかになる可能性もあります。設問文はできるだけ短く簡潔な表現を心がけましょう。
③に関する研究は、過去の掲載記事「スマホで回答しやすい質問文の作り方~ネットリサーチ品質向上のポイント①」でも詳しく解説しています。興味がある方はご一読ください。
従来型のマトリクス設問は図6の左のイメージのような表形式の設問です。1表の情報量が多く、表頭か表側の項目が多いとスマホ回答時に画面スクロールが発生して設問が見づらくなるため、回答負荷が高い設問形式といえます。
一方、インテージでは独自の調査画面「i-タイル🄬」形式のマトリクス設問を採用しています。i-タイル形式のマトリクス設問では図6の右のイメージの通り、表側項目の質問に1つずつ選択式で答えていきます。従来型のマトリクス設問より情報量が少ないため、選択肢が極端に多くない限り、画面スクロールなしでスマホ回答ができ、回答負荷を軽減できます。
図6

しかし、i-タイル形式のマトリクス設問でも、表側項目の数が増えると、回答品質が低下する恐れがあります。図7はiタイル形式のマトリクス設問で、表側項目の数とストレート回答(全ての表側項目の問いで、同じ選択肢だけをわざと選び続けるいい加減回答)の関連を調べた研究です。
この研究では、表側項目が30個の場合、20個以内の場合に比べ、ストレート回答率が大幅に上昇しました。このような結果も踏まえ、i-タイル形式のマトリクス設問の表側項目は20個以内を推奨としています。
図7

過去研究の回答者インタビューでは、特に回答負荷が大きな設問形式として、回答や動画再生に時間がかかる「自由回答(オープンアンサー、OA)設問」と「動画提示設問」も挙げられています。
これは、回答者のイメージだけでなく、実際のアンケートの中止率にも現れています。
図8、図9はそれぞれの設問形式と回答中止率の関係を表したものです。まず、自由回答設問については、図8のように、アンケートに自由回答設問が登場すると、回答中止率が跳ね上がる傾向が見られました。
図8

また、図9のように、視聴動画が15秒と短めの場合でも、動画を提示したアンケートの中止率は、動画を呈示しないアンケートの平均値よりかなり高いことが分かりました。
図9

いずれも必要な場合は積極的に活用すべき質問形式ですが、むやみに使うことは避け、必要な設問のみに絞って聞くことが必要です。
負荷の高いアンケート設問についての研究の詳細は、過去の記事「スマホで回答しやすい質問文の作り方~ネットリサーチ品質向上のポイント②」にも掲載しています。興味がある方はご一読ください。
この記事では、回答品質向上のために対象者の回答負荷に配慮する重要性や、それを踏まえて推奨する調査票作成時の代表的なポイントをご紹介しました。
調査票作成時にとりわけ重要なのは、「調査画面の向こうにも、忙しい生活の合間を縫って答えてくれる「人」がいる」という視点や、回答者への感謝を忘れないことだと思います。
調査協力者にこれからも持続的に回答を続けてもらうために、今回紹介した以下の5つのポイントをご存じなかった方は、次回の調査から、ぜひ実践してみてください。
①全設問数は20問以内
②選択肢数は20個以内
③設問文は短く簡潔に
④マトリクス設問の表側項目は20個以内(i-タイル形式の場合)
⑤自由回答設問、動画呈示設問は必要なものに絞る
調査票がスマホ回答時に見やすいかも確認しつつ、回答者視点に立った調査票作成を心がけていただけると幸いです。
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