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「非言語情報から仮説をたてる」(3)「気づかないこと」は恐るるに足らず!

網羅的であろうとはしない

暮らしの断片や生活行動の軌跡という非言語情報は言葉通りFactという可視化情報だ。このFactというものを膨大にある非言語情報の中から発見し、その発見をした背景、自分自身が何故気づいたかというポイントを簡略なメモ書きにして、そのFactに吹き出しのようにセットしていく。この吹き出しがWhyになり、このFactとWhyを収集していくことが「気づき」セット作りそのものである。この「気づき」セットのテンプレートを埋めていくようにすることが、ここまでの手順だ。

このFactという非言語情報は、収集することになった対象という有限なものの中から発掘していくが、ある意味無限だともいえる。ここで重要なポイントを1つだけ指摘しておこう。FactとWhyの「気づき」セットを、できる限り多く網羅的に発掘・収集しようという強迫観念を持たないことだ。

その時点で整理が可能であったセットが作られたことでまずは十分だ。たとえそれがたった5つしか整理できないという結果になったとしてもかまわない。網羅的であることが正解を導きだすことにイコールではないし、そもそも正解をだすことが目的ではない。

たとえば、Factということに対して「気づき」の入口のようなものを予感してはみたものの、背景としてのWhyのつぶやきがでてこないことがあってもかまわない。つまりFactとしての写真データだけが発掘され、Whyが空欄のテンプレートが残されてもかまわないのだ。

「気づかないこと」、あるいは「気づけないこと」は恐るるに足らずといっていい。

自己体験の相対化

非言語情報としてのFactデータに吸いよせられるようにして「気づき」が始まるポイントは、大半が自分自身の体験がオーバーラップしている。つまり、ある意味自分自身が理解できたり共感できたりすることが「気づき」の入口である。「これって自分もよくやっていることだ」とか「わかる、わかる」みたいなことだ。「気づき」の第一歩は自己体験に根ざしたものであり、ここには自分自身の思いがあるからWhyがメモ言語化しやすいのだ。おかげで「気づき」セットがある意味完成しやすい。

これが何はともあれスタート地点である。ところが、これだけならば「あなた自身の生活行動の体験からの理解と共感をピックアップしたに過ぎない」ということになってしまう。これだけに依拠しているならば、それは個人的な「気づき」に過ぎないのであり、そこから組み立てることになった暮らしに対する視点や、さらにインサイトを作りあげたとしても狭い範囲のものになってしまう。専門的なリサーチャーやマーケターとしてのアウトプットとしてはこれでは困るだろう。

そんな罠に陥ることは自分でもわかっているので、どうしても網羅的になろうとしてしまうのである。ここでも重要なポイントが1つある。自己体験の相対化ということになる。自己体験という枠の外にあるものに、どのようにして「気づき」の触覚を伸ばしていくのかということである。

ワークショップによる広がり

まずここでアプローチする手順としては、自己体験という記憶や意識の外にあることに対して、意識的、自覚的に触手を伸ばしていくことである。つまり自分では全く想像がつかないこと、理解や共感がわいてこないことにアプローチを集中化させていくのだ。そのFactに対して強力な違和感があることや、何故そんなことが軌跡として残っているのかが、自己体験からは全く理解不能なものを発掘していく。「私ならばこうする、こうしているが、何故そうはならないのだろうか」といったことがWhyという吹き出しになっていけばよい。まずは共感と違和という相反するポイントを通して、自己体験を相対化するということになる。この相対化のプロセスが1人でできるようになるためには、ある程度の訓練や体験が必要ともいえる。

自分とは異なった生活体験の蓄積を持った複数のメンバーが参加することで、この相対化を進めていくことができる。ここでポイントとなるのが、ワークショップタイプのエクササイズを行うことである。自分自身の体験からくる共感、理解ということと、全くの違和、理解不能という二項を幅として、その間に複数のレベルのFactやWhyの発見が生まれでてくることになる。同じFactをみながらも、そのことに対するWhyの設定にも幅をみつけだしていくことができることになる。

ある意味、Whyというもののラダリング※を整理していくことにつながっていくのだ。

Fact としての非言語情報はたった1つかもしれないが、そこから整理をしていくことになるWhyそのもののラダリングを見つけだしていく。この手順にはワークショップが極めて有効だし、この「気づき」 から整理されていくことになるラダリングが、次の視点作りやインサイト仮説の構築に役立つことになる。とはいえ、Factは1つであり、その可視化データにはいつでも戻ることができることが、この「気づき」セットの重要な価値なのである。

