新しい暮らしの風景 ~Withリスク やわらかく強い生き方~
目次
1.はじめに
振りかえると少し前まで日常の風景が戻りつつありました。ゴールデンウィークには多くの観光地やアミューズメントスポットなどに多くの人が繰り出し、連日のニュースでも取り上げられていました。一時は一日の新規感染者数が10万人を超えた第6波も4月になると4~5万人程度に落ち着きをみせ、ゴールデンウィークの頃には1.5~2万人程度で推移していました。
前回のコラムを読みかえすと、2022年6月6日に開催された国立競技場でサッカーの国際親善試合「日本代表対ブラジル代表」を取り上げて、6万3638人もの人がスタジアムを埋めた両国選手の熱闘を伝えていました。残念ながら世界ランク1位のブラジルに日本は敗れてしまいましたが(0-1)、隙間なくサポーターによって埋め尽くされたスタジアム。人々がマスクをつけているところはコロナ下ならではの風景ですが、着実に「日常」が戻ってきていることを感じ、喜びと安堵を感じていました。
そして、同じ頃、東京都の医師会長が「屋外では原則マスク不要」と発表もしていました(6月14日)。新規感染者数の減少や控える夏に向けた熱中症対策として、屋外における密にならないシーンにおいてはマスクを外してもよいのではないか、という提言でした。
その週末、趣味のサイクリングを楽しむ多摩川サイクリングロードもマスクを外して行き来する人々の風景に変わりました。マスクをあごのあたりにずらしたり、外して手首のあたりに耳当てを通して持ち歩いたり、そんな風景です。すれ違う時、まるで永らく身についた所作のごとく、おもむろにマスクをつけて通り過ぎ、そして、また所定の位置へ。
そうした風景も7月にはいると一変し、またもとの風景に戻ってしましました。
一方で、感染の注意喚起、基本的な感染防止行動のアナウンスはあるものの、緊急事態宣言やまん延防止法などは発令されておらず行動制限はないことから、人々は第7波の不安と夏という旅行や帰省、外出といったイベントの多い季節を「葛藤」とともに暮らしています。
2. 第7波インパクトによる悪化の波 ~ 内閣府 景気ウォッチャーから
内閣府が景況感の把握のために実施している調査に「景気ウォッチャー調査※1」があります。この景気ウォッチャー調査はさまざまな仕事に従事する約2000人に現在と将来における景気の実感を質問し、指数化して発表をしています。 最新の調査結果(2022年6月データ:2022年7月8日リリース)では、現在の景況感をあらわす「景気の現状DI」が前月までの回復トレンドから一転し、すべての指標が減少となりました。中でも、「雇用(前月比-3.3pt)」や「企業動向(同-2.4pt)」は悪化の動きが大きくなっています。
そして、将来的な景況感をあらわす「景気の先行きDI」はより厳しい予想が表れており、すべての指標が大きくマイナスに転じました。特に「企業動向」は-7.8ptと落ち込みが大きく、次いで「家計動向(同-4.2pt)」、「雇用(同-3.7pt)」となっています(図表1)。
国内における第6波の収束や大手企業における賃上げの動きなどを背景に、年明けから景況感も回復に向かっていましたが、新型コロナやウクライナ情勢の影響による原材料費や物流コストの上昇などによる物価高、円安など景気への逆風も強くなってきて、景況感は一転、先行きの見えない暗さに包まれています。
図表1
3. 第7波の襲来 ~ 警戒モードへのシフト
定点調査で追い続けてきた、新型コロナの感染拡大不安をはじめとしたさまざまな「不安」を見ていきましょう。
第7波の感染拡大に連動して感染不安は急激に増加して7割弱に達しています。「飲食店での食事」や「テーマパークや繁華街・人が集まる場所への外出」、さらには「国内旅行」といった不特定多数の人との接触リスクが心配される場所への外出行動に関する不安もまた一気に増加に転じました。
ゴールデンウィークは帰省や旅行も回復の様相となり、日経MJで発表された「2022年上期ヒット商品番付(6月8日発行)※2」の西の横綱は「リベンジ旅行」でしたが、本格的な夏休みシーズンを前に人々の心には黄色信号が灯り、再び警戒モードにスイッチを切ったように見えます(図表2)。
図表2
最新の7月末に行った調査で、夏休みの旅行や帰省に関する意識や行動を尋ねましたが、国内旅行を予定している4割弱の人の中で、日程短縮などの「日程調整(9%)」」や「延期(9%)」をした人が少なからずいました。また、中止も2割弱みられました。そして、お盆の時期の旅行を見据えて、2割の人が「検討中」としていました。アンケート期間中は第7波がすさまじい勢いで拡大をしていたこともあり、感染拡大状況をみながら判断を、という人々が多いことがわかります。実家への帰省についても同じような傾向が確認できました。行動規制のない夏休み、とは言え、ゴールデンウィークの時とはまったく状況が異なり、生活者は再び警戒モードにシフトしていることが浮き上がりました(図表3)。
これをお読みの方も思案の最中の方も多いのではないでしょうか。
図表3
感染不安や行動不安は増加に向かっていました。では次に「節約意識」や「暮らし向きの回復予想※1」はどのような動きをみせているか、を見ていきましょう。
「節約意識」に関しては今回やや減少に向かいましたが、依然として6割を超え、高い水準のまま推移しています。値上げが相次ぎ、今後もアルコール類をはじめさまざまな商品で値上げが予想されていることや食用油や砂糖、パンなどが数か月ごとに値上げされていることから、生活者のお財布の紐が緩むことは当分なく、買い物の際の「吟味」はより一層厳しくなるように思われます。
