【図解】初めての海外市場調査の基本~進め方・価格相場など~
上司から海外市場の調査を指示されたら、どこからから手を付けたらいいでしょうか。国内マーケティングのスキルは持っていても、海外のことを調べることは簡単ではありません。そこで、海外進出を検討している企業や、すでに海外でビジネスを行っている方向けに、海外市場調査の特徴と流れを解説するとともに、調査費用の目安も案内します。海外調査を実施する前にぜひお読みください。
【基本】海外調査ならではの5つの視点とは?
海外市場への進出を検討する際には大きく、「市場」「消費者」「競合」「パートナー」「規制」の5つの視点を持って分析に取り組むことが必要です。
これら5つの視点のうち「市場」「消費者」「競合」の3つは国内市場を調査する上でも同様に必要な視点となりますが、その方法は国内と海外で異なります。また、「パートナー」「規制」の2つの視点は、海外進出における調査ならではの視点と言えます。
(1)海外市場の分析
5つの視点のうちまず1つ目は、海外市場の分析です。
例として、市場規模を把握する方法としては、海外においても日本国内と同様に、様々なカテゴリの販売データ、購買データを収集・提供しているサービスがあり、それらを活用することになります。
また、そこで得られた市場規模は、「同一カテゴリの日本国内市場規模と比べてどうか」「現地における類似カテゴリと比べてどうか」といった観点で、市場の大小を判断することができます。
(2)消費者の分析
2番目は消費者の分析です。国内市場を調査するときも消費者分析を行いますが、海外調査における消費者分析では、その国の消費者の「思考」に注目する必要があります。
例えば、ある日本の飲料メーカーがインドネシアでスポーツドリンクの販売を検討していたとします。そこで現地調査を行ったところ、スポーツドリンクは運動の後に飲まれるだけでなく、下痢などで脱水症状を起こしたときの水分補給として消費されていることがわかりました。この結果からその飲料メーカーが、「デング熱などで発熱したときに適した飲み物である」と訴求したところ、爆発的に売れたというような事例が考えられます。
このように同じ商品、製品でも、国によって消費者が注目する点が異なるのです。
(3)競合分析
競合他社の分析も、企業が海外進出するときに欠かせません。競合分析は、消費者分析の前に行うこともあります。他社のシェアや製品ラインナップ、販売チャネルを押さえておけば、調査すべき消費者の対象を絞り込むことができ作業が効率化します。
また自社の海外戦略を立てるときも、競合分析は役立ちます。他社の売上高と流通網を把握すれば、自社の売り上げ目標に対しどの程度の流通網を構築すべきかが見えてきます。そのほかにも、他社の生産体制、製品別の利益、組織構成、取引先の状況を把握しておくと、戦略づくりがより深くなります。
(4)パートナーの分析
海外進出をする際は、流通と生産を担う現地のパートナー企業を見つける必要があります。
例えば流通に関するパートナー分析では、まずその国の流通形態(市場などの伝統的な流通形態(Traditional trade)または、ハイパー・スーパーマーケットなどの近代的な流通形態(Modern trade))の割合を把握します。近代的な流通形態の割合が大きい場合は、スーパーマーケット・コンビニエンスストア(CVS)・ドラッグストア・EC(電子商取引、ネット通販)の各チャネルがどれくらいのシェアとなっているか、自社製品と同じジャンルの製品がどの販売チャネルで流通しているかを調べる必要があります。
また、伝統的間接販売型の流通では、卸会社の存在を把握しておく必要があります。1次卸、2次卸といった流通経路になっているかもしれないからです。海外事業の成否は、パートナー探しがカギを握ることがあります。
(5)法規制の分析
化粧品や食品の海外販売では、製品のなかに含まれる成分が原因で、その国の法規制の対象になってしまうことがあります。そのため海外の法律を調べ、規制されている成分や製品を把握しておきます。また、海外で販売できないことがわかったときは、どの成分・原材料が規制の対象になったのかを特定しなければなりません。
海外調査に着手するときは、「市場」「消費者」「競合」「パートナー」「規制」の5つの視点について、どのような手法で調査していくか設計していく必要があります。5つの視点から得られたことについて総合的に判断することで、海外進出をすべきかどうかが、より鮮明に見えてきます。
海外調査の費用感
それでは次に、海外調査の費用感を見ていきましょう。
これまで紹介した海外調査のうち、外部データによる「市場」の分析、および消費者調査による「消費者」「競合」の分析を行った場合の費用感は、1カ国あたり約400万円~が目安となります。数カ国での調査が必要な場合、かなりの金額になってしまいます。