「気づき」の中のラダリング

少し具体例を挙げていこう。前回はお米というものの暮らしの中での位置づけをみるための「気づき」セットをご紹介した3人のパパたちの暮らしの中における、ミネラルウォーターというものの残存状況をFact として発掘し、「気づき」セット化するスタートである。

3人3様にミネラルウォーターが買い置き、ストックされている。便宜上買い置き、ストックという言葉を使っているが、ある意味3者3様である。たとえば、ガスボンベや非常用セットなどと一緒になってミネラルウォーターがあったりする。平凡なWhyを使えば、階段下の収納スペースに備蓄されているということになる。別の人のパターンは廊下に床置きされ、前回も紹介したお米と同居しているパターンがある。また、別のパターンをみると冷蔵庫の横のスペースに何故か焼き肉のタレやスポーツドリンクと並んでミネラルウォーターが1本だけ置かれている。

もちろん、お米と並んでいるミネラルウォーターの人では、玄関脇のスペースにもやはり箱入りのミネラルウォーターが存在している。また非常用キットと同居してミネラルウォーターが置いてある彼の家の中では、もう少しキッチンに近い位置にも置かれていた。恐らく生活文脈的に推測していけば、ミネラルウォーターを実際に使用する時間、空間に近い位置と遠い位置に何らかの意味で分散しておかれているというWhyの幅をとらえることができる。ある意味、ミネラルウォーターの暮らしの中での使われ方のゆるやかなラダリングが、次の視点作りの整理につながっていく。

ワークショップの中の議論の1つとして、冷蔵庫の真横の位置にまでそのポジションをとっているミネラルウォーターのWhyに注目してみよう。

恐らくこのミネラルウォーターは、他のものよりもはるかに使用シーンの時間、空間に隣接していることが生活文脈的には推測できる。そこまで飲用、使用シーンのすぐ近くにまできているこのミネラルウォーター、もう1つアクションを起こして何故冷蔵庫の中に入っていかないのだろうか。冷蔵庫が満杯だった訳ではない。恐らく使用シーンにおいて、このミネラルウォーターは冷蔵である必要性がないからなのではないかという文脈を想像してみることができる。たとえば、このミネラルウォーターは冷たくされて飲むということの価値にはなっていないのではないだろうか。ミネラルウォーターの価値の探索のポイントが1つ広がっていくことにつながったといえる。

これが視点やインサイトへの橋渡しのキーワードだ。

※ラダリング:製品を識別する要因を下位要素から上位要素にさかのぼっていくことにより、その製品を選んだ潜在的な理由を引き出そうとする手法。

著者プロフィール

マーケティングプロデューサー 辻中 俊樹(つじなか としき)プロフィール画像
マーケティングプロデューサー 辻中 俊樹(つじなか としき)
青山学院大学文学部卒。日本能率協会などで雑誌編集者を経て、マーケティングプロデューサーとして現在に至る。
暮らし探索のための生活日記調査を開発、<n=1>という定性アプローチを得意とする。
インテージクオリスが運営するYouTube”Marke-Tipsちゃんねる”でも、
生活者視点、n=1視点での気づきを語っている。
代表的な著作としては、
「団塊ジュニア――15世代白書」(誠文堂新光社) 
「母系消費」(同友館)
「団塊が電車を降りる日」(東急エージェンシー)
「マーケティングの嘘」(新潮新書)
最新刊は「米を洗う」(2022年3月 幻冬舎)
など編著書は多数。

青山学院大学文学部卒。日本能率協会などで雑誌編集者を経て、マーケティングプロデューサーとして現在に至る。
暮らし探索のための生活日記調査を開発、<n=1>という定性アプローチを得意とする。
インテージクオリスが運営するYouTube”Marke-Tipsちゃんねる”でも、
生活者視点、n=1視点での気づきを語っている。
代表的な著作としては、
「団塊ジュニア――15世代白書」(誠文堂新光社) 
「母系消費」(同友館)
「団塊が電車を降りる日」(東急エージェンシー)
「マーケティングの嘘」(新潮新書)
最新刊は「米を洗う」(2022年3月 幻冬舎)
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