非言語情報から仮説をたてる〈12〉
商品の「引越し」を発掘する
アドレス変化の発掘
前回は、「掃除機」という道具が暮らしの中でどんな空間、時間を占有しているのかということから、「使う」「しまう」「かくしている」といった気づき、視点を整理してみた。
このように、道具や商品の暮らしの中での【ポジショニング】というものを、【道具のアドレスの再編】ということから仮説をたてていくことができる。
これまでの常識で考えている「掃除機」のおかれている場所、つまりアドレスが、再編されていることが非言語情報として発掘されたのである。これが暮らしの考古学の一例である。
道具や商品のアドレスが変わったことは、その道具や商品の使われ方が変化したことを表している。「掃除機」は使われる空間や時間に隣接していることが新しい「使われ方」、つまり本質的価値の変化の仮説の発見につながっていく。
平易にいえば、「掃除機」の価値は、必要とされる場所でチョコチョコと頻度高く使われるものなのである。象徴的にいえばクイックルワイパー化していっているのだ。だからそれぞれのアドレスが近づいているし、オーバーラップしている。したがって、商品設計や価値の作り方が変わっていくのが当然であるし、ここにこそ商品企画の核があるといっていい。
同じような例題として、前回はミネラルウォーターという商品の、暮らしの考古学からの発掘例を紹介した。つまりミネラルウォーターという商品や道具の暮らしの中でのアドレスの整理である。
新しい道具の「引越し」
ミネラルウォーター、とりわけ1.5とか2リットルとかのペットボトルという商品は、ドラッグストアなどの安売りの時に6本入りを箱買いされたりするものだ。2箱くらい買っておくこともザラである。これを一般の言語では「ストック」とか「買い置き」とか呼ぶ。また重いものだから宅配を利用することもシニア世代では増えていっている。このミネラルウォーターにはいろいろなプロフィールを描くことができる。「使う」という実際の使用価値が発揮されるまでのリードタイムがかなり長い。つまり、それまでの間はかなり場所のとるじゃま物なのである。さらに、災害を想定したストックとして備蓄もされている。防災グッズなどと同じアドレスを持っている場合もある。また納戸の奥がそのアドレスにとなっている場合など、もはやそこにあることすら忘れ去られていることもある。ローリングストックという言葉もあるが、このアドレスではもはやローリングすることも困難である。
こんなプロフィールを持ったミネラルウォーターという道具は、じゃまではあるものの「使う」場所にできるだけ近接化しておくことが使い勝手といっていい。じゃまで目障りではあるが、そんな位置にいることこそが暮らしの中でのポジショニングということになる。ということからこのミネラルウォーターのアドレスは様々な微妙な空間であることになる。
ご紹介した写真はそれを現わしているといっていい。「使う」場所の近接地でありながら、できるだけじゃまにならない所、逆説的な言い方をすればじゃまになりそうなアドレスを占めているからこそ、補充のタイミングを意識しやすいし、文字通りローリングすることになる。
キッチンの床、キッチンにつながった廊下などにつまれたミネラルウォーター、米なんかと同じようなアドレスを持っていたりする。こんなアドレスから新しい気づきと視点を仮説化していくことが暮らしの考古学だといっていい。過去の常識ではとらえきれない所にアドレスが再編され、商品や道具は知らないうちに「引越し」したりしているのだ。
「引越し」の考古学
ここに紹介したミネラルウォーターのアドレスの中で、冷蔵庫の横にミネラルウォーターが置かれている非言語情報は、一つの象徴事例だといっていい。ミネラルウォーターを「使う」というシーンと価値から仮説立てすれば、一つは止渇性飲料ということになる。朝寝起きの冷たい水や、汗をかいた後の一口とか、食事中の飲料ということが、常識的な想定ということになり、その際には冷やされた状態がさらに価値を高めていくことになるといっていい。当然冷蔵庫に入れられて冷やされてストックされていることが、「使う」ことと「しまわれている」ことの近接化であり、冷蔵ということの価値を高めていくことになる。これは「掃除機」のアドレス再編でいえることと同様である。
ところが、何故か冷蔵庫の真下にいながら、このミネラルウォーターはその冷蔵庫の中に入っていこうとしない。ミネラルウォーターのアドレスは冷蔵庫だけではないのだ。むしろ冷蔵という価値のアドレスを拒否して、冷蔵庫の横の床という常温のアドレスを無意識に選んでいる。冷蔵庫から床に「引越し」したのが現実である。追加でいえばこの冷蔵庫は満杯で、大きなペットボトルが入らないから、外に追いやられている訳ではない。むしろ野菜室などスカスカ状態であり、あえて外に「引越し」させているといっていい。
「使う」ということからみれば、ミネラルウォーターという“飲料”は常温であるということこそに意味があるという仮説の視点が成り立つともいえる。 あえていえばミネラルウォーターは“飲料”ではないこともある。たとえば、お米を洗うのには水道水を使っているが、浸漬してお米を炊く時にはミネラルウォーターを「使う」ということが想定できる。あるいは、料理用、たとえばみそ汁を作る時の水はミネラルウォーターを「使う」。料理用の「使う」価値を考えれば、この商品は冷蔵庫から「引越し」するのは当然といっていい。
さらに重要なことは、“飲料”という最も頻度が高く使用量の多いシーンでの「使われ方」が変化していったことが、このミネラルウォーターのアドレス再編を生みだしていったのである。“飲料”としての価値は冷蔵ではなく常温に移行していった。さらにホットの温度帯に価値が「引越し」していったともいえる。
このミネラルウォーターは常温のままであったり、少し温められた上でサーモスの様ないわゆる水筒に場所を変えていく。
これが暮らしの実態である。“飲料”に関わる暮らしの中での道具のアドレスはどんどん変化しているといっていい。このように商品や道具の「引越し」を追跡していくことも、暮らしの考古学の重要な視点なのである。
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