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Z 世代を知るために「言葉」をアップデート

これまで、知るギャラリーでは、「Z世代・アルファ世代のリアル-テックネイティブな未来の消費者を紐解く」と題した連載を通し、インテージのZ世代研究グループと産業能率大学の小々馬敦先生との共同研究活動を通して得られた、Z世代、アルファ世代に関する情報をお届けしてきました。

「Z世代」の特性について「映えをみつけてSNSで発信!」のようにステレオタイプな表現で語られている場面をよく目にします。しかしながら、Z世代の発言や行動を注意深く観察すると、Z世代の実態・実感とちょっと違うのでは?と思うこともしばしば、です。ひょっとすると私たちは「Z世代」を理解するための「言葉」あるいは「知覚」へのアップデートが必要なのかもしれない、そう考えます。

今回は、Z世代にインタビューを行う中で、私たちの知覚・認識との違和感を感じた『偶然』や『衝動買い』といった言葉たちを素材としながら、言葉のアップデートにおける試みをお届けいたします。

情報接触にまつわる発見〜偶然の出会いは偶然か?

私たちは2022年1月から約半年間かけて総勢50名の「Z世代」「アルファ世代」へインタビューを行いました。今回はその内容からアップデートすべき「言葉」をピックアップします。

インタビューでは、まずはかれらにとって情報収集の中心となるであろうSNSの使い方について聞いたのですが、その中で「〇〇(SNS)で『偶然』見つけて……」という発言をよく耳にしました。よくよく話を聞いていくと、SNS での『偶然』とは“日々利用して自分好みにカスタマイズされたInstagramの発見画面やYouTubeのホーム画面で気になるものに出会うこと” でした。もちろん情報収集目的でもSNSは利用されているのですが、それ以上に情報接触=偶然の出会い目的でSNSを活用している傾向がうかがえました(図表1)。

図表1

Z世代にとっての'偶然‘の出会い

「おすすめ画面」は各SNSのアルゴリズムが導き出した結果であり『偶然』ではないのではないか?
という疑問が浮かび、ストレートに聞き直してみても、かれらにとってその画面は押し付けではなく、『偶然』の出会いとして認識しているようでした。
しかも、そのおすすめ画面をよりうまく活用するためにSNSのアカウントを複数作成し、自分の交友関係や趣味に応じたおすすめが表示されるように使い分けまで行っていました。人によっては10個以上のアカウントを使い分けているケースも見受けられたほどです。むしろ、SNSのアルゴリズムを逆手にとって、『自分好みの偶然』により多く出会うために活用しているのではないかとの印象を受けました。

では改めて「ミレニアル世代」以上にとっての『偶然』とはどのようなものでしょうか。それはテレビCMや広告、売り場での出会いや友人の口コミなど、他の影響をまったく受けずに発生した接触だと考えられます。つまり、同じ『偶然』と言っていても、「ミレニアル世代」以上が自分の『偶然』をイメージすると、「Z世代」の実情とは乖離する懸念があるのです。

消費行動にまつわる発見〜衝動買いは衝動か?

「Z世代」は『衝動買い』をしないと耳にする機会も多くあります。そのため、やや実験的にZ世代に33,000 円、アルファ世代に11,000 円を進呈し、特別ボーナスを手にした状態で実際に買い物を行ってもらい、その消費行動を深掘りしていく形式で一部のインタビューを実施しました。しかし実際にかれらから出てきたのは「普通に『衝動買い』することもありますよ」との発言でした。ただ、よくよく話を聞いてみるとこれも「ミレニアル世代」以上が考える『衝動買い』とは意味合いが違うことが明らかになりました。

かれらはSNSのおすすめ画面を通じて『偶然』の情報接触を行っていますが、すぐに購入に至ることは少ないようです。さらに購入までのプロセスを深掘りしていくと、『偶然』の情報接触を重ねることで購買意欲が高まり、一定のラインを超えると実際の購入に向けた比較検討のための行動に移るという流れになっていました。そんなかれらの『衝動買い』とは『偶然』の情報接触の回数が少ない、もしくは期間が短いことに加え、比較検討の行動に移る前の段階で購入してしまったときのことを示していました。たとえば「まだ細かく調べる前なのに、友達と一緒に買い物に行ったときに買ってしまった」などの発言もありました(図表2)。

図表2

Z世代にとっての’衝動’買い

この行動の背景には「失敗したくない」という意識が見え隠れします。SNS のみならずインターネットが普及し、劇的な情報量の拡大を体験してきたかれらは、良いことばかりが書かれている情報は基本信用しません。さらに自分が直感した、買いたい気持ちや興味も簡単には信用しません。そのため、SNS のおすすめ画面を中心に複数回の接触を通じ、情報の精査と自分の気持ちの確認を重ねることで失敗を回避しているのです。結果、失敗回避の確率が下がる『偶然』の情報接触の回数が少ないうちに購入してしまうことは、かれらにとっては『衝動買い』と表現される行動なのです。

「ミレニアル世代」以上にとっての『衝動買い』とは店頭での一目ぼれなど、買う予定がなかったのに“初めて” 見つけた商品に惹かれ、購入してしまうことですが、「Z世代」にとっては“初めて” ではなくとも、接触回数が“少ない” 商品を購入してしまうことを『衝動買い』と呼んでいるのです。

Instagramは思い出置き場&ビジュアル名刺

「Z世代はSNSを日常的に活用している」と聞くと、つい期待したくなるのがかれらの『投稿』を通じて自社商品やサービスが広く共有されることではないでしょうか。結論から言うと、Z世代にモノやサービスを共有してもらうことは難しそうです。その理由をZ世代の多くがメイン利用SNSとして挙げるInstagram での『投稿』を例に詳説します。