そのような場合は費用を抑えたライトスペックの調査がおすすめです。ライトスペックでは、デスクリサーチや簡易インタビューなどを組み合わせることで、1カ国100万円ほどでの実施も可能です。
プラン | 調査の内容 | 価格目安 |
---|---|---|
ライトスペック | 海外パネルなどを使った市場調査と文献調査(デスクリサーチ)、簡易インタビューによる消費者調査、店頭調査、専門家へのヒアリング | 1カ国100万円~ |
スタンダード | 海外パネルなどを使った本格的な市場調査と文献調査、インタビューに加え、パートナー調査と法規制調査 | 1カ国400万円~ |
ライトスペックといっても、かなり深い情報を入手することができます。ライトスペックの調査項目は主に次の4点です。
- <デスクリサーチ>
- 海外パネルなどを使った市場調査はデスクリサーチに含まれます。対象国にいる特派員が現地のトピックスや競合他社の情報を集めることもあります。対象国内で閲覧頻度が高いホームページを丹念に読み込むことで貴重な情報が得られます。
- <簡易インタビュー>
- 対象国の出身で日本に在住している人(在日外国人)に、その国の食品志向や味覚の好み、流行っている趣味などを聞きます。
- <店頭調査>
- 現地の特派員が対象国内のスーパーマーケットやコンビニ、伝統的な店舗をリサーチし、リスト化や写真でレコーディングします。
- <専門家(競合、流通など)ヒアリング>
- 対象国について詳しい専門家にヒアリングすることで、現地の給与水準や今後の重点エリア、市場概況などがわかります。
ライトスペック(約100万円/国)には、スタンダードプラン(約400万円/国)に含まれる、海外パネルを使った本格的な市場調査や文献調査は含まれていません。またスタンダードになると、現地の消費者へのインタビューや、パートナー調査、法規制調査も加わります。
リーズナブルに行うには?
調査項目を絞ることで、海外調査をリーズナブルに行うことが可能です。先にご案内した<デスクリサーチ><簡易インタビュー>などを単体で実施します。例えば、味覚調査を行う場合、現地で調査をするより在日外国人の方に来ていただいた方が大幅にコストダウンできます。
先に紹介した料金はあくまで目安です。より詳しい調査が必要であれば調査項目を増やすことができますし、コストを抑えたい場合はライトスペックの調査をよりライトにすることもできます。調査項目を絞り込めば、1カ国数十万円での調査も可能です。
知っておきたい、海外調査ならではの注意点とは
海外調査は、「手法」「SEC」「スケジュール」の3点で国内調査とは異なります。
1)手法の違い
国内の調査手法ではネットによるオンライン調査が46%となっており、電話調査の1%や面接調査の9%に比べ、比率が非常に高くなっています。一方で東南アジアに目を向けると、インドネシア、マレーシア、ベトナムのオンライン調査の割合は1桁にとどまっています。
これらの国では、ネットを使える人がまだ限られているので、一般消費者を調査するときは面接や電話といった既存の調査手法に頼っているのです。
2)SEC(Socio-Economic Class)という考え方
SECとは「社会経済クラス」といい、これも日本にはない概念といえるでしょう。
貧富の差が大きい国では、SEC別に調査することが、性別・年代別の調査と同じくらい重要になります。SECはA、B、C1、C2、D、Eの6段階にクラス分けしますが、日本企業による海外調査ではA、Bの富裕層(Upper class)とC1、C2の中間層(Middle class)までを対象とすることが多いです。
SECのクラス分けは原則、世帯収入で行います。しかし、収入を明かさない国民性である場合や、大人数家族で稼ぎ手や収入は多くても豊かな暮らしはしていないケースが多い場合は、収入だけでは正確なSEC分けができません。その場合は、家の外観や家電などの耐久消費財の所有状況をみて、SEC分けすることになります。
3)スケジュールの違い
海外調査は国内調査に比べてリードタイムが長くなる特徴があります。海外調査のスケジュールが長期化する要因は以下のとおりです。
- 調査票や結果の翻訳作業に時間がかかる
- オンライン調査ができず、既存手法(面接、電話)に限られる
- 時差があり、国内スタッフと現地スタッフの連絡に時間がかかる
海外調査は余裕をもって着手することをおすすめします。
海外調査は、対象国の国民性や消費行動、商習慣などを考慮しなければならず、国内調査とはかなり勝手が違います。特に気をつけたいのは、「市場」「消費者」「競合」「パートナー」「規制」の5つの視点を持つことです。パートナーや規制まで調べることは、国内調査ではあまり行われませんので注意しましょう。
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