そして「暮らし向きの回復の予想」については、4割の人が「回復していかない(回復していくと思わない)」と回答しています。先の景気ウォッチャーの先行きDI同様に、少し先の未来をみな厳しい視線で眺め、身構えているように思います(図表4)。
図表4
4. 値上がりと生活防衛
次に「節約意識」につながる、値上がりに関する生活者の意識や対策を、2022年7月に行った自主アンケートの結果から見ていきましょう。値上がりを感じているものを尋ねたところ、「食料品」が最も高く、8割の方が値上がりを実感していました。以下「ガソリンなどの各種燃料(61%)」「電気・ガス・水道などの公共料金(59%)」「日用品・消耗品(53%)」と続いています。
さらに、値上がりを感じて買い控えや節約をしている品目について尋ねたところ、「食料品(35%)」が最も高くなっています。そして、「電気・ガス・水道などの公共料金(34%)」や「日用品・消耗品(22%)」、「ガソリンなどの各種燃料(22%)」が続いています(図表5)。
図表5
買い控えや節約に関するマインドを前月(6月)のデータと比較すると、各ジャンルともに微増傾向にあることが浮き彫りになりました。値上がり感度や節約への意識が高い女性においてもジリジリと増加傾向にあることがわかります。日常の買い物などを通じて日々値上がりを実感している食料品については特に高くなっています(図表6)。
図表6
食料品に関しての暮らしの防衛を第一に考えている女性にフォーカスして、「食」に関する支出抑制の具体的な工夫を尋ねたところ、「ポイントカードやクーポンの活用」が多くあがっています(図表7)。このことはお店側のポイントやクーポンなどの使い方によっては集客やリピートに効果的であることを意味しています。現在、多くのお店がポイントカードやクーポンなどを活用しています。一方の生活者もさまざまなポイントカードを使い分けながら駆使しています。その中でいかにロイヤリティを高め、自店に惹きつけるか、はますます重要な施策になってくるはずです。また、「チラシの特売情報」を参考にしたり、「まとめ買い」や「タイムセールの活用」など、買い方の工夫で対応しているという声も多くあがっていました。さらには「プライベートブランドの活用」も存在感を増しています。
図表7
「食」は日常の営み事であり、コロナ下に強くなった「健康意識」にも直結する欠かせない行為です。また、感染拡大と収束、相次ぐ値上がりといった変化の激しい環境において、生活者の対応も複雑化しています。単に安いモノを選ぶわけではなく、買い方も買うものも丁寧な吟味が行われていると考え、店舗やエリア(来店顧客)ならではの施策を柔軟に立案・実行していくことが重要になりそうです。
さらに詳しく買い物ジャンル別に「以前よりも安いものを選んだり、買い控えをしているもの」を尋ねたところ、「野菜(27%)」を筆頭に、「お菓子・デザート(26%)」、「お肉・お魚(21%)」、「くだもの(17%)」など食品が上位に並びました。3月のスコアと比較すると大きく増加していることもわかります。また、「電気・ガス(22%)」、「水道(14%)」も高いスコアとなっており、公共料金や暮らしのランニングコストについて値上がりを実感し、節約に取り組んでいるという先ほどの調査結果を裏付ける結果となっています。
その一方で、感染不安や行動抑制などで引き締めや自重対象だった「レジャー(旅行・ドライブ)(11%)」は12位へとランクダウンし、「趣味活動(ライブ、映画鑑賞など)(5%)」も減少傾向にあります。さらに、「ファンデーション」、「口紅」、「マスカラ」といったメイクアップ関連の費目は節約意識も減少傾向にあり、「行動」が、さらには「日常」が戻ってきたことを物語る結果となっています(図表8)。
図表8
5. むすびとして ~ With リスク というやわらかで強い暮らし ~
5月頃から少しずつ取り戻していた日常の風景も7月に入り大きく変わっています。見慣れた多摩川サイクリングロードの「セーフティエリアではマスクを外して・・・」という風景もどこかに消えて、常にマスクをしているようになりました。
その一方で、この柔軟な対応力こそ新しい風景として捉えることもできるのかもしれません。感染拡大状況を勘案しつつ、外出を控え、マスクを着用する。買い物行動もまとめ買いやネットスーパーの活用にシフトする。企業もまたリモートワークや在宅勤務のあらためての奨励を行い、ゆるやかに働き方を調整しているところも多く見かけます。
やわらかく強く。リスクに目を凝らし暮らし方を変化させる。
「With コロナ」ではなく、「With リスク」。
日々変わる風景にあらためてその想いを強くしています。
おわり
※1 内閣府 景気ウォッチャー(DI ※ディフュージョン・インデックス)
※2 日経MJ(2022.6.8)「2022年上期ヒット商品番付」
14面に 生活者研究センター 田中宏昌 のコメントがあります。
生活者研究センター概要
インテージの生活者理解の拠点として2020年8月3日に誕生。
長きにわたり蓄積している生活者の消費行動やメディアへの接触行動、さらには生活意識・価値観データなど膨大な情報を連携・横断して用いるとともに、社内の各領域におけるスペシャリストの知見を織り合わせることにより、生活者をより深く理解し、生活者を起点とする情報を発信・提供することを目的として設立された。また、お客様への直接的な貢献を目的として、共同研究や具体的なプロジェクトへの参画などにも積極的に取り組んでいく予定。
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