Z世代がInstagramに投稿しているのは、旅行・ライブや学校行事などのイベント・きれいな景色・素敵なおでかけ場所などのちょっとした特別な日のワンシーンと、遊んだ・食べた・友達と会った・学校でこんなことしてふざけた、といった日常のワンシーンでした。つまり、ハレとケの違いはあるものの、出来事を中心とした「思い出置き場」となっているのです。

これは、スマホのアルバムではダメなようです。SNS の『投稿』は身近な相手とのコミュニケーションのタネにもなっているからです。

たとえば、まだ友人とまでは言えない関係の同級生や友達の友達が、自分のInstagramの投稿を見て「おしゃれな人だな。このバンド好きなんだ。話してみたいな」と思ってくれるなど、友達の輪を広げるための仕込みとして利用しているのです。言い換えれば、複数の写真を使って作る、会話のきっかけと自分が人に与えたい印象を醸し出す「ビジュアル名刺」とも言えます。

また、友人の投稿に対してダイレクトメッセージを送り、そのままInstagram内で1対1のメッセージのやり取りに発展するなど、コミュニケーションの起点としても活用されていました。「〇〇と行ったここのカレー美味すぎ」という投稿に対して「俺も食べたい。今度一緒に行こうよ」とメッセージを送り、会話が続きます。

そんな、思い出置き場であり、ビジュアル名刺でもある所に、「こんなのが良かったよ! みんなも使ってみて」という話題がぽつんとあっても違和感しかないでしょう。実際、かれらの言葉では異口同音に「場違い」と表現されていました。もちろん、素敵なモノを手に入れたときに見てほしい気持ちがないわけではありません。ただしそのときは「遊んだ」「食べに行った」などの思い出にさりげなくモノを写り込ませて投稿し、「目に留めてもらえたらいいな」と思いながら、投稿した写真を見て「やっぱりいいもの買ったな」と自分一人で噛みしめる程度でした。

マーケティングのヒントは「共に」

しかしながら、悲観的になるのはまだ早いです。かれらの目線で「共有」を捉えることで、SNSの活用にも希望が見えてきました。

かれらにも「ねえねえ、これいいよ」というシーンはありました。それは、共有することを相手も求めていそうなとき、もしくは、驚きや楽しさを一緒に分かち合いたいときでした。自分が話したくても、受け手と温度差が生まれるような会話は避けるが、その情報を求める相手の役に立ちそう、一緒に楽しむための材料になりそうであれば喜んで共有するようです。
つまり、モノ・サービスの紹介としてではなく、「役に立つ」「楽しむ」といった文脈に乗せて話題作りに貢献することで、身近な相手への「共有」を引き起こせそうです。

ここまで、Z世代をよりよく理解するために、インタビューやその後の読み解きの時間を共有しながら、かれらとの「言葉合わせ」を試みました。SNS の活用が有効であると言われますが、「インフルエンサーからの波及やZ世代の自発的な投稿を期待したものの今一つ盛り上がらなかった」、そんな声も至るところで耳にします。『投稿』を生み出すには「共有」したくなるマインドやシーンにはまる必要があるのです。

そして、もう一つ『投稿』や「共有」につながる言葉をかれらの発言から添えるなら、「共感」という言葉になるでしょう。ここでも言葉合わせを行うとすれば、共感の「感」に「感動」や「感謝」がある、ということです。「共に感じる」からもう一歩踏み込むことで、よりかれらとの共鳴を生み出せる、と考えます。

『成長』は山登りではなく、ときめきを楽しむトレッキング

最後に『成長』という言葉を取り上げたいと思います。年齢的に就職や転職といったライフイベントを経験するようになったZ世代。「成長意欲が旺盛」とも評されます。「生涯この会社!」ではなく、「自分がより成長できる会社」を選び、その会社で期待するスキルが身についたら、よりよい給料の会社へ、そして、さらに次に、次ぎに。そうしたイメージです。

ところが、かれらの想いに耳を澄ますと『成長』の語感もまた私たちとは異なるようです。『成長』は上へ上へ、ではなく、「よりときめく体験、豊かな体験」を求めることを表現しているようです。スキルが身につくことで新しい仕事=体験ができることにつながります。スキル獲得による部署異動や転職は新しい仕事や人との出会いをもたらします。まさにときめきとの出会いを楽しむトレッキングのようなものです。

そうした認識を持つことによって、Z世代と交わる企業や先輩はどのような機会や体験を語り届けることが重要なのかも見えてきます。お金だけではなく、ポストだけではなく、新しい体験や新しい出会いを提供する。そうした新しい知覚で彼・彼女に『成長』を語ってみると、なにか新しい関係が生まれるかもしれません。

私たちの試みや探求が皆様の「Z世代理解」へのヒントとなり、よりよいコミュニケーションの創造につながれば幸いです。

この記事はMarkeZine80号に掲載された寄稿記事(『Z 世代を知るために「言葉」をアップデート』)を再構成したものです。


この記事の著者

インテージグループR&Dセンターがリードして2020年に発足した「Z世代リサーチ研究分科会」に所属。社会や生活者潮流の理解を起点としたコミュニケーションプランニング、定性調査を通した生活者理解といった得意領域を活かし、産学連携の世代研究プロジェクトの推進や知見集約・発信を行っている。また、生活者研究センター長の田中宏昌を中心として2022年10月から始動する「産学連携生活者研究プロジェクト~Z世代研究」にも参画予定。


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