非言語情報から仮説をたてる〈11〉
道具のアドレス再編をとらえる「使う」「しまう」の考古学
道具のアドレス再編をとらえる「使う」「しまう」の考古学
前回「暮らしの考古学」のアプローチの具体例として“掃除機”というものに注目した。“掃除機”という道具は「使う」という場面で発揮される機能こそが、その本質的価値だといっていい。つまり、ごみや汚れといったものを吸引していくという機能が、「使う」ということに必須のものである。
加えて、その吸引したものを一定量ためておくことも必須である。その貯蔵したごみをどのくらいの頻度で捨てていけば面倒でなく済むか、ということで商品は設計される。これも価値の構成要素の一つだ。また、この吸引すべき対象物やその存在状況のディテールによって、その商品設計が変わってくる。ドライなのかウェットなのかといったことや、その吸引すべき対象の大きさや細かさなどのテクスチャーによって、接触ツールの設計が変わったりするだろう。
これらが商品企画のポイント概略であり、「使う」ことがその起点になっている。
この「使う」ことの価値をデザインした“掃除機”という道具は、実は暮らしの中では大半の時間を「しまう」という状況の中で過ごしている。1日24時間のうちおそらく「使う」シーンは10分しかないかもしれない。だから残りの23時間50分は「しまう」という場面の中にいることになる。“掃除機”は1日のうち10分だけ出現することのある道具ということもでき、人によっては1週間に1回しか「使う」ことのない道具でもある。その道具の一生のうちほとんどを「しまう」という状況で過ごすことになるものも多い。
もしかすれば、「しまう」ことが一生の価値である道具もあるといっていい。
「しまう」と「かくしている」
「暮らし考古学」で発掘することのできる可視化情報は、おおむねこの「しまう」という状況を“見える化”したものだといえる。むろん「使う」という状況を“見える化”している場合もあるが、この“掃除機”の例は「しまう」ことの可視化といえる。そしてこの「しまう」ということが成立している場所、暮らしの中での空間的位置を明示している。そのことを私は【道具のアドレス】といういい方をしておいた。
たとえば、“掃除機”のアドレス、つまり「しまう」ことが成立している場所がどんな傾向にあるのかということから、“気づき”と視点化を行うことを通して、可視化マーケティングのアプローチを行なうことになる。
従来までの“掃除機”という道具の「しまう」ということにともなうアドレスはどこだったのだろうか。
たとえば玄関や納戸のような収納スペースがそのアドレスであったのかもしれない。「しまう」ということイコール「かくしている」というアドレスの特徴があったのではないか。
もちろん、今でもこの従来型のアドレスを見つけていくこともできるが、ほとんどが「しまう」=「かくしている」ということとは異なったアドレスに再編されていっている。これはある意味「ダイソン」というスタイリッシュな掃除機が誕生させた概念かもしれない。「しまう」=「かくしていない」というアドレスを獲得しているということから、“見せる”という「しまい方」、見えていることが価値となる商品デザインといったポイントを指摘することもできる。
もっと別の価値があったことが新しい視点の発掘だということになる。
「生活動線」、新しい距離
可視化されたこれら再編成された“掃除機”のアドレスの共通の特徴は、「使う」という場所に近づいていっている、近接化していっているということこそが、重要なポイントなのである。このポイントをとらえていくために「生活動線」という視点を当てておくことになる、つまりアドレスとの距離、「生活動線」とは、「使う」と「しまう」との間と間のある動きを可視化していくことである。
「使う」、つまり掃除する対象の空間や場面と、「しまう」という道具のアドレスが近づいていっているということが、掃除するということの現在的傾向を示していることになる。
「さてお掃除タイムだ」ということで、遠い納戸にある掃除機をひっぱりだしてきて、ある決意のもとに掃除行動を行うといったことから、掃除をするという行為そのものが、どんどん遠のいていっているのである。その空間を使うたびに、1日何回でも掃除するという行動が現出することになるからこそ、その道具である“掃除機”がその空間に近づいてきているのだ。これがアドレスの再編から見つけ出していくことのできる視点の一つなのである。
従来型の思考でいえば、掃除という行為はまとまった時間を必要とする家事行動であったが、それが徐々に変質していった。どう変質していったのか、それはその行為の頻度を上昇させ、1回あたりの時間を減少させていったことから、“ちょこちょこ”、“コマ切れ”行為へと変わり、異なった価値を誕生させていくことになる。
象徴的にいえば“掃除機”という道具とクイックルワイパーという道具の近似化といえる。なるほどこの二つの道具のアドレスは近似化しているのも現実である。新たなマーケティング価値を創り出していく視点がいくつも成り立っていく。
すでに過去のこの連載で、例としてあげたことがあるが、たとえばミネラルウォーターのペットボトルのアドレスの再編から、「しまう」ことと「使う」ことの新しい価値を“気づき”“視点化”することもできる。
もし冷えたミネラルウォーターを飲むという「使う」ことを前提にすれば、その「しまう」アドレスは冷蔵庫ということになる。
ところが、冷蔵庫の中ではなく、すぐ真下にペットボトルの「しまう」というアドレスがあることをよく発掘することがある。「使う」ということが、常温であるというシーンが頻度高く出現していることの証左といっていいのだ。
このように、「生活動線」の新しいギャップを見つけ出していくことは、非常に重要だといえるだろう。